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#氷菓 15巻 評論(ネタバレ注意)

アニメでお馴染み、お前らの好きなえるたその氷菓です。

地方の高校の古典部の1年生の男女4人が、学校を舞台に数々の謎を解明する探偵もの風の青春もの。平凡な成績の省エネやれやれ野郎ながら推理力だけなんでか突出してるイケメン高校生・折木奉太郎が主人公。

ググったか検索したかで来たであろう、原作ファンかアニメ版ファンであろうあなた方には、あんま説明要らないよね。

京アニ絵でこそないですが、良い作画。

漫画になるとセリフの字数多いけど、コナンもだし推理もの・探偵ものはしょうがない。

ビジュアルはアニメ設定準拠の、原作小説のコミカライズですが、前々巻から大きな変化がありまして、アニメ最終回「遠まわりする雛」編を消化、アニメ化されていない2年生編に突入しています。あの最終回のその先、私の知らない物語。

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

サブヒロイン・伊原 摩耶花が掛け持ち所属している「例の」漫研の派閥抗争。我関せずでいたかった伊原もなりゆきで巻き込まれることに…

前巻の感想でこんなことを書きました。

はてなユーザは他人の話に共感するよりも「やめちまえ」「離婚しろ」と当事者意識に欠けるクソバイスをしがち、というのは定説なんですが、ご多分に漏れず自分もこのエピソード、伊原に対して「こんな漫研やめちゃえば」と思ってしまいます。

伊原自身にとって所属するメリットもない、心をゆるす友人もいない、実にくだらない人間の集まりのように思えてしまって、読んでてイラついてしまうんですが。なんか思い入れがあんのかねコレ。

(中略)

こういう高校生の漫研の派閥争いを偉そうに「くだらねえ、やめちまえ」って見下せるのも、逃げ場のない学校生活の閉鎖性から距離をおけるようになった大人のポジショントークだしね。

次巻の解決編?では、イラつかされた分スカッとさせて欲しいもんですけど、どうなることやら。

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「漫研女子の派閥争い」というと、『げんしけん』にもそんな要素がありましたね。

『げんしけん』8巻より(木尾士目/講談社)

漫画で読んだ話を根拠に一般化して「漫研女子」を語るべきではないでしょう。

いろんな漫研があるでしょうし、「読む専」で平和な漫研もあったり、中には互いに刺激し合い切磋琢磨し高め合ってプロの漫画家を多数輩出してきた「漫研の名門」も実在します。

今回の、伊原の在籍する漫研は「そう」ではなかった、というだけの話です。なんで男子いねえんだろうな、この漫研。

その完結編です。さて。

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

自分にとっては、「描いて欲しかった結末」を、描いて欲しかった以上の言葉と描写と展開で、という解決(?)編エピソード。

他人の足を引っ張るばかりで行動しない凡人を、行動力を持った人間が踏み潰して見捨てて忘れていく、ある種痛快な展開。

「自分」を持たない高校生たちの幼稚な足の引っ張り合いのマウント合戦、と評するのは簡単なんですが、このSNSのご時世を見渡すと、「幼稚な足の引っ張り合いのマウント合戦」は特に高校生の幼さに起因するもんでもない、という気がする、というか、確信してしまう。

昨今語られるオタク論って「真のオタク」の座を巡って自分ルールの押し付け合いのマウント合戦というか、

「やあやあ我こそは自分が考えたオタク道を極めた真のオタクなり!

 貴様らのオタク道は邪道であり認めぬ!

 真のオタクである我をもっとチヤホヤせよ!!」

みたいなんばっかりで、

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「ネムルバカ」より(石黒正数/徳間書店)

じゃあもう俺オタクじゃなくていいよw

お前が考えた「真のファン」「真のオタク道」なんてどうでもいいよwww

っていう。

「駄サイクル」的なものがもたらす心の平穏やモチベーションの維持も人間には必要で大切なことなので、居心地の良さを割り切ってればそれで良いんですけど、他人のやることにケチつけてクソバイスしてマウント取って足を引っ張ってばかりのコミュニティから距離を置くべきというのは、漫画家・クリエイターに限らず、なかなか身につまされる話だなあ、と。

「罵り合ってマウント取り合うバージョンの駄サイクル」というか、この漫研、自分達の話ばっかりで全然漫画の話しねえなっていうw

アニメ視聴時からずっと「伊原があんな漫研にいる」のは、喉に刺さった骨みたいにちょっと納得いってなかったんですが、ようやく刺さってた骨が抜けたような痛快さを伴った解決編でした。

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

見てる方は痛快だけど、伊原本人はこれから創作者として茨の道だけどね。

もう一編は、一見はちょっと軽めの幕間的っぽい雰囲気の小エピソード。

同じく前巻の感想で

あと、奉太郎の「走れメロス」の感想文というか考察文、面白かったねw

と書いたんですけど、その続きとも言うべき、「奉太郎が書いた読書感想文、その2とその3」編。

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

もとから予定していた展開なのか、「その1」で興が乗って急遽描かれたものなのか、ちょっと原作者に訊いてみたくはあります。

「一見はちょっと軽めの幕間的っぽい雰囲気の小エピソード」

と先述しましたが、

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

奉太郎が用意したダミーから興味深い批評議論が展開されて、日常的に漫画感想ブログやってる身として、感想・批評の考え方・書き方がいろいろ参考になったり身につまされたりする上に、本題の隠された謎、

「奉太郎は読書感想文の中に何を隠したか」

を解き明かす過程がミステリーとしてとてもスリリングでエキサイティングでした。

隠されていた謎、隠したかった理由が、本当に「中学生の頃」っぽいオチなのがまた、良いですよね。

『氷菓』15巻より(米澤穂信/タスクオーナ/KADOKAWA)

いつか2期がアニメ化されるに越したことはないんですが、

「ないならないでもこのコミカライズが在れば平気かなあ」

という、出来物コミカライズ。

芥川龍之介の『猿蟹合戦』、面白そうだから読んでみようかな。

 

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