#AQM

あ、今日読んだ漫画

#朱のチーリン 1巻 評論(ネタバレ注意)

自分は割りと『三国志』に関しては「にわか」で、社会人になるまで触れてきませんでした。

『三国志』の英雄たち、登場人物がシンプルすぎる似たような名前ばかりで区別がつかず、苦手意識がありました。

なので『三国志』の定番、横山光輝『三国志』や、コーエーのシミュレーション・ゲーム『三國志』も通っていません。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

なんか小学生ぐらいの子供の頃、スペシャル版の『三国志』アニメがあって見た記憶はあって、

「劉備はいい奴」

「関羽と張飛が強い子分で、孔明が頭がいい子分」

「曹操が悪い奴」

ぐらいの認識。

Amazonプライムより

たぶんこれかな。

転機は00年代の『真・三國無双』シリーズで、『三国志』の英雄たちをプレイアブル・キャラとして使用することで、名前とビジュアルが紐づいて、ようやく彼らを個々に区別して認識することができました。

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美男美女しかいねえwww

で、すぐに北方謙三の小説『三国志』全13巻を読みました。

これは今でも自分のフェイバリット小説の一つで、数年に一度読み返しています。

その後、漫画『蒼天航路』を全巻読んで、

ぐらいかな。

なので「史書」も「演義」も直接触れていない、近年のフィクション・エンタメを通じてしか『三国志』に触れていない「にわか」で、歴も浅いです。

本作の主人公は姜維。

作品タイトルの「チーリン」はたぶん「麒麟」、「天水(地名)の麒麟児」と号される姜維を指し、「朱」は本作における姜維のイメージカラーですかね。

北方『三国志』では、魏から降って諸葛亮に師事し、その遺志を継いで北伐に執念を燃やすことになる武将。

『三国志』の錚々たる英雄たちが退場した後に現れた「遅れてきた青年」で、諸葛亮の頭脳と趙雲の武勇のいいとこ獲りで足しっぱなしにしたチートキャラ、ゲームなどのビジュアルの影響で源義経・沖田総司と並んで「美少年に描かれがちな歴史上の三大非業イケメン」というイメージがあります。

本作1巻でも例に漏れずイケメンで、既に諸葛亮から資質も認められています。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

まあ、映画・ドラマ・漫画の主人公というのは、イケメンに描かれたりイケメン俳優が演じて、それが重なってイメージが増幅されるので、当たり前っちゃ当たり前なんですがw

1巻、姜維の背景や因縁が語られるプロローグ的な1〜3話で幼少期・ローティーンぐらいの年齢、4話で時間が15年ほど飛んで青年期になって本格的に話が転がり始めますが、既に曹操も劉備も関羽も張飛も馬超も没後。

才知と武勇とルックスを兼ね備えたチート主人公みたいなスペックの割りに語られることが少ないのは、この時代的な「『三国志』終わりかけ感」のせいでしょう。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

残ってるのは諸葛亮、魏延、司馬懿、確か趙雲と孫権はまだ生きてるか、馬謖はすぐ死にそう、周瑜は確かもう死んでる。

姜維を主人公にすると、この「スター不足」に陥るんですが、この作品はそれを三つの別の要素で補っています。

一つは「宗教と民族」。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

漢の時代に国教化された儒教をアイデンティティにマジョリティとして振る舞い、羌族などの異民族・少数民族を逼塞させる漢民族。

孔子の時代から既に数百年が経過したこの時代、価値観の異なる異民族への差別を正当化するツールに悪用される儒教。

二つ目は姜維のルーツに関するフィクション要素。

漢民族として価値観が儒教の影響下にある姜維ですが、羌族を祖先に持つ可能性が示唆されており、アイデンティティが揺らいで煩悶する様子が描かれます。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

三つ目はオリジナル・キャラ。

姚宇という、姜維と同世代の羌族の少年〜青年が、「敵なのか、友なのか」という、姜維の対になる重要キャラとして登場し、ルーツとアイデンティティに揺らぐ姜維に「お前はそれで良いのか」と命題を突きつける役割を負っています。

という、

「インテリつよつよイケメンのチート主人公が脳天気に無双してついでに美少女にもモテモテ」

的なアホみたいな予想が裏切られる、重厚な出だし。

先行作品の描写が薄い、本作のオリジナル要素も強い、とはいえ、姜維の行末は史実にある程度規定されているんですが、

ja.wikipedia.org

大河の醍醐味というか、本作の作者の新解釈ともいうべきフィクション要素が、後の姜維の在り方や無念・非業の最期にどう繋がっていくのか、楽しみです。

『朱のチーリン』1巻より(向井沙子/小学館)

中国歴史もの漫画は、『封神演義』、『蒼天航路』、『キングダム』のようにハネる作品があったかと思ったら、早期に打ち切りの憂き目に遭う作品も多かったりと、博打要素の強い不安定なジャンルという印象があります。

この作品は長く続いて「諸葛亮が死んだ後」「姜維の生き様」を楽しく詳しく読ませてほしいな、と期待してしまいます。

 

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