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あ、今日読んだ漫画

#スターリングラードの凶賊 1巻 評論(ネタバレ注意)

自ら『大砲とスタンプ』などの戦記もの漫画作品を手がける他、そのミリタリーと旧ソ連に関する造詣の深さから『戦争は女の顔をしていない』などの監修も務める速水螺旋人の新作は、1942年、ドイツとの戦争真っ最中の旧ソ連・スターリングラードなどを舞台にしたアウトローもの。

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

本作作者に限らず、旧ソ連やロシアの歴史や文化への造詣が商売のネタになっている作家やジャーナリストにとって、昨年来のロシアによるウクライナ侵攻に伴って「世界の悪役」となったロシアに対する世論のバッシングは、その活動を萎縮させるものであったかと思います。

自分もロシアの即時無条件撤退を要求する立場で、例えば親ロシア・親プーチンで知られる政治家の鈴木宗男などとは政治思想で対立し批判する立場です。

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が、歴史的・文化的に旧ソ連やロシアに親和性が高い有名人が必ずしもプーチン支持とも限らず、ロシアネタを商売にしている人には不当に肩身の狭い思いをさせられて割りを食って気の毒だな、とも自分は思っていて、本作の作者もその一人。

その作者の新作は、「ソ連 vs ナチスドイツ」の巨大なシステム同士の戦争の狭間でその両方の体制に背を向けて逃れ敵対して生きるアウトローたちの話。

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

東洋人・トシヤはソ連の憲兵に囚われ、護送中に処刑されかけているところを二丁拳銃の美少年に救出される。

美少年・ルスランカは「十字路砦」の殺し屋を名乗り、「十字路砦」の住人たちはソ連憲兵に処刑されかけたトシヤを歓迎する。

トシヤはルスランカとコンビを組み、パルチザンとも梁山泊ともつかない、無法者組織「十字路砦」の殺し屋・エージェントとして、独ソ戦のどさくさ紛れに「仕事」をこなす日々を送る…

という、史上の戦争を舞台にしたハードボイルドもの。

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

相変わらず可愛らしい絵柄にそぐわない乾いた死生観。

現実的か、と言えば、現代の日本が舞台であれば現実的ではないながら、戦時下のスターリングラードが舞台となれば俄然説得力を持つ世界観。

ビジュアル的には美少年のルスランカがヒロイン枠を兼ねてる感じですかね。

狂言回しながら正体不明のトシヤは嘘つきの詐欺師ですけど、途中で詐称した「日本軍のスパイ」がどうも辻褄が合いそうな気配。

ソ連の憲兵に捕えられていたのもそうですし、その後の活動も当時の日本軍が望みそうな「ソ連内の情報収集と破壊工作」と合致します。

上手な嘘つきは嘘の中に事実・真実を混ぜるものですしね。

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

戦争ものは主人公が軍人や政治家である限り

「システムの一部」

「システムに取り込まれた個人」

ですが、

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

本作は「ソ連 vs ナチスドイツ」とシステム同士の戦争の外側に位置するアウトローたちが、生身の個人のまま戦争と対峙するお話。

そんな中、トシヤの正体と目的というのは、今後大きな意味を持ってきそう。

また作中、

「もう戦争から縁を切れるのに、戦争に戻っていく個人」

が描かれて、

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

なんだか久しぶりに傑作『僕らはみんな生きている』を思い出しました。

aqm.hatenablog.jp

会社の業績・案件のためにゲリラ戦に身を投じるサラリーマン。

『僕らはみんな生きている』4巻より(一色伸幸/山本直樹/小学館)

 

一緒に日本に逃げようとの誘いを断るヒロイン。

読んだ漫画は数あれど、自分史的にもっとも好きなラブシーン。

『僕らはみんな生きている』4巻より(一色伸幸/山本直樹/小学館)

「縁を切った戦争に戻っていく個人」

というテーマで言えば『エリア88』や、

aqm.hatenablog.jp

 

近年話題の『平和の国の島崎へ』

aqm.hatenablog.jp

なども思い出しますね。

多くのキャラクターたちが、戦争で傷つき、深く戦争を嫌悪しながらも、自らの意志で戦場に舞い戻っていく。

戦争と平和、システムと個人、人類社会と人間の宿業。

『スターリングラードの凶賊』1巻より(速水螺旋人/白泉社)

とても興味深いテーマで、続きが楽しみです。

 

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