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#ふつうの軽音部 1巻 評論(ネタバレ注意)

割りと挑戦的な作品タイトルだな、というのが第一印象。

「普通じゃない軽音部」への、敵意とまではいかなくても、アンチテーゼとしての意図は感じます。

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自分は常々、漫画というのは作品だけで完成するものではなく、読まれてこそ完成するものだと思っていて、当然、感動だとかエモだとか共感だとかいうものは、半分は受け手に依存するものだと思っています。

同じ作品でも、読み手の資質というより人生経験によって、作者の描きたかったことが大きく伝わったり、あまり伝わらなかったり、たまに間違って伝わったり。

同じ作品でも、特に読み手の人生経験によって没入度・感情移入度が大きく変わるのは、「人が死ぬ話」、「動物が死ぬ話」、「戦争の話」、「恋愛の話」、「育児の話」、「クリエイターの話」。

あとなんでしょうね。

少々ニッチですが、例えば「バンドの話」、「軽音部の話」なんかもそうです。

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

読者の側のバンド経験の有無で、主人公の情熱や憧れ、「あるある」の描写などへの共感度が大きく変わるジャンルのように見えます。

自分はバンド経験も軽音部の経験もないので、「多分そうなんだろう」という想像なんですが。

さて。

高校新入生の鳩野ちひろ(15・♀)は、高校に入ったら軽音部に入ろうと、ど素人の陰キャながら意を決して高価なフェンダー・テレキャスター(ギター)を購入。

軽音部に入部したものの、待っていたのは微妙ながら確実に存在する、「思ってたのとちょっと違う……」の連続だった……

という青春部活もの。

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

原作漫画(?)に、メジャー化にあたって作画担当を付けて、という感じらしいです。

表紙のとおり三白眼気味、『パプワくん』の柴田亜美を彷彿とさせる、作中でも「美少女」然としては描かれないヒロイン造形。

素人ながら陽キャの唯、凄腕ながら陰キャのぼっちちゃんに対し、「素人で陰キャ」という負の要素で固められたスタートの主人公ヒロイン。

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

「ぼっち具合」「陰キャ具合」というか、高校デビューの噛み合わなさ、思いどおりにいかなさ、それでいてどこか達観して己を知っててタフな「めげない陰キャ」感、ちょっと『スキップとローファー』も思い出しますね。

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「好きなもの同士で自由にバンドメンバーを組め」という陰キャには厳しすぎるバンド編成、下手くそな自分に相応しいイマイチなバンドメンバー、男女関係のもつれで続々と退部していく部員たち……という、嫌な意味でリアリティあふれる軽音部の描写。

こんだけ「普通の軽音部」の負の面を強調しつつも面白く読めるのは作者の人徳なのか、主人公ヒロインの人徳なのかw

前述のとおり自分は軽音部の経験はないんですけど、「あるある」を幻視してしまう説得力w

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

もどかしく、思い通りにならない「はとっち」のバンド人生の第一歩ですけど、それだけにちょっとした「上手くいったこと」がめちゃくちゃ嬉しく感じてしまいます。

入学2ヶ月で各バンドがそれぞれの理由で崩壊して残った(理想の)メンバーで再編成、とかなんか生々しいわあw 知らんけど。

楽しくバンドやれれば良い『けいおん!』、プロを目指す『ぼっち・ざ・ろっく!』に対して、今のところこの作品・この主人公の「目指すところ」は提示されていません。

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

多かれ少なかれ若者の「バンドやりたい」は「文化祭で演りたい」を通って「メジャーデビューしたい」「ビッグになりたい」のロックンロール・ドリームにスムーズに接続されますが、いろんなメジャーバンドのヒストリーを見聞きしても、メンバー脱退とかメンバー追放とか路線変更とか解散の危機とか解散とか、紆余曲折で世知辛い世界っぽい。

自分のセンスや技術、天性や努力はもちろん、メンバーにも、ルックスにも、出会いにも、運にもある程度は恵まれないと、という。

いかにも

「ファンタジーやご都合主義に背を向けていますよ」

と言わんばかりの作品タイトルですけど、バンド人生の第一歩からもどかしく思いどおりに行かない分、なおのことバンドのパフォーマンスにピュアな憧憬を抱く「はとっち」のサクセスストーリー、見てみたくなります。

『ふつうの軽音部』1巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

主人公補正で最終回あたりの「そして数年後」でビッグになる夢を仮託されがちな「漫画の主人公」ではあるんですが、名誉や地位は置いといても、純粋に「はとっち」がかっこよく演ってる姿、見れたら気持ちいいだろうなー。

 

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