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#ハイパーインフレーション 6巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

架空の帝国・ヴィクトリア帝国でマスケット銃や帆船、紙幣などが用いられる程度に中世から近代に移行しつつある世界。

ヴィクトリア帝国の辺境の植民地、帝国に迫害されながら暮らす少数民族・ガブール人。

奴隷商人・グレシャムの暗躍により、ガブール人の巫女の少女・ハルは捕えられ、その弟・ルークをはじめとするガブール人たちも虜囚となった。

極限状態となったルークは精神世界でガブールの神と邂逅し、生殖能力と引き換えに願いに応じた特殊能力を授けられる。

ルークに授けられた能力は「身体から1万ベルク帝国紙幣を無限に湧き出させる」能力、ただし紙幣の通し番号は全て同一の偽札だった。

偽札無限湧き能力を活かしながら、ルークは帝国に対する反乱と姉の身柄の奪還を決意する…

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

迫害される少数民族の能力持ちの少年が、攫われた姉の身柄と自由を求め、銭ゲバ大商人や帝国情報部スパイを向こうに回して、駆け引き・裏切り・騙し合いの頭脳戦を繰り広げる…なに?これのジャンルなにw 「頭脳バトル」「経済バトル」「情報バトル」的な。

絵ヅラも展開も一見は荒削りながら、ルークの敵を出し抜く駆け引きや、役割を予見して注意深く配置されたキャラクターなど、読むと割りとすぐプロットの緻密さに気づきます。

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

主人公の少年・ルークの「同じ通し番号の精巧な偽札を身体から無限湧きさせられる能力」も、シンプルながら癖が強くて決して万能ではないんですけど、それを補う頭脳戦・駆け引きが見どころ、という感じ。

辺境の植民地(1巻)→奴隷船での移動(2巻)と舞台を移して、3巻から帝国本土が舞台に。

今巻で完結。

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

チラ見えする紙面のアクの強さ・癖の強さ・エグ味の強さ、「どう考えても頭のイカれた変態が描いてる漫画」と敬遠してるうちにネット連載がエラい盛り上がりを見せる中、自分は独り乗り遅れてしまいまして、結局完結してから大人買いしてイッキ読みをしました。なので自分とこの作品のお付き合いは2日間ぐらいです。

一昨年の藤本タツキの『ルックバック』と併せて、ここまで優れた作品の連載を集英社が「ジャンプ+」という、ネットで誰でも無料で読める媒体でタダ読みさせたことは、

「週刊少年ジャンプ本誌の葬式」

と言うのはまだ時期尚早としても、

「週刊少年ジャンプ本誌のお通夜に向けて集英社が喪服に着替え始めた」

ぐらいは言っても良いかもしれません。

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

「NOT王道」以上に、6巻という巻数由来の作品の短さ・接触時間の短さ故に、この作品はあるいは『ドラゴンボール』『スラムダンク』『ワンピース』などのジャンプ史上の伝説的名作たちほどには愛着を持たれず、将来語られず、忘れられていくのかもしれません。

近年惜しまれつつ完結していったジャンプ印の作品群を見るに既にその予兆はありますが、漫画を巡るビジネスモデルの変革に果敢に取り組む集英社には是非、

「キャラ人気を大爆発させてロングテール狙い」以外のやり方、

現状を打破する営みを、継続されることを期待しています。

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

この作品のように、作者が全力疾走で描きたいことを描ききった美しさ、後年の新規読者が手に取りやすい6巻程度で完結する構成の美しさを、ぜひより大きな商業的な成功にも繋げて、漫画家も出版社も読者も今より更にWin-WIn-Winに、誰もがより良く漫画に関われるような仕組みを、ぜひ生み出していただきたいと願い、心から応援しています。

自分も漫画と全然関係ない自分の仕事を、そういうアレでがんばろうと思いますので。

パッションと合理主義の融合、裏の裏・先の先を見通すまで考え続け動き続けるのをやめないこと、サバイブすること。

『ハイパーインフレーション』6巻より(住吉九/集英社)

この漫画でルークがやって見せたことって、そういうことでしょう?

 

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