「…ねえ 私たちこれで正しかったのかな?」
「正しかったって…?」
「もっと早く引き返した方がよかったんじゃないかとか
もっと別の場所に進んだ方がよかったんじゃないかとか…
そしたらもっと暖かくて食べ物もある場所に行けたんじゃないかとか…
そしたらもっと…」
「… わかんないよ!
どうするのがよかったのかも どうしてこんな世界に二人っきりなのかも…
…何もわかんないけど…」
単なる一読者に過ぎない一般人が、どこかに寄稿するわけでもない自分のブログの記事に「~に寄せて」などという大上段に構えたタイトルをつけるのは少々おこがましいでしょうか。まあいいや。
このブログは昨年の9月に始めてもうすぐ1年が経ちますが、それは「少女終末旅行」の連載も最終巻の刊行もとっくに過ぎた後のことでした。
ブログこそやっていなかったものの漫画は日々読んでいたので、2018年1月12日のWEB連載最終回も、3月9日の最終6巻もリアルタイムで読みました。
その後、遅ればせながら漫画感想ブログを始めた私は、「今日はネタがないから」と言い訳をしながら、2018年10月16日にこの作品についての記事を書きました。
aqm.hatenablog.jp
9月に始めたばかりのブログで、しかも暦はまだ10月の中旬でしたが、「今年最も面白かった漫画」について言及せずに年は越せないと、口実を求めてずっとウズウズしていたからです。
在りし日のはてなハイクに漫画の感想を3行で日々綴っていた私は、9月にはてなブログに引っ越してきて「ブログで3行は短すぎる」と、ブログのスタイルを模索していました。
結局、「何か制約とご褒美がないと、文章の推敲もしないし、長続きもしない」との理由で、「毎日更新すること」「文字数は本文500字ちょうどで記事を書くこと」「作品名にハッシュタグをつけてTwitterに放流すること」「魔除けに(ネタバレ注意)と記載すること」を自らに課しました。
500字という文字数は、発売されて1時間も経っていない新刊をネタバレし過ぎずに紹介するのにちょうどよく感じました。またハッシュタグをつけてTwitterに放流することでごく稀に作者や編集者の方から「いいね!」をいただくことがあり、ささやかな楽しみになりました。
しかし愚かしいことに「自ら決めたルールは自ら例外を設けても良い」という柔軟性をまだ持たなかった私は、その「少女終末旅行」の記事も500字ちょうどで書いてしまいました。2018年に最も面白かった漫画として、10年、20年先も語ろうという思いで☆を6つも付けたにも関わらずです。
この作品は不思議なことに、星雲賞と同じく投票で決定される、今や業界最大手となった「このマンガがすごい!」の歴代のランキング10位以内に一度も入ったことがありません。
konomanga.jp
そんなこともあって、先週2019年7月27日に日本SF大会において星雲賞コミック部門を受賞したことは、この作品がようやく日の目を見たような気がして、我がことのように嬉しく感じました。
natalie.mu
実際には「ようやく日の目を見た」などということはありません。この作品はとてもたくさんの人に愛されている作品です。
完結済みの名作に対して500字ぽっちしか言葉を割かないという失態を犯し、リベンジの口実を求めてずっとウズウズしていた私は、星雲賞の受賞を知って「もう一度、少女終末旅行についてブログに書くチャンスだ」と考えました。
もしかしたら「このマンガがすごい!」の中の人たちも、リベンジしたくてウズウズしているのかもしれません。
そういうわけで今現在、私はこの文章を書いていて、そういうわけでこの文章は字数制限も推敲もほとんどなく、ネタバレも自己陶酔も垂れ流しに思っていたことを全て詰め込もうと思って書いています。ちなみに字数カウンターが言うには、ここまででスペース込みで本文1,625字ほど書いたようです。
この作品は2014年2月から2018年1月にかけて、新潮社のWEBコミックサイト「くらげバンチ」に掲載されました。なんなんその名前。単行本で全6巻、またそのおよそ半分までが、2017年10月から12月にかけてTVアニメ放映されました。作者・つくみず先生にとっては初の商業出版作品でした。
つくみず先生はユニークな人となりをされていて、Twitterでの発言も独特のテイストな方です。例えば星雲賞を受賞した当日の全部で3つのツイートはこんな感じでした。
アニメ化され星雲賞も獲得した今となっては冗談みたいな話ですが、WEB連載だったにも関わらず、紙書籍版の販売不振による打ち切りを恐れたためか、1巻の電子書籍版の出版はだいぶ待たされた憶えがあります。2014年11月8日に紙書籍版が出版された1巻が、電子書籍で発刊されたのは約半年後でした。その間の私は、毎日Amazonのこの作品のページをチェックして、電子書籍版が発刊されていないか確認するのが日課でした。
人類が滅びた世界、いわゆるポストアポカリプスの世界を、半装軌車・ケッテンクラートで旅するチトとユーリという2人の女の子の話です。ケッテンクラートは旧ドイツ軍が使用した、バイクの後ろ半分がキャタピラと荷台になってる乗り物です。
チトは小柄で黒髪、しっかり者の性格でツッコミ役でケッテンクラートの操縦担当です。またユーリは大柄で金髪、適当な性格でボケ役でライフルによる射撃担当です。彼女たちは互いを「ちーちゃん」「ユー」と呼び合い、食べ物と水、燃料などを求めて、滅びた世界をあてどもなく旅します。
地表を覆う多層構造物の中を進む旅は、その大半が暗闇で、また風景に自然は見られず、目にするオブジェクトのほぼ全てが都市の廃墟です。
私は、暗鬱な背景、人工的で単調な風景、ごくわずかしかいない登場人物、作品に通底する無常観や文学性などの特徴を備えたこの漫画が、とても舞台演劇に相応しいと妄想します。漫画オタク的に喩えるなら、可能であれば「ガラスの仮面」の北島マヤと、「アクタージュ」の夜凪景の、ダブル主演で上演されるところを見てみたいものです。
彼女たちの水と食料を求める旅は、同時に世界が滅び人が絶えてしまったことを再確認する旅でもあります。旅の途上ですれ違った極々わずかな人間たち、地図を作る男や飛行機を飛ばす女とも別れ、また彼らのその後の消息は知る由がありません。
暗鬱とした旅ではありますが、彼女たちは食事以外にもしばしばわずかな楽しみに興じます。雨の音を楽しみ、排水管から漏れるお湯で入浴を堪能し、発見したビールを飲んで月光の下で酔ってダンスをします。
少し寂しくて、とても詩的な旅です。
彼女たちはまた旅の途中で、惑星に終末を告げる謎の生命体に遭遇し、他の人類が滅びてしまっていることを確定事項として告げられます。
余談ですが、アニメでこの生命体の声を演じたのが、「風の谷のナウシカ」で同じく滅びゆく世界を旅したナウシカ役を演じた島本須美さんだったのは、偶然ではないでしょう。あと花澤香菜さんの「ヌコ」、可愛かったですね。
物語の終盤、彼女たちの旅を支えたケッテンクラートはついに動かなくなります。しっかり者のチトが修理を諦めてケッテンクラートをバラバラにぶっ壊し、雪で満たした荷台を貴重な残り燃料で温めて、即席の露天風呂を作り上げると、それに浸かりながら声をあげて号泣します。
「絶望と仲良くなろう」と嘯いてきたユーリと違い、わずかな希望に向けて努力と手間を惜しまなかったチトの心が、ボッキリ折れた痛々しい瞬間でした。彼女たちの死期をチトとともに悟った私は暗鬱な気持ちになり、そう遠くない作品の完結に際して、せめて彼女たちのどちらか1人が先に逝ってしまって生き残った1人が世界を彷徨うようなことなく、最期まで2人で一緒に居られるように願いました。
最終回、理由もなく目指してきた、都市の多層構造の最上階のそのまた頂点に、絶望そのもののような真っ暗闇の螺旋階段を上って徒歩でたどり着いた2人は、食料も乗り物も何もない平坦な空間に積もった雪で雪合戦をして雪の上にぶっ倒れ、満点の星空の下で死期を悟って言葉を交わします。
「生きるのは最高だったよね…」
「………うん」
世界に取り残された可哀想な2人の日常ものを読んでいた気になっていた私は、自分がこれまで言ったことのない、これから先もおそらく口にすることのないこのセリフに非常にショックを受けました。嫉妬に似た気持ちもありました。また私に縁のないセリフを口にできるほど生き抜いたこの2人が、これから死ぬこと、そのことを受け入れていること、「本当に絶望と仲良くなっていること」に三重四重にショックを受けました。
WEB連載の最終回が掲載された日、私がWEBで読んだのはたまたま人間ドックで病院に一泊した帰り道の途中でしたが、検査してもらったばかりの心臓にチトとユーリの形をした穴が開いたような気分になり、その気分はずっと尾を引きました。
私は「One more time,One more chance」の歌詞を書いた山崎まさよしのような気持ちで、ことあるごとにチトとユーリのことと、自分がこの先の人生で「生きるのは最高だったよね…」「………うん」などと考えることがあるだろうか、という疑問を思い出して過ごしました。
連載が完結して2ヶ月経って、最終の6巻が発売された話をする増田がいたので、連載にはなかった数ページがラストに加筆された6巻を読んだ私は、とても浅はかなブコメをしました。
b.hatena.ne.jp
私が「内容に全く影響しない追加」としたラストの数ページについて、 id:jou2 さんはこんなブコメをしました。
b.hatena.ne.jp
そいつはまったくもって、とても素敵な解釈だと私は思いました。
(参考・WEB連載 最終話跡地)
b.hatena.ne.jp
(参考・コミック感想増田)
anond.hatelabo.jp
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(参考・アニメ感想増田)
anond.hatelabo.jp
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(参考)
natalie.mu