超・少子化対策基本法、通称「ゆかり法」施行後の日本。国民の遺伝子情報を国が把握し、16歳になると最良の結婚相手を「政府通知」される社会。
クラスの高崎美咲に片想い中の根島由佳吏は意を決して告白し、彼女も由佳吏をずっと好きだったとわかった夜、16歳になり受け取った政府通知の結婚相手の名は「真田莉々奈」という見知らぬ名前だった。
主人公の由佳吏、両想い相手の美咲、政府通知の婚約者の莉々奈、由佳吏に片恋する美少年の親友・仁坂の4人の少年少女の四角関係の社会SF恋愛もの。
作品の根幹に関わる、両想いでありながら由佳吏と結ばれることを頑なに拒む美咲の「隠し事」がようやく判明しました。
さて。
焦らされた挙句に明らかになった美咲の置かれた状況は「切ない」というか、「柊を含む厚生労働省の犯罪」の被害者でした。
この理不尽な種明かしに、どうリアクションするべきでしょうか。自分は「もうこんな漫画読まねえ!」と一瞬思いました。
怒りのあまり、「漫画にマジになりすぎでは?」と自分が心配になって、読んだ直後に感想を書くのをやめて一晩寝て起きて一日働いて、その後で感想を書くことにしました。
その甲斐もなく、あんまりクールダウンできていないようです。
フィクションの中で犯される犯罪の描写について、「許せない」「フィクションだろ」と度々議論になりますが、この作品のこの巻で描かれた違法行為もしくは犯罪行為に対してどう考えるべきか、自分は迷っています。
この漫画はもともとディストピアっぽい「社会が悪い」「そういう社会」の設定のフィクションで、そんな状況下で「誰も悪くない」切ない青春模様を描いた社会SFラブコメで、ある程度の社会の矛盾は折り込み済みでした。
しかし今巻で「そういう社会」を悪用する具体的な「犯人」の存在が露わになってしまいました。
柊と厚生労働省による国民の生命・健康に関わる重要情報の「性質上」の理由による独占・隠蔽・放置、本人・家族も知らない極秘重要情報の第三者への漏洩とその隠蔽、秘密裏の人体実験施策とこれに協力させるための市民に対する強要、目的外の個人情報の恣意的な利用と違法な上に本人・家族に無断で更に「倫理的な問題」をも抱える医療行為、これに関する市民の生命を人質にした口封じの脅迫。
取引???????
「社会が悪い」というか、具体的な人物が行ったそれらの行為のしわ寄せがすべて美咲に降りかかっていました。
うーん…柊を含む厚生労働省の重大な疑獄スキャンダルになってしまった。トグサに連絡して公安9課呼んでこい。
この漫画は「攻殻機動隊」ではなく「社会SF恋愛もの」なので、柊や厚生労働省の関係者が逮捕され裁判で裁かれる展開はないかもしれませんし、この作品には必要ないのかもしれません。もしかしたら彼らのやっていることはフィクションの「この世界」では犯罪ではないのかもしれません。
ですが、自分はそれなりに真剣に熱中してこの作品を読んできたつもりで、由佳吏、美咲、莉々奈、仁坂にも思い入れがあるので、シチュエーション作りの都合とは言え、「神の視点」で施しを与えるかのように彼らの生命や人生を弄ぶ柊や厚生労働省に好意的であるのは、ちょっとやそっとのお涙頂戴の過去エピソードでは無理そうです。
身内を病気で失ったお役人様が同じ病気の人間を人質に未成年の市民を脅迫して親の承諾もなしに言うこと聞かせるのすげえ。無惨様でもそこまでしねえ。
え、自分は政府通知から除外できる特権持ちであんなことしでかした共犯のくせに美咲の友達ヅラして由佳吏にワケ知り顔で「君は何も知らない」とか言ってたお前が、どのツラ下げて今さら自分の恋愛話はじめんの?
11巻を読み終わって自分がこの作品に望むことは、柊と厚生労働省の関係者が逮捕されて裁判にかけられ、ゆかり法が廃案になり、政府通知システムが解体されることですが、果たしてそんな「攻殻機動隊SAC」みたいな漫画を読んでいたんだっけ?と自分が可笑しくて心配になります。
本当にこれは「恋と嘘」の感想なんでしょうか。何か違う漫画の感想を間違って書いてはいないでしょうか。
一介の高校生に過ぎない主人公たちには一体何ができるでしょうか。
自分が想像できるのは恋を知った柊が罪の意識から全てを公表して厚生労働省を告発することぐらいですが、一介の高校生に過ぎない主人公たちには一体何ができるでしょうか。
あるいは顔が見えてしまった厚生労働省の犯罪は「ディストピアSF」の背景として「社会が悪い」「そういう社会」として流されるでしょうか。
フィクションの中で犯される犯罪の描写について、「許せない」「フィクションだろ」と度々議論になりますが、この作品のこの巻で描かれた違法行為もしくは犯罪行為に対してどう考えるべきか、自分は迷っています。
なにか踏み外して箍が外れたようにも見えるこの巻が後々どう効いてくるのか、続巻がとても楽しみです。
とても感情を揺さぶられる漫画です。めっちゃハマってんね俺。
aqm.hatenablog.jp