「ラーメン発見伝」の続編の「らーめん才遊記」の更に続編の現作。
シリーズ未読の方にものすごく雑に説明すると「ラーメン版『美味しんぼ』」みたいな作品群。
脱サラして開業したラーメン店が苦節を乗り越えて成功し事業を拡張、ラーメン店向けに始めたコンサル業も順調、メディアにも露出しラーメン産業を盛り上げてきた立役者の一人と認められ、職人・経営者としてラーメン業界を代表する第一人者となった芹沢。
ラーメン業界の世代交代と新たな時代の到来を前に、なぜか芹沢はやる気が出なかった…
雑に説明すると、自らの原点に立ち返った王が、自ら育てた天才児にその玉座を禅譲し、自らは放浪の旅に出る、的なそういう話です。そういう話をラーメン業界で。
職人・経営者のトップとしてラーメン業界の頂点に立ちそこから降りた主人公が、身分(?)を隠して大手チェーンのラーメン屋にバイトとして潜り込んで店舗内の若手のいざこざに首を突っ込んでみたり、山の頂上から見下ろしていたラーメン業界の裾野を歩いて回る話。
前々巻・前巻以来の「名店から暖簾分けし本店の味の再現率も高いのに、なぜか繁盛しない店」の続き、完結編。
『ラーメン発見伝』のライバル役、『らーめん才遊記』の師匠役、に次いで今作『らーめん再遊記』で満を持して「ラーメンハゲ」が主人公を張る!という作品ですが、そもそも二作目『らーめん才遊記』でなんで芹沢を主人公にできなかったか、が少し露呈しているような巻。
『ラーメン発見伝』=ラーメンの職人の話
『らーめん才遊記』=ラーメンの経営の話
に対して
『らーめん再遊記』=ラーメン業界の批評の話
かなと思うんですが、今巻は特に芹沢(と新エピソードで登場したもう一人のコンサル)が本来持ってる毒やエグみが強く出ていて、
「業界も客も馬鹿しかいない」
「馬鹿から巻き上げたもん勝ち」
が、キャラクターが発するメッセージとして強く出ています。
「批評」としては有栖にバランスとってもらってる上に、次のエピソードでちょっと言い訳し始めちゃったり。
芹沢は
「職人としても経営者としても第一線を退きましたので」
というテイで、「業界ウォッチャー」として見て回る役割なんですが、「消費者」「狂言回し」としてはグルタくんが、「評論家」としては有栖が、「切れ者ラーメン職人&経営者」としては米倉が、そして「老いたラーメン職人」としては永友がそれぞれいて、エピソードとしては面白いんですけど、
「芹沢はどういう立ち位置でモノを言ってるんだろうか?」
というか、ぶっちゃけ
「芹沢、このエピソードに要らなくね?」
とは思います。
辛辣ではあるけど、平凡。
その立ち位置の中途半端さ、ミドルエイジクライシスがまさに今作で芹沢に与えられたポジションだし、毒とエグみはもともと芹沢の持ち味なんですけど、どうにも
「耄碌してなお現役にしがみついてるけど、自分の店でラーメン作って売ってるだけの爺さんが、ここまでボロクソに言われるほど何か悪いことしただろうか?」
「意識高い系の業界OB気取りが陰で現役の悪口言ってるだけなんじゃないか?」
「迷いなく現役ラーメン職人にしがみつける爺さんが羨ましく僻んでるだけなんじゃないか?」
と。
やってることが「業界批判」「大衆批判」「現役批判」「老害批判」の他人の批判に終始した挙句に「回顧センチメンタル」。爺さん以上に老けてるような。
毒とエグみに加えて、芹沢も持ち味は「言うだけのことはある」という、周囲を上回る発想や技量・経験からくる「解決策」や「ラーメン」を生み出してみせて圧倒する有言実行ぶりだったかと思うんですが、それがないと
「毒とエグみと意識高い系の業界OB気取りだけど老化を恐れるセンチメンタルおじさん」
になっちゃって、らしいと言えばらしいんですけど。
エピソード自体は面白いだけに、魔法のように能力が高いまま一線を引いた芹沢を、「ライバル」でも「師匠」でもなく「主人公」として運用するのは、なかなか難しいのかな、と。
有栖にバランス取らせているところを見ても、芹沢があえて精彩を欠く「曇らせ回」というか、意識的にやっている作者の手のひらの上な予感もぷんぷんしますけど。
米倉に主導権を取らせたり、芹沢なんかおとなしかったよね。
「もうそういう漫画じゃない」
と言ってしまえばそれまでですが、今巻は「あ、ラーメン食いてえな」ってなるラーメン、登場しませんでしたね。
aqm.hatenablog.jp