良い表紙。
前作『男子高校生を養いたいお姉さんの話』が好評で、
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一話4ページのショートショートながら13巻も続いた作者、の新作。
高校入学したばかり、スクールカーストの底辺を自認する少年・沼本よしみは、ある日の下校(?)途中、跪いた見知らぬ美少女から指輪を差し出され、求婚される。
彼女は経済力で日本を実質支配する三星コンツェルンのトップの令嬢・三星光(みつぼし ひかる)だった。
権力と財力と美貌を背景に自信満々の彼女の求婚を一度は断ったものの、ドサクサで受け取った指輪を持ち帰ってしまったよしみの、自宅へ、そして学校へ、光は押しかけあるいは転校し、懐疑的だったよしみの両親、教師たち、そしてクラスメイトたちを次々と権力と財力で屈服させ懐柔して外堀を埋めていくのだった…
という、押しかけ暴走特急お嬢様ラブコメ。
ボケーっとした男の子に押し強めの美女が非常識にガンガン迫ってくる、それにツッコむ主人公、という作風が二作続いて、作者の芸風という感じに。
「庶民目線でイメージする『お嬢様』に対する誤解」
の乗っかった、「財力、権力、世間知らず」なお嬢様ネタを中心に据えたラブコメディ。
今回のお嬢様ブームは息が長いというか、擦っても擦っても味が出続けますねえ。
ギャグコメとしてはむしろベタ中のベタというか、もはや敢えてやってる「メタベタ」なんですけど、照れやかっこつけで躊躇してブレーキを踏むことなく、ひたすらアクセル全開なのが痛快な作風。
今巻で完結。
近年のマガジン(に限らず講談社)のラブコメに対する自分のイメージで言うと
・エロとハーレム
・成功体験(エロとハーレム)の再生産・量産
・ヒット作の引き伸ばし
なんですけど、そうした文脈から外れて、自分から見て「マガジン(講談社)らしくない」ラブコメ。
「3巻で完結」というのは、近年の傾向から見ると
「思ったより人気が出なくて打ち切りなのかな」
と思わされる「短さ」ではあります。
ただ、本作の「出オチのワンイシュー」な作品コンセプトから考えると、結果的に適切な長さなような気がすごくしますけど。
同じく「出オチのワンイシュー」だった前作の『男子高校生を養いたいお姉さんの話』が1話4ページで13巻も続いたことと比べると、
・1話4ページが(長続きする上で)良かったんだろうか?
・本作ヒロインの「金と権力」によって恋愛上のあらゆる障害が排除されて、二人の仲の進展を阻害して遅延させて長引かせる要因が最初から「主人公の常識と理性」しか残っていないなかったことが「くっつきかけ」の寿命を縮めたんだろうか?
・少年誌で「恋のABC」の「A」を描いた後に「B」「C」はなかなか描けないですよね(マガジンは割りと描くけどw)
などなど、いろいろ考えてはしまいます。まあそもそも、10巻も20巻も作者が描きたかったかどうかは、わかんないんですけど。
自分の欲望に合わせて世界を叶える力を持っているヒロインが、唯一ままならないのが受動的な男主人公、というのは『涼宮ハルヒ』とも共通していて(ただしヒロインの欲望は恋愛に全振り)、もうちょっと見ていたくはありました。
発想の飛び方の意外性とスケールのデカさが結構好きでした、このヒロイン。
こう、
「傷つきたくないが故に受動に徹する少年と、それでもグイグイくるパワフル美少女」
という近年のラブコメの類型・傾向の極北を実験的に赤裸々に示したとでもいうか、他のラブコメ作家のいい迷惑だなw
3巻という長さ(あるいは短さ)は、作者や編集部の本意なのか不本意なのかは一読者としては窺い知ることはできないですけど、結果的に出オチみたいなテーマに見合った手頃なサイズになって、「僕が考えた理想(?)お嬢様」でゴリ押して駆け抜けたというか、飽きが来る前に楽しく読みました。
「少年漫画の壁」を単行本のおまけページでシレッと超えちゃってんのもクスっときたし、全編通じてハイテンションに、一瞬たりともシリアスになろうとしなかった潔さも良いですよね。
次回作も引き続き楽しみにしています。お疲れ様でした。
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