#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#逃げ上手の若君 13巻 評論(ネタバレ注意)

「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」の松井優征の現作は、鎌倉時代末期〜南北朝時代〜室町時代初期を舞台にした歴史物。

設定・登場人物は史実ベース。

デビューから3作連続10巻到達とアニメ化決定はどちらも「週刊少年ジャンプ」本誌史上、初めてになるとのことです。

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

鎌倉幕府のトップ・執権として世襲で地位を継いできた北条氏の嫡子の少年・北条時行。しかし、幕府と敵対する後醍醐天皇側に寝返った足利高氏(尊氏)により、鎌倉幕府は滅ぼされてしまう。

北条氏の滅亡により大切なものを全て奪われた時行は、信濃国の国守にして神官の諏訪家を頼りに落ち延び、足利への復讐を誓う。

という伝記もの。シリアスに史実を追いつつも、演出としてギャグコメディ色も強い作品。

主人公・時行の持ち味は強い生存本能に基づく逃げの天才。

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

1335年3月、信濃動乱を経て、時行が歴史にその名を轟かしWikipediaに載るレベルの「中先代の乱」。「為に作品が始まったエピソード」、時行の人生のハイライトの一つ。

信濃国での諏訪一党による挙兵、北条時行としての名乗りを経て、破竹の勢いで庇番衆を半壊させ、鎌倉の眼前で最後に迎え撃った足利直義をも蹴散らして鎌倉入り。

「歴史上もっとも過激な里帰り」は、しかし長くは続かず、尊氏本人が出陣した足利軍の攻勢により北条軍は敗色が濃く、幼い時行の後見人・プロデューサーとして乱を主導した諏訪頼重は、自らの首でケジメをつけて信濃の民を護り時行を逃がすため、死兵となる殿軍を買って出る。

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

鎌倉滅亡以来、時行の身を引き受け導き育てた「二人目の父」、諏訪頼重との別れの時が迫る…

ということで、時行たちの挙兵は今巻で敗北し平定されて軍は散り散り、時行と郎党たちは逃亡、重要人物として作品を引っ張ってきた諏訪頼重は退場。

巻の途中で時制も「そして2年後…」に飛び、史上における北条時行のハイライト・イベント、「中先代の乱」が完結。

頼重は名前のとおり頼りになる心優しい奴でしたが、最後までおちゃらける余裕を崩さない、良い意味で「非人間的」なキャラでした。

その最期にもっと「泣ける演出」をぶっ込むこともできたんだと思いますが、「神」を自称した頼重の矜持を作者がリスペクトして敢えて抑制的に描かれたような気もしますね。

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

この作品を非公式に「第一部」「第二部」などに分けるとしても、どこで区切るかは議論の余地が大きいとは思いますが、ともあれ「第X部」が終わりました。

楠木正成などの尊氏に匹敵した英雄も退場し、私の1巻からのお待ち兼ね、若干19歳の北畠顕家が台頭するなど世代交代も著しく、作者の気合いの入り方を見るに「3回目のプロローグ」が終了した、と言ってよいと思います。

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

週刊少年ジャンプにおいて「伝記もの」は結構「鬼門」というか打ち切られた作品で死屍累々なんですが、本作は戦国や幕末と比べて馴染みの薄い時代を史実にある程度準拠しつつ「伝記もの」「負け戦もの」の「実質プロローグ」として描いて、を打ち切られるどころか10巻到達・アニメ化までこぎつける、という離れ業をすでにやっています。

けど、作者的にはどうやら「少年漫画」としてはここからが本番のようです。『ドラゴンボール』も悟空がデカくなってからの方が長かったもんなw

『逃げ上手の若君』13巻より(松井優征/集英社)

モノローグの作者の「ここからなのだ」の連呼。

リミッターが外れる音、もしくはずっと身に付けていた重りが外されて落ちた「ズシン…!」という音を、聞こえてくるかのようですね。

 

aqm.hatenablog.jp