表紙は川路、小松に続いて大久保利通。
モーニング誌で連載、TVアニメ化・TVドラマ化もされるなど好評のうちに第一部が完結した、
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『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』作者・泰三子の新作。
幕末、黒船の来航によって徳川260年の治世の太平は破られ、幕府を頂点とした武士階級による国論は割れ、それは将軍位の継承問題にも及んだ。
なんだこのコマ。
後の徳川慶喜を推す一橋派の急先鋒、薩摩藩主の島津斉彬は、茫洋とし空気が読めないながら大器の片鱗を感じさせる藩士・西郷吉之助を西洋の英雄・ナポレオンになぞらえ、新時代の日本のリーダーとなってくれることを期待し重用。
動乱の時代の重要人物として徐々に頭角を表し、幕府や他藩からも警戒される存在となりつつあった西郷の、そのサポート役として白羽の矢が立ったのは、西郷と同じく賢君・斉彬公に心酔し、目端が効いて空気も読めて、悪いことも考えられちゃうツッコミ役の便利マン藩士・川路正之進。
後の明治政府下における初代の大警視(警視総監)、川路利良その人だった。
動乱の時代、果たして川路は斉彬公の命のもと、西郷吉之助のサポート役として日本を近代化に導くことができるのか…
薩摩藩士から幕末を経て明治初期に維新政府の要職を務め、「近代警察の父」「日本警察の父」渾名され、その語録が未だ警察官のバイブルとして読み継がれる、史実の人物・川路利良の伝記フィクション。
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漫画好き向けにメジャー作品を使って説明しようとすれば、『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』で「斎藤一の上司の警視総監だった人」という説明がわかりやすいでしょう。
小柄で封建的な役人然として描かれてはいるものの、元・新撰組の斎藤一を怒鳴りつけ、喧嘩番長の左之助と胸ぐらを掴み合うなど、レギュラーで武闘派の大男相手に怯む様子のない、気骨のあるおっさんとして描かれました。デコッパゲてw
史書に残っていない人物の性格や言動のディティールは、作家の癖・好み・エンタメサービス精神に基づいた想像で「面白おかしく」補完されるフィクション。
年表に準拠したシリアス・イベントの間を、『ハコヅメ』以来の軽妙なコミカルな会話劇のギャグコメディで埋めていく作風。
硬くなりがちな歴史フィクションを、キャラ中心に楽しく読める工夫がなされつつも、『ハコヅメ』で見せていた「社会や組織、人間の闇」は時代性もあってより濃くなっています。
自分は出身が鹿児島なのと、司馬遼太郎をひと通り履修済みなので、毎度お馴染み郷土の有名人たちが活躍するお話、楽しく読めてます。
幕末、欧米列強に対する対応方針と将軍後継に関わり国論を二分した「南紀派」と「一橋派」の政争と暗闘の天秤は、「南紀派」の彦根藩主・井伊直弼の大老就任と、「一橋派」薩摩藩主・島津斉彬の急死により傾き、大老・井伊直弼による反対派への弾圧、「安政の大獄」に発展。
当主を失った混乱の渦中の薩摩藩においては、後継こそ斉彬の弟に定まったものの求心力に欠け、カリスマリーダー・西郷は死亡を偽装して奄美に身を隠し、斉彬を信奉していた過激派藩士たちは暴発寸前の危機にあった。
この危機に際して、藩政を実質上預かる若き藩士たち、小松帯刀、大久保利通、そして川路利良などは難しい舵取りを迫られていた。
今巻は安政の大獄から、桜田門外ノ変の直前まで。
川路を中心とした薩摩目線の他、怪物・タカ率いる井伊の子飼い「多賀者」の目線を中心に、暗闘メイン。
コメディ要素は散りばめつつも、政争と謀略、諜報と偽装、密偵と暗殺、裏切りと粛清などの陰惨でダークな展開を、スリリングな描写で。
いずれも「日本を良くしたい」という志は一緒なんですけど、アレですね、終わった後に正解なんていくらでも言える「事後諸葛亮」ですけど、「最初の血の一滴」が流れてしまうと、怨恨や憎悪で本来の議論から話が逸れて闘争が始まって、本来「外」に向かうべきだった力が同志撃ちで浪費されてしまいますね。
個別のキャラの危機感や復讐心は痛いほどわかる(ように描かれている)んですけど。
まあこの経緯では「日本を良くしたい同志」とは思えんわな…
力と時間の浪費か、完全ならざる人間の集まりが「次に進む」ために必要な儀式と犠牲か。
とか思ってしまうのは、事後諸葛亮ゆえの当事者性の欠如か。
読者にとっての感情移入ポイントの一つだった、犬丸が死にました。
高潔でも豪傑でも有能でもなかった、大藩同士の暗闘の渦に巻き込まれただけの、無能で気の弱い板挟み変節野郎の、普通の奴でしたけど、
「両方を選んだ、あるいは両方を選ばなかった、川路たちと違って名も無く死んだ犬丸が、生命をかけたものとその意義は一体なんだったのか」
「自分だったら違う選択をしたのか、できたのか」
と考えてしまいますね。
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