大剣を携えた黒衣の剣士・ガッツを主人公にしたダークファンタジー。
ファンタジーRPGゲームで例えるなら、ドラクエ・FFなどが代表するJ-RPGではなく、完全に洋モノ。
猫と虎の赤ちゃんを見分ける上で、将来体躯がデカくなる虎の赤ちゃんの手足は既にぶっといので一目で見分けがつくように、最初っから一目で手足のぶっとさが理解できた作品。
デカいスケール、緻密な作画、恐ろしい展開、残酷な描写、「周りに誰もいないところを走っている」漫画の一つ。
2002年、第6回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞。
遅筆で休載が多いことでも知られながらも、「あの作画じゃしょうがねえ」と作画の精緻さによって遅筆が理解され許されてきた稀有な作品。
それと引き換えに冗談混じりに「完結前に作者か読者が死にそうな漫画」の話題の度にリストに名を連ねてきた作品ですが、ご存じのとおり作者の三浦建太郎が今年の5月に死去。
今月発売の新刊、今巻が遺稿、作者本人の筆による最後の巻になりました。
未完。
死んだ漫画家はたくさんいますが、作品連載中に死去した漫画の作品について、開設4年目になるこのブログで扱うのは、藤原ここあの「かつて魔法少女と悪は敵対していた。」以来、2作品目になります。
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ご家族・ご友人や漫画・出版関係者の皆さんと違って、「ベルセルク」という作品を挟んで「1対n」の関係でしかない、面識がなく存命中のお人柄を存じ上げない一読者でしかない身にしてみれば、訃報を聞いて最初に思ったことは不謹慎なことに「ベルセルクの続きがもう読めない」でした。
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自分が「ベルセルク」の完結を見届けられるかどうかは五分五分ぐらいかなあ、と思っていたんですが、天秤がこんなに早く傾くとは思っていませんでした。
享年54歳とのことです。
今巻ですが、作者の逝去後も編集とアシスタント陣の執念で仕上げて刊行されたとのことで、作画は過去巻に勝るとも劣らず精緻で見応えのある描写。
グリフィスの現在、キャスカの復活、黒い鎧の「前の持ち主」の最期、黒い髪の少年の意外な正体。
クオリティが高く展開も見どころがたくさんありつつも、長編作品の「途中から途中」の小康状態を描いた巻なので、他の巻との比較やバランスで考えても単巻で絶賛するほど面白い巻ではないです。もっと面白い巻は他にあったし、長いストーリー漫画にはこういうタメの巻もあって、それは必要です、という。
初見の正直な感想は「なんつー続きが気になるとこでお亡くなりに…」という。
読者が無念なら、作者本人が一番無念でしょうが。
どやって描いたのコレ? 手で描くの('A`)?
もとは文芸作品なのか映画なのか、「完結前の作品を良くも悪くも評するべからず」という風潮というか、考え方があります。
あるいは「作家は作品を最後まで書き上げてこそ一人前」とも。
未完の作品は、この後つまらなくなる可能性も面白くなる可能性もあってまだ確定していないので、評価を定めてはならない、という合理的な考え方だと思います。
ただ、単刊や上下巻などのパッケージで完結する文芸作品や、2〜3時間でエンディングを迎える映画にあって合理的な考え方が、完結までに数年〜十数年、下手したら数十年かかることもある漫画作品群に果たして当てはまるものなんだろうか、とずっと疑問に思っています。
自分も漫画作品が長大化・長期化の一途を辿るのは割りと否定的で、読み切りや短話完結形式で短く完成度が高い漫画作品や、手頃な巻数で完結する作品がもっと評価されて良いと常々思っている方なんですけど、
じゃあこの代表作たる未曾有の大作を未完のまま遺した三浦建太郎という作家が半人前のまま死んじまったか、というとそうは思えないんですよね。
未完に終わることがわかっていれば最初から「ベルセルク」を読まなかったか、というと、わかっててもやっぱ読んだよ。面白い漫画を読まないのは損だもん。
「漫画作品の評価はどうあるべきか」を考えるにあたって、「では未完に終わった『ベルセルク』をどう評価するのか」という視点は、ベンチマークの一つとして割りと重要な示唆を含んでいるように思います。
もう一つあらためて思ったのは「作家が作品を創って世に送り出し、読者がそれを受け取って読む」という、システムの脆弱性です。
当たり前のことなんですけど。
人一人死んじまったらもうそれだけでこれほどの大作、これほどの人気作の続きが読めなくなってしまうことを考えると、毎月アホほどウンザリするほど出てる漫画の新刊の一冊一冊は、実は奇跡のような綱渡りの産物だったんだなー、と。
もったいないから、がんばって長生きして漫画いっぱい読むわ。
掲載されていたヤングアニマルを毎号読んで連載を追っていた時期もありましたけど、休載が多かったのでやがてその習慣もなくなってしまった作品でした。
が、数年に一度出る単行本は欠かさず買って読んで「やべえ前巻の話もう憶えてねえ」とか思って読み返したりしながら、「一生こういう付き合いをしていくんだろう」と思っていた作品の一つでした。
「安らかに眠ってください」と言うべきところではありますけど、あの世で続きを、できれば自分が死ぬまでに30巻分ぐらい書き溜めておいて欲しいなあ、と思います。
あなた漫画描く人、わたし漫画読む人、もう業というか、作品自体もこんな業の深い漫画だしね。しょうがない。
「死んだらあの世でベルセルクの続きが読める」と思って、楽しみにしています。
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