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#姫様“拷問”の時間です 12巻 評論(ネタバレ注意)

国王軍と魔王軍が衝突する世界。

国王軍の王女にして第三騎士団の団長・姫は、意思を持つ聖剣エクス(ツッコミ役)と共に魔王軍に囚われの身となった。

戦局を有利に導くべく、魔王軍はあらゆる手を使って敵の幹部である姫から秘密の情報を引き出そうとする…

『姫様“拷問”の時間です』12巻より(春原ロビンソン/ひらけい/集英社)

という、ファンタジー世界を舞台にしたゆるーいコメディ漫画。

タイトルにも作中のセリフにも「拷問」という物騒な単語が踊りますが、中身はストレスなしのギャグコメディ。半分は実質グルメ漫画。

あとはもう黄金のワンパターンの手を変え品を変えの繰り返し。牧歌的で微笑ましい馴れ合いの世界。登場人物が全員なにかしらポンコツです。

ワンイシュー・ワンパターンですぐ飽きられるはずの定型フォーマットをあの手この手でバリエーションを持たせることに血道を上げる作風。

毎話すべての登場人物の言動が本末転倒なのに、全員が本末転倒であるが故に調和してしまっていて「その手があったか」「そんなのアリなのか」「一体なにを読まされているんだ」と驚きと唸りと笑いで迎えられる作品。

ほぼ毎回、「姫様、拷問の時間です」と作品タイトル回収からスタートしつつ、ちょっとズラしてるだけなんですけど。

『姫様“拷問”の時間です』12巻より(春原ロビンソン/ひらけい/集英社)

ズレているが故にボケ倒しのキャラクターたちの中、姫様の愛剣、意思を持つ「聖剣エクス」が数少ないというかほぼ唯一の「常識人」として、ズレていなかった読者と常識を共有してツッコミとして効いています。

効いていました。前巻でも獅子奮迅のツッコミっぷりでした。

でも初期と比べると徐々にエクスのツッコミの出番が減っていっている気がします。

ボケというか、エピソードのバリエーションが拡がって、もはや「姫様」も「拷問」も全く関係ない、登場キャラたちの日常エピソードが当たり前のように展開されるようになり、

『姫様“拷問”の時間です』12巻より(春原ロビンソン/ひらけい/集英社)

読者が「もはや何の漫画だよ!」と心の中でツッコんでも、エクスはそこにいない、というのも理由の一つです。

ネタがメタ化していくのに伴って、作中に身を置く(メタ化できない)エクスがツッコミ役として置いてけぼりにされつつある、とも言えます。

『姫様“拷問”の時間です』12巻より(春原ロビンソン/ひらけい/集英社)

が、もう一つの理由は

「読者とエクスの『常識』が徐々に乖離していってる」

せいなんじゃないか、と思ったりもします。

エクスも状況に慣らされてきている描写がちょいちょい入りますが、エクス以上に我々読者がこのズレた世界観に慣らされて、この作品を読んでいるときだけは、ズレが当たり前の「常識」となっていく。

この作品は読者の心の中のツッコミで初めて完成する作品で、エクスは心の中でツッコめる読者を育てる補助輪のようなもので、読者の「成長(ズレ)」に伴ってその補助輪がパージされていっているんじゃないか。

しかし、エクスという補助輪を外して読者が心の中でツッコめるようになっても、それでもこの漫画は次の意外性と面白さを求めて、ズレ続け、斜め上に登り続けます。

『姫様“拷問”の時間です』12巻より(春原ロビンソン/ひらけい/集英社)

毎日1分ずつズレていく時計のように、こっちがズレた時計に合わせても、それでも更にズレ続けていく世界。

「常識を捏造している」というか、「世界を洗脳している」というか。

最終的にどこに連れて行かれるんだろう、大丈夫なのかなコレ、

「もしかしたら、数年後に気がついたら、自分は本当に拷問が行われるシーンを爆笑しながら読まされてしまうんじゃないか」

という危惧すら感じつつ、でもほのぼのと、でも切れ味鋭く、今巻も面白かったです。

あ、アニメ化決定おめでとうございます。楽しみです。

 

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