男子高校生・矢口八虎は、金髪ピアスで夜遊びしたりタバコ吸ったりしつつも、将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、コミュ力もばっちりというリア充DQNエリートな万能人間だったが、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。
しかし、ひょんなことから立ち寄った美術室での描きかけの一枚の油絵との出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…
という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。見事に現役で東京藝大の油画科に合格、晴れて藝大生に。
漫画の中の一大ジャンル「美大もの」の王様『ブルーピリオド』、12巻からの藝大2年生編。
美術と出会うと同時に受験対策を始めたので成長が目覚ましい反面、「藝大に受かった後なにをするの?」が空っぽで、かつ藝大の教授陣が傲慢で高圧的で観念的で抽象的という、鬱屈した1年生編が終わり、2年生になった八虎は相変わらず鬱屈していた。
実力主義の美大受験を経て正解のない芸術の世界に足を踏み込んで、与えられた「何を創っても良い自由」に主人公も読者も戸惑い続ける、インプットの時間が7巻以来ずっと続いていて、その中には主人公の血肉になる意味のあるインプットも、意味のないインプットもあって、「当事者には意味の有無がわからない」ことを描き続けている、という印象。
夏休み、同級生のモモちゃんの広島の実家のお寺で合宿。
八雲の口から語られる彼のここまでの道程、そして天才少女として期待されながら殺されたかつての同級生、真田まち子について。
もともと東京暮らしで、家庭が比較的裕福でもあった主人公の八虎のアンチテーゼとしての、地方出身かつ裕福でない八雲が藝大までに歩んできた過去。
求道的ながら自由、しかし権威と経済性が同時に付きまとう芸術の世界。その理不尽を貫いて八雲を奮起させた、隣の席の巨大な才能と執念。
そして更にその芸術の世界の外側で、何の必然性も脈絡もなく、巨大な可能性が奪われ喪われる更なる理不尽。
一言で言えば「芸術とカネ」と、「才能と人生の理不尽」。あ、二言になってもうた。
八雲の過去は八虎のアンチテーゼでありながら、対立することなく、その差異を「些事」として置きつつ、別の「何か」で繋がっていて。
「『作家になる』とはどういうことか」
を、一見まったく関係ないような過去エピソードを通じて、八虎と読者に考えさせるエピソード。
裕福な環境、そうでない環境、嬉しかったこと、悲しかったこと、失われた可能性、世界の理不尽、そのすべてを糧として飲み込んで、立ち止まらずに今日も研鑽を重ねて描き綴られていく作品たち。
良いですよね。
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