小学5年生の少年・綾瀬川次郎は、人格はただのスポーツ好きの遊びたい盛りの子どもだったが、体格と運動神経に優れる素質が災いし、スポーツ競技を習い始める度に、先に始めた子ども達を一瞬で抜き去って傷つけて逆恨みを買い、コーチたちからはより上位のクラブへの転籍を勧められ、嫌気が差して競技を転々としながら漠然と罪悪感と疎外感を感じていた。
弱小ながらコーチと子どもたちが和気藹々と野球を楽しんでいる小学生の硬式野球チーム「足立バンビーズ」に入団。
初めての団体競技で「チームメイト=友人」との関係を楽しみ、
「今度こそ、野球をこそを一生のスポーツにしよう」
と決意していたものの、次郎の才能に目が眩んだコーチが本人の意向を無視してU-12日本代表チームに勝手に応募したことで、次郎のゆるふわ野球人生計画は壊されていく…
「どう描くか」がエグく少年たちの心を抉って傷つけ、そして「何を描くか」はこれまでスポーツ漫画が目を逸らしてきた負の側面を描いています。
ちょっと『タッチ』の原口のこのセリフを思い出しますね。
2巻にして人生初の野球の試合がU-12日本代表エースとしての登板、初試合にしてノーヒットノーラン。
挑んだ世界大会、その顛末。
ネタバレですが、今巻4巻でU-12世界大会を優勝。決勝でも打てない打線をよそに一人で投げ抜いて完全試合達成。
のようです。「野球漫画」らしい試合の様子はほとんど描かれませんでした。
重きが置かれたのは、その余波。
1巻以来、圧倒的な才能と、ちぐはぐに「野球少年」の心が理解できていない言動のギャップが物議を醸してきた主人公ですが、だんだん「野球少年」の気持ちが理解できるようになってきて言動がまともになってきました。
今巻で描かれたのは、残った圧倒的な才能に打ちのめされるチームメイトたちと、あまりの才能を扱いあぐねる大人たち。
特に日本代表監督の心の動きの描写が出色でした。
1巻だか2巻だか、息子のチームメイトである次郎の才能に目が眩んで我が子を見限る父親が描かれましたが、良い対比になっています。
読者としては残念極まりない選択ですが、気持ちはわかる。
ただこの漫画、主人公の言動がまともになっていけばいくほど、残るのは圧倒的な才能が無双する「普通の野球漫画」になってしまうので、この後どうするんだろうか、とちょっと気になります。
常識を覆すファンタジックな才能が実在したら、のリアリティラインで少年野球を描いてきている作品ですが、今巻で繰り返し「使い潰される懸念」に言及されたことで、逆に
「次郎は何をやっても壊れないのではないか?」
とすら思ってしまいます。
そうした「普通じゃなさ」を既に期待されてしまっている主人公とこの作品が、1巻冒頭のシーンまでを繋ぐに足る「中学編」「高校編」で何を「普通じゃなく」描くつもりなのか、ちょっと想像がつかないというか、
大丈夫か?とむしろ心配になってしますね。
ふと、脈絡もなく
「そういえば昔、『リトル巨人くん』って漫画があって、好きだったなあ」
などと思いました。
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