#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#綺麗にしてもらえますか。 9巻 評論(ネタバレ注意)

熱海の商店街のはずれで小さいクリーニング屋さんを営むかわいい黒髪ポニテの働くお姉さん(金目さん)の日常もの。熱海が舞台なんで温泉入ってるシーン多め。日常ものながら、ヒロインが2年以上前の記憶を喪失してるミステリー要素も。

『綺麗にしてもらえますか 。』9巻より(はっとりみつる/スクウェア・エニックス)

記憶喪失をキーにドラマを作る、というのは〜80年代まではよく見られた印象で、逆に90年代ぐらい以降はギャグコメを除いてめっきり見なくなった印象なんですけど、この作品は近年では珍しく、1巻からヒロインが記憶喪失です。

ヒロインの失われた記憶がミステリ要素として話の縦軸になってんですけど、前巻ラスト、まさかのヒロイン2度目の記憶喪失に!

『綺麗にしてもらえますか 。』9巻より(はっとりみつる/スクウェア・エニックス)

既に記憶喪失なのに、更に記憶喪失に! 「追い鰹」「追いオリーブ」ならぬ「追い記憶喪失」ですよ!

そんな話、初めて読むわwww

ということで、どうなることかと思われた今巻。

『綺麗にしてもらえますか 。』9巻より(はっとりみつる/スクウェア・エニックス)

びっくり展開の割りに意外と、というか、今回はライトな記憶喪失(?)で済んで、再び日常回へ。「ライトな記憶喪失」とは…。

その後は、地元の観光協会が主催するお祭りイベントでの、クリーニング実演エピソード。

『綺麗にしてもらえますか 。』9巻より(はっとりみつる/スクウェア・エニックス)

相変わらずチャーミングなお姉さんの日常ものですが、明るい性格ながら決して陽キャなわけでもパリピなわけでもない金目さんの、お祭りイベントでのクリーニング実演、見ててちょっとハラハラしますねw

あと観光協会のデキるクールな実務家のお姉さん・奏田さんの意外なギャップが可愛い。今後の登場も楽しみ。

とか呑気に思ってたら、

『綺麗にしてもらえますか 。』9巻より(はっとりみつる/スクウェア・エニックス)

なんと次巻で完結だそうです。えええええええええ!!

シリアス・ミステリー要素というか、ヒロインの過去の記憶に纏わるエピソードは小出しにゆったりやってきているので、終わんのとかまだ当分先かと思ってたんですけどwww

大丈夫かよコレwww伏線回収とかよwww

10巻と言わず20巻30巻ぐらい読みてえだよwww

 

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#幼女戦記 26巻 評論(ネタバレ注意)

サラリーマンがリストラ逆恨みで殺されて成仏の際に神に反抗した罰で、近代欧州っぽい異世界、WW1前のドイツそっくりな帝国の魔導師の素質持ちの女児に転生。

戦勝と栄達と安穏な後方勤務を夢見つつ、少佐の階級、エース・オブ・エース「白銀」「ラインの悪魔」の二つ名、第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長として、戦場の空を支配する主人公ターニャ・デグレチャフ11歳。あれ12歳になったっけ?

『幼女戦記』26巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

「砂漠の狐」をモチーフにした南方(擬アフリカ)大陸編が決着、帝都ベルン(擬ベルリン)に凱旋するターニャたちを待っていたのは恩給と休暇ではなく、部下の昇進と新たな作戦だった。

その作戦とは帝国(擬ドイツ)東方に国境を接するルーシー連邦(擬ソビエト連邦)に対する偵察侵入。ターニャたちがルーシー連邦へ侵入を果たしたまさにその時、ルーシー連邦は帝国に対する宣戦を布告した…

北のレガドニア、西のフランソワ、南の南方大陸ときて、お次は東のルーシー連邦。

『幼女戦記』26巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

言わずもがなにソビエト連邦をモデルにした国家で、ラノベ原作で当然図ったわけでもないのに、現実でウクライナとロシアの間で戦争が始まったタイミングで、コミカライズがこのエピソードに入っちゃうという。

今巻は主人公・ターニャ周りは割かれたページは少なめで、偵察先で開戦を迎えたターニャがルーシー連邦首都モスコーに対する電撃戦を立案、司令本部に許可を仰いだぐらい。

『幼女戦記』26巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

巻の2/3を占めるのは、もう一人の「神に選ばれし者」、メアリー・スーの覚醒エピソード。

「メアリー・スー」については固有名詞(『幼女戦記』の登場人物)であること以外に、創作上のキャラ造形に関する含意があるので、詳しくはこちらを参照されてください。

dic.nicovideo.jp

確か神々の連携ミスで偶然"恩寵"が三重にかかってしまってるんですよね、この子。

『幼女戦記』26巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

超常能力ではターニャをも上回るスペックのはずですが、戦争を相対化できずに遺族・復讐ポジションから軽々しく神の代理・正義を名乗るあたり、名前のとおり薄っぺらくて全然好きになれないキャラですね。

狂信者的というか、人間味がないというより名前のまんま「装置的」というか。

今巻はむしろ、そのメアリー・スーの引き立て役になった「吟遊詩人」のが印象的でした。

『幼女戦記』26巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

「白銀」に互するネームドのエースがちょっとずつ露出してきて厨二病的には嬉しい限りですけど、いかんせん引き立て役の食物連鎖の底辺〜中辺なのが悲しいところ。

魔導士の空中戦描写とか、度々『BASTARD!!』を彷彿とさせる描写があった作品ですけど、今巻はまた魔法の描写といい、「天使の羽」といい、いつにも増して『BASTARD!!』っぽくてかっこよかったなw

 

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#千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~ 評論(ネタバレ注意)

古代中国で千年生きた九尾の狐・廣天たち精怪(妖怪)と人との交わりをコミカルにシリアスにロマンチックに。ジャンルレス。

主人公・廣天の出生にまつわる悲喜劇のエピソード群が一旦完結しまして、平穏を取り戻した廣天たち。

「神異道術 場外乱闘編」を経て、今巻より新章。

『千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

晋の時代、市中の警備・防犯を務める役人・石良。四角四面で頭脳明晰で冷静沈着なリアリスト、クールな官僚タイプながら暗闇を極度に嫌う彼に下った新たな事例は、「お化けなんとかします課(仮)」の創設と運用だった。

予算不足の一人部署にコンビとして任用されたのは怪しげで美しい民間人だった。というか毎度お馴染みの化け狐・廣天だった。

『千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

というわけで、突如として古代中国を舞台にした「怪奇ミステリーファイル」みたいな展開にw

散々神妖がわちゃわちゃするエピソードやっといて今更「お化け」でも「怪奇ミステリー」でもねえだろwwwっていう。

『千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

今巻中で小事件のエピソードを軽妙・珍妙に3つ解決(?)する短編連作っぽい進行ですけど、「スタンド・アローン・エピソード」かと思われたエピソードが実は「コンプレックス・エピソード」だった、という手法をよく採る作品なので、胡乱げな目で読みましょう。

石良が暗闇を嫌うエピソードもオチがついてないしね。

『千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

木簡YouTuberやめろやw

古代を舞台に神妖入り乱れるファンタジーなので、ミステリーつってもトンデモ設定や後付けトリックで作者の匙加減でどうにでもできそうな話ですが、意外と原典縛りがかかっているのと、珍妙な展開・描写にとても美しい情緒を忍ばせることに長けている作家なので、続きも楽しみです。

『千年狐 八 ~干宝「捜神記」より~』より(張六郎/KADOKAWA)

というわけで、次巻に続く。

 

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#紛争でしたら八田まで 11巻 評論(ネタバレ注意)

表紙のメガネ美女、「地政学リスクコンサルタント」の八田百合がクライアントの依頼を受けて世界を股にかけて紛争を渡り歩き、地政学の知識と思考と調査能力と護身術で解決していく、美女!メガネ!インテリ!ハードボイルド!ワールドワイド!なかっけーお仕事もの。

ぼっちでメガネで日系で手ぶらのココ・へクマティアル、という感じ。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

下品な方の出羽守っぽいというか、ちょっと「ブラック・ラグーン」みたいな洋画吹き替えワールドな感じ。

差別や不和、対立に満ちた社会の縮図で苦悩する依頼主たちを、「たったひとつの冴えたやり方」で少しだけビターなハッピーエンド、イバラの道ながらも融和と協調と成長に導く、シビアな現実で始まりながらも人間の善性を信じた希望に満ちたあっ軽いラスト。

というスタイルで作劇はほぼ一貫してます。

今巻は、巻の2/3を割いてコロンビア編全6話を完全収録、次いでスイス編の冒頭第一話まで。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

巻末には作者の投稿時代の受賞作なのかな? 前後編の短編『定時退社でライフルシュート』を収録。

未婚の事務バイトの三十路女がエアライフルに出逢うお話。画風こそ初々しいですが、息を止めて時間を止める描写が読んでて気持ちいい良作。ちょっと『タッチ』主題歌を思い出したw

不安定な政情と地理的な要因から、コロンビアが麻薬産出においてビジネス面で「いかに恵まれているか」というか、「そうなってしまう要因」が、右派・左派両方の言い分を含めて語られます。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

アンデス山脈による物理的な分断、それによる政府の統治の及ばなさ、麻薬消費大国アメリカへの地理的な近接が、「麻薬生産しないと生きていけない」「怒りが政府に向かう」環境を作っている、と。

無責任に大局的なことを言えば、政府のガバナンスは通信技術の発達によってより緊密な連携が可能になっていくでしょうし、それでも難しければ強力な権限を持った自治領化してしまう、もっと言えば独立してしまうのはどうか、とかになるんでしょうけど。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

いずれにせよ、誰かが誰かを殺してしまった時点で高確率で「ポイント・オブ・ノー・リターン」になってしまう、という。

「人命が大切」という大原則に目を瞑っても、「正義の天誅」は数十年、下手したら数百年の泥沼化のトリガーを引いてしまって、感情を満足させる以外の効果がなく、賢いやり方ではないんですね…

相変わらず無駄のない、無駄のなさすぎる構成と展開。漫画で得た知識でイキるのはいかがなものかと思いますが、エンタメと「知るきっかけ」の両立という意味で大変優れたコンテンツです。

『紛争でしたら八田まで』11巻より(田素弘/講談社)

バーターで、主人公がデウス・エクス・マキナな装置であること、作劇がキレイすぎてややご都合主義的なのは、致命的な錯誤や恣意的な思想誘導がない限りは、目を瞑るべきかなと。物語の作りや発想が根本的に違うというか、違う定規が必要な作品なのかなと思います。

 

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#天国大魔境 8巻 評論(ネタバレ注意)

石黒正数のストーリーもの、ポストアポカリプス、AKIRAっぽくもあり、寄生獣っぽくもあり。シリアスでハードでミステリーでグロテスク。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

2本立てでストーリーが進展してて、

①学園パート
「学園」と呼ばれる高度に科学化され閉鎖された環境で、職員達に観察されながら「外」の知識を欠落しながら平穏に暮らす少年少女達の生活

②サバイバルパート
2024年11月の大崩壊、の15年後の世界で正体不明の「天国」を探して旅する少年マルとボディーガードの少女キルコのロードムービー

が今のところ交わらずに並行して進行。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

便宜上、「ミステリー・サスペンス」というカテゴリタグをこの作品にも付けているんですが、その筋の人と話をしたところ、厳密にはミステリーと呼べる漫画作品は数えるほどしかなく、多くの漫画はミステリーにはあたらないとのことで、この作品がどうなのかわかりませんが、便宜上ここでは「ミステリー風」としましょうか。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

回収されていない伏線は機能をまだ半分しか果たしていない、とでもいうか、自分からするとパズルのピースが揃っていない状態で推理を強制させられるようなイライラする展開が続いていたんですが、「学園パート」に大崩壊の一旦と思わしきイベントが起こり「ここから15年後がサバイバルパート」と言う前提でアタリをつけると、ようやくパズルの全体像、仮説めいたものが。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

サバイバルパートにおける「誰」もしくは「どれ」が学園パートの「誰」だったのか。

前巻からは、同じルックス(成長前/成長後)で②と①両方に登場するキャラも居て、断絶していた②と①が「シームレスに接続」され始めました。

やってることはずっと一緒なんですが、巻によってインプレッションの「当たりハズレ」が割りと大きい作品で、思うに「ミステリー風」のヒントを小出しにする上で、ヒントのパーツの大きさと、その見せ方・演出によって「当たりハズレ」というかエキサイティングかどうかが分かれるような気がしてきてます。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

フランスのあたりに落ちたんだな。

「イラチ」なもので、ハズレの巻を読んだ直後は「完結してからまとめて読もうかな」と思ったこともあったんですが、今巻は、当たりでした。

情報が開示され始め作品も終盤が近づいていますが、今後は完結までずっと当たりの予感もしますね。

『天国大魔境』8巻より(石黒正数/講談社)

この作品最大のカタルシスは2つの時代が交錯して繋がる瞬間で、その瞬間はもう間近。

峠を越えて平地にさえ入ったら、作者の積んでるエンジンの馬力がモノを言う…となるといいな。

 

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#バトゥーキ 14巻 評論(ネタバレ注意)

女子中学生・三條一里はブラジル・マフィアの現ボスの落とし胤だったが、本人はそのことを知らず、組織の末端構成員の夫婦に日本で育てられた。

組織構成員B・Jは組織の跡目争いに一里を参加させるべく、育ての両親を誘拐。

同じ頃、カポエイラ(カポエラ)と出会い夢中になった一里は、両親を人質にとったB・Jの脅迫と指示により、高校生となって以降もカポエイラの腕を磨き、B・Jが充てがう強者たちを相手に実戦を重ねていく。

『バトゥーキ』14巻より(迫稔雄/集英社)

半グレ組織「悪軍連合」vs一里組の全面対決の決着がつき、物語を引っ張ってきた悪役の黒幕が失脚して新展開。

一里が自らの意志で戦いたいと思った強者、次の対戦相手は人気動画配信者で総合格闘家の遊佐春麻。

ギャグコメ風味ながらいろいろあって(いろいろありすぎや)、遊佐の過去とかカポエイラの精神・歴史などなども語られつつ、目標を達成した一里組は、強者だったらカポエリスタ以外でも誰でも乱入アリのオープンホーダ"ニーニョ・ジ・バンバ(猛者の巣)"を開催し遊佐を誘う。

『バトゥーキ』14巻より(迫稔雄/集英社)

カポエイラの天下一武道会みたいというか、誰でも乱入OKのゲーセンの格ゲーみたいねw

カポエイラのマスター陣は3日間のオープンホーダの2日間で一里を鍛え3日目で遊佐と闘わせるつもりだったが、1日目の一里に疲労が溜まった頃に登場したのはなんと遊佐本人。

一里の回復を期し、カポエイラのマスタークラスたちが遊佐の前に立ち塞がる…

というわけで、一里の百人組手になるはずだったエピソードが、逆に遊佐の百人組手に。

『バトゥーキ』14巻より(迫稔雄/集英社)

格闘漫画は「勝った・負けた」「どう勝った・どう負けた」が重要で、ストーリー自体は「トーナメントが進んでいくだけ」など比較的シンプルな展開のものが多い(準決勝の番狂せで変化をつけたりする)んですが、BJの脅迫ノルマシリーズがいきなり消えてなくなったがごとく、この作品はまるでカポエイラのスタイルのように変幻自在で、先が読めません。複線で並行してマフィアパートも進行中。

『バトゥーキ』14巻より(迫稔雄/集英社)

カポエイラ他流派のマスタークラスと遊佐に連戦させることで、カポエイラの深奥と遊佐の強さ、両方を引き立てることに成功している展開。

こっち(読者)が見慣れないはずのカポエイラの重心移動と回転の連続性をこれだけ動かして見せるのは、読者への信頼か、作者自身の画力への信頼か。

次巻、一里vs遊佐のバトルが本格化!というところですが、ここで闘わせていいんだろうかw

『バトゥーキ』14巻より(迫稔雄/集英社)

画力への信頼と反比例するように、いま見えてる展開に対して「もう騙されないぞ」と身構えてしまうw

 

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#化物語 19巻 評論(ネタバレ注意)

西尾維新の原作を大暮維人がコミカライズして週刊少年マガジンに掲載の鉄板漫画。キャラデザVOFAN準拠。こんなに美麗な絵でコミカライズされると原作冥利に尽きるでしょうね。ちなみに自分は原作とアニメを消化済み。

順番を入れ替えて、「こよみヴァンプ(傷物語)」の後に「つばさキャット(化物語5章)」。

『化物語』19巻より(西尾維新/大暮維人/講談社)

今回、コミカライズの「つばさキャット」ですが、原作小説やアニメ版ではサラッと触れただけの「つばさファミリー」の回想をガッツリやりまして、実質的に「つばさファミリー+つばさキャット(つばさキャットに回想シーンとしてつばさファミリーを完全に内包)」という形に再構成され、更に虎が出てきて武者も出てきて、アレとソレも「つばさキャット」の中で決着つけそうな勢い。

『化物語』19巻より(西尾維新/大暮維人/講談社)

原作の先のエピソードを先食いして再構成しているのでやや複雑ですが、すでに原作・アニメを消化してる組にはちょうどいい塩梅に先の展開が読めない「何物語なんだ」という、「君の知らない物語」になってていい感じです。

「つばさキャット」のクライマックス、というところからスタートで、原作準拠の展開なら「今巻で完結」というところですがそうはいきません。

『化物語』19巻より(西尾維新/大暮維人/講談社)

『Call of Duty』のゴーストさんですよね?

原作の先々のエピソードに大胆にショートカットして情報・展開を先食いしていることで、虎と怪異殺しの同時展開、更に「もう居ないはず」のキャラと「まだ居ないはず」のキャラが共存していることで、原作・アニメで見たことのないマッチアップも。

もう「スーパー化物語大戦」というか、忍野メメと初代怪異殺しが陰陽の黒幕・キーマンとして同時に存在感を発揮し続けています。

『化物語』19巻より(西尾維新/大暮維人/講談社)

「つばさキャット」と「つばさタイガー」の同時進行で、羽川翼の描かれ方が身体的にも精神的にもしんどい場面が続きますが、突如開けた展望。

寿命ギャップに「よふかしのうた」式の解決方法ですけど、この展開って先々の原作準拠でしたっけ? もう憶えてないなあ。「上げて落とす」の前フリのようにも見えます。

近い将来、重要キャラが「フラれる」イベントがたぶん控えてるはずなんですけど、伝奇ホラーバトルな誌面ですけど、第一義的にはやっぱり青春ラブストーリーなんだなあ、という。

『化物語』19巻より(西尾維新/大暮維人/講談社)

 

忍いきなりよー喋るなw

予想のつかない展開で、美麗な絵と合わせて大変眼福ですが、「猫(白)」のラスト(特にアニメ版)がすごく好きだったので、その辺の改変はお手柔らかにお願いしたいなとw

 

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#ヴァンピアーズ 8巻 評論(ネタバレ注意)

14歳の少女・一花は祖母の葬式で出会った同じ年頃の金髪のとても美しい少女・アリアに一目で心を奪われる。

アリアは不思議な眼の力で周囲の人間の疑問を霧散させて屋敷に居着き、一花と共に探し物をし、また一花の首筋から血を吸った。

『ヴァンピアーズ』8巻より(アキリ/小学館)

アリアはようやく見つけた探し物、一振りの短剣を鞘から抜いて一花に差し出し、「わたしを殺してくれ。」と依頼する。

吸血鬼×百合というこの上なく耽美なテーマ。

『ヴァンピアーズ』8巻より(アキリ/小学館)

今巻は、「一花の吸血鬼志望」(『よふかしのうた』と一緒だな)にまつわり「一花の自由研究」に絡めることで、インタビューのテイで居候の吸血鬼たちの過去を振り返し整理して、わかりやすくなったところで、ラスボス襲来の巻き。

『ヴァンピアーズ』8巻より(アキリ/小学館)

「一花の身の振り方(吸血鬼に成るか成らないか、成れるか成れないか)」は物語のラストに直結する宿題なのでラスボスの登場とセットなのは必然で、宿題が提示された時点で、日常回を除けばこの作品もう「最終エピソードシリーズ」と「エピローグ」しかやることが残されてなかったんですね。

漫画の展開・作劇とその評価において「10巻」の「10」という数字にあまり意味はないんですが、キリがいいので求められがちではあります。

『ヴァンピアーズ』8巻より(アキリ/小学館)

アリアの自殺願望、アリアとアルカミールの過去、ラストバトルシリーズの行方、一花の身の振り方。

エピローグも含めて、10巻あたりで完結しそうな気もします。

さて、「死にたいアリア」と「アリアと永遠を生きたい一花」のすれ違いはまだ残されたままです。

極めて耽美なテーマを持つこの作品に最もふさわしいラストはどんなラストでしょうか。

『ヴァンピアーズ』8巻より(アキリ/小学館)

あれこれ空想が捗りますね。

 

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#カノジョも彼女 13巻 評論(ネタバレ注意)

幼馴染の咲に小学生以来ずっと片想いで何回フラれても告白し続けた直也。

高校入学を機についに咲にOKしてもらい付き合いだした矢先、直也はクラスメイトの超美少女・渚に告白される。彼女の可愛さと健気さに胸を打たれた直也は…

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「カノジョも彼女」1巻より(ヒロユキ/講談社)

というガチもんのハーレムラブコメ。

いや、ハーレムラブコメのガワを被ったメタ・ラブコメネタのバカギャグコメです。真面目なラブコメと間違って買わないように気を付けてください。

『それでも歩は寄せてくる』のピュアな青春ラブコメ展開の直後に読むと頭がおかしくなりそうな漫画だなw 同じマガジンコミックス同士の同日発売で、巻数もカブッてんですよねw

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作者は「アホガール」の人。

「借金が雪だるま式に増えていく」とは聞きますが、「彼女が雪だるま式に増えていく」とは聞いたことがない。正々堂々と二股かけて更に彼女候補が2人いて現在ヒロイン4人体制。

『カノジョも彼女』13巻より(ヒロユキ/講談社)

2人(もしくは4人)の彼女を幸せにできる力を周囲に示すため、テストで学年1位をとる宣言をした直也は、彼女ズ(なんだこの日本語)の献身的な協力もあり見事に有言実行を達成。

今巻は、直也の本気を見せられたファースト彼女(なんだこの日本語)咲ちゃんの大胆で意外な行動とその顛末。

『カノジョも彼女』13巻より(ヒロユキ/講談社)

次いで、直也の勉強をサポートしたご褒美(ご褒美とは…?)に彼女ズ(なんだこの日本語)全員と順番に個別デート編へ。

ラノベ風にタイトルをつけると

「クソッ、そんなつもりじゃなかったのに誰とデートしても気がついたら最終的にラブホに入っちまう!」編。

『カノジョも彼女』13巻より(ヒロユキ/講談社)

んなアホなw

『バクマン』で「シリアスな笑い」という概念が提示されたことをちょっと思い出します。

イカれててとてもシリアスとは言えない作品ですが、それぞれが置かれた異常な状況で彼と彼女らは近視眼的ながら全員とても真剣で一生懸命です。

『カノジョも彼女』13巻より(ヒロユキ/講談社)

全員が納得ずくで相互に優しく、高め合える四股関係というアホが考えたようなものが万が一実在するとしたら、他人には一体何が言えるのかという示唆も、ドタバタの陰に仄見えてますよね。

サードとフォースの彼女未満ズ(なんだこの日本語)も、頑張って正式彼女に昇格(?)して報われてほしい。

『カノジョも彼女』13巻より(ヒロユキ/講談社)

「納得ずくで相互に優しく、高め合える」…? 知らない子ですね…

アホなことでも必死に頑張っている若者を見ると応援したくなるのは、もしかしたら人間の脳のバグかもしれないなと、この漫画を読んでると思ったりします。

 

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#それでも歩は寄せてくる 13巻 評論(ネタバレ注意)

表紙がビキニの水着姿を横のアングルから描くという、ちょっとセクシーで肌色率も高い絵なので、これアドセンス大丈夫かな。ちょっと心配w

2人しかいない将棋部の、おさげデコ部長・八乙女うるし(高2♀)と、好き丸出しのくせに頑として認めない無表情部員・田中歩(高1♂)の、告白前の高校生男女が好き丸出しで部室で将棋指しながら甘酸っぱくイチャイチャしてる、可愛いは正義のショートラブコメ。

『それでも歩は寄せてくる』13巻より(山本崇一朗/講談社)

歩は一応、将棋でうるしに勝ったら告白しようと思ってるみたいです。

日常ラブコメですけど時間が流れる系で、うるしが3年生に、歩が2年生に。歩に中学時代以来の片想いをする新1年生の後輩ちゃんも入部。

仲間が増えた将棋部の夏、海辺のコテージで夏合宿、そして大会も終わり、夏休みの後半戦から2学期の途中まで。

『それでも歩は寄せてくる』13巻より(山本崇一朗/講談社)

うるしは高校3年生の夏ということで受験勉強で将棋部は引退…ではないですけど身を引き気味に。とはいえヒロインで出番が多いので、あんま読んでてそんな実感ないですけど。

夏祭り、プール、ついでに停電でエレベーターに閉じ込められた二人、などラブコメの夏の定番イベントですけど、奇を衒わずに可愛い女の子と直球のセリフで甘酸っぱく押していくスタイル。

マスターランクの絵力(えぢから)とシンプルで力強いセリフ力(せりふぢから)を活かした、王道の正攻法で真正面から描くラブコメとでもいうか。

『それでも歩は寄せてくる』13巻より(山本崇一朗/講談社)

歩とうるし、どちらもエピソードによって一人称で内心が描かれるので、読者からすると両片想いなのは丸見えなんですけど、今巻はうるし・凛ちゃん共にセリフもド直球。

両想いが成就するには、歩の「うるしに将棋で勝って告白」という自分との約束が唯一の障害になる、という珍しい展開。歩の棋力がアップしてるのは描写からして間違いないんですけど、ペース的にうるしの卒業までに追いつけるかな?というところ。

あんま先々の展開やシーンを予想するの、作家からしたら邪魔だろうなと思うのであんま書かないですけど、歩がうるしに勝つシチュエーション、あれこれ想像してしまいますね。

『それでも歩は寄せてくる』13巻より(山本崇一朗/講談社)

もうひとつの「ラブコメにおける障害」、三角関係の凛ちゃんなんですけど、ズルくなりたいけどズルくできない、いい子だなこの子。それだけに…という感じはします。

でもたとえ三角関係の恋に破れても、歩ともうるしとも良い友人関係が続きそう人間性というか、葛藤とその超克、報われないかもしれない恋にそれでも真剣に誠実に臨む態度、この作品でもっとも美しく内心が描写されているキャラのように思います。

恋愛・ラブコメもので失恋するであろうサブヒロインの描かれ方はいろんなパターンが有りますが、こういう、失恋を描くことから逃げなさそうなサブヒロインの描写は、自分はとても好きです。失恋だって、ちゃんと青春の大事な要素の一つだと思うんですよね。

『それでも歩は寄せてくる』13巻より(山本崇一朗/講談社)

まるで人生2周目の人みたいに正しいんだけど、正しいだけに、そういう泣けること言うなよ。

3年生のうるしの二学期なんで当たり前なんですけど、この作品の新エピソードが楽しめるのも「きっと今だけ」で、もうすぐそれが終わる予感がしてしまって、軽めのショートラブコメだったはずの作品なのに、まんまと今から既に少し寂しいですね。

 

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#ダンジョンの中のひと 3巻 評論(ネタバレ注意)

父親の英才教育で一流のシーフに成長した少女・クレイは、3年前にダンジョンで消息を経った父親を追って日々ダンジョンに潜っていた。

冒険者ギルド登録パーティの最高到達記録が地下7階なのに対して、シーフギルド所属のクレイはソロで地下9階に到達。

かつてない強敵・ミノタウロスと対峙。ミノタウロスが投じクレイが躱した巨大な戦斧がダンジョンの壁を破壊した瞬間から、しかしクレイの世界は一変する。

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『ダンジョンの中のひと』1巻より(双見酔/双葉社)

ダンジョンの秘密を知る立場となったクレイの対応をミノタウロスから引き継いだダンジョン管理人の少女・ベルは、クレイに「ダンジョンのスタッフになりませんか?」と問いかけるのだった…

という変化球ファンタジーもののお仕事漫画。

特異な設定を転がして常識人の主人公がツッコむ、基本的にコメディ進行。

凄腕シーフ・クレイの、その雇い主となった実はダーク・シュナイダー級の魔導士でダンジョンマスターながらポンコツ生活力のベル。

『ダンジョンの中のひと』3巻より(双見酔/双葉社)

レギュラーで登場する主要キャラも3人と少なく、舞台も一つのダンジョン内に基本的に閉じていて、決して壮大な世界観ではないですが、箱庭的というのか、作者の想像力がよく働いた設定で、うんちく読んでるだけでも楽しい。

さて今巻。

領地内のダンジョンの存在と独立を黙認させる代わりに、王国の国王と交わした古の契約。それは国王の代替わりの際、ダンジョンの独立運営権(の剥奪・返上)を賭けた国王軍選りすぐりの精鋭による挑戦を、ダンジョンマスターであるベルが受けることだった。

『ダンジョンの中のひと』3巻より(双見酔/双葉社)

その他、ダンジョン豆知識日常回の他、「仲間殺し」探検者パーティの粛清など。

戦闘描写・展開が比較的多い巻ですが、「バトル」というほど危なげもなく、「あしらった」「処刑した」という展開。

可愛らしいヒロインのベルですが、彼女が人間を殺害するシーンが作中で描かれたのは初めてかな?

日常的にモンスターや精霊と交わるベルからしたら、人間社会の倫理観よりも「在るべきダンジョン」の管理上の都合が優先されるというか、「特に人間だけを特別扱いする理由がない」というか。

『ダンジョンの中のひと』3巻より(双見酔/双葉社)

「魔王」というよりは、超越し、触る者を裁き、褒美や罰を与える「神」に近いイメージ。

作品自体、下界を見下ろしていた孤独な神が人間の友を得た話、という作品なのかもしれないですね。

ストーリーの縦軸がハッキリ定まっている作品ではないですが、

・クレイのダンジョン攻略

・クレイの父「風切り」の行方

・ベルとその先代は何者なのか

・先代はどこに行ったのか、ベルはどこに行くのか

・最終回の後、ダンジョンはどうなるのか

あたりが、伏線というか、気になる要素となっています。

『ダンジョンの中のひと』3巻より(双見酔/双葉社)

作風からしてすべてを懇切丁寧に描くこともなさそうだし、この作品はそれで良い気もします。

メタを除いた意味で

・そもそも何のためにダンジョンを創り運営しているのか

という最大の疑問に対して仄見えている答えは今のところ非常に趣味的で必然性がないですが、「神様は何のために世界を創ったか」に通じるところもあって、更に答えが難しそうです。

『ダンジョンの中のひと』3巻より(双見酔/双葉社)

「神がそうしたかったからだ」

以上の答えに、意味が見出せるのかな。

というようなことを考えさせられる作品です。今巻も面白かった。

 

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#ブルーピリオド 13巻 評論(ネタバレ注意)

このバブみ師匠に対する藝大教授陣(助手だけど)の評価というのは作中から見えるんですが、

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

「宗教」が公然とシンプルに悪口として使われててちょっと笑ってしまったw

藝大出身者である高校美術教師(副業)の佐伯先生、おそらく出身者である予備校教師の大葉先生、あと美術史に造詣の深い橋田の、バブみ師匠に対する評価を聞いてみたくありますね。

諸事情あって、既刊13巻を一冊ずつ読んで感想を記事にする余裕がないため、ある程度の区切りごとに記事にしたいなと思って、Wikipediaを薄目でカンニングしたところ、

2022年12月28日時点のWikipedia「ブルーピリオド」の項

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%89 より

 

とのことなので、「高2編」「高3編」「藝大1年生編」「藝大2年生編」単位で読んで記事にしようと思いまして、11巻まで読みました。

残りは既刊2冊、というところまで追いつき、その2冊がいずれも2022年発刊ということで、12巻からは一冊ずつ記事に。

今巻13巻でようやく最新刊に追いつきました。

 

「はてなブログ」は記事日付を遡って記事をアップできまして、「ブログをサボった日」を後から埋めることが可能です。

この記事の日付は11/15ですが、この漫画の発売日は11/22で、自分が読んで記事しているのは12/29と、だいぶ時空が歪んでます。

後付けで「毎日更新のふり」のために時空が歪んじゃいましたが、そういう時系列なのでフライング・ネタバレ・ブログではありません、くれぐれも、念のため。

 

男子高校生・矢口八虎は、金髪ピアスで夜遊びしたりタバコ吸ったりしつつも、将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、コミュ力もばっちりというリア充DQNエリートな万能人間だったが、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。

しかし、ひょんなことから立ち寄った美術室での描きかけの一枚の油絵との出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…

という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。見事に現役で東京藝大の油画科に合格、晴れて藝大生に。

というわけで、自分も好きな作品の多い、漫画の中の一大ジャンル「美大もの」の王様『ブルーピリオド』、前巻12巻から藝大2年生編。

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

美術と出会うと同時に受験対策を始めたので成長が目覚ましい反面、「藝大に受かった後なにをするの?」が空っぽで、かつ藝大の教授陣が傲慢で高圧的で観念的で抽象的という、鬱屈した1年生編が終わり、2年生になった八虎は相変わらず鬱屈していた。

そんな彼の前に、ヒッピー的な反権威美術グループ「ノーマークス」、その代表・不二桐緒が現れる。

自分、美術、藝大に対して疑問を感じ自問自答を繰り返していた八虎の心の隙間に、美術と歴史に対する博識とわかりやすい言語化能力、フェミニンで美しい容姿、天然気味でお茶目な性格、一見なんか土下座したらヤらせてくれそう(八虎じゃなくて私の主観です)な雰囲気を持つ不二が埋めるのだった…

というバブみ師匠編。今巻で一旦は決着。

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

ちなみにバブみ師匠は本質的に他人に興味がないサイコパスっぽい雰囲気で、実際はたぶん頼んでもヤらせてくれない感じです。

ちょっとなんかあの、美術界隈は知らないですけど、美術界をめぐる思想闘争に主人公が翻弄される話というか、犬飼教授vsバブみ師匠がたまたまそこに居た八虎を挟んで対峙する「スーパーサイコパス大戦」みたいな感じでしたね。

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

思想闘争といっても「権威と反権威」以外の思想の中身が描かれないので「権威vs反権威」のガワだけ対立してて、中身のない政治闘争というか権力闘争というかSNSの空中戦みたいというか、「藝大の先生は偉い、なぜなら藝大の先生だからである」という進次郎構文みたいなw 

「ずっとオタク論ばっか語ってる人はオタクじゃなくて『オタク評論家』じゃないのか問題」のように、「ずっと芸術論語ってるだけで作品を創らない人は『芸術家』じゃなくて『芸術評論家』じゃないのか」というか、学生が課題こなす以外、禅問答ばっかりで絵ぇ全然描かねえなこいつらw

一番初心者の八虎が一番モノ考えながらモノ創ってるように見える。そういうポジションなんで当たり前ですけど。

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

どこか薄っぺらいスーパーサイコパス大戦は一旦終了したものの、両陣営に対する作者の視線の棘や、コンテストの出来レース指摘など、美術界批判のエッセンスが端々に見えなくもないです。

美大もの漫画って、作者の美大時代・青春時代の懐古要素で美化されるというか、個人の青春・情熱・恋愛・モラトリアムの4点セットで美術界や教育機関としての問題が白く塗りつぶされている(ように見える)作品が多いんですけど。

『ブルーピリオド』13巻より(山口つばさ/講談社)

美術版『ブラックジャックによろしく』みたいになっていくんかしらん。

モーニングじゃなくてアフタヌーンなんで、そうはならんか。

全体的に、実力主義の美大受験を経て正解のない芸術の世界に足を踏み込んで、与えられた「何を創っても良い自由」に主人公も読者も戸惑い続けるインプットの時間が7巻以来ずっと続いていて、その中には主人公の血肉になる意味のあるインプットも、意味のないインプットもあって、「当事者には意味の有無がわからない」ことを描き続けている、という印象。

いま一文中に「続」って3回も書いてもうた。悪文だw

というわけで次巻に続く。

 

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#ブルーピリオド 12巻 評論(ネタバレ注意)

諸事情あって、既刊13巻を一冊ずつ読んで感想を記事にする余裕がないため、ある程度の区切りごとに記事にしたいなと思って、Wikipediaを薄目でカンニングしたところ、

2022年12月28日時点のWikipedia「ブルーピリオド」の項

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%89 より

とのことなので、「高2編」「高3編」「藝大1年生編」「藝大2年生編」単位で読んで記事にしようと思いまして、11巻まで読みました。

残りは既刊2冊、というところまで追いつき、その2冊がいずれも2022年発刊ということで、ここからは一冊ずつ記事に。

男子高校生・矢口八虎は、金髪ピアスで夜遊びしたりタバコ吸ったりしつつも、将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、コミュ力もばっちりというリア充DQNエリートな万能人間だったが、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。

しかし、ひょんなことから立ち寄った美術室での描きかけの一枚の油絵との出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。見事に現役で東京藝大の油絵科に合格、晴れて藝大生に。

というわけで、自分も好きな作品の多い、漫画の中の一大ジャンル「美大もの」の王様『ブルーピリオド』、今巻から藝大2年生編。

美術と出会うと同時に受験対策を始めたため、成長が目覚ましい反面「藝大に受かった後なにをするの?」が空っぽで、かつ藝大の教授陣が傲慢で高圧的で観念的で抽象的という、鬱屈した1年生編が終わり、2年生になった八虎は…

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

相変わらず鬱屈していた。

2年生に上がった油画科の担当教授は3人中2人が降りて、新たに担当となったのは副学長の犬飼教授だった。

主人公や読者から見て、高圧的で観念的で理不尽な指導を繰り返したように見えた教授の槻木と猫屋敷が、不都合なTweetを削除して逃亡するSNS上の大学教授のように作品のメインストリームから姿を消してしまいました。

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

理不尽さの裏の真意というか、なぜあんな態度をとったのか、なんかフォローが入ったり手のひら返しのageが入るかなと思ってたんですけど、逃げたと言うより作者と犬飼によって「隠されちゃった」「匿われちゃった」という感じ。

そして代わりに指導を担当する犬飼教授は、傲慢な槻木と猫屋敷の、むしろバージョンアップ版の権威主義者だった、というw

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

作者が「こう読んで欲しい」と計算したとおりに主人公に感情移入してシンクロして読む、「いいお客さん」というか、チョロい読者だなー自分、と思います。

藝大教授陣の権威主義的な態度にムカついて、彼らに疑問と怒りを感じる主人公に共感し、怒りをベースに反権威に傾倒しかけたところに、カルト宗教や麻薬のような救いの手、と作者の手のひらでコロコロ転がされてますw

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

反権威に傾倒し始めた読者心理から見てあまりにも「八虎の理想の師匠像」というか、言語化能力が高くて漫画映えする上に甘やかしてくれる「バブみ師匠」すぎて、「やっべー女出てきたなオイw」という。

極右と極左の抗争みたいというか、漫画のキャラとはいえなんでそう両極端なんだよお前らはよwww

漫画読者的にはフェミニンな美女師匠キャラとか大歓迎ですし、下世話でベタなこと言えば

「美大ものってこういう女とセックスして童貞捨てた後に女が死んで主人公が覚醒しそうなイメージ」

ですけど、読んでて「彼女のヤバいにおい」も「藝大教授陣への反感」と同じく作者の意図・作為を大いに感じ、そんな一筋縄ではいかないんでしょうね、この漫画。

勧善懲悪のバトルものじゃないんで、そもそもこのへんの「決着」が必要な作品とも思えませんし。

『ブルーピリオド』12巻より(山口つばさ/講談社)

青春情熱サクセスストーリーの「主人公の物語」というより、美術界隈の「権威・反権威闘争」などの派閥勢力争いのドキュメンタリーを映すカメラの役割に、鬱屈し続ける主人公がなりつつあるな、という。

まぁた気になるヒキで、次巻に続く。

 

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#ザ・ファブル The second contact 5巻 評論(ネタバレ注意)

幻の殺し屋組織「ファブル」の天才殺し屋と相棒の女が、ボスの命令でほとぼり冷ましに大阪のヤクザの世話になりながら長期休暇がてら一般人の兄妹、アキラとヨウコに偽装して暮らすコメディ成分多めのハードボイルドもの。

「ザ・ファブル The second contact」5巻より(南勝久/講談社)

伝説の殺し屋は不殺を貫いたまま事態を収拾し、街を去って第一部が完結、そして数ヶ月後ぐらいの続編。連載の完結時に予告されていた第二部の開始。

隣の大西市の紅白組との新たな抗争の火種が…という感じで、組織から放出されてフリーターになった主人公たち殺し屋組はまあダラダラと。

「ザ・ファブル The second contact」5巻より(南勝久/講談社)

大手の盃を受けた紅白組の組長が、いよいよ真黒組の縄張りを狙って策謀。チンピラ同士の喧嘩からスタートさせるも、早くも元・ファブル組が巻き込まれ…という展開。

エピソードのクライマックスに向けて状況を積み上げていくタイプの相変わらずの作話なので、徐々に情勢が不穏になっていき読み応えはありつつも未だ静かな進行ながら、アクションシーンが徐々に増えつつあります。久しぶりのガンアクションも。

「ザ・ファブル The second contact」5巻より(南勝久/講談社)

「ルーマーはファブルの別名、もしくは別働隊なだけなんじゃないか」

と思ってたんですけど、予想は盛大にはずれました。

元ファブル一行は最強無敵ながら基本的に巻き込まれてるだけで、ヤクザの抗争に積極的に関与したい立場でもないので、一連の事態を収めるのは海老原の仕事でしたが、

事情あって海老原が降りることになってしまい、真黒組の鷹一がキーマンに。

「ザ・ファブル The second contact」5巻より(南勝久/講談社)

もう一人の幹部、木志田がなんかやらかすフラグが立ってるようにも見えますね。

依頼主の松代が死ねばプロであるルーマーは撤退なんでしょうけど、そうなると漫画としてはモヤモヤするし、ルーマーボコって松代をアレする方がこの漫画「らしい」ですけど、誰がどんな仕事するやら。

アキラも自分の意志で関与を始めちゃったけど、「どこまでやらせる」か結構難しいキャラですよね。第一部で誰も殺さなかった上で、第二部でアキラが誰かを殺すほどのことは起こってない、起こらないでしょうし。

主人公側が不殺を貫く作品の場合、ラスボスの死因は大抵「事故」か「裏切り」なので、

「ザ・ファブル The second contact」5巻より(南勝久/講談社)

案外、松代は最終的にルーマーに殺されそうな気もしますね。

 

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FSS (NT2022年12月号 第18巻相当) 評論(ネタバレ注意)

ファイブスター物語、連続掲載継続中。

「第6話 時の詩女 アクト5-1 緋色の雫 Both3069」。

扉絵コミで15ページ。

  

他の号はこちらから。

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  • (余談)
  • (扉絵)
  • (本編)
  • (所感)
    • 扉絵
    • ダイ・グ
    • ブーレイ
    • 全世界の通信乗っ取り
      • オールスター
      • 戦争倫理(星団法違反)
      • 戦争倫理(利敵行為)
      • 利敵行為か情報収集か
      • 「今だけは味方!姉妹の絆 陰謀より強し!」
    • クリスティン・V
    • チャンダナ
    • フローレス
    • カイゼリン・スーツ
    • オデット
    • ミューズ
    • マドリガルとネロス
    • ミースと一緒にいる相手

以下、宣伝と余談のあとにネタバレ情報を含んで論評しますので閲覧ご注意。

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