#AQM

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#初×婚 1巻 評論(ネタバレ注意)

「ういこん」と読みます。

1巻からして既に「普通の少女漫画」の最終巻みてえな表紙だなw

 

「少女漫画誌でよくね?」みたいな恋愛漫画が少年誌レーベルで描かれる一方で、少女漫画レーベルで自分が読んでる漫画ってこういうので、

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上澄だけ掬って読んでるというか、まあ要するにあんま少女漫画読んでないんですけど、「むかし読んでた『りぼん』には今どういう恋愛漫画が載ってるんだろう?」とちょっと疑問に思ってたところに、ちょうど先日、年に一度の小学館漫画賞が発表されて、

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「児童向け部門」でこの『初×婚』が受賞していたので。

自分は数ある漫画賞の中でこの賞を、上位3つに入れるぐらいには信用しています。

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ちなみに今回の最終選考委員は、おのえりこ、川村元気、島本和彦、ブルボン小林、細野不二彦、松田奈緒子、松本大洋とのこと。

小学館漫画賞に選ばれる少女漫画ってのは、そもそも「児童向け部門」「少女向け部門」の年に2枠しかなく、うち「児童向け」は男児向けが1/2の確率で選ばれたり、たまに「該当なし」だったりするし、ましてや小学館以外の作品が選ばれるのも数年に一度レベルで、要するになかなかレアなことが起きたので、対象読者層から自分が大きく外れていることは承知の上で、とりあえず1巻を読んでみました。

1巻は2019年の刊です。2023年1月時点で既刊10巻。

 

高一の少女・倉下 初(くらげ うい)が入学したのは、世界有数のIT長者・七海夫妻が新しく設立した私立七海学園高等学校。

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

七海夫妻のIT企業・セブンオーシャン社が開発したマッチングAI「デステニー」により、新入生の男女は全員が入学時点であらかじめマッチングされ、しかも全寮制でマッチングされた男女が同室で暮らす、という狂った学校だった。

3年間の高校生活を通じてベストカップルを選定、選ばれたカップルは入籍し、IT長者である七海夫妻の後継者として大企業ブルーオーシャンの社長の座につき、すべての資産を相続する、そのためだけに設立されたという特殊な高校だった。

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

これ既にネットで書いてる人いっぱいいるでしょうけど、建て付けとして要するにデスゲームです。

罰としての死の代わりに、報酬としての地位と資産が用意されている、というだけで、ルールの上では「他人を蹴落として生き残るサバイバル」という意味で完全にデスゲームの換骨奪胎。

あるいは「セックスしないと出られない部屋」の亜種。

AIマッチング婚姻の社会実験的なSFという意味では『恋と嘘』に近い発想の作品。

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あっちは国にマイルドに強制されていたけど、こっちは一応、志願者たちが入学してる、という。

君たち大丈夫か? 親に売られてないよね?

現実に近い分、一見トンデモ設定に見えるんですけど、少年漫画・少女漫画のトンデモ設定ってのはマーマレード的なボーイな何かとか昔から一定数あって(『魁!男塾』ほどトンデモではないと思う)、ある種の極限状態からスタートするので恋愛的にテンパった展開に辿り着きやすいってのはあります。

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

デスゲームのメタな攻略法として、「みなさんに殺し合いをしてもらいます」と言ってるビートたけしを初手で全員がかりで殺す、というのが周知されてしまって、近年のデスゲームの主催者はモニター・スピーカー越しで話しかけてくる軟弱者ばかりになってしまいましたが、このルールだと初手で主催者殺すわけにもいかないというか、そもそも志望者の集まりなので、基本的にみんな15歳なのにマッチング目当てかつ金目当て、という、児童向け部門らしからぬ欲望丸出しの動機づけによる、児童向け部門らしいわかりやすい初期設定。

 

高一の男女を寮の同室でペアで生活させるということで、セックス祭りになりそうというかエロ漫画とかでよくありそうな設定ですけど、一応セックス禁止令的なシステムと、

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

ゴールデンカップルを目指すサバイバルレースのポイント上のペナルティがあって、抑止されている仕組みになってます。

実は

「年頃の男女を閉鎖空間に閉じ込める」

「でもセックスは禁止で〜す」

「セックス禁止令を破ると内申が下がったり退学になりま〜す」

ってのは、学校やクラスというもう少し大きい学校教育の箱で現実で行われてきていることで、よりシンボリックに箱を更に小さくしただけっちゃだけなんですよね。

ただ狭い空間で対峙する相手がクラスメイトたちじゃなくて、男と女が1体1で対峙しなくちゃいけない檻である「擬似夫婦」「擬似家族」と、より狭い人間関係に限定されてます。

 

空間からクラスメイトが排除されたことによってスクールカーストからは自由になったのか、というとそんなことはなく、彼女ら彼らの男女ペアの学校生活はブルーオーシャン社の社員によって常に撮影(盗撮)されており、

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

その様子が専用SNSにアップされ、ブルーオーシャン社の社員たちに「いいね!」をされ、その「いいね!」数がベストカップ選定にポイントとして加算されるという仕組み。

狭い檻の外に「SNS映え」を通じてバズり合戦の新たなスクールカーストと、カップル同士が相互に物語として消費しあう恋愛リアリティショー要素が存在しています。

急いでタワマンに住んでタピオカなどを飲め。

あとこの舞台、新設校なんで1年生しかおらず、いわゆる人間関係における「縦の関係」が存在しないんですね。

「お前ら生意気だ」っつってシメてくる先輩がいない代わりに、師匠とか手本とか主人公たちを導く存在だとか、「アルファ」「憧れの存在」みたいなロールモデルが強いて言えば理事長(学長?校長?)の七海夫妻ぐらいしか存在してない上に、七海夫妻は今んとこなんの参考にもなんねえっていうw

サバイブする方法論が確立してない上に「継がれる想い」みたいな要素も薄くて、テクニック面でも思想面でも自分たちで手探りでやっていくしかないっていう、その辺も学園ものというよりデスゲームっぽいです。

 

金目当てのリアリストのクールな美少年・紺くんと同室パートナーになったヒロインの初(うい)は、ラブラブだった両親を2年前に亡くしています。

天涯孤独となった少女が「喪われた家族を再び手に入れる」という、チャラい世界観の割りに重たくてピュアな動機づけ。

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

「喪われた家族(共同体)を代わりのもので再構築したい」という動機は、漫画やアニメで言えば『鉄腕アトム』の誕生エピソードの頃から『エヴァンゲリオン』の碇ゲンドウやシンジくんまで、誰もが多かれ少なかれ持ってる強力な欲求で、伝統的で普遍的な欲求を持つ少女が、いかに個人主義と「SNSの緩い繋がり」の現代の地雷原を歩いていくのか、というお話。炎上とかするんですかねコレ。

紺くんが金目当てのクールなリアリストな理由は1巻では描写されなかったですけど、そのうち描写されるんだろうという感じですけど、初と紺くんが擬似的な「仮面夫婦」の関係からスタートするというのも、現代的というか二重の意味で「家族の再生」に向かう設定ですよね。

 

デスゲームの勝利条件というのは当初は「サバイブすること」なんですけど、もはや古典の『バトル・ロワイアル』原作小説の続編のように、最終的・究極的には

「デスゲームの枠組みから自由になること」

「デスゲームの枠組みをぶっ壊すこと」

に行き着かざるを得ないんじゃないかなと自分は思ってます。

この作品も初期設定は一見、倫理観が狂った問題作というか、いけ好かないディストピアすれすれのトンデモ設定なんですけど、その与えられた理不尽なルールやレール、枠を乗り越えて自分の意志で人生を選んでいく姿を読者に見せることが、少年漫画・少女漫画の主人公たちの役割の一つなのかな、と思います。

他人が作ったルールそのものを壊していく、『ハンター』のゴンがよくやるやつね。出口が2つしかない部屋で壁をぶち抜いて第3の出口を自分で作って脱出する的な。

 

1巻は正直、特殊な初期設定と主人公二人のキャラクターを消化するうちに尺が終わってしまったので、人気少女漫画に定番の個性豊かなキャラクターの群像劇要素とかまだ薄くて、主人公二人以外のネームドの重要キャラがほとんどいません。

「他社作品ながら小学館漫画賞受賞」に値するようなドラマはまだ起こっていないんですけど、面白くなりそうな種というか地雷をたくさん埋めて、フックとして役割を果たした1巻、という感じ。

一見突飛な設定なようでいて、「デスゲーム」「社会SF」「マッチング恋愛」「閉鎖的な人間関係」「SNSのバズり合戦とカースト」「恋愛リアリティーショー」「仮面夫婦」と、現実社会で若者を取り巻く現代的な要素の風刺的なメタファーが、地雷として割りと露骨にあちこちに埋め込まれた初期設定。いや、現実社会でデスゲームに巻き込まれる若者は滅多にいねえよ。

既刊10巻とか出てる現在の時点で受賞してるんで、本格的に面白くなるのは5巻過ぎぐらいなんですかね。

『初×婚』1巻より(黒崎みのり/集英社)

オーソドックスな少女恋愛漫画的には、可愛い系美少年ながら金目当てのクールなリアリストの紺くんが、初にデレるところを愛でる漫画なのかな、と思います。

仮面夫婦から始まる恋、というと少年漫画・少女漫画周辺で言えば、『ジョジョ』四部の吉良吉影が扮する川尻浩作とその妻・川尻しのぶの未満恋愛描写を、ちょっと思い出します。

 

なおこの記事は「いかにもこのあと面白くなりそうな期待作」みたいに書いてますけど、「小学館漫画賞受賞」という途中結果から逆算して先入観と偏見で書いたものなので、あんまり真に受けないでください。

そもそも既刊10巻のまだ1巻で読者としてだいぶ出遅れてる上に、正直1巻時点ではまだそこまで面白い漫画ではないです。

というわけで、続き読も。思ったのと全然違う漫画になってたら笑う。

 

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