
歩兵や騎兵が剣や槍で、弓兵が矢を撃って戦う、中世ぐらいの文明レベルの世界、「樹木歴」1294年。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
『AKIRA』っぽい絵だな、と思ったらこの人の名前も「アキラ」でちょっと笑ってしまったw
幼くして拾われた傭兵団でラッパ手(ラッパの音で指揮を伝達する、通信兵のようなもの)を務める少年・リュカは、殺し合いと略奪に明け暮れる傭兵団のクソみたいな暮らしにウンザリし、いつか楽師になることを夢見ていた。
いつものように敵軍と遭遇、一人の敵兵の怪物じみた戦闘能力によりリュカも重傷を負うが、最後の力を振り絞ってラッパで自軍に撤退指示を出し、頭から「枝」が生えていたリュカの超常能力が発動、リュカのラッパの音は光となって自軍を撤退成功に導く。
瀕死のところを敵軍の能力者たちに救われたリュカは、音楽を学ばせてもらうことと引き換えに、敵軍だった「教皇領」軍の能力者「枝憑き」として、戦うこととなった…
という、中世ファンタジー世界の戦争もの。
古代(現代の延長線上?)の超技術がアーカイブされた塔ごとに国家を形成し相争う世界観。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
「枝憑き」リュカの能力はアレですね、将棋・ボードゲーム・戦争シミュレーションゲームなどでプレイヤーが戦場を俯瞰して駒を動かして勝利するムーブを、盤の中でやる感じ。
ラッパの音がビームっぽい光で視覚化され兵団がそれに従うのも、ゲームっぽい表現。
その他の枝憑きたちの能力も、戦闘特化・走力特化・千里眼特化・重砲撃特化?など、ピンキリ・千差万別っぽく、リュカは歩兵・騎兵・弓兵と能力者である枝憑きを自分の能力で戦術指揮というか操る「棋士」に相当する能力者。
バトル描写としては「駒の能力×リュカの戦術指揮」が醍醐味に。
物語的には世界に9つある塔を巡る覇権争い、その中でさっさとラスボス級「枝憑き」を倒して戦争から足抜けして、音楽を学んで念願の楽師になりたいリュカ、という感じ。
「9つの塔」のシンプルな世界観に、能力バトルでは珍しい「戦術指揮に特化した能力持ち」の主人公、と、ジャンプらしく粗いところもありつつ、わかりやすくて拡張性も高そうな、「男の子心をくすぐる」出だし。
敵味方の能力者「枝憑き」たちの能力と人格の顔見世、能力バトルのルール説明、が巻数を進めるごとに少しずつ追加されていってます。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
自分は8巻でヤラれまして、
「ゾーイの行く末を、叶うなら幸福な行く末を見届けるまでは死ねない!」
状態です。
今巻で「奴隷の国編」が決着、そして世界観の謎が一気に明かされます。種明かし巻。
てか、こんなにいっぺんに明かす?w
SFとしてはそんなに奇特な設定とは思わないですけど、強いて言えば発想はむしろ原初的・古典的なSFっぽいですよね。
明かされた謎はなるべく直接は書かないので、コミックス買って読んでください。
引用するコマも「決定的なネタバレ情報」すぎないように気を使うわ〜。
とりあえず読んで気になったことを羅列しますけど、その過程でネタバレしちゃうのはごめんなさい。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
もとから綾波レイっぽい奴が包帯まいたらいよいよ綾波レイになるのやめろw
・後の覇権国家を目指すなら「中世前の西欧から」は、まあわかるけど、塔の競合がいなくて資源が豊かな地域で力を蓄えるのもアリだったかもしんないね
・「樹木歴」≒「西暦」ということは、各国が塔を送り込んだ先は西暦元年?
・キリストは誕生はしたはずだが、当然歴史が変わった上に「塔教」の存在もあり、キリスト教は生まれなかったっぽい?
・ユダヤ教と仏教は既に存在していたはずだが、塔を送り込んだ先が西欧に集中している分、本作の舞台にならない東欧、ロシア、アラブ、アジア、アフリカ、南北アメリカ大陸、オセアニアの様子はよくわからない
※とりあえず、2巻に登場した地図を時計回りに90度回転したものがこれです。

『戦奏教室』2巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

・「島国」エリン帝国は現在のイギリス、ただし未来のイギリス以外の国が塔を送り込んでおり、塔のオーナーは別の国
・「アキラ」「カヤノ」などの命名センスや「ミカド」などの語から、エリン帝国の塔のオーナーは未来の日本?
・花冠のメテオの射程を考えたら、エリン帝国はドイツとフランスの国境線あたりに陣取った方が良かったんじゃない?と一瞬思ったんですけど、時系列が逆ですね
イギリスに陣取ったエリン帝国に、後から花冠が(たぶん)生まれたわけで
・教皇領は現在のイタリア かつてのローマ帝国の首都で、現在もローマ法王(教皇)のいるバチカンがある
・ただし、教皇領の塔のオーナーが未来のイタリアであるかどうかは現時点ではよくわからない
・その他の塔を持つ国の対照はこんな感じ?
-ガリア:フランス、ベルギー、スイス、オランダ、ドイツのあたり
ja.wikipedia.org
-ゲルマニア:ドイツ
-ヒスパニア:スペイン
-パンノニア:オーストリア、クロアチア、ハンガリー、セルビア、スロベニア、スロバキア、ボスニア・ヘルツェゴビナのあたり
ja.wikipedia.org
-ダンメルク:デンマーク
-ノルマンディー:フランス
-スカンディナビア:スウェーデン or ノルウェー
・ただし、それぞれの塔国家のオーナーが元の国と同じであるとは限らないのは、エリン帝国や教皇領と同じ
・オーナー国家が2036年時点の地球の有力国家であろうことを考えると、西欧エリア外のアメリカ、中国、ロシアあたりは塔を送り込みそう
・2036年の国家群が少なくとも手に入れたであろう技術
-時間を遡行する技術
-人間から魂を分離して保存?したり物質に植え付けたりする?技術
-「塔」を創る技術
-「枝憑き」を誕生させる技術
・そもそも枝憑きの誕生原理もよくわからん
『FSS』の騎士と同じく、人間の母親から低確率で誕生?
(鏡面やウードの例から、枝憑きにも人間としての生殖能力はあるっぽい)
・塔にまつわる技術はなぜか、9カ国?が等しく手に入れたらしい?
・塔に蓄えられた技術と知識の割りには文明・技術の発展を「手加減」している感じはする
自分が塔の支配者だったら「石油」「電気」「通信」「自動車」「飛行機」「銃」あたりは歴史に先んじてさっさと実用化する
9つの塔の間で、技術発展の制約について何らかの協定があった?
それか、見えないところで既に実用化されている?
・9カ国はなぜ一斉に2036年前後から西暦元年に塔を送り込んだのか
より技術が発達した未来から「後出し」で送り込む方が有利では?
西暦元年より以前に送り込んだ方が有利では?
2036年はともかく、西暦元年に何か秘密が?
・塔下、アキラ、ミカドあたりは「なんかの物体に魂を植えた」人間なのか?
「塔の核の枝憑き」とは別の存在と思っていいのか?
・塔の力が隕石由来の物質?情報?であれば、花冠のメテオで飛来する隕石に都合のいい「何か」がくっついてれば、ルールの再変更が可能っぽいですね
・「塔の予知」が外れ始めている因子はなんなのか リュカの存在が特異点なのか
これもうアレよね、今後以降、リュカたちが頑張って兵団を率いて他の塔国家と戦争するのは、ちょっと茶番じみてきますよね。
未来人たちの掌の上というか。
パラダイムシフトというかゲームチェンジというか、当面の「帝国の塔を壊す」という目的は変わらなくても、戦う相手が違うというか。
『ナウシカ』じみたことを言えば、全ての塔を壊して未来国家群の影響を排除して、そこからは樹木歴の人間たちの手に歴史の舵取りが委ねられるのがハッピーエンドになるんか?

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
でも塔を全部壊したら、
「枝憑きは塔を離れて一月程度以上暮らすことができず、死ぬ」
ルールに則って、「枝憑き」全員死んじゃうよね、という。
じゃあ塔か隕石から「枝憑きを普通の人間に戻す」技術を抜き出して、リュカやゾーイを普通の人間にしてから最後の塔を壊すのがハッピーエンド?
う〜ん。
作品のテーマはずっと「クソみたいな世界から逃げて幸せになる」で変わってないんですけど、逃げる前に壊すべき「クソみたいな世界の核」がなんか変わってしまいましたね。
わからんこともまだたくさんあるんですけど、次巻から何と戦うんだろう。
とりあえずゾーイが最後、幸せになりますように。
ゾーイの幸せのために、リュカも幸せになりますように。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)
あと毎巻思うんですけど、「戦奏」はともかく、一向に「教室」っぽくなんないですよね。
なんかの伏線なんだろうけど。
aqm.hatenablog.jp