
少年・夜守コウ(14)はふとしたきっかけで「上手くやれていた中学生活」が嫌になり不登校に。ある夜、夜の散歩で街を放浪していると「夜と不眠」に一家言持つ謎の美少女・ナズナに声をかけられ、血を吸われる。彼女は吸血鬼だった。
夜に生きる眷属になりたいと願っても吸血鬼化しないコウ。彼女が照れながら語る「吸血鬼になれる条件」は「吸血鬼に恋して血を吸われること」だった。

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
「だがしかし」作者の吸血鬼ファンタジーな青春ラブコメ。作品全体を通じてアンニュイとそのアンニュイからの解放が夜を舞台に描かれる。
一人孤高を保つ吸血鬼・星見キクと、彼女の眷属候補として目をつけられた、コウの幼馴染・マヒル。彼らが行方をくらました先は北海道。
偶然にも中学の修学旅行先が北海道であることが判明したコウは、彼らを追うべく、不登校だった学校に北海道目当てに久しぶりに登校し、そして舞台は北海道へ。
吸血鬼・キクの最終目的が明らかになり、スポットがキクとマヒルのユクスエに。

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
メタで言えば「マヒルとキク」はそれだけで独立した物語で、その分「コウとナズナの物語」である『よふかしのうた』から少し浮いているんですが、同時に「コウとナズナ」の鏡像・裏面・「あったかもしれない"違う結末"」を示す役割を負っています。
今巻で「マヒルとキク」の物語は終わり。
「ミステリアスでファナティックでヤンデレで自己中な敵役」の仮面を脱いだ素顔のキクは、とても可愛らしい女性でした。

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
色恋沙汰の対象たる眷属・眷属候補以外の「第三者」から名指しで激励され祝福されたこと、キクの永い人生の中でもあんまりなかったんじゃないかな。
憑き物が落ちたような、すごく嬉しそうでチャーミングな笑顔。
もっと早くから、もっと長くキクの物語に接していたかったと、今更ながら思うのは、マヒルと同じく彼女にチャーム(魅了)されたせいでしょうか。
チャームが転じてチャーミングとは、言い得て妙な表現。

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
「あの時」を覚えてないのに、ずっと惚れたまま、というのも残酷なシステムだな、と思います。
「一回ぐらい抱きたかったなァ…」
って、いいセリフというか、すげえわかるな…

『めぞん一刻』4巻より(高橋留美子/小学館)

『めぞん一刻』4巻より(高橋留美子/小学館)
「思い出が欲しい」ってまあ朱美さんたちの言うとおり「セックスしようZE☆」と同義と解釈できるんですけど、隠喩や婉曲な表現ということだけじゃなくて、セックスも含めてダイレクトな意味で「思い出が欲しい」って、男だって一緒じゃないかなと思うんですよね。
思い出がこの先の長い人生の、杖になってくれる、というか。
(「思い出がないこと」が人を苦しめている例を、ネットではたくさん見ますよね)
あと五代くんはこずえちゃんとの会話を朱美さんや四谷さんに共有しすぎだと思うw

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
そしてナズナが自分たちと同じルートを辿りつつあることに、気づいてしまったマヒル。
「マヒルとキク」、「コウとナズナ」、表裏であるとしたら、おそらく「表」だったのは「マヒルとキク」だったんじゃないかと思います。
『人魚姫』とかそうですけど、人間と人外の恋が悲恋で終わるのは、古典のスタンダードですよね。
現実だったら違うカップルが同じ悲劇的な結末を繰り返すことは珍しくないんですけど、この作品において「コウとナズナ」が「マヒルとキク」と同じ結末を辿ることは物語として意味が薄いので、「マヒルとキク」を見届けた上で、「裏面」として変化がつくんだろう、と思います。

『よふかしのうた』17巻より(コトヤマ/小学館)
優しい、でもコウの願いもナズナの願いも叶わない結末を、予感してしまいます。
自分の想像上の「コウとナズナ」の結末と、今巻の「マヒルとキク」の結末、自分だったらどっちが幸せだと感じるだろうかと、ちょっと考えてしまう。
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