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#楊家将奇譚 1巻 評論(ネタバレ注意)

ラノベや「なろう」のコミカライズではなく、原作者付きのオリジナル漫画作品のようです。

オリジナルと言っても原典は存在し、日本では一般に馴染みが浅いものの中国では「三国志演義」「水滸伝」と並んで人気の歴史伝奇「楊家将演義」を題材にした、タイムスリップもの。

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「楊家将演義」はハードボイルド小説・歴史小説を題材に数多くの小説を書いた北方謙三によって小説化されていて、第38回吉川英治文学賞を受賞しています。

一時期、北方謙三の著作をすべて読む勢いで読み漁っていた自分も読みました。

ちなみにデビュー当初のハードボイルド小説からキャリア中期に歴史小説に活躍の場を移した北方謙三は、「三国志演義」「水滸伝」「楊家将演義」をいずれも小説化コンプリートしている他、土方歳三を主人公にした新撰組もの、あと近年「逃げ上手の若君」で話題の日本の南北朝時代を珍しく舞台に数多くの小説を書いていて、いずれもオススメです。

話が逸れました。

 

現代日本の女子高生・鈴は幼い頃に両親を亡くし、北海道で牧場を営む祖父に引き取られたもののその祖父も亡くし、天涯孤独の身だった。

東京の、嗜んでいる弓道の強豪校に入学したものの、学校にも馴染めずにいたある日の帰り道、落雷によって過去にタイムスリップしてしまう。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

中国、10世紀、宋の時代、戦場。

鈴を炎の中から助けてくれた武人たちが、戦場の混乱の最中に敵に射られかけるところ、自ら敵に矢を射て恩人を助け返した鈴は、身元改めも兼ねて彼らの砦に招かれる。

彼女を助け、また彼女が助けた武人たちは、"楊家将"。北宋最強の武人・楊業が率いるその息子たちだった。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

見慣れない衣装(セーラー服)に身を包み、謎の板(スマホ)で未知の技術(カメラ)を示し、未来の日本から来たと明け透けに語る彼女を、楊家の息子たちは「武門に栄光をもたらす仙女である」と考え、首都・東京開封府の楊家の本拠で待つ、彼らの父で名門・楊家の当主である楊業の元に鈴を連れていくのだった…

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

という、平凡な女子高生がタイムスリップ先でいきなり歴史上の偉人に保護され、未来の知識などで活躍していきそうな、タイムスリップの定番展開。

いかにも最近のラノベや「なろう」でありそうな話ですが、どちらかというと古典的なタイムスリップものに近く、いわゆる「戦国タイムスリップもの」、漫画であれば「王家の紋章」のなどの、ジュブナイルものの伝統の系譜に近いように感じます。

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作品タイトルも「〜が〜して〜した件」みたいなアレではなくて、地味ながら王道、古典的正統派で、大変好みです。

 

題材は古代中国の武将ものでいかにも男の子向けっぽいですが、主人公に「面白れー女」特異点ヒロインを置き、「楊業の8人の息子たち」がいずれも強くイケメン揃いの「イケメンパラダイス」で、美麗な絵も相まって雰囲気的には乙女ゲーに近く、むしろ女性にオススメな感じです。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

ヒロイン・鈴の面白いところは、未来から来た知識だけが売りの「守られ無力ヒロイン」ではなく、幼少期から祖父の牧場で乗馬に親しみ、また強豪校の弓道部員という経歴から、騎馬と弓術に優れる「即戦力ヒロイン」な点。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

1巻でさっそく敵を射たり騎馬で都まで早駆けする展開が。便利やなコイツw


ちなみにいずれも名将であったとされる楊業の息子たちは、上から

楊延平
楊延定
楊延輝
楊延朗
楊延徳
楊延昭
楊延嗣
楊延順

と言います。

9人目の息子がいたら楊業は「楊延李」とか名付けていたかも知れず、

「その場合、中国での読み方は"ヤン・ウェンリー"だなあ」

「中国の歴史に造詣の深い田中芳樹は、そのつもりで『銀河英雄伝説』の主人公の一人に命名したのかもしれないなあ」

と思ったりもします。

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(どこかで読んだ田中芳樹のインタビューでは、"ヤン・ウェンリー"の命名について楊家とはまったく関係ない話をしていてしょんぼりした記憶が既にありますが)

 

原典の楊家将演義では、北宋最強の武門・楊家にこの後の歴史で破滅的な悲劇が訪れることが知られており、凡百のチート無双ファンタジーとは一線を画す大河的な展開が予想され、非常に楽しみな作品。

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「楊家将奇譚」1巻より(有谷実/KADOKAWA)

さすが楊業、大人(たいじん)然とした描かれ方。

こうやってちょっとずつ「楊家将演義」が日本でも認知されて、様々な作品が生まれる契機の一つに、なってくれるといいなあ、と大変期待してしまいますね。

 

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