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あ、今日読んだ漫画

#らーめん再遊記 11巻 評論(ネタバレ注意)

『ラーメン発見伝』の続編の『らーめん才遊記』の更に続編の現作。

シリーズ未読の方にものすごく雑に説明すると「ラーメン版『美味しんぼ』」みたいな作品群。

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

脱サラして開業したラーメン店が苦節を乗り越えて成功し事業を拡張、ラーメン店向けに始めたコンサル業も順調、メディアにも露出しラーメン産業を盛り上げてきた立役者の一人と認められ、職人・経営者としてラーメン業界を代表する第一人者となった芹沢。

ラーメン業界の世代交代と新たな時代の到来を前に、なぜか芹沢はやる気が出なかった…

雑に説明すると、自らの原点に立ち返った王が、自ら育てた天才児にその玉座を禅譲し、自らは放浪の旅に出る、的なそういう話です。そういう話をラーメン業界で。

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

職人・経営者のトップとしてラーメン業界の頂点に立ちそこから降りた主人公が、身分(?)を隠して大手チェーンのラーメン屋にバイトとして潜り込んで店舗内の若手のいざこざに首を突っ込んでみたり、山の頂上から見下ろしていたラーメン業界の裾野を歩いて回る話。

前巻〜今巻は、芹沢の創業期、90年代のニューウェーブ・ラーメン・ブームの頃にライバルとして切磋琢磨し盟友として認め合ったかつての天才・原田との再会編。

業界関係者の万人が認める天才ながら大衆受けせず、伝説の名店を2年で閉店して姿をくらました原田と偶然再会。

原田は長年のヒモ生活にピリオドを打ち、ラーメン店を復活させるべく旧知の外食コンサル小宮山、そしてたまたま居合わせたラーメンYouTuber・グルタにサポートを依頼。

依頼された2人の縁者である芹沢と評論家の有栖にも、原田の動向が聞こえてくるが…

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

前巻は、サバイブするために妥協してビジネスを成功させた芹沢と対照的に、理想を貫き通して2年で店を潰した原田のかつての天才を、これでもかと持ち上げる「原田持ち上げ巻」。

読んでるだけで原田のラーメンを食ってみたくなります。

今巻はエピソード完結巻。

前巻で思ったんですけど、作品・パフォーマンスが映像メディアや音声メディアに遺って後世でもその天才を実感できるミュージシャンや漫画家などのクリエイター、スポーツ選手などと違って、ラーメン屋の「かつての天才」って存在は、食べた人間の思い出の中のノスタルジーとしてしか意味ないんですよね。

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

どんなに天才でも、今日、明日、作られないラーメンには思い出や歴史としての意味しかありません。

思い出はいつも綺麗だけど、それだけじゃお腹が空くわ。

芸術家肌の天才ラーメン職人として再起を図る原田、の愛人から、過去10年の原田の実態を聞いた芹沢は、かつての同志・盟友として介錯を買って出ることに。

雑誌の特集記事の取材を受けているのにかこつけて、原田にメディア上でのラーメン対決を、芹沢の方から挑む。

「またラーメン対決か」というシリーズの悪癖を逆手に取った、意外な顛末。

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

「アリがキリギリスを説教してスカッとジャパン」

というか、作者の、(キリギリス的な)ある種の人間に対する辛辣な「軽蔑」「見下し」を感じなくもないし、「生活や経済性のために夢を妥協した」経験を持つ(アリ的な)大衆・読者をスカッとさせる迎合も感じなくはないですが、芹沢の原田に対する「情」というか「武士の情け」と、原点に回帰するエンディングがいい感じでオブラートになって、「いい話」風に爽やかな読後感。

近刊で意味なく繰り返し挿入される電動キックボードの描写もそうですが、作者のもはやほとんど「憎悪」に近いものを感じつつも、そのまま感情的に表現せずにちょっとだけ頭を冷やしてエンタメに昇華する、なんだろねコレ、「バランス感覚」なのか、「良識」というのかw

「ボロクソに攻撃したあとにちょっと優しくしたら感謝されて仲直りして謎の感動」

って、ハタから見たら完全にDVの手法の典型例ですよねコレwww

『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』5巻より(赤坂アカ/集英社)

芹沢の場合は旧知の同志・盟友の関係性があったこと、原田の愛人から強いて懇願された、というエクスキューズもちゃんと付いてのことなんですけど、本来は芹沢にとっては他人の人生に対する「余計なお世話」で、「説教してスカッとジャパン」エンタメなんですよね。

普通は鼻についちゃうところを、前述のエクスキューズと展開とネームで「いい最終回だった」風の雰囲気にねじ伏せる手腕は、さすがだなあ、というw

「ディープとポップ」のクリエイティブと承認欲求の迷路を「ただのラーメン屋」の原点回帰に集約させる、ベタですけどそこに至るまでの経緯を踏まえての汎用的な説得力、「人生」と「やり直し」を感じさせる大団円。すごいw

『らーめん再遊記』11巻より(久部緑郎/河合単/小学館)

 

端的・シンプルながらキザな、芹沢らしいいいセリフ。

原田、どう見ても飽きっぽくて長続きしない性格なんで、1年もしたらまた「孤高に尖った独創的な創作ラーメン」の方にいっちゃった挙句投げ出しそうな気がしますけど、そこまではさすがに芹沢の預かり知らぬところだし、子どもでもできたら原田も変わるのかな、とか。

愛人の人とちゃんと籍入れて、幸せにしてあげてほしいな、とか。

ああ、これはまったくもって「他人の人生への余計なお世話」です。

人間の「説教カマしてスッキリしたい欲」は、本当にどうしようもないw

 

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