「礼は要りません、仕事ですから」
とは、『シン・ゴジラ』に登場した自衛隊の統合幕僚長(演:國村隼)のセリフ。
かっこいいシーン、かっこいいセリフだったけど、國村隼に影響されるまでもなく、仕事で
「お疲れ様でした」
「ご苦労様でした」
と労い、または労われることはあっても、本心から
「ありがとうございました」
と礼を言うこと、もしくは言われることは意外と少ない。
儀礼的な意味ではたくさん言って言われて、書いて書かれるけれど。
エレベーターの「開」ボタンを押して待っていてくれただけでも
「ありがとうございます」
と口にするし、なんだったらメールに返事が来ただけでも
「ご返信ありがとうございます」
と書くけれど、それは儀礼を満たすための、ほとんど条件反射のようなものであって、「心からの感謝」とは程遠いものだと思…わない。特に思いすらしないぐらい、無意識にやっている。
「この『ありがとう』は心からの『ありがとう』か?」
なんていちいち考えない。
割りとホワイトな持ち場に就いているものの、最近にわかに仕事が忙しく、本来は日課としたい漫画感想ブログの更新もままならない。
今日は22時まで残業をして、小雨の帰路、
「今日もコンビニ飯か」
と思いながら、傘を傘立てに差してオレンジ色のカゴを手にして、客がほとんどいない22時のビジネス街のセブンイレブン店内へ。
3歩も歩かないうちに、3人いた店員のうち、若い女性の店員に、
「牛肉コロッケ、牛肉コロッケはいかがでしょうか!」
と声をかけられた。
忙しいはずのコンビニの店員がいちいち商品をレコメンドしてくる理由は、大体相場が決まっていて、レジ横の「温かい系フードの棚」(正式名称がわからない)を見ると案の定、22時のビジネス街のコンビニには不相応な、大量の牛肉コロッケ。
なんなんw
一桁多く発注してしまう発注ミスはよく聞くし理解もできるけど、牛肉コロッケを作りすぎるとは一体どういうミスなんだ?と思いつつ、勤労するもの同士、困ったときはお互い様だなと思いつつ、とりあえず店に入った直後にまっしぐらに牛肉コロッケをわし摑みしてカゴに放り込むわけにもいかないので、
「そっすね、レジ(会計)の時にお願いします」
と返事をすると、
女性店員はとても、とても嬉しそうに、
「ありがとうございます!!」
と深々と頭を下げた。
他人からこんなに心がこもった感謝をされたのはいつ以来だろうか、考えながら弁当を選んで、少し気をよくした勢いでレジで会計の際に牛肉コロッケを3つお願いすることにすると、店長と思しき中年男性の店員は高らかに
「牛肉コロッケ3つです!」
と宣言、先般の若い女性店員は
「うわあ!ありがとうございます!ありがとうございます!!」
と再び頭を下げながら、
「コロッケはお一つずつお包みしますか?まとめてパックでもよろしいですか?」
と問うてきたので、
「まとめてでいいっす〜」
と返事すると、やはりそちらの方がラクなのか、またしても
「ありがとうございます!!」
と深々と頭を下げられた。
年収ナントカ万円の仕事でも滅多にされないような深い感謝の意を数百円の出費で、若い女性であるところの店員さんにたて続けに表されたお返しに、ちょっと何かかっこいいことを言ってみたくなったけれど、
「礼は要りません、仕事ですから」
しか思いつかなかったので、やめた。
今じゃねーよ。仕事じゃねーよ。
帰宅して弁当を食べて、それだけでお腹いっぱいになってしまって
「もうおじさんなんだから、食べ盛りにみたいにモリモリ食えねえから」
と自らを戒めつつ、牛肉コロッケ3つを眺めながらブログを書いている。
今日も仕事を頑張ったし、仕事は全然関係ないけれど人からとてもとても嬉しそうに感謝もされた、良い日だった。
朝から牛肉コロッケを3つ食べるところからスタートすることにはなってしまったけれど、明日も良い日になればいいな、と思う。