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#ブルーピリオド 6〜25筆(2〜6巻) 評論(ネタバレ注意)

諸事情あって、既刊13巻を一冊ずつ読んで感想を記事にする余裕がないため、ある程度の区切りごとに記事にしたいなと思って、Wikipediaを薄目でカンニングしたところ、

2022年12月28日時点のWikipedia「ブルーピリオド」の項

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%89 より

とのことなので、「高2編」「高3編」「藝大1年生編」「藝大2年生編」単位で読んで記事にしようと思います。

もうすでにちょっとネタバレ踏んでもうてるやん。藝大受かってるやん。

と、一冊ずつではなく、主人公の立場の変化ごとに数冊分をまとめて感想記事にしようと、時間短縮の下心もあってやってるんですが、2巻を読み終わった時点で既にちょっと後悔しました。

『ブルーピリオド』4巻より(山口つばさ/講談社)

絵描いてるだけの漫画の割りにいろいろ起こりすぎて、5冊もまとめ読みすると最初の方で何が起こったか印象が薄れるし、その割りに全体的に情緒的なカロリーが高すぎて感想で語りたいことが多すぎて、書いた文章をどうばっさりカットするかに頭を悩ませて余計に時間がかかります。

これだったら最初っから全巻まとめて1記事で2〜3万字ぐらい書くつもりでいた方が手っ取り早かったなー…

というわけで、自分も好きな作品の多い、漫画の中の一大ジャンル「美大もの」の王様、『ブルーピリオド』の高3編、美大受験編。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

男子高校生・矢口八虎は、バレないように仲間と夜遊びをし酒を飲み煙草を吸う不良だったが、人生に対するリアリストで将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、学校のありとあらゆるカースト層の生徒と馴染める人たらしの万能人間だった。

が、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。

美術の時間、美術室にタバコの箱を落としたことに気づいた八虎は、回収に向かった美術室で描きかけの一枚の油絵に出会う。

この出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…

という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。

八虎、高校3年生。高2で美術部に入部、予備校にも通い始め、藝大の受験、高校卒業まで。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

「美大もの」漫画の中でも「美大受験もの」も珍しくはなく、本作もここで完結しても格好はついたでしょうし、読者の満足度も低くなかったと思いますが、まだ続きます。

八虎の「画家人生」という意味では、「試験に合格するための絵を描く」という特殊な状況のパート。

自己のインナースペースとの対話が重視される芸術分野らしからぬ、とも思ってしまいますが、絵画に限らず音楽や舞踊でもコンテストやコンクールなど、合目的的な活動(バトル展開とも言う)は普通にありますし、漫画では特にスポットは当たりがちです。

試験ものも、本作中でも言及のあった「ハンター試験」とか、『宇宙兄弟』や『ワートリ』のアレとか、まあ漫画映えしますし。

次巻以降、八虎の「描く目的」はガラッと変わってしまうはずで、動機づけどうするんでしょうね。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

他の文芸・芸術分野との差として、小説や漫画が読者を、音楽が聴衆を、舞踊や映画が観客を、意識しているのに比較して、絵画や彫刻などの美術というのは「客席」への意識が「比較的」薄いようなイメージ(※個人のイメージです)があって、八虎が「誰かのために絵を描く」とかちょっとイメージしづらいんですよね。

どちらにせよ、そもそも読んでるこっちが燃え尽き症候群になってしまいそうな漫画ですけど。

基本的に芸術もの漫画って、芸術の奥深さがバトル漫画並みにインフレしていく世界なんですけど、美大ものの場合、入学前から既に修羅の国なんですよねw

以降、五月雨に。

『ブルーピリオド』2巻より(山口つばさ/講談社)

世田介。

同い年で同じく藝大現役受験の天才・世田介(よたすけ)(なんつー名前だよ)がラーメンハゲポジションで、主人公に対してシビアな名言を吐いて作品を締めます。

彼を、というより彼の吐く言葉を自分は大好きで、出番が楽しみでした。

彼の言葉で作品の、というか受験の現実、受験生の感情とプライドの描写のリアリティ(説得力)がグッと増しますね。

成り行き的に、続巻にも引き続き登場するのかな。

『ブルーピリオド』4巻より(山口つばさ/講談社)

大葉先生。

八虎の成長と努力のガイドラインを言語化してくれる、バトルものでいう「観客席で解説もする師匠キャラ」。

感覚的な絵画創作の戦略や技巧の言語化に長け、当初「3巻で受験編が完結」するはずだったのが6巻まで伸びたのはおそらく彼女の存在のせい。

「修行シーンと禅問答ばかりのバトル漫画」みたいな展開を、彼女の語るディティールによって楽しく読ませていただきました。

作者は彼女を通じて、「美大志望・画家志望の読者を増やしたい」というよりは、美術に対する読者の審美眼を育てたい、ように見えるキャラ。

料理を食べるにあたって、どうやって作ってるか全然わからないより、料理の仕方を知っている方がより美味しく楽しめる、のに似てます。

残念ながら機能として替えが効きやすいポジションで、立場も予備校の先生なので、次巻以降、出番が完全になくなりはしないものの世田介とは反対にグッと減りそう。

『ブルーピリオド』4巻より(山口つばさ/講談社)

ユカちゃん。

特に何の説明もなく可愛い女装男子がレギュラーキャラにいるのも、それはそれで今風だしオシャレよね、と思ってたんですが、目の保養要員・ラブコメ要員ではなく置かれた意味がちゃんとあったというか、八虎との関係性が意外と深掘りされました。

女装やセクシャリティの由来はサラッと触れた程度でしたけど、「色んな奴がいて、こういう奴もいる」ぐらいの扱いで良かった。

あんまそっちにバランスを傾けると、ちょっと作品の趣旨変わっちゃうし。

 

森先輩。

主人公にきっかけを与えてくれた重要な存在で自分も好きなキャラではありますが、ルックス・出番の量・過去の出番での扱い、そもそも「そういうの立てない作品」のイメージもあって「そう」思ってなかったんですけど、今回パートの「すれ違い」展開、もしかしてこの人、ヒロイン枠なんです???

 

八虎。

才能の替わりに、桁外れの情熱に支えられた努力の量と、良き師匠からの正しい知識と戦略・計算で絵を描くタイプで、「覚醒する天才」型の主人公が多いイメージの芸術もの漫画では割りと珍しいタイプに見えます。

『ブルーピリオド』4巻より(山口つばさ/講談社)

メタに一歩引いてみると、高2で絵を描き始めて高校現役で東京藝大に合格する奴が「天才じゃありません」ってのもだいぶリアリティのない話なんですけど、修行のディティールの積み重ねで力づくの説得力を得たというか、「だよな、八虎、頑張ったもんな…」ってなっちゃうというw

1巻で「ピカソの絵が全然わからない」と言っていた彼が今ピカソの絵を観たら、ちったあ感想変わってるんですかね?


というわけで引き続き続巻を読みます。

藝大1年生編が26〜47筆がちょうど単行本の7〜11巻相当でキリがよくて助かります。

舞台が藝大に移って新展開や新キャラが楽しみな反面、これまでの好きなあのキャラやあのキャラが引き続き出番が多いと嬉しいんですけど。

『ブルーピリオド』6巻より(山口つばさ/講談社)

「千人集まっても全員がそれぞれ孤独」みたいな受験のヒリヒリする乾いた緊張感と、時期的にバッティングしちゃう思春期の葛藤、に創作における苦悩がごっちゃになったカオスで、とても情緒的に高カロリーで、そのくせ読むのに精神的なカロリーを大量消費するエピソードでした。

読んで書いて疲れたから、ちょっと休憩しよ。

 

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