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#2.5次元の誘惑 18巻 評論(ネタバレ注意)

先輩たちが卒業し、高校の一人漫画研究部として日々部室で二次オタ活動に勤しむ奥村(高2♂)。

学校が新入生を迎えたある日、漫画研究部のドアを叩く一人の新入生がいた。奥村と同じく古の名作「アシュフォード戦記」「リリエル外伝」とそのヒロイン「リリエル」をこよなく愛する彼女・天乃リリサは、キャラ愛が高じて高校生になったらコスプレイヤーになることを夢見ていた。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

というボーイミーツガールから始まるコスプレ青春もの。それぞれの葛藤を乗り越え界隈を騒がすコスプレチームとなり、四天王と呼ばれる頂点のコスプレイヤーたちにも認知されるように。

コスプレデビュー、夏コミ、冬コミ、文化祭、と怒涛の一年が過ぎ年度が改まりまして、各自進級、まり姉は卒業して常駐OBに。

新一年生の新キャラ、ハイスペお嬢様・華 翼貴(はな つばき)も早々にコスプレ部に馴染み、近刊は「最後の四天王」編。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

これまで登場済の四天王が趣味的もしくはビジネス的なスタンスだったのに対し、コスプレに対してより求道的に芸術性を追い求めるコスプレイヤー。

師としてはまゆら様が既にいるんですが、まゆら様はどちらかと言うと後進のために道を拓いて自由にコスプレできる環境を作ることに注力してくれるタイプであるのに対し、最後の四天王・淡雪エリカは「自分のコスプレ」を追い求める孤高が持つノウハウ、精神論・技術論・芸術論を具体的に伝授していくタイプの師匠。

自分はコスプレもカメラもクリエイティブも素人なので、彼女たちが語るクリエイティブ論がどれだけ真に迫っているのかは正直わからないんですけど、「なんかすげえ!真に迫ってる!」と思わせることには成功している説得力のある描写が読んでて楽しい。

今巻はその「最後の四天王」編のクライマックス。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

自分たちの創るコスプレ写真の出来に限界を感じる奥村とリリサ。

ここまでこの作品を読んできていない人には、あんまり面白い巻とは言えないかもしれません。この巻だけこの作品を読む人がそんなに居るとも思えませんが。

アクションも萌えもお色気も少なく、もはやコスプレ道と呼ぶべき、求道的で禅問答で精神論な会話劇・モノローグ劇がずーっと続いて、退屈かもしれない。

語られていることも全部、

「要するに、気の持ちようってこと?」

で済まされてしまうかもしれない。

ただ、ここまで読んできて奥村のトラウマと孤独、みかりんの積年の片想い、リリサの願い、淡雪エリカの道程を踏まえて思い入れを込めて読むと、万感の名シーン・名ゼリフが連続する巻。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

「顔が良い」は七難隠す、ではないですけど、都度アップになるキャラたちが何しろ顔が良くて画面が華やかなのに助けられている感もありますが、同時に「好きなこと」に没頭する上でのある種の奥義、とても重要なことが語られているようにも思います。

前述のとおりコスプレに対してもはや「コスプレ道」と呼ぶに相応しい求道的な展開ですが、「気の持ちよう」の埒外で苦悩と葛藤の積み重ねだけがたどり着ける境地が描かれると共に、それを誰かから受け継ぎ誰かに受け継いでいく営みもが描かれて、なんというかもう、コスプレを離れて「道」という概念の真髄を見せようとするかのような試み。

それがラブコメ要素にも絡み、青春もの要素にも絡み。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

現在のリリサの願いは「みんなで永遠にモラトリアムでいたい」、ある種の「子どもの我儘」かもしれませんが、その分だけ純粋で、また多くの漫画作品で描かれてきた世界でもあります。

そういう「場」を創っていくことが、リリサの将来になっていくのかもしれないですね。

「ハーレムラブコメにおいて負けヒロインを作らない手法」

というのも決して新しいものではないんですけど、奥村の精神的な孤独からの解放と表現・アートの在り方に絡めることで、陳腐に感じさせない。

作中でリリサが危惧するように、今巻でこの漫画は「コスプレ道もの」としても「ラブコメもの」としてもアガリというか、答えが出てしまったようなものなんですけど、欲張りなリリサの願いを叶え続けるために、それでもまだまだ作品は続いていくんでしょうか。

『2.5次元の誘惑』18巻より(橋本悠/集英社)

なー、芸術むずかしいな。

彼女ら彼らの日常をもっとたくさん観られる分にはこっちは一向に構わないですし、表現者としてもラブコメとしても精神的には完成を見たように見えても、なんたって彼女ら彼らはまだ不安定な高校生ですし。

 

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