父親の英才教育で一流のシーフに成長した少女・クレイは、3年前にダンジョンで消息を経った父親を追って日々ダンジョンに潜っていた。
冒険者ギルド登録パーティの最高到達記録が地下7階なのに対して、シーフギルド所属のクレイはソロで地下9階に到達。
かつてない強敵・ミノタウロスと対峙。ミノタウロスが投じクレイが躱した巨大な戦斧がダンジョンの壁を破壊した瞬間から、しかしクレイの世界は一変する。
ダンジョンの秘密を知る立場となったクレイの対応をミノタウロスから引き継いだダンジョン管理人の少女・ベルは、クレイに「ダンジョンのスタッフになりませんか?」と問いかけるのだった…
という変化球ファンタジーもののお仕事漫画。
特異な設定を転がして常識人の主人公がツッコむ、基本的にコメディ進行。
凄腕シーフ・クレイの、その雇い主となった実はダーク・シュナイダー級の魔導士でダンジョンマスターながらポンコツ生活力のベル。
レギュラーで登場する主要キャラも3人と少なく、舞台も一つのダンジョン内に基本的に閉じていて、決して壮大な世界観ではないですが、箱庭的というのか、作者の想像力がよく働いた設定で、うんちく読んでるだけでも楽しい。
さて今巻。
領地内のダンジョンの存在と独立を黙認させる代わりに、王国の国王と交わした古の契約。それは国王の代替わりの際、ダンジョンの独立運営権(の剥奪・返上)を賭けた国王軍選りすぐりの精鋭による挑戦を、ダンジョンマスターであるベルが受けることだった。
その他、ダンジョン豆知識日常回の他、「仲間殺し」探検者パーティの粛清など。
戦闘描写・展開が比較的多い巻ですが、「バトル」というほど危なげもなく、「あしらった」「処刑した」という展開。
可愛らしいヒロインのベルですが、彼女が人間を殺害するシーンが作中で描かれたのは初めてかな?
日常的にモンスターや精霊と交わるベルからしたら、人間社会の倫理観よりも「在るべきダンジョン」の管理上の都合が優先されるというか、「特に人間だけを特別扱いする理由がない」というか。
「魔王」というよりは、超越し、触る者を裁き、褒美や罰を与える「神」に近いイメージ。
作品自体、下界を見下ろしていた孤独な神が人間の友を得た話、という作品なのかもしれないですね。
ストーリーの縦軸がハッキリ定まっている作品ではないですが、
・クレイのダンジョン攻略
・クレイの父「風切り」の行方
・ベルとその先代は何者なのか
・先代はどこに行ったのか、ベルはどこに行くのか
・最終回の後、ダンジョンはどうなるのか
あたりが、伏線というか、気になる要素となっています。
作風からしてすべてを懇切丁寧に描くこともなさそうだし、この作品はそれで良い気もします。
メタを除いた意味で
・そもそも何のためにダンジョンを創り運営しているのか
という最大の疑問に対して仄見えている答えは今のところ非常に趣味的で必然性がないですが、「神様は何のために世界を創ったか」に通じるところもあって、更に答えが難しそうです。
「神がそうしたかったからだ」
以上の答えに、意味が見出せるのかな。
というようなことを考えさせられる作品です。今巻も面白かった。
aqm.hatenablog.jp