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あ、今日読んだ漫画

#だんドーン 4巻 評論(ネタバレ注意)

表紙は今巻の主役の一人、有村次左衛門。

作中の作者エッセイによると「三兄弟の微笑ましい姿にしたかった当初の意向」から、

「血とイケメンの組み合わせの方が数字が上がる」という、江戸時代の錦絵から変わらないクソ商法

により、こうなったそうです。いい表紙で、好きだけどねコレ。

モーニング誌で連載、TVアニメ化・TVドラマ化もされるなど好評のうちに第一部が完結した、

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『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』作者・泰三子の新作。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

幕末、黒船の来航によって徳川260年の治世の太平は破られ、幕府を頂点とした武士階級による国論は割れ、それは将軍位の継承問題にも及んだ。

後の徳川慶喜を推す一橋派の急先鋒、薩摩藩主の島津斉彬は、茫洋とし空気が読めないながら大器の片鱗を感じさせる藩士・西郷吉之助を西洋の英雄・ナポレオンになぞらえ、新時代の日本のリーダーとなってくれることを期待し重用。

動乱の時代の重要人物として徐々に頭角を表し、幕府や他藩からも警戒される存在となりつつあった西郷の、そのサポート役として白羽の矢が立ったのは、西郷と同じく賢君・斉彬公に心酔し、目端が効いて空気も読めて、悪いことも考えられちゃうツッコミ役の便利マン藩士・川路正之進。

後の明治政府下における初代の大警視(警視総監)、川路利良その人だった。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

動乱の時代、果たして川路は斉彬公の命のもと、西郷吉之助のサポート役として日本を近代化に導くことができるのか…

薩摩藩士から幕末を経て明治初期に維新政府の要職を務め、「近代警察の父」「日本警察の父」渾名され、その語録が未だ警察官のバイブルとして読み継がれる、史実の人物・川路利良の伝記フィクション。

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漫画好き向けにメジャー作品を使って説明しようとすれば、『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』で「斎藤一の上司の警視総監だった人」という説明がわかりやすいでしょう。

『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』7巻(和月伸宏/集英社)

小柄で封建的な役人然として描かれてはいるものの、元・新撰組の斎藤一を怒鳴りつけ、喧嘩番長の左之助と胸ぐらを掴み合うなど、レギュラーで武闘派の大男相手に怯む様子のない、気骨のあるおっさんとして描かれました。デコッパゲてw

史書に残っていない人物の性格や言動のディティールは、作家の癖・好み・エンタメサービス精神に基づいた想像で「面白おかしく」補完されるフィクション。

年表に準拠したシリアス・イベントの間を、『ハコヅメ』以来の軽妙なコミカルな会話劇のギャグコメディで埋めていく作風。

硬くなりがちな歴史フィクションを、キャラ中心に楽しく読める工夫がなされつつも、『ハコヅメ』で見せていた「社会や組織、人間の闇」は時代性もあってより濃くなっています。

自分は出身が鹿児島なのと、司馬遼太郎をひと通り履修済みなので、毎度お馴染み郷土の有名人たちが活躍するお話、楽しく読めてます。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

安政の大獄により改革派である「一橋派」は弾圧され、特に藩主までもが蟄居を命じられ、多くの藩士を失った水戸藩の過激派たちは、大老・井伊直弼の暗殺を計画。

同じ一橋派として水戸藩と連携しつつも、幕府の圧力を避けたい薩摩藩は陰ながらこれを支援。

安政7年3月3日、脱藩した元・水戸藩士たちの中には、水戸との縁の深さから一人だけ薩摩藩を脱藩し暗殺計画に加わった、有村三兄弟の三男、有村次左衛門の姿があった…

というわけで本作品の最初の山場、「桜田門外ノ変」編を、まるで一本の映画のような気合いと読み応えでじっくりと、後始末までがっつりと。

日本を揺るがす政変ながら、その中心にいた双方の中心人物たち、井伊直弼とタカ、有村次左衛門とマツの、細やかな男女の情愛と別れの描写を伴って描かれました。

傑作巻。素晴らしい。美しい。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

「多賀者」と「怪物・タカ」は作者の創作、フィクションですが、彦根藩や井伊直弼に仕えた実在の人物をモデルにしているそうです。

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モデルとなった人物は明治9年まで生き永らえ、

日本の政権に属した女性工作員としては、史上初めて名をとどめる存在である。 

とのことで、小説や映画、TVドラマの題材にもなっているそうです。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

井伊直弼が亡くなった以上、タカが今後登場する理由もないですが、作中一二を争う強力なキャラが見納めというのも、少し寂しいですね。

桜田門外ノ変が描かれた今巻、事ここに至っては「日本史に与えた影響」とか「どちらが正しかったのか」とか「暴力や殺人は」とか「若くして悲しむ人を遺すのは」とかの歴史性や政治性や倫理性を語るのはもはや野暮で、もうそれらを全部背負った上での個人の生き様と死に様の話だよなあ。

『だんドーン』4巻より(泰三子/講談社)

生々しく読み応えのある山場でした。

この作家のキャラが号泣しているシーンは、だいたいこっちも泣いちゃってるわ。

 

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