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#青武高校あおぞら弓道部 4巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

アメリカで弓道を覚えて帰国した主人公。適当に選んだ高校に弓道部がなく、日々イメトレに励む毎日だったが、見咎めた英語の美人教師が弓道場に連れて行くと狂ったように夕方から翌朝5時まで矢を打ち続けるアホだった。

で始まる弓道部漫画。屋上の弓道場で部員も増え、男女とも団体戦に出場できる規模に。

部のチームとしての体制が整って今巻は試合回ですが、駆け足で今巻で完結。

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「青武高校あおぞら弓道部」4巻より(嵐田佐和子/ KADOKAWA)

自己紹介しておくと、自分は中高と6年間(どちらも3年の夏で引退するので厳密には5年間)、弓道部で、二段でした。

弓道の漫画は地味すぎて難しいです。井上雄彦が「バスケは難しい」と反対されたのとはレベルが違う難しさです。

弓道は競技でスポーツで武道で、マイナーですが競技人口はそんなに少なくはないんですが、観客のためのエンタメではないからです。なので興行にはならず、プロもいません。

ついでに言うと、武道ですが、警察官の訓練に用いられる剣道や柔道と違い、格闘技や護身術としての実用性もありません。弓道の技術が弓道以外で役に立つことはありません。

弓道は「道」になった時点で「本人のため」に特化した、「中り」と「外れ」しかない地味な競技で、それ故に漫画に向きません。

それ故にこの漫画は「マイナージャンルはおまかせ!」のハルタです。


その割りに弓道はいろんな漫画に度々登場します。全部拾ってたらキリがないのでメジャーどころでいくと、古くは「星の瞳のシルエット」の久住くんと司くんが弓道少年でした。

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「星の瞳のシルエット」6巻より(柊あおい/フェアベル)

久住くんの心理と密接に紐づいた描写で250万乙女に支持されましたが、「競技漫画」「弓道漫画」ではなく、「恋愛漫画の主役級の男の子が弓道をやっていた」漫画でした。

近年だと「弓道で暗殺する美少女が主人公」という無茶な漫画があって面白かったんですが、打ち切りっぽく、続巻も出ません。

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最近のメジャーどころだと久住くんパターンで「かぐや様」のかぐやが弓道を嗜みます。

かぐやは弓道について

「中1の時にたまたま理想的な射が出来て 以来ずっと同じ動きをしてるだけ」、

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「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」12巻より(赤坂アカ/集英社)

と語ります。

かぐやは万事に天才な漫画のキャラなのでこともなげに語りますが、これは割りと弓道の極意で、 「青武高校あおぞら弓道部」は極意に辿り着かない者たちの漫画です。

 

弓道は多くの格闘技や球技と違い、敵プレイヤーが妨害してくることがありません。妨害要素は天候や風、気温・湿度の自然現象ぐらいでしょうか。

それ故に、技術を磨き身体・精神・道具を正しくコントロールすれば必ず中りますし、これを再現し続けることで必ず中り続けます。かぐやのように。優勝です。おめでとうございます。

ですが、現実にそれをできる人間は存在しないので、その不確実性が弓道を競技たらしめています。

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「青武高校あおぞら弓道部」4巻より(嵐田佐和子/ KADOKAWA)

タチの悪いことに、「技術を磨き身体・精神・道具を正しくコントロール」しなくても、矢はしばしば的に中ってしまいます。中ってしまうことで人間はそれを成功体験だと勘違いして、再現しようと繰り返してしまい、イップスに陥ってしまいます。

弓道やってる人間はその経験年数の多寡に関わらず、大抵なんらかのイップスを患っています。

 

弓道を禅のように捉えて、「中る中らないは問題ではない」とする綺麗事もあって、大会や昇級に全く関心がなかったり、高段者であれば、それはそれで一理あります。

が、大人数が参加する大会や低段者の昇級試験では、決められた時間内に優劣を見るために、足切り的にまず「中る中らない」を見ます。よっぽど変な射ち方をしない限り。射型の美しさを見られるのはその次です。

だいたい、「中る中らないは問題ではない」のなら、的なんか置く必要がありません。

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「青武高校あおぞら弓道部」4巻より(嵐田佐和子/ KADOKAWA)

この漫画の良いところは、この「中てたい欲望」を見ないふりをせずに、「中てたい自分」や「心技体+道具」と対峙し続けてそれを超克すること、それに終わりがないことをキチンと描いたところです。

私が思うに、それが弓道の本質だからです。

 

弓道の技術は弓道以外では何の役にも立ちませんが、「中てたい自分」や「心技体+道具」とうんざりするほど対峙し続けていく心構えは、人生でいろんな分野に対していく自分の、けっこう役に立ってるんじゃないかなと思います。知らんけど。

自分の身体、精神、技術、そして道具を、常にベストの成果が出せるように維持し続けることは本当に難しい。弓道はそれを端的に経験させてくれる競技です。

 

能書き垂れましたけど、弓道の一番いいところは、静寂の中、的に矢が中った時の「パァン!」って音が気持ちいいんですよね。

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「青武高校あおぞら弓道部」4巻より(嵐田佐和子/ KADOKAWA)

彼女が「空が青かったから」と語るように、弓道の良さを語る上では自分にとってはそれで十分な気もします。

余談ですけど、自分の高校も街中だったので校庭が狭くて、弓道場は校舎の屋上でした。競技も漫画も地味な上に練習できる場所も限られていて、さらに道具も高価です。

それでも、弓道はいいぞ。

 

青武高校あおぞら弓道部 4巻 (HARTA COMIX)

青武高校あおぞら弓道部 4巻 (HARTA COMIX)

 

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