

漫画家・冨樫義博が他の漫画家と一線を画している要素の一つに、卓越した言語センスがあって、

「幽★遊★白書」18巻より(冨樫義博/集英社)
そのセンスはわずか一コマ、たった二つの吹き出しで、他人の真剣勝負を応援する、もしくは娯楽として消費することの愉悦の本質をこれ以上なく喝破せしめています。
またこの一連の流れがかっこいいんだわ。幽白で一番好きな名エピソードかもしれん。
現役時代を不完全燃焼で終えた新米コーチ・明浦路 司(あけうらじ つかさ)(26歳♂)が、高い身体能力を持ち競技への情熱を燃やす小学5年生の少女・結束(ゆいづか) いのりと出会う、フィギュアスケートもの。
基本シリアス進行ながらこまめにコメディで空気を抜いてくれて、エモくて泣けるのと同時に読んでて楽しく、読みやすい。

「メダリスト」5巻(つるまいかだ/講談社)
前巻で6級、ノービスへの挑戦権を得たいのりは、全日本への道、ノービスA予選中部ブロック大会に出場。
幼いながらも、彼女たちは将来のオリンピック出場を嘱望されるエリート揃い。
いのりと司の最大の挑戦が始まる!
というところ。
初心者を脱してレベルの高い本格的な「試合巻」に入りますが、

「メダリスト」5巻(つるまいかだ/講談社)
観客席に良い解説役と聞き役が置かれて、馴染みの薄いフィギュアスケートの戦い、仕組み、見どころ、魅力が非常にわかりやすく解説されています。
作品への関わり方がイマイチ謎だった加護親子、なるほどこういう役回りなのね、という。
主人公ヒロインのいのりが後半の出走だったことや大本命ライバルの狼嵜光が欠場ということもあり、大会前半の今巻は初登場のノービスのライバルたちによる得点争い、「主人公たちが出る前の大会」の普通の様子、主人公登場前の大会ドキュメンタリーのように描かれます。

「メダリスト」5巻(つるまいかだ/講談社)
前述のとおり、ノービスに出場する彼女たちは全員エリートですが、オリンピックの機会でぐらいしかフィギュアスケート競技を見ることのない自分が目にする(世界最高峰の)選手たちと比べるとそのヒエラルキーは遥かに下で、また漫画的にも言ったら「やられ役のMOB」で、主人公ヒロインの前座です。
が、その描写の濃いことと言ったら。
その本質は「賭け」である、と語られる競技において、賭けに勝って本懐を遂げるもの、負けて後悔を残すもの。
幼いながらもそれまでの短い人生のほとんどすべてを賭けてきた彼女たちの、真剣勝負と、そのバックグラウンド。

「メダリスト」5巻(つるまいかだ/講談社)
まだ今巻「初めまして」の子しか滑ってないのに、わずかな出番で「がんばれ!がんばれ!!」って読んでいて泣きそうになってしまう。
世界の存亡がかかっていなくても、人の生命もかかっていなくても、それが初登場のMOBキャラたちによるものであっても、軀(むくろ)じゃなくても「真剣勝負は技量にかかわらずいいものだ」と讃えたくなる濃密な展開、描写。

「メダリスト」5巻(つるまいかだ/講談社)
正に「互いの道程が花火のように咲いて散る」ような、幼い修羅たちが棲まい火花を散らす、フィギュアスケートの世界の拡がりと奥行きを感じさせる傑作巻。
次巻では満を持していのり出走。
やー、期待しちゃうね。
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