

早瀬貴一郎(25)は若くして日本有数の企業グループを束ねる財閥の次期当主として辣腕を振るい、政財界でも一目置かれるリーダーだったが、
生活面では病的にドジで生活能力のないポンコツ人間だった。
そんな彼を支えるのは専属メイドの岸さん。
岸さんはとても有能だったが「っス」口調でクールで無表情で無口で無愛想だった。
岸さん無しでは生きていけない貴一郎はあの手この手で岸さんの歓心を買おうとするが、岸さんはあくまでビジネスライクでクールなのだった…
という坊ちゃん&メイドさんの日常ラブコメ。

「メイドの岸さん」5巻より(柏木香乃/講談社)
次巻で完結とのこと。
チャーハンは誰が作ってもどこで食べても似たような味ではありますが、では美味いチャーハンや不味いチャーハンが存在しないかというとそんなことはなく、作る人や材料によってやはり美味い不味いは存在します。
チャーハンの味に自信がなかったり、「飽きられるんじゃないか」とか思うと、エビチャーハンあたりを追加で投入してバリエーションをつけるのが定番なんですが、グレードアップ感はあるもののそこはやはりオペレーションというか、料理人の腕ってもんがあるので、エビチャーハンもすべてが美味しいわけではなく、結局作る人や材料によって差がついてしまう、というのはあんま変わらなかったりします。
急に何の話だ、って話なんですけど、チャーハンを「ラブコメ」、エビチャーハンを「青春群像劇」だと思ってください。
今のはたとえ話が本質を失わせる例です。

「メイドの岸さん」5巻より(柏木香乃/講談社)
ラブコメとして始まった漫画が、主役二人の恋愛だけではネタが続かないので、脇役キャラを増やして主役二人の恋愛をコアにしつつも青春群像劇に仕立て上げる、というのは今に始まったことではないんですが、最近はTwitterの1コマ〜4コマや読み切り、あるいはコンセプトイラストがバズって商業化される例が増えて、そうした作品が青春群像劇化する例が顕著に増えているように思います。
青春群像劇化したラブコメの商業的な成功例としてはセールスやメディア化の実績からいくと昨今では「かぐや様は告らせたい」なんかはそうだと思うんですが、そうした「青春群像劇化」の成功例がある反面、私の目から見て「1巻は面白かったのにネェ…」みたいなラブコメ漫画作品がとても増えたように思います。
具体的な作品名は出しませんが、
「この作者、本当にこれが描きたいんだろうか」
「このキャラ急に出てきてスポット当たってるけど、全然愛着ないんですけど…」
「恋愛未満を楽しみたかったのにグダグダの鬱漫画になってしまった…」
「別のテーマがやりたいなら別の作品でやってくんねえかな…」
と、エビアレルギーの客がチャーハン注文したら頼みもしないのにエビチャーハンが出てきたみたいな気持ちになります。普通にチャーハン食わせてくれよ…
幸い自分はエビにも青春群像劇にもアレルギーはないんですが、エビ入れれば自動的に美味くなるわけじゃなくて、そこはコンセプトの問題ではなく、料理人の腕、オペレーションの問題が横たわっているのは変わらないので、成功例のコンセプトだけをお手本に安易に青春群像劇化するのは考えものだなあ、と思います。
SNSのバズで始まった漫画は往々にしてワンイシューのアイデア、要するに出オチの一発ネタの漫画が多いので、連載開始前に編集と長期間にわたって激論を交わして生まれた作品と比べて、長期連載を支える作品としての背骨の強度が低いことが多く、ネタに困って青春群像劇化することが多いです。
出オチの一発ネタ漫画を否定ものではありませんし、商業漫画家になってしまった後の諸々の事情もお察しはしますが、無理に話を膨らまして長期連載化にもっていくよりも、描きたいことを描き切って描くことがなくなったら、ちゃんと畳んで次に向かった方が、却って作家としての評価を上げることもあるだろうにな、と思います。
途中で買わなくなったラブコメ、最近ホント多いんですよね。
延々と何の思い入れもない脇役の自分語りが続くラブコメを読むのは割りと苦痛です。

「メイドの岸さん」5巻より(柏木香乃/講談社)
この作品の成り立ち、作者のキャリアやSNSのバズがきっかけだったのかどうかとか存じ上げないんですけど、ポンコツお坊ちゃんと無愛想クーデレメイドのラブコメとして、チャーハンのまま畳むことを選んだようです。
どんな結末になるのかはまだわかりませんし、終わるのは少し寂しいですが、作品に飽きて退屈してしまう前に畳んでくれて、好きな主役二人を最後まで見届けることができそうで、とても嬉しく思っています。

「メイドの岸さん」5巻より(柏木香乃/講談社)
自分は貴一郎と岸さんの関係からカメラの焦点を外さないこのラブコメが大好きです。
文量のほとんどを他の作品群への愚痴に費やしてしまってすみません。
次巻最終巻、楽しみにしています。
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