左が特装版の表紙、右が通常版の表紙です。どっちにするか迷うねw
記憶喪失ながら、一年戦争のジオンの超エース、ジョニー・ライデンではないかと強く疑われる主人公レッド・ウェイラインを軸に、ザビ家の遺産技術を巡って各陣営が入り乱れる宇宙世紀ものスピンオフ。時系列的には「ZZ」と「逆シャア」の間。
正史キャラもちょいちょい登場、ヤザンがレギュラーキャラだったり、近巻では「シャアの反乱」に向け暗躍中のシャアが大暴れ。「Twilight AXIS」主役2人も準レギュラー出演。
ガンダム世界の設定の整合性や矛盾にうるさいサンライズからある程度お任せされてる感。
ファンサービスあざとーい! 嬉しいけどあざといけど、まんまと嬉しーい!
ザビ家の遺した大量破壊兵器を巡る、地球連邦内の兵器・戦史研究機関「FSS」(≒旧キマイラ隊)、ゴップ議長派、シャアのネオジオンの三つ巴の争い。
話の縦軸としては
・一年戦争終結直前にジオン公国軍エリート部隊「キマイラ隊」に何が起こったか
・記憶喪失の主人公レッド・ウェイラインはあのジョニー・ライデンなのか
の2つの謎が軸で、更に
・地球もコロニーも滅ぼすことが可能な「ザビ家の復讐装置」と呼ばれる大量殺戮兵器の争奪戦
が3つ目の軸。
「ザビ家の復讐装置」を積み旧ア・バオア・クー宙域を無人で自動航行する旧ジオン巨大艦「ミナレット」、を巡るこの作品の最終決戦エピソード。
巨大鑑「ミナレット」は、あらゆる陣営の人間の意思に拠らず、自動的に休眠状態から目覚めてトリガーである「何か」を見つけ、そして争奪戦を繰り広げる人間たちの意思をよそに、「ザビ家の復讐装置」を勝手に起動した…
今巻で完結。
「大山鳴動して鼠一匹」
という言葉がありますが、リアル13年26巻かけた物語ながら、この作品によってガンダム世界観・宇宙世紀世界観に何が起こったか。
ざっくり言うと、
「何も起こらなかった」
と言うことになろうかとは思います。
ガンダムのコミカライズ作品というのはざっくり分類するこんな感じですが、
①既存映像作品のリメイク
②既存映像作品のミッシングリンク(前日譚・舞台裏・後日譚)を埋めるスピンオフ
③メタ世界観(ギャグ、コメディ、パロディ作品など)
④新作世界観
特に①〜②はそれぞれ
A.原作(映像作品)設定に忠実・準拠
B.原作(映像作品)設定と矛盾・パラレル
というオプションが更に付きます。
例えば、ガンダム関連のコミカライズで最大のヒットだと思われる『ジ・オリジン』は、安彦解釈による『1st』の再構築で、あらすじは準拠しつつも細部は原作と多々矛盾している
「①-B」
(既存映像作品のリメイク、かつ原作(映像作品)設定とは矛盾・パラレル)
です。
この「①-B」パターン、結構多くて、北爪版『Z』ももちろんこれなんですけど、コミカライズでなく原作者である富野由悠季自身の映像作品ながら、『劇場版 Z』すらもこのパターンなのはご存知のとおり。
『Z』はコミカライズと劇場版を含めると5〜6回リメイクされていますが、
「なんか呪われてるのか」
ってぐらい、原作に準拠してもらえません。
まあ、原作を忠実になぞるだけなら、そもそもリメイクする意味が薄いですしね。
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それは置いておいて。
『ジョニー・ライデンの帰還』は先述の分類に沿うと
「②-A」
(既存映像作品のミッシングリンク(前日譚・舞台裏・後日譚)を埋めるスピンオフ、かつ原作(映像作品)設定に忠実・準拠)
です。
愛着のある原作キャラやマシンの未知の側面に触れられ、また正史との整合性から考察や予想を楽しめるカテゴリで、たぶん「原作作品」ではない「ガノタ向けファンアイテム」としては一番ファンに望まれているカテゴリ。
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かつその②-Aカテゴリの中で最もヒットして多くの人に読まれた作品だろうなと思います。
安彦良和も北爪宏幸も、そして富野由悠季も、『1st』『Z』の原作に深く関わった、という立場ゆえか、リメイクに際して宇宙世紀の歴史を自身の作家性によって改変する特権が認められましたが、『ジョニー・ライデンの帰還』はそれが認められませんでした。
「認められなかった」は語弊があるかもしれません。
こと②-Aカテゴリにおいて、人物とMSと背景をかっこよく描く画力・描写力、スピンオフのオリジナルキャラを魅力的に描くネーム力、有名キャラを登場・活躍させファンをニヤリとさせるセリフを言わせるファンサービス力、そして原作の世界観・設定を壊さない辻褄合わせ力において、本作作者の Ark Performance は群を抜いていて、読んでるこっちも
「Ark Performanceがいかに宇宙世紀の歴史と辻褄を合わせつつキャラとMSをカッコよく描くか」
を、むしろ楽しみに期待していたというか。
もしかしたらサンライズもKADOKAWAもそうだったのかもしれません。
「何も起こらなかった」
と書きましたけど、これだけ長い間いろんなキャラがいろいろ動いて戦う話を面白かっこよく描きながら、それでも「何も起こさない力」とでもいうか。
②-Aカテゴリは「正史」に障るようなことを「何も起こさない」ことがとても大事です。『逆シャア』前に勝手にシャア殺しちゃダメ絶対。
あと強いて言うなら、
「AとBの戦争の話が、やがて両者を陰で操って戦争させる黒幕・Cとの戦いになる」
のはガンダムに限らずここ数十年の戦記もののある種の定番展開で、80年代の『エリア88』もそうですし、
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端的だったのはゲーム『エース・コンバット5』の副題、
「THE UNSUNG WAR」(「謳われない戦い」「歴史の影に埋もれた戦争」)
ですね。
ja.wikipedia.org
表面上・表舞台・年表上は、何も起こらなかった。
でも歴史の影では重大な危機が訪れていた。
でも知られざる英雄たちの活躍によってそれは未然に防がれた。
そういう意味で「何も起こらなかった」作品で、とても面白かった。
そういう漫画でした。
お前この野郎ホントそんなことばっかり言ってるからナナイやアルレットに怒られるんだぞ。もっと言え。
ファンサービスという巨大なアクセサリーを取り除いて本作の物語だけにフォーカスすると、粗はあるというか、
完結に13年もかかる長大で冗長な展開とか、
各陣営の君たち復讐装置を押さえてその後どうするつもりだったの?とか、
終盤正直シャアが主役だよねとか、
あんだけ思わせぶりに引っ張っといて「普通にジョニーですけどなにか?」なオチワロタとか、
メインヒロイン影うすすぎね?とか、
最終的に取ってつけたような「子どもたちへ」というテーマ性とか、
サービスついでにアムロ出せとかブライト出せとかアルレットもっと出せとか、
まあいろいろあるんですけど、「ファンサービス力」と「戦いが終わった感」がそれらの欠点を覆い隠して、満足させられてしまった。
MSVの幻のようだったジョニー・ライデンと「エース部隊」にリアリティ(説得力)を伴った姿を与えて、更にそれをシャアにぶつける!
ジオン公国の赤い両エース、シャア・アズナブルとジョニー・ライデンの夢の対決!
どっちが強ぇのか、オラわくわくしてきたぞ!
ヤザンも出るよ、ゴップも出るよ、アルレットとダントンも出るよ、ミリィ・チルダーも出るよ!
(また、この辺の登場させる旧作キャラのチョイスが、なんとも渋くて良いですよねw)
というね。
本当にガンダム好きな人が描いてるなあ、っていう。
あと、「原作キャラを勝手に殺さない」のは②-A作品として当たり前なんですけど、ちょっと作品序盤とかもう記憶が薄れてますけど、あんなに人が死んだ一年戦争がウソみたいに、本作の主要なオリジナルキャラ、ほとんど死んでないんじゃないかなコレ。
戦記ものというか、シリアスなガンダムものとして割りと異例。
まだ観てないんですけど、『水星の魔女』もそうなんでしたっけか?
「過去の亡霊」を悪役に、最後はみんなで戦って主要キャラは誰も死なずに大団円。
作中、この後に起こる「シャアの反乱(『逆襲のシャア』)」にジョニー・ライデンが関与しなかった理由も注意深く配置されていて、抜かりなし。
13年間にわたって②-A型のガンダムスピンオフを、権利者であるサンライズとスポンサーであるバンダイナムコと多数のガノタに気を遣いながら描いて、
「もうガンダムは懲り懲りだ」
と思ってるところかもしれませんが、自分は
『光芒のア・バオア・クー』、
『ギレン暗殺計画』、
『ジョニー・ライデンの帰還』
と、原作の世界観や細かい設定やイメージを壊すことなく構築されてきた
「Ark Performance宇宙世紀史観」、
プロフェッショナルな仕事のファンなので、是非またガンダムのスピンオフを描いて欲しいなあ、と思います。
その後を知りたい好きなキャラがたくさんいます。
最後の月の話も、ニヤリとさせられるロマンがあって良いですよねw
誰が決めたことかは知りませんが、アムロの扱いは英断だったと思いますし、
「ヤザンがまた死に損なってる…」
というのがちょっとツボでしたw
大団円が、終盤ちょっと存在感が薄くなったヒロインに還っていくような、優しい締め方も好きでした。
諸説ありすぎてまさに「幻獣」のようになっていたジョニー・ライデン像の決定版は、自分にとっては間違いなくこの作品になりました。
13年間、大変楽しく面白く読みました。ありがとうございました、お疲れ様でした。
ところで、アニメ化とかはしねえのか。どうなのか。
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