#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#カノジョも彼女 15巻 評論(ネタバレ注意)

なんか象徴的な表紙だな。

高度に発達したハーレムラブコメは、進化の果てに男主人公が透明化して要らなくなって、百合が咲くのかもしれない。いや?

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

幼馴染の咲に小学生以来ずっと片想いで何回フラれても告白し続けた直也。

高校入学を機についに咲にOKしてもらい付き合いだした矢先、直也はクラスメイトの超美少女・渚に告白される。彼女の可愛さと健気さに胸を打たれた直也は…

f:id:AQM:20210116020414j:plain

「カノジョも彼女」1巻より(ヒロユキ/講談社)

で始まる、馬鹿正直に真正面からハーレム人間関係の渦中を描いた少年漫画ハーレムラブコメ。

いや、ハーレムラブコメのガワを被ったメタ・ラブコメネタのバカギャグコメです。真面目なラブコメと間違って買わないように気を付けてください。

作者は「アホガール」の人。

「借金が雪だるま式に増えていく」とは聞きますが、「彼女が雪だるま式に増えていく」とは聞いたことがない。正々堂々と二股かけて更に彼女候補が2人いてヒロイン4人体制。

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

親も半公認で4人+1人で同居してます。狂っとるw

もともとギャグラブコメとして、主人公の直也の「どうにかして二股を成立させたい」狂気がエンジンになって作品を引っ張ってきましたが、実はメインヒロインで「第一彼女」の咲ちゃんが「扇の要」で、彼女が「二股(もしくは四股)同棲」を容認することで成り立ってた漫画。

そんな咲ちゃんの「都合の良い漫画のキャラ」としての存在が作品を支えるファンタジーだったんですが、当たり前ですけど咲ちゃんはファンタジーじゃなくて人間で、実は二股されて心が痛かった。

『カノジョも彼女』14巻より(ヒロユキ/講談社)

前巻、二股かけられてる方が頭を下げる奇っ怪なシーン。

咲ちゃんが「ラブコメ漫画の都合のいいメインヒロイン」から「心の痛みを持つ、都合の悪い人間」になったことで、「正直で有りさえすれば許されるんじゃないか」と思ってた主人公は「恋愛の基本のキ」から考え直すことになりました。はずでした。

次巻で完結とのことで、今巻〜次巻がクライマックス。

この展開にどう収拾つけるのかなと、いくつかのパターンを予想してたんですが、

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

キーワードは「シスターフッド」でした。

青春漫画のクライマックスで、主要登場人物たちが怒鳴り叫びながら禅問答のディスカッションをする漫画、というのは、基本的に作者の力量の未熟さを示す下策だと自分は思っていたんですが、

「二股って、ハーレムって、どうしていけないんだろう」

「私たちはどうして一緒にいるんだろう」

というハーレムラブコメの根源的な問いを登場人物たちが泣きながら話し合う、その下策のはずのクライマックスなんですが、なんでか自分は割りと好きみたいです。

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

俯瞰で見れば男主人公にめちゃくちゃ都合の良いギャグコメ展開なんだけど、狂った箱庭の中で、誠実に、真面目に考えたなあ、っていう。

それぞれに無様なんですけど、なんか愛おしいわコイツら。

そして男主人公、ビタイチ役に立ってねえなwww

ハーレムラブコメのヒロインたちの「シスターフッド」自体は、決して初めて描かれたわけではないんですけど、

『ぼくたちは勉強ができない』17巻より(筒井大志/集英社)

本作は「恋人をシェア」してる状態で、言葉に出してハッキリ肯定しちゃったな、っていうw

自分たちを言葉で縛って、ある意味「モラトリアムとしてのハーレム状態」を一生続ける決意みたいな。

孤独だった渚が、このハーレムで救われたのは確かなんですよね。

って俺もたいがいチョロいですけど、

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

謎の感動というか、「ハーレムラブコメの落としどころ」の一つの類型として、自分はとても満足です。

バカみてーな漫画で真面目な顔で他人にオススメなんかできねえけど、それでも俺はこいつら大好きだわ。

さて、最後は、

「ハーレムでもいい、ハーレムがいい」vs「私は特別な一人になりたい」。

『カノジョも彼女』15巻より(ヒロユキ/講談社)

「一夫多妻容認」vs「一夫一婦主義」の宿命の対峙。ミリカの価値観は現代日本においては当然の欲求です。

ラブコメにおけるハーレム願望とは一体なんだったのか。

独りどこか蚊帳の外に置かれながらピントが狂った努力をし続けてきたミリカが、最後の最後にこう効いてくるのか。

 

aqm.hatenablog.jp