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#紛争でしたら八田まで 14巻 評論(ネタバレ注意)

表紙のメガネ美女、「地政学リスクコンサルタント」の八田百合がクライアントの依頼を受けて世界を股にかけて紛争を渡り歩き、地政学の知識と思考と調査能力と護身術で解決していく、美女!メガネ!インテリ!ハードボイルド!ワールドワイド!な、かっけーお仕事もの。

ぼっちでメガネで日系で手ぶらのココ・へクマティアル、という感じ。

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

下品な方の出羽守っぽいというか、ちょっと「ブラック・ラグーン」みたいな洋画吹き替えワールドな感じ。

差別や不和、対立に満ちた社会の縮図で苦悩する依頼主たちを、「たったひとつの冴えたやり方」で少しだけビターなハッピーエンド、イバラの道ながらも融和と協調と成長に導く、シビアな現実で始まりながらも人間の善性を信じた希望に満ちたあっ軽いラスト。

というスタイルで作劇はほぼ一貫してます。

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

無駄のない、無駄のなさすぎる構成と展開。

漫画で得た知識でイキるのはいかがなものかと思いますが、エンタメと「知るきっかけ」の両立という意味で大変優れたコンテンツ。

バーターで、主人公がデウス・エクス・マキナな装置であること、作劇がキレイすぎてややご都合主義的なのは、致命的な錯誤や恣意的な思想誘導がない限りは、目を瞑るべきかなと。

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

前巻の南アフリカ編が出色の出来、というと偉そうですが、個人的に大変好みなエピソードでした。

割りとエピソードごとに扱われる国とテーマで、自分の満足度に波がある作品なように思います。

「当たり外れ」と言うには私の個人的な好みに依りすぎですが、「好き嫌い」と言うほどには嫌いなエピソードがあるわけでもないんですけど。

今巻はサウジアラビア編がまたとても良いエピソードでした。

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

変革を進めるサウジアラビアの国策事業のお披露目イベントを任されたコンサル「SPA」の百合は、ディレクターに海外で優秀な実績を持つサウジ女性・アマルを起用。

予算ジャブジャブな案件にド派手な企画案が出てくるものの、百合はどこか「物足りなさ」を感じていた。

そんな彼女に、ディレクター・アマルの引き合わせで一人の少女との出会いが訪れる。

その少女・ハナディは日本への留学経験を持つ大学生で、サウジアラビア社会の女性の伝統的な人生観と、留学経験がもたらした強い憧れの間で揺れていた…

女性の権利の解放が徐々に進むサウジアラビアをテーマに、昨今再び良くも悪くも特に隆盛している「アイドル文化」を絡めた傑作エピソード。

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

ハナディの「外と中」のギャップ、アバヤから覗く美しい瞳。

前巻の南アフリカ編もそうでしたが、「夢」とか「野望」とか「希望」とかと言うよりは

「憧れを止められない」

「動かずにはいられない」

と形容したくなる情熱の描写と、サウジアラビア社会と情勢に対する理知的な分析と、願いを込めた提案の混然。

現実は漫画で描かれるほどご都合主義ではなく、よりシビアなのかもしれませんが、「ご都合主義」願望の根底にあるのは一体何かを考えると、間違っているのは「ご都合主義」なのか、それとも「現実」なのか、考えてしまいます。

「こんなに上手くいくわけがない」と口にするのは簡単ですが、「こんな風に上手くいって欲しい」という願いのビジョンを熱を込めて世界に示すことは、

『紛争でしたら八田まで』14巻より(田素弘/講談社)

漫画の重要な役割の一つだなあ、と。

 

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