陽キャでギャルノリで楽しく学校生活を送る女子高生・鈴木は、その実、空気読みで周りの目を繊細に気にしていた。
隣の席の、黒髪クールメガネで無口で塩対応な谷くんのことが好きだったが、素直に好意を表せるわけもなく、陽キャノリの無茶振りイジりでしか谷くんに接することができずにいた。
そんなある日、学校の帰り道が偶然一緒になったことをきっかけに、鈴木と谷をめぐる景色は一変する。
という、青春恋愛もの〜青春ラブコメの間のどこかに位置する作品。
第一話で早々に主人公二人がつきあっちゃうので「両想いの関係を維持する」ことが主眼、+クラスメイトたちの群像劇、というテイ。
作品全体を通じて
「(誰もが持つ)内なる陰キャ要素を超克する」
「でも勇気だけでは人間関係の問題は解決できない」
ことがテーマであるように、そしてそれ故に多くの人の共感を得ている漫画のように思います。
この作品について何度か、
「なんで『りぼん』じゃなくて『ジャンプ+』なんだ、集英社はそれで良いのか」
と書いたんですけど、今巻で割りと腑に落ちました気がしました。
比較的歴史の長い集英社の「ジャンプ」や「りぼん」は保守的というか伝統を重んじて「少年のための漫画誌」「少女のための漫画誌」を貫いてきていて、本来の想定読者層以外にどんなにウケても、少子化によってどんなに少年少女の人口が減っても、「本誌作品は第一義的に少年・少女ための娯楽」というポリシーを貫いています。
それに対して本作『正反対の君と僕』って、少女(向け)漫画じゃなくて、少年(向け)漫画でもなくて、最初から「おじさんおばさん向け漫画」として創られているんじゃないかと。
今巻で特に。
青春恋愛漫画のようなピュアな青春・恋愛・恋愛未満を過ごしているのが鈴木・谷・山田・西で、当初は、本心を陽キャノリで繕ってしまう鈴木と、口下手で無口気味な谷が、読者の感情移入先なのかなと思ったんですけど。
彼らを取り巻く平・東・本田・岡が、人生に疲れて、青春や恋愛に悔いを残して、ピュアな頃には戻れないのに、タイムリープして高校生に戻っちゃった中年みたいなんですよね。
で、そっちの方のキャラが読者から感情移入されているという。
キャラの役割が割とはっきり、
青春組 鈴木・谷・山田・西
↓相談・壁打ち・承認 ↑アドバイス・羨望
おじさんおばさん組 平・東・本田・岡
この図って要るますか?
「漫画のキャラみたいな青春組」と「おじさんおばさん組」に分かれて見えるんです。
「再現できない思い出を綴っている感覚」
「ノスタルジーのリアルタイム性」
って高校生でも普通に在るんですけど、「青春期の中のおじさんおばさん」というか、
「青春期に既にして生まれるおじさんおばさん性の萌芽」
な気がするんですよね。
で、青春組から相談を受けたおじさんおばさんが、自分の後悔を踏まえた上でアドバイスする。
3巻はこれがずーっと繰り返されます。
本作1〜2巻や『僕ヤバ』では
「最近の恋愛ラブコメ漫画は昔と比べて頭が良くなったなあ」
ってちょっと思ってたんですけど、「しくじり先生」としての中年の目線が入って「やってはいけない失敗」を回避するようにアドバイスしていて、『僕ヤバ』の市川はその中年の目線を内面化してんですよね。
んで、漫画みたいな青春組の若者から、おじさんおばさんが承認されて仲間に入れてもらえるという、ちょっとした中年向けの夢小説みたいな。
少子化で日本の人口のボリュームゾーンが、漫画とネットへの親和性の強い団塊ジュニア〜氷河期世代のおじさんおばさんなんで、恋愛ラブコメ漫画で想定読者層を中年に置くのはマーケティング的にもとても正しい。
それ故にメガヒットするラブコメが、「少年・少女のための娯楽」ポリシーを貫く少年誌・少女誌の本誌ではなく、購読する上で雑誌が持つ属性がハードルになりにくく展開や描写の自由度も高い、WEB連載からばかり生まれるというのは、とても令和らしい話だな、と。
自分はおじさんなのでこの
「『タイムリープ青春やり直しもの』からタイムリープ設定だけを外した」
ような漫画が刺さってとても好きなんですけど、それはこの漫画がおじさんおばさん向けに描かれているある種の「あらまほしき青春やり直し」漫画だからであって、確かに「りぼん」で小学生に読ませる漫画では、ないよなあ、という。
なんだったらアドバイスする側の疲れた擬似中年同士が正に青春やり直ししてたりして、
陰キャおじさんとバツイチおばさんの未満恋愛みたいで、お前らのユクスエの方が気になるわw
そのついでに、「本来の読者層以外」の層にも刺さる、というのもまた、「りぼん」はともかく「ジャンプ」ではよく起こる話ではあるんですけど。
DISったつもりはなくて、すごく褒めたつもりなんですけど、「おじさんおばさん向け漫画」呼ばわりされて気を悪くされたら、すみません。
aqm.hatenablog.jp
aqm.hatenablog.jp