AQM

あ、今日読んだ漫画

#3月のライオン 16巻 評論(ネタバレ注意)

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実の家族を交通事故で亡くし、将棋のプロ棋士の家庭に引き取られ、その才能と情熱から実子たちを押しのける形で「棋士の子」として養父の寵愛を受け、史上5人目の中学生プロ棋士となり、一年遅れの高校進学を機に「家族」の空気を読んで隅田川沿いで一人暮らしを始めた少年・桐山零。

母を亡くし父が出て行き、下町「三月町」で祖父の和菓子屋を手伝いながら暮らす川本家のあかり、ひなた、モモの三姉妹。

零のプロ棋士としての戦い、学校生活、三姉妹をはじめとする周囲の人々との交流を描き、NHKでのアニメ化や実写映画化もされている競技&家族もの。

全身全霊を賭けた勝ちと負けしか無い孤独な世界でのたうち回るような棋士としての心情と、人情味溢れる優しい人間関係の狭間で、その両方に対してどこか借り物の意識が拭えない、ルーツを失った少年の心象風景が描かれる。

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「3月のライオン」16巻より(羽海野チカ/白泉社)

前巻の発売が一昨年の12月だったので、およそ1年9ヶ月ぶりの新刊。

主人公の零や周囲の登場人物たちの、読んでいるこっちまで胸が苦しくなるような真っ暗闇の葛藤と、その絶望の中に見出すか細い一筋の光明を詩情豊かに描き続けてきた作品ですが、今巻は珍しく? 日常巻というのかな。

零と周囲の人物たちの忙しくも充実し幸福な日々が、総じてハートフルにコミカルに描かれます。

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「3月のライオン」16巻より(羽海野チカ/白泉社)

ドラマチックではないけどしみじみと、孤独で痛々しかった1巻の頃の零が歩んで乗り越えてきた苦しい苦しい道程の果ての幸福な日々。

幸福すぎてなんか押しの強いホストみたいになっちゃう零w

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「3月のライオン」16巻より(羽海野チカ/白泉社)

懸念は2つ3つ、絡み合って感じていて、一つは自分はこの作者の作品を読むのはこれで2作目なんですが、前作の終盤の展開をあまり予想できていなかったので、零がようやく手に入れたこの充実して幸福な日々が一時的なものなのか、揺り戻しがくるものなのか、未だにこの作者の作風がよくわからないこと。

もう一つは、孤独と絶望が磨いた零の強さを、この「普通の幸福」が鈍らせてしまいはしないかということ。

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「3月のライオン」16巻より(羽海野チカ/白泉社)

と思ったら、誰よりも零と古い付き合いの二階堂が同じようにそれを懸念していましたね。

この先、この作品がどうなっていくのかは前述の通り自分は全然わからないですし、あるいは孤独と葛藤の中の光明が生み出す心象のドラマ故にこの作品を愛した読者には、物足りなく感じられる巻かもしれないです。「エヴァンゲリオン」の熱心なファンの一部が「新エヴァ破」を観た時に「コレジャナイ」と感じたように。

けど、「チープな感性かもしれないな」と思いつつも、自分は零も周囲の人物たちも、ここに至るにふさわしく十分苦しんでがんばってきたと思うし、零の性格が感染したかのように「長く続かない、束の間のことなんじゃないか」と疑いつつも、こんなに幸せそうな彼らを見られてちょっと感無量なんですけども。

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「3月のライオン」16巻より(羽海野チカ/白泉社)

あとサイドストーリー的な、謎に包まれた宗谷名人の意外な日常?エピソード、良いですね。

 

 

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