#AQM

あ、今日読んだ漫画

#推しが死んだ朝 【完】 評論(ネタバレ注意)

「推し」にまつわる2篇を収録。

『日々、推す』前後編。

『推しが死んだ朝』全四話。表題作。

 

『日々、推す』

女子高生の日々希(ひびき)は、親友の姫麗(きらら)とつるんで、男性二人組ユニットの地下アイドル「アルカディア」、特に紫苑くんを推していた。

母子家庭で彼女を育てる母から倹約を口うるさく言われる日々希は、ファンクラブ会費、チェキ代、グッズ代、ファッション費用と金に困り、姫麗の勧めでパパ活に手を染め、湯水のように金を注ぎ込めるようになる。

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

その「推し活」の果て。

欲望や自制心の弱さが生々しく描かれた「ダメ人間もの」としてよく描かれていますが、作品としては自分はそんなに。

自分もソシャゲに100万課金したり趣味に浪費したりはしますが、生活のため「サバイバルの手段」ではなく「遊ぶ金欲しさ」のためにパパ活したり親の金を盗んだりする若い女性、というのは、同じ「ダメ人間」な自分にとっても「あるある」「わかるわかる」とシンパシーを抱くフックやきっかけが特にないんですよね。

「お母さん可哀想」と思いました。

あと「推し活」に限らず現代の娯楽は何かにつけ「大人(社会人)基準」で金がかかりすぎて、子どもには目の毒な世の中だなあ、とは。

 

 

『推しが死んだ朝』

23歳で舞台俳優・金森雅哉にハマり「一生推す」と心に誓った女「ゆこりん」は、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

しかしその11年後、金森が29歳で引退したことで、心に穴が空いた。

50年後、結婚し子を成し孫も成長したにも関わらず金森をいまだ忘れられない「ゆこりん」は金森の地元・川崎の老人ホームに入居。

ホームの自室でささやかに当時のコンテンツを独り楽しんでいたが、廊下で「ゆこりん」にぶつかった同じホーム入居者の常に酔っ払いの老人・稲本が、金森に似ていることに気づく。

足を組んだ時の癖、髪を掻き上げる仕草、見れば見るほど、稲本は金森に似ているが…

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

『日々、推す』と同じ「推し活の果て」のお話でしたが、よかったです。

「推し活」を担う産業の多くが「金と性欲」で回っていることを露呈するニュースが、ジャニーズ事務所問題に続いて図らずも話題ですが、

www.google.com

ビジネスになる手前、ひとの心のもう少しだけ内側、「推し」感情のもう少しだけピュアなところ。

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

推す側の

「一方的な感情じゃないか」

「迷惑なんじゃないか」

「搾取しているんじゃないか」

という良心的な後ろめたさにスポットを当てつつも、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

クライマックスの「告白」シーン。

すべての推される側・推す側にそれぞれ色んな物語があって、「推し」という言葉の持つビジネス色が濃くなってきた昨今、それらの全てが美しい物語だとは思いませんが、幾千幾万の「推して推される物語」の中には、こういう物語も少なくなく在ったんだろうというか、在って欲しいというか。

「そもそもただの言葉の置き換えじゃん」というのは置いておいて、後年「推し」文化を振り返った時、

「要するにアレらは、憧れや欲望をビジネスの都合で効率的に換金するシステムでした」

とだけ総括されるのは、

『推しが死んだ朝』より(古屋兎丸/小学館)

ちょっと寂しいですよね。

 

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#吸血鬼ハンターD 薔薇姫 1巻 評論(ネタバレ注意)

核大戦の後、ポスト・アポカリプスの地球。

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

荒廃した大地には放射線・宇宙線の影響でミュータントが溢れ、残った人類が中世レベルの文明度に落ちて逼塞して暮らす中、地球の支配者となったのはそれまで人間社会にひっそりと紛れていた吸血鬼たちだった。

独自の超科学と異能力や超人的な身体能力を備える彼らは、人間たちを支配し、また食糧としていた。

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

人類の中には吸血鬼を打倒することを専業とする「吸血鬼ハンター」なる者たちが現れ、中でも「D」と呼ばれる吸血鬼ハンターの強さと美貌が一部で知られていた…

という、菊地秀行が原作のジュブナイル?ダーク・ファンタジー小説のコミカライズ。

懐かしいですね。

自分も中学生前後の頃に緑の背表紙のソノラマ文庫で読んでました。

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

あと夢枕獏の『キマイラ』シリーズとか。

あの頃は田中芳樹、栗本薫、菊地秀行、夢枕獏、あと誰を読んでたっけなあ。

だいたい表紙絵・挿絵が天野喜孝っていうw

ja.wikipedia.org

あとTMネットワークのファンでもあったので、

YOUR SONG (

YOUR SONG ("D"MIX)

  • TM NETWORK
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

彼らが『YOUR SONG』で主題歌を務めたOVAもレンタルビデオで観た覚えがあります。

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

もう覚えてないけど、本コミカライズは原作10巻の『吸血鬼ハンター D-薔薇姫』なんかな。

基本的には『用心棒』というか『荒野の用心棒』というか、さすらいの武士・剣士・銃士が困ってる村を助けるために悪人を倒す、的なフォーマットだったように記憶していて、本コミカライズ1巻もそういう感じです。

城の吸血鬼「薔薇姫」と配下の四騎士が支配する村。

少数の犠牲者と引き換えのかりそめの平穏は、供物となった娘を救おうとした勇敢な若者の無謀な叛逆によって破られた。

そんな折、冷たい美貌に黒衣を纏い、ただならぬ雰囲気を漂わせる男が村を訪れた…

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

主人公が「さすらいの吸血鬼ハンター」なので、主人公のD以外、エピソードっきりのMOBなんですよね。

という原作を引き継いで、コミカライズの方もD以外全員、敵も味方もMOBっぽいw

絵は、綺麗というには画面がダークですけど、白と黒、陰陽のくっきりしたバタくさくも耽美な作画で、作品にマッチしていて見応えあります。

ただDの剣技中心のアクション・シーン、チャンバラがあんま動いて見えなくて、たまに何が起こってるのかよくわからん感じはしますけど。

記憶が薄れてますが、強くてクールでよくわからんDに対して、エピソードっきりのMOBの脇役の生き様がエモかったような覚えがあります。

『吸血鬼ハンターD 薔薇姫』1巻より(菊地秀行/鷹木骰子)

まだそんな面白い「サビ」までストーリー自体が辿り着いてないというか、「薔薇姫」のエピソードも途中で次巻に続きますし、とりあえず顔見世ということで。

 

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#2.5次元の誘惑 22巻 評論(ネタバレ注意)

先輩たちが卒業し、高校の一人漫画研究部として日々部室で二次オタ活動に勤しむ奥村(高2♂)。

学校が新入生を迎えたある日、漫画研究部のドアを叩く一人の新入生がいた。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

国は奥村だけ一生消費税100%にしろ。

奥村と同じく古の名作「アシュフォード戦記」「リリエル外伝」とそのヒロイン「リリエル」をこよなく愛する彼女・天乃リリサは、キャラ愛が高じて高校生になったらコスプレイヤーになることを夢見ていた。

というボーイミーツガールから始まるコスプレ青春もの。

TVアニメも好評で2期も決まったんでしたっけか。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

それぞれの葛藤を乗り越え界隈を騒がすコスプレチームとなり、四天王と呼ばれる頂点のコスプレイヤーたちにも認知されるように。

コスプレデビュー、夏コミ、冬コミ、文化祭、と怒涛の一年が過ぎ年度が改まりまして、各自進級、まり姉は卒業して常駐OBに。

新一年生の新キャラ、ハイスペお嬢様・華 翼貴(はな つばき)も早々にコスプレ部に馴染み、近刊の「最後の四天王」編を通じて、リリサと奥村のコンビにとっての夢、「究極のROM」が完成。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

激アツの「夏コミ編」、「まゆら様復活編」、「四天王復活編」と夏コミのエピローグを経て、今巻は夏合宿の温泉回・海回・水着回、日常回、まゆら様の辞表提出、あとは次なるエピソード「文化祭編」の前振り回。

と細々、いろいろな巻。

夏合宿といえば奥村の2次元コンプレックス解消話、ということで、この作品のキャラの精神的な成長の柱の一つ。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

奥村、3年生の夏なんで、普通に考えたら彼の卒業で完結なんですかね。

コスプレイベントを数えたら文化祭・冬コミ・卒業式?、ラブコメイベントだとクリスマスとバレンタインと卒業式、ぐらいか。

結構あるなw

だーれーを選ぶんでしょうねー。

多数派は「みかりん推し派」ですかね、自分もそうですけど。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

リリサは奥村に対しては「コスプレ仲間」でラブ感少し薄いですし。

でも「3次元の誘惑」の見開き演出がなー。

リリサの「コスプレ趣味」ならぬ「コスプレ屋さんの夢」の親バレと猛反対で、どうなるリリサ!?なまま文化祭編に突入。

リリサのエピソードラインもさることながら、ポニテ生徒会長の「ミドリエル」コスプレも楽しみですね。

『2.5次元の誘惑』22巻より(橋本悠/集英社)

バカかコイツ、国は奥村だけ一生消費税200%にしろ。

 

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#ウィッチウォッチ 20巻 評論(ネタバレ注意)

チャミーきゃわわ。

『SKET DANCE』『彼方のアストラ』の作者の現作。

アニメ化も決定。

witchwatch-anime.com

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

ちょっと『こち亀』の「オタク語り回」「マニア語り回」「業界語り回」の後継者になりつつありますよねw

乙木守仁は、超人的な身体能力を持つ鬼の末裔であることを隠して普通に暮らしていた。

守仁の高校入学を控えた春休み、長期出張で海外へ出発する父と入れ替わりに、魔女の聖地に修行に出ていた幼馴染のニコが帰還。

両家の同意のもと二人は一緒に暮らし、守仁はニコの使い魔として彼女を予言された災いから護衛することに。

6年ぶりに再会したニコは可愛らしく、しかし強力ながらどこかポンコツな魔女に成長していた…

という、幼馴染の鬼ボーイ・ミーツ・魔女ガール・アゲインに、ニコの使い魔となる同居仲間が守仁以外にも天狗、狼男、吸血鬼と増えて、同居日常ギャグ学園ラブコメたまにシリアスバトルな漫画に。

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

笑わすのと泣かすのを完全に同時にやるなw

シリアスなバトルもので人気を博したカッコよ可愛いキャラたちの、ギャグだったり緩かったりする日常や恋愛・ラブコメをもっとじっくり見てみたい、というのは人気作であれば多かれ少なかれ発生して、多くの場合その役割は公式スピンオフや二次創作に託されることになるんですが、

「一次創作内で自分で全部やっちゃおう!」

「バトル・ギャグ・コメディ・ラブコメ・日常・ホラー・ファンタジー、少年漫画のジャンルを全部一作品内でやっちゃおう!」

という作品。

ギャグコメディな日常をやりつつ、シリアスに悪役と対峙するバトル要素と、ニコと守仁のラブコメ要素が大きな縦軸。

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

でしたが、「友情・努力・勝利」なジャンプ王道のシリアス・バトル展開、「災いの日」編の決着を経て、守仁を救うためにニコが幼児化。

そのまま第二部「小さな魔女の冒険」編に。

予言によると、「ニコが幼児の間は敵もやってこない」とのことでバトル要素は一旦休止、ラブコメ要素はニコの幼児化により、『よつばと!』のよつばや『SPY×FAMILY』のアーニャに代表される鉄板ジャンル「幼児ヒロインの父娘育児もの」に味変。

一見力づくなように見えて、シリアス要素、能力やニコの献身・自己犠牲と絡めたスムーズな味変展開。

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

幼児化したニコの世話役使い魔として新キャラ・ドラゴンのバン、幼児ニコの姉弟子役として子役タレント魔女のチャミーも登場。

魔法のおかげで日常ギャグコメディに無茶なネタを許容できる幅があって良いですね。

魔法・超常・同居・学生と本当に便利な設定だなw

今巻も日常のコメディ回中心に、後半から親世代・師匠世代の回想シリーズ。

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

ジャンプ本誌の連載で『あかね噺』も同じタイミングで親世代・師匠世代の回想シリーズやってて、ちょっと苦笑してしまいました。

「親世代・師匠世代の回想シリーズ」もジャンプの鉄板展開なのねw

あんま面白k

クックは結局、大学進学するのか、進学せずに漫画家目指すのかどっちになったんだろうw

あとチャミー回あって嬉しいですけど、1話しかなかったのでもっと出番増やして欲しいんですけど、

『ウィッチウォッチ』20巻より(篠原健太/集英社)

思うようにはイカ内臓。

 

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#戦奏教室 9巻 評論(ネタバレ注意)

歩兵や騎兵が剣や槍で、弓兵が矢を撃って戦う、中世ぐらいの文明レベルの世界、「樹木歴」1294年。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

『AKIRA』っぽい絵だな、と思ったらこの人の名前も「アキラ」でちょっと笑ってしまったw

幼くして拾われた傭兵団でラッパ手(ラッパの音で指揮を伝達する、通信兵のようなもの)を務める少年・リュカは、殺し合いと略奪に明け暮れる傭兵団のクソみたいな暮らしにウンザリし、いつか楽師になることを夢見ていた。

いつものように敵軍と遭遇、一人の敵兵の怪物じみた戦闘能力によりリュカも重傷を負うが、最後の力を振り絞ってラッパで自軍に撤退指示を出し、頭から「枝」が生えていたリュカの超常能力が発動、リュカのラッパの音は光となって自軍を撤退成功に導く。

瀕死のところを敵軍の能力者たちに救われたリュカは、音楽を学ばせてもらうことと引き換えに、敵軍だった「教皇領」軍の能力者「枝憑き」として、戦うこととなった…

という、中世ファンタジー世界の戦争もの。

古代(現代の延長線上?)の超技術がアーカイブされた塔ごとに国家を形成し相争う世界観。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

「枝憑き」リュカの能力はアレですね、将棋・ボードゲーム・戦争シミュレーションゲームなどでプレイヤーが戦場を俯瞰して駒を動かして勝利するムーブを、盤の中でやる感じ。

ラッパの音がビームっぽい光で視覚化され兵団がそれに従うのも、ゲームっぽい表現。

その他の枝憑きたちの能力も、戦闘特化・走力特化・千里眼特化・重砲撃特化?など、ピンキリ・千差万別っぽく、リュカは歩兵・騎兵・弓兵と能力者である枝憑きを自分の能力で戦術指揮というか操る「棋士」に相当する能力者。

バトル描写としては「駒の能力×リュカの戦術指揮」が醍醐味に。

物語的には世界に9つある塔を巡る覇権争い、その中でさっさとラスボス級「枝憑き」を倒して戦争から足抜けして、音楽を学んで念願の楽師になりたいリュカ、という感じ。

「9つの塔」のシンプルな世界観に、能力バトルでは珍しい「戦術指揮に特化した能力持ち」の主人公、と、ジャンプらしく粗いところもありつつ、わかりやすくて拡張性も高そうな、「男の子心をくすぐる」出だし。

敵味方の能力者「枝憑き」たちの能力と人格の顔見世、能力バトルのルール説明、が巻数を進めるごとに少しずつ追加されていってます。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

自分は8巻でヤラれまして、

「ゾーイの行く末を、叶うなら幸福な行く末を見届けるまでは死ねない!」

状態です。

今巻で「奴隷の国編」が決着、そして世界観の謎が一気に明かされます。種明かし巻。

てか、こんなにいっぺんに明かす?w

SFとしてはそんなに奇特な設定とは思わないですけど、強いて言えば発想はむしろ原初的・古典的なSFっぽいですよね。

明かされた謎はなるべく直接は書かないので、コミックス買って読んでください。

引用するコマも「決定的なネタバレ情報」すぎないように気を使うわ〜。

とりあえず読んで気になったことを羅列しますけど、その過程でネタバレしちゃうのはごめんなさい。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

もとから綾波レイっぽい奴が包帯まいたらいよいよ綾波レイになるのやめろw

・後の覇権国家を目指すなら「中世前の西欧から」は、まあわかるけど、塔の競合がいなくて資源が豊かな地域で力を蓄えるのもアリだったかもしんないね

・「樹木歴」≒「西暦」ということは、各国が塔を送り込んだ先は西暦元年?

・キリストは誕生はしたはずだが、当然歴史が変わった上に「塔教」の存在もあり、キリスト教は生まれなかったっぽい?

・ユダヤ教と仏教は既に存在していたはずだが、塔を送り込んだ先が西欧に集中している分、本作の舞台にならない東欧、ロシア、アラブ、アジア、アフリカ、南北アメリカ大陸、オセアニアの様子はよくわからない

 ※とりあえず、2巻に登場した地図を時計回りに90度回転したものがこれです。

『戦奏教室』2巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

 ・「島国」エリン帝国は現在のイギリス、ただし未来のイギリス以外の国が塔を送り込んでおり、塔のオーナーは別の国

・「アキラ」「カヤノ」などの命名センスや「ミカド」などの語から、エリン帝国の塔のオーナーは未来の日本?

・花冠のメテオの射程を考えたら、エリン帝国はドイツとフランスの国境線あたりに陣取った方が良かったんじゃない?と一瞬思ったんですけど、時系列が逆ですね

 イギリスに陣取ったエリン帝国に、後から花冠が(たぶん)生まれたわけで

・教皇領は現在のイタリア かつてのローマ帝国の首都で、現在もローマ法王(教皇)のいるバチカンがある

・ただし、教皇領の塔のオーナーが未来のイタリアであるかどうかは現時点ではよくわからない

・その他の塔を持つ国の対照はこんな感じ?

 -ガリア:フランス、ベルギー、スイス、オランダ、ドイツのあたり

ja.wikipedia.org

 -ゲルマニア:ドイツ

 -ヒスパニア:スペイン

 -パンノニア:オーストリア、クロアチア、ハンガリー、セルビア、スロベニア、スロバキア、ボスニア・ヘルツェゴビナのあたり

ja.wikipedia.org

 -ダンメルク:デンマーク

 -ノルマンディー:フランス

 -スカンディナビア:スウェーデン or ノルウェー

・ただし、それぞれの塔国家のオーナーが元の国と同じであるとは限らないのは、エリン帝国や教皇領と同じ

・オーナー国家が2036年時点の地球の有力国家であろうことを考えると、西欧エリア外のアメリカ、中国、ロシアあたりは塔を送り込みそう

・2036年の国家群が少なくとも手に入れたであろう技術

 -時間を遡行する技術

 -人間から魂を分離して保存?したり物質に植え付けたりする?技術

 -「塔」を創る技術

 -「枝憑き」を誕生させる技術

・そもそも枝憑きの誕生原理もよくわからん

 『FSS』の騎士と同じく、人間の母親から低確率で誕生?

 (鏡面やウードの例から、枝憑きにも人間としての生殖能力はあるっぽい)

・塔にまつわる技術はなぜか、9カ国?が等しく手に入れたらしい?

・塔に蓄えられた技術と知識の割りには文明・技術の発展を「手加減」している感じはする

 自分が塔の支配者だったら「石油」「電気」「通信」「自動車」「飛行機」「銃」あたりは歴史に先んじてさっさと実用化する

 9つの塔の間で、技術発展の制約について何らかの協定があった?

 それか、見えないところで既に実用化されている?

・9カ国はなぜ一斉に2036年前後から西暦元年に塔を送り込んだのか

 より技術が発達した未来から「後出し」で送り込む方が有利では?

 西暦元年より以前に送り込んだ方が有利では?

 2036年はともかく、西暦元年に何か秘密が?

・塔下、アキラ、ミカドあたりは「なんかの物体に魂を植えた」人間なのか?

 「塔の核の枝憑き」とは別の存在と思っていいのか?

・塔の力が隕石由来の物質?情報?であれば、花冠のメテオで飛来する隕石に都合のいい「何か」がくっついてれば、ルールの再変更が可能っぽいですね

・「塔の予知」が外れ始めている因子はなんなのか リュカの存在が特異点なのか

これもうアレよね、今後以降、リュカたちが頑張って兵団を率いて他の塔国家と戦争するのは、ちょっと茶番じみてきますよね。

未来人たちの掌の上というか。

パラダイムシフトというかゲームチェンジというか、当面の「帝国の塔を壊す」という目的は変わらなくても、戦う相手が違うというか。

『ナウシカ』じみたことを言えば、全ての塔を壊して未来国家群の影響を排除して、そこからは樹木歴の人間たちの手に歴史の舵取りが委ねられるのがハッピーエンドになるんか?

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

でも塔を全部壊したら、

「枝憑きは塔を離れて一月程度以上暮らすことができず、死ぬ」

ルールに則って、「枝憑き」全員死んじゃうよね、という。

じゃあ塔か隕石から「枝憑きを普通の人間に戻す」技術を抜き出して、リュカやゾーイを普通の人間にしてから最後の塔を壊すのがハッピーエンド?

う〜ん。

作品のテーマはずっと「クソみたいな世界から逃げて幸せになる」で変わってないんですけど、逃げる前に壊すべき「クソみたいな世界の核」がなんか変わってしまいましたね。

わからんこともまだたくさんあるんですけど、次巻から何と戦うんだろう。

とりあえずゾーイが最後、幸せになりますように。

ゾーイの幸せのために、リュカも幸せになりますように。

『戦奏教室』9巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

あと毎巻思うんですけど、「戦奏」はともかく、一向に「教室」っぽくなんないですよね。

なんかの伏線なんだろうけど。

 

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#ふつうの軽音部 5巻 評論(ネタバレ注意)

いい表紙だ。

高校新入生の鳩野ちひろ(15・♀)は、高校に入ったら軽音部に入ろうと、ど素人の陰キャながら意を決して高価なフェンダー・テレキャスター(ギター)を購入。

軽音部に入部したものの、待っていたのは微妙ながら確実に存在する、「思ってたのとちょっと違う……」の連続だった……

という青春部活もの。

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

原作漫画(?)に、メジャー化にあたって作画担当を付けて、という感じらしいです。

三白眼気味、『パプワくん』の柴田亜美を彷彿とさせる、作中でも「美少女」然としては描かれないヒロイン造形。

「なのに」というか、「だからこそ」というか、はとっち可愛カッコいいんですよね。

素人ながら陽キャの唯、凄腕ながら陰キャのぼっちちゃんに対し、「素人で陰キャ」という負の要素で固められたスタートの主人公ヒロイン。

「ぼっち具合」「陰キャ具合」というか、高校デビューの噛み合わなさ、思いどおりにいかなさ、それでいてどこか達観して己を知っててタフな「めげない陰キャ」感、ちょっと『スキップとローファー』を思い出しますね。

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「好きなもの同士で自由にバンドメンバーを組め」という陰キャには厳しすぎるバンド編成、下手くそな自分に相応しいイマイチなバンドメンバー、男女関係のもつれで続々と退部していく部員たち……という、嫌な意味でリアリティあふれる軽音部の描写。

こんだけ「普通の軽音部」の負の面を強調しつつも、ウェットなはずの出来事なのに、描かれ方の湿度が低くてカラッとしてんですよね。

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

ここまで軽音部の1年生たちとはとっちに起こっていることとしては、

・とりあえずで組んだバンド群(とカップル)が「思ってたのと違う」で破綻し

・破綻を反省に新たなバンド群が組まれ直し

・はとっちが屈辱を通じて「自分の現在地」を思い知り

・それをよそに幾人かがはとっちの才能の片鱗を見い出し

というところ。

「今どきの高校生が演るには、選曲が読者層のおじさんおばさんに媚びてないか」

という話も聞こえますし、そういう面もあろうかとは思いますけど、そもそも高校生が描いてるわけないんだし、ムリ言うなよ、とw

他社出版社作品で成功例の多い「バンドもの青春漫画」ですが、良くも悪くもバトルもの中心のジャンプ系らしい作劇だな、と思います。

青春ものながら必ずしも「誰も悪くない」シチュエーションばかりではなく、ヨゴレの悪役や大衆的モブキャラの悪意が話を動かしてトラブルや状況を作ることも多く、

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

無垢な主人公たちベビーフェイスが、ルフィのようにぶん殴る代わりに「バトル回」ならぬ「ライブ回」のバンドパフォーマンスでぶっ飛ばすカタルシス。

キャラの見せ場になる「バトル回」ならぬ「ライブ回」に回想シーンが入るのも、『ワンピ』によく似てます。

換骨奪胎して繰り返されても泣けるのは、「黄金パターン」の「黄金」たる所以でしょうか。

というわけで、バトルものの「バトル回」、スポーツものの「試合回」にあたる、「ライブ回」。

「学園バンドものの華」文化祭に向けて、はとっち自身の挫折と成長、バンドの人事体制が着々と噛み合っていき、文化祭本番。

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

前巻ではとっちたち「はーとぶれいく」も文化祭のステージに見参、軽音部入部・文化祭のステージなど夢のまた夢だった頃の回想も交えながらの、未熟ながらも4巻にして初めてのはとっちと「はーといぶれいく」の本領発揮、体育館の舞台、制服のままのライブ、どこの高校の文化祭でも見られそうな「どこにでもある風景」の素朴さながら、はとっちの資質と高揚感を示す力強いパフォーマンスの表現。

が、ありましたが、今巻はもう何といってもたまき先輩のラストステージ、文化祭の後夜祭の大トリ。

前巻までを読まずに、今巻だけをいきなり読んでも、自分たぶん泣いてただろうなあ、コレ。

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

日本中のどこにでもありそうな「ふつうの」青春、たどり着いた先の舞台も文化祭のステージというどこにでもありそうな舞台ですけど、たまき先輩、よくがんばったなあ。

高校の部活の最後のステージ、たまき先輩が「もう歌わない」ことが大きな要素になってることを思うと、「部活もの」「バンドもの」かつ「演説シーン」ありの「卒業もの」なんよね、今巻。

たまき先輩が主人公なら最終回であって然るべきエピソードですが、主人公ははとっちなので、アレですね。

はとっちたちが良きロールモデルとなったたまき先輩を「再現」することが主軸になっていくのか、それともたまき先輩を超える「ふつうの」何かが待ってるんでしょうか。

『ふつうの軽音部』5巻より(クワハリ/出内テツオ/集英社)

あ、ダメだ、絵力強すぎ。このコマだけで泣ける。

 

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#魔男のイチ 1巻 評論(ネタバレ注意)

どっかで見た絵とペンネームと思ったら、『アクタージュ』の作画の先生かー。

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ja.wikipedia.org

Wikipedia見ると、読み切り3作を挟んで4年ぶり?の連載なんかな。

その間、『【推しの子】』のカラーイラストの彩色もやってたの?

集英社の責任感というか面倒見の良さ?ってよくわかんねえなw

宇佐崎先生の立場では『アクタージュ』は交通事故に遭ったみたいな災難でしたけど、絵ぇ好きだったので新作読めて嬉しいです。

「可愛い女の子が描ける」

「ヒットに耐えうる、みんなに好かれる絵が描ける」

「売れる絵が描ける」

ので、描かないのは色んな意味で勿体ない人ですよね。

おかえりなさい。

さて。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

中世ファンタジー世界。

魔法は人格と意思を持つ生き物だったが、後発で現れた人間に接触したことをきっかけに、課した試練を完遂した人間の女「魔女」に能力を習得され使役される存在となった。

マンチネル魔女協会に存在が確認される魔法は3,185種、うち402種が世界中の魔女に習得されていた。

協会最強の「深淵の魔女」デスカラスは、協会トップの「黄金の魔女」マネーゴールドの指令で、試練「討伐(心臓停止)」を数千年破られず人類に害を為し続ける最大最強の魔法「王の魔法(キング・ウロロ)」に挑むものの、「女には傷つけられない心臓」の特性の前に苦戦、またも人類による習得失敗と、思われた、が。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

幼少期に山に捨てられ自然相手にサバイバルしてきた野生ハンティング少年・イチが、「王の魔法(キング・ウロロ)」の心臓を一刺しして、あろうことか習得してしまう。

かくして、人類初の魔法を習得してしまった男、「魔女」の男版が誕生してしまう。

マンチネル魔女協会は「深淵の魔女」デスカラスに、イチを首都ナタリーに連れ帰ることを命じ、かくして「魔男」のイチの、魔女協会に所属しての「魔法狩り」の日々が始まった…

という魔女もので能力バトルもの。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

「魔法少女もの」ではないです。魔女もの。

ボーイ・ミーツ・ディスティニー、ボーイ・ミーツ・マジック、ボーイ・ミーツ・ウィッチガールズ。

女しかなれない魔女の世界に、「魔男」になっちゃった少年が、という、ある程度のハーレム展開が約束された世界観。

魔法が生き物で、討伐その他の条件「試練」を満たすことで魔女に習得され使役される世界観が独特ですね。

魔法に勝ったら(条件を満たしたら)相手の能力がそっくりそのまま手に入る、という能力コレクション方式。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

山育ちのハンターで、魔法・魔女業界の空気を読まずに狩猟スキルだけでも魔法を狩れてしまう野生児なイチ、ジャンプ漫画の王道のパーソナリティながら、ゴンやルフィより天然度の高い野生児・孫悟空の初期を思い出します。

いわゆる「異世界チート」ではないですが、最初に「最強」の能力と出会って手にする、って、まあ能力バトルものの王道です。

ものいう能力・魔法「王の魔法(キング・ウロロ)」との悪態つきながらのバディ感がちょっと『うしおととら』も思い出します。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

ジャンプ漫画らしくどこか粗い線ながらも精緻で美しい作画、可愛い女の子とかっこいいバトルシーンが無限に出てきそうな世界観、楽しくコミカルなギャグコメ会話芸。

ジャンプ漫画王道の冒険バトルものの1巻として期待が膨らむ、文句なしの出だし。

自分はさっそく、最強魔女&褐色肌&ジト目&微妙に性格クズなデスカラスさんが大好きです。

『魔男のイチ』1巻より(西修/宇佐崎しろ/集英社)

やー、新年早々、楽しみな新作1巻。

ちょっと定期購読してるWJで1巻の続き読んでこよう。

 

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#サンキューピッチ 1巻 評論(ネタバレ注意)

近年の名作、『ハイパーインフレーション』の住吉九の新作は高校野球もの。

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WEB連載が話題なのは知ってたんですが、「単行本なってからでいいか」と待っていました。

チラ見えする連載の画像(なんかコブラツイスト?卍固め?してるコマ)で

「マッチョ女子が正体を隠して男子の高校野球で活躍する話」

と勘違いしてたんですが、表紙の奴は男子です。

どうも表紙のロン毛男・桐山と、野球部の女監督がごっちゃになってたらしいw

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

腹立つ顔に腹立つセリフやなw

さて。

横浜の高校野球部界隈では、夜な夜な自主練中の野球部員に3球勝負を挑んでは討ち取って去っていく、覆面で正体不明の怪ピッチャー「野球部狩り」が話題になっていた。

公立ながら私立の中堅校といい勝負できるぐらいには選手が粒揃いの県立横浜霜葩(そうは)高校の野球部を率いる3年キャプテン・小堀は、「野球部狩り」の犯人が霜葩高校の生徒と睨み、罠を仕掛けて「野球部狩り」を誘い込む。

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

「野球部狩り」は中学時代に将来を嘱望されながら肘の故障とイップスで1日3球しか全力投球できなくなり引退した悲運の天才、霜葩高校3年・桐山だった。

強気な性格ながら逆境に陥るとメンタル豆腐になるエース投手・美馬を支えるワンポイント・リリーフとして桐山をスカウトした小堀たち。

3年にそこそこ粒揃いの選手層と3球しか投げられない天才剛腕リリーフを擁する、公立高・霜葩高校の最初で最後の甲子園への挑戦が始まった!

という。

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

前作『ハイパーインフレーション』が金を巡る悪知恵・小細工・駆け引き・逆転劇が強みの能力戦&頭脳戦の漫画で、野球の無双漫画なんか面白く描けるんかいな、と思ってたんですが、そういえば野球って

「悪知恵・小細工・駆け引き・逆転劇が強みの能力戦&頭脳戦」

のスポーツでしたねw

最近、野球漫画少なめなのと、スポーツ漫画全般で「才能と努力とメンタルと友情と無双のキラキラ青春」な作品が多くて、忘れてました。

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

まだ「前作に劣らず」というほどではないですが、曲者揃いでキャラの8割型が野心家か腹黒か闇抱えてる系の、野球のルールを目一杯使った能力戦&頭脳戦。

展開のキモはタイトルのとおり「1日3球だけ全力投球できる天才剛腕ピッチャー」で、選手兼監督のキャプテン小堀の采配と、ケレン味たっぷりが持ち味の作者の腕の見せ所、という感じ。

作者のショタ性癖も変わんないですねw

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

歴史を振り返れば野球漫画はレッドオーシャン真っ赤っかで、「破天荒野球」も前人未到の地面なんか残されてないんじゃないか、ぐらいです。

「性格の悪い野球」

「頭脳戦の野球」

「右腕がダメなら左腕で投げればいいじゃない」

も踏まれてるしね。

現実を見れば大谷翔平という「打って走って投げれる前人未到」が現役で活躍中。

なんですけど、確かに

「『ハイパーインフレーション』みたいな野球漫画」

はパッと思い出せないというか、住吉九ならではの変人性・変態性・狂気性に期待してしまいますね。

『サンキューピッチ』1巻より(住吉九/集英社)

※野球です、殺してないです

 

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#平成敗残兵すみれちゃん 4巻 評論(ネタバレ注意)

ネットでちょっとバズった「すしカルマ」巻でーす。

すみれちゃん、31歳。

10代でアイドルとしてメジャーデビュー、そこそこ活躍したものの、その後の人生を保証するようなブレイクには至らず。

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

現在は叔母のスナックで働きつつ、ヤニカス、酒クズ、パチンカス。

そんな退廃的な生活を送りつつも顔と身体はギリキープしているすみれちゃんに、従兄弟の男子高校生・雄星(16)が同人アイドルとして再デビューを持ちかける。

もう特にアイドルに夢も見ていないが、金は欲しいすみれちゃんは、渋々雄星の提案を了承。

かくして雄星プロデュースによる金目当てのすみれちゃんのアイドルリブートの道が始まった…

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

という、コスプレ、グラビア、同人、などの要素を散りばめたアイドルもの。

コスプレものやアイドルものとしてはこの辺がありますが、

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基本的に夢・憧れ・希望をメインに据えた描写がされるこれらの作品群と違って、本作で語られるのは、

「知名度」、「金」、「ルッキズム」、「老い」、あとなんでしょね、「生理」とか。

グラビアつながりのコスプレものやアイドルもので避けられがちなこの辺の要素で、リアリティラインを押し上げている漫画。

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

『ハッピー・マニア』要素を混ぜた、と言っていいかもしれませんw

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すみれちゃん、ちょっとシゲカヨっぽいよね。

夢や希望の「キレイゴト」でドライブしている既存のアイドルもの・コスプレものに対する、ある種のアンチテーゼになってる作品。

なんですけど、雄星目線で語ると、アレですよね。

自分の個人的な好みも捨てて、ただただ

「売らんかな」「すみれちゃんに売れてほしい」

という雄星の実は献身的なプロデュース、根っこのところは一緒かなと思います。

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

その後、ヒロインが売上を横領、バレて借金300万円、アイドルを語る要素に更に「金銭問題」、「借金苦」、「AV堕ち」、「枕営業堕ち」が追加。

ヤニカス・酒クズ・パチンカスに横領までかますクズでヨゴレなヒロイン、一見、欲に流されて「AV堕ち」「枕営業堕ち」とどこまでも堕ちていきそうなすみれちゃんですけど、雄星の実はピュアな情熱が錨になって踏みとどまり続けてます。

売り上げ横領までかましといて「踏みとどまり続けてます」でいいのかw

作者によって何をやらかすかだいぶ危ういヒロインですけど、「雄星の期待を裏切れない」が作者の引いた線なのかな、どこか安心感が。横領はしたけどw

前述のとおり、「すしカルマ」登場巻。

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

コスプレしに行くファムファタのお供で夏コミに行った雄星は、サークルが並ぶ島中でエロ同人を売る、かつてのすみれちゃんのアイドルグループのメンバー、颯子(そうこ)を発見する。

颯子はすみれちゃんの2歳上の現在33歳、アイドル業引退後はエロ同人作家として糊口を凌いでいた。

スカウトしてくる雄星に対し、颯子は「若い陽キャからのお誘い」と舞い上がっていた。

雄星の背後にかつてのアイドルグループリーダー、豪快で鈍感で無神経なすみれちゃんがいるとも知らず…

颯子は内面描写面白かったですけど、バズった理由が刺さった当事者じゃない自分は置いときます。余計なこと書きそう。

展開として、すみれちゃんのかつてのアイドルグループ仲間が一人ずつ登場してくるの、ダメな『黒子のバスケ』というか、自己肯定感の低い「キセキの世代」みたいでなんか面白いなw いや別にダメじゃないんですけどw

『平成敗残兵すみれちゃん』4巻より(里見U/講談社)

いや、ダメだこれw

というのと、登場するアラサー美女たちがみんながみんな雄星を異性として意識し始めて、期せずして「未満恋愛ハーレム」みたいになってんなw

自分は紋紋入りのあゆみさんがお気に入りです。可愛い。

 

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#のら旅。 好きある所に道はある 1巻 評論(ネタバレ注意)

熊本県在住の女性漫画家・四方寄(よもぎ)めくる。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

高校在学中に商業連載デビューし順風満帆なキャリアのスタートだったが、初連載は2巻で打ち切り。

その後も連載の打ち切りと連載会議のボツの連続で自信を失い、担当編集の「自分の好きを掘り起こして」というアドバイスにも煮詰まり、次回作の構想にも難航していた。

「海のバカヤロー」と叫びに行った港で周囲に流されて乗ったフェリーの着いた先は長崎県・島原。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

ならばいっそのこと長崎市内の諏訪神社で漫画への未練を断ち切ろうと思った矢先、旅行誌の取材にきていた女性カメラマンにナンパされて、モデル兼移動手段として島原市内の観光地取材撮影に付き合わされることに。

彼女との会話でもう少しだけ漫画を頑張ろうと思っためくるは、その経験をネームにしたところ、連載会議を突破。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

熊本を中心にした九州各地の観光地を愛車のスズキ・アルトとともに巡る、ドライブ漫画の連載が始まることになった…

ja.wikipedia.org

という、限りなく実録チックな…ジャンルはなんでしょね、「旅漫画」、「ドライブ漫画」、兼「漫画家漫画」。

自分は隣県の鹿児島県出身の、隣県の宮崎県住みで、作中に登場する阿蘇もドライブでよく行くので、とても親近感。

youtu.be

今巻で登場した長崎・大分もドライブの射程圏なので、登場した観光地や食事処も聖地巡礼がてらのドライブのガイドブックとして、とても参考になりますw

あとアレですね。

自分の「好き」と「ルーツ」を知る、という。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

めくるの漫画のネタ探しで当初「ドライブ好き」が出てこなかったように、車の運転の楽しさや景色の美しさって、言語化しにくい(絵や写真や映像で見た方がわかりやすい、現地で体験したほうがわかりやすい)ので、言葉で箇条書きで書き出そうとしても見落とされがちなんですよね。

漫画家としてのネタ出しや「好き探し」に限らず、自分が自覚してない「好き」って実はいっぱいあって、自分の人生を彩ってくれてるんだろうな、と。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

あと「地元観光」って良いですよね。

作中で言及ある通り「観光地としての地元」って意外と知らないし、あと自分はもうおじさんなんで

「自分のルーツとしての地元」

「自分を形作った環境としての地元(故郷・現住地の両方)」

に年々興味が強くなってきてるのを感じていて、そこに刺さってくる漫画。

絵も可愛いし、アルト愛・地元愛に溢れていて、人との縁・風土への感動など「小旅行の旅情・非日常感」の描写にとても共感してしまいます。

次巻は来年の初夏とのことで楽しみなのと、前作も熊本を舞台にしたドライブ漫画だったとのことで、

そちらも読んでみようと思います。

『のら旅。 好きある所に道はある』1巻より(鹿子木灯/集英社)

阿蘇はいいよにゃー。

 

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#奸臣スムバト 1巻 評論(ネタバレ注意)

西暦1236年、ジョージア王国。

かつて大貴族として王都・トビリシでブイブイ言わしていたオルベリアン一族は、反乱失敗・追放同然のイスラム圏への亡命から数代かけてジョージア王国に復命したものの、王国領アルメニアの一番端、スィウニク領主に封じられる不遇に甘んじていた。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

大貴族として王都への返り咲きを狙う一族だったが、先代当主・リパリトは何者かに暗殺されており、長男のエリクムが当主を継いでいた。

そんな中、版図を広げるモンゴル帝国がジョージア王国に侵攻。

王国領アルメニア、スィウニク領も例外ではなかったが、オルベリアン家当主のエリクムと弟スムバトは、モンゴル帝国への寝返りによる一族の栄達を狙う。

という、13世紀のジョージア王国を舞台に史実を創作で埋めた歴史フィクション。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

自分は社会科の選択が日本史を選んだせいで世界史に疎いです。

ので、まずは地図の確認。

「スムバト」はほぼこの漫画作品しかヒットしません。

www.google.com

その他、実在してWikipediaがヒットする項目。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

作中のジョージア王国女王ルスダンの在位が1223年-1245年、同作者の別作品『天幕のジャードゥーガル』作中のモンゴル帝国皇帝オゴタイの在位が1229年-1241年なので、

ja.wikipedia.org

だいたい同じ時代が舞台の作品、「モンゴル帝国と侵略された国」シリーズ、な感じでしょうか。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

作中のモンゴル帝国のジョージア侵攻は1236年、日本の「元寇」が文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)。

ja.wikipedia.org

まだ序盤も序盤ですが、スムバトたちオルベリアン一族が割りとあっさりモンゴル帝国に寝返るに至った経緯が、スムバト子ども時代からの長い回想をまじえて丁寧に描写されます。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

「ヒャッハー、おんもしれー!」という面白さというよりは、「ふむふむ、それでそれで?」とぐいぐい続きを読ませるトマトスープ節。

世界史に疎い自分にはググっても出てこない、ジョージア王国のWikipediaにも出てこないスムバトさんが、何をしたら「奸臣」などと呼ばれることになるのか、現時点ではまだわかりません。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

まあ、国は裏切っとるけども、誰から見て「奸臣」なんでしょうね。

ちなみに「奸臣」、

日本史の史料上はあんま馴染みのない言葉で、強いて言えば石田三成?だそうです。

フィクションで言えば『銀英伝』でロイエンタールが反乱を起こした時、「君側の奸」としてオーベルシュタインを名指ししてましたね。

『奸臣スムバト』1巻より(トマトスープ/新書館)

じっくり描いていくタイプの作家なので、すでに面白いとは言え、タイトルロールのスムバトが「奸臣」として本格的にエンジンかかるのは3巻ぐらいからでしょうか?

 

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#幼女戦記 31巻 評論(ネタバレ注意)

サラリーマンがリストラ逆恨みで殺されて、成仏の際に神に反抗した罰で、近代欧州っぽい異世界、WW1前のドイツそっくりな帝国の魔導師の素質持ちの女児に転生。

戦勝と栄達と安穏な後方勤務を夢見つつ、少佐の階級、エース・オブ・エース「白銀」「ラインの悪魔」の二つ名、第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長として、戦場の空を支配する主人公ターニャ・デグレチャフ11歳。12歳になった。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

ちなみに、初期巻で度々描かれた「後世の記者が十一番目の女神の謎を追う」後世のエピソードは、同じ作者が描くスピンオフに移行したようです?

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北のレガドニア、西のフランソワ、南の南方大陸ときて、お次は東のルーシー連邦。

帝国(擬ドイツ)東方に国境を接するルーシー連邦、言わずもがなにソビエト連邦をモデルにした国家。

参謀本部の指令でターニャたちがルーシー連邦へ侵入を果たしたまさにその時、ルーシー連邦は帝国に対する宣戦を布告。

第二〇三遊撃航空魔導大隊、魔導師とはいえたった48人で大国・ルーシー連邦の首都・モスコーへの浸透作戦、蹂躙、敵国首都の首脳を心胆寒からしめることに成功。

次いで、前線を支える重要補給拠点ながら、ルーシー連邦首脳部にいる一人の変態の剛腕によって変態的な目的で大戦力を投入されたルーシー連邦軍に包囲され窮地に陥る、ティゲンホーフ市防衛戦。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

前巻では

・西暦を識るターニャの予測を上回るルーシー連邦の攻勢

・航空機・戦車の進化・発展に伴って、相対的に機動力・火力の価値が下がっていく「航空魔導師」という兵科

・遊撃航空魔導大隊の大隊長に納まっているターニャの裁量権限の限界

が語られました。

西暦と違う経緯を辿りつつあるのがスリリング。

今巻は突然開催された、ターニャに対する査問会議と、その後の「ターニャの身の振り方」に関わる人事面談。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

バトルシーンが一切ない、一部の戦記もの作品名物の「会議巻」。

これまでの、ターニャとレルゲン大佐、ターニャとゼートゥーア中将との会話は、ターニャの後方勤務志望の意図が相手に勝手に裏読みされて戦闘狂と曲解される、作品通じてのすれ違いコメディの強力なパターンでした。

今回もすれ違いっちゃすれ違いなんですけど、前述のとおりターニャが西暦の知識のアドバンテージに限界を感じ始めていることと、もう一つの理由もあって割りとシリアスです。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

プクーって可愛いなw

ターニャはこれ、

「もっと戦略的な権限と裁量が大きい、参謀本部の『頭脳』になりたい」

という野心ゆえなのか、

「物理的・社会的なリスクの低い後方で楽をしたい」

なのか、今巻ではちょっとわかりにくい。というより両方なのか。

当初からずっと

・危険は避けたい

・帝国は勝たせたい

で、今巻も一貫はしてんのか。

なんか昔は参謀系じゃなくて事務屋になりたがってたイメージありますよね。

出世させると大隊長でいられない、という事情はあれど、素人目には正直、軍大学を出て戦時に戦功・大功を重ねた割りにはずっと少佐のままで、「出世しなさすぎ」にも見えます。こういうもんかな。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

もう一つの理由は、とある政治体制やその後継国家に対する、原作者の深刻な不信と痛烈な批判、になるんでしょうかw

これ、原作、いつ描かれたのかなあ。

もしくはコミカライズにあたって、原作からアレンジが入ってんのかしらん。

ターニャの口を通じて語られる「深刻な不信と痛烈な批判」が、ルーシー連邦の向こう側の、現実のとある国やその軍事行動を痛烈に批判しているようにも見えますね。

「ルーシー連邦の、西暦の経過の超越」の原因は、漫画的には例の変態1名が負ってる部分ですけど、どう処理するんだろう。

次巻からちょっと新展開でしょうか。

帝国の戦局というより国運としては、ターニャの活躍で保ってる反面、その活躍でリスクの風船が先延ばし・温存どころか膨らみ続けて、割れた時の被害がデカそうというか。

『幼女戦記』31巻より(東條チカ/カルロ・ゼン/KADOKAWA)

今巻の政治と軍事、首都と前線の空気感の乖離の描写を見ても、ターニャがいなくて傷が浅いうちに早々に「敗戦」しといた方が、(負け方にもよりますけど)帝国にとっても世界にとっても幸福だったように見えますね。

初期から、というか「未来回想」で帝国の敗戦が規定されている以上、作品コンセプト自体そうかw

 

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#朱のチーリン 2巻 評論(ネタバレ注意)

『三国志』蜀の後期に活躍した武将・姜維の、オリジナルキャラが結構活躍する、創作性の強い伝記フィクション。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

中国歴史もの漫画は、『封神演義』、『蒼天航路』、『キングダム』のようにハネる作品があったかと思ったら、早期に打ち切りの憂き目に遭う作品も多く死屍累々で、博打要素の強い不安定なジャンルという印象があります。

読んでる自分は横山光輝の漫画『三国志』とコーエーのゲーム『三國志』シリーズを通っておらず、社会人になって以降にゲーム『真・三國無双』シリーズ、北方謙三の小説『三国志』全13巻、漫画『蒼天航路』で触れた程度、「史書」も「演義」も直接触れていない、近年のフィクション・エンタメを通じてしか『三国志』に触れていない「にわか」で、歴も浅いです。

本作の主人公は姜維。

ja.wikipedia.org

作品タイトルの「チーリン」はたぶん「麒麟」、「天水(地名)の麒麟児」と号される姜維を指し、「朱」は本作における姜維のイメージカラーかな。

北方『三国志』では、魏から降って諸葛亮に師事し、その遺志を継いで北伐に執念を燃やすことになる武将。

『三国志』の錚々たる英雄たちが退場した後に現れた「遅れてきた青年」で、諸葛亮の頭脳と趙雲の武勇のいいとこ獲りで足しっぱなしにしたチートキャラ、ゲームなどのビジュアルの影響で源義経・沖田総司と並んで「美少年に描かれがちな歴史上の三大非業イケメン」というイメージ。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

本作でも例に漏れずイケメンで、既に諸葛亮から資質も認められています。

1巻、姜維の背景や因縁が語られるプロローグ的な1〜3話で幼少期・ローティーンぐらいの年齢、4話で時間が15年ほど飛んで青年期になって本格的に話が転がり始めますが、既に曹操も劉備も関羽も張飛も馬超も没後。

才知と武勇とルックスを兼ね備えたチート主人公、みたいなスペックの割りに語られることが少ないのは、この時代的な「『三国志』終わりかけ感」のせいでしょう。

残ってるのは諸葛亮、魏延、司馬懿、確か趙雲と孫権はまだ生きてるか、馬謖は今巻冒頭で死にました。周瑜は確かもう死んでる。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

姜維を主人公にすると、この「スター不足」に陥るんですが、この作品はそれを三つの別の要素で補っています。

一つは「宗教と民族」。

漢の時代に国教化された儒教をアイデンティティにマジョリティとして振る舞い、羌族などの異民族・少数民族を逼塞させる漢民族。

孔子の時代から既に数百年が経過したこの時代、価値観の異なる異民族への差別を正当化するツールに悪用される儒教。

二つ目は姜維のルーツに関するフィクション要素。

漢民族として価値観が儒教の影響下にある姜維ですが、羌族を祖先に持つ可能性が示唆されており、アイデンティティが揺らいで煩悶する様子が描かれます。

三つ目はオリジナル・キャラ。

姚宇という、姜維と同世代の羌族の少年〜青年が、「敵なのか、友なのか」という、姜維の対になる重要キャラとして登場し、ルーツとアイデンティティに揺らぐ姜維に「お前はそれで良いのか」と命題を突きつける役割を負っています。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

今巻は第一次北伐の敗戦撤退の直後から、第三次北伐まで。

配下の武将となった姜維に、諸葛亮は羌族の取りまとめを期待するが…

「蜀=多民族国家」に着目し、重要なオリジナルキャラを配置してるだけあって、儒教・中華の歴史と絡めて、異民族間の軋轢の描写が非常に多いです。

割りと成り行きで状況に流され気味、「親を殺されたのでその仇をとる」というシンプルな行動原理の姜維の動機が、今巻で早くも崩壊? ちょっと迷子気味。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

親の仇のはずの姚宇が味方になり、また漢民族のアイデンティティである中華史と儒教に対する疑問もかず多く呈されます。

オリジナル・キャラの姚宇の方がキャラとしての動機・目的意識やゴールが明確に定まっていて今のところ、主人公っぽい。

逆にアレですね、姚宇はオリジナル・キャラな分、姜維やその他史上の人物と違って、生殺与奪が作者の匙加減次第なところもありますね。

諸葛亮を継いで生涯を北伐に捧げた謎多き姜維の、動機に絡んでくるんでしょうかというか、もう絡んでるというか。

『朱のチーリン』2巻より(向井沙子/小学館)

『三国志』ものの割りに戦争の描写は淡白で、司馬懿も孫権も未登場。

姜維の動機と身の振り方、その背景となる情勢の描写を中心に、ある意味『三国志』らしくなく、でも読ませるなあ、という。

 

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#IDOL×IDOL STORY! 6巻 評論(ネタバレ注意)

『NEW GAME!』の

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得能正太郎の新作は、アイドル・オーディション・リアリティショーもの。

デビューの座とアイドルの高みを目指して、仲間&ライバルとしてシノギを削る少女たち。

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

渚 美海(なぎさ みみ)、22歳。通称「ミミ助」。

かつてインディーズ・アイドルとして舞台に立っていたが、向上心が低いメンバーに『スラムダンク』の赤木のようにゲキを飛ばす勇気を出せず、グループはそのまま芽が出ないまま解散。

現在は就職活動を控えた大学生、趣味はドルオタ、推しアイドルはインディーズ・アイドル「シュガースマイル」の七種依吹。

七種 依吹(ななくさ いぶき)、高校生。

かつてインディーズ・アイドルだったミミに憧れ、自分も「シュガースマイル」の一員としてインディーズ・アイドルデビュー。

向上心が低いメンバーに『スラムダンク』の赤木のようにゲキを飛ばしたことでメンバーに嫌われ、追放同然に脱退。

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

そんな彼女たちの目の前で、メジャー資本による新アイドルグループのオーディションが開催されることに。

ミミ助と依吹は互いを励まし合いながらオーディションに挑戦するが…

という、『スラダン』のゴリのように夢と向上心を持ちながら『スラダン』のゴリ(1年生時)のようにメンバーに恵まれず、というかアイドル活動への温度感が合わずに挫折した二人の元アイドルによる、オーディション・サバイバル漫画。

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

『NEW GAME!』は4コマ漫画でしたが、今作は非4コマの…「通常漫画」って呼び方、変よね。「非定型コマ割り漫画」?

よくわからん。「ふつー形式の漫画」です。

彼女らが受けるオーディションは作中でTV番組化されリアリティ・ショー仕立て。

サバイバル・オーディション、要するに「人が死なないハンター試験」みたいなもんなんで、主催者の性格が悪ければ悪いほど面白くなりますね。

あと予想はしてましたが、16人の候補者全員の「アイドルを目指す理由」、バックグラウンドをそれぞれ深掘りしていくようです。

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

予選を通過し、巨大クルーズ船に隔離された16人のアイドル候補者たちを待っていたのは、一次審査・二次審査ごとに1名が脱落していくサバイバル・レースだった。

1名が脱落して迎えた2次評価は、ポイント上位の白組・下位の黒組に分かれて、同一曲・同時ステージのパフォーマンスを審査員と観客の判定で競い、先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の5戦で争われるチーム戦。

ストーリーとしてはアイドルのオーディションをやってるだけの話ですが、ディティールや見せ方の、『NEW GAME!』の作者らしい泥臭さが白眉で、16人それぞれにバックボーンを背負わせつつ、優れた青春ものになっています。

「友情、努力、勝利、そして誰かの敗北」。

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

これ本当にここで誰か1人落とすのか? 最終5人しか残らないのか? もう16人グループでデビューすればよくね?

と、つい思ってしまいます。

作品序盤、自分は「主催者のアリアがだいぶ感じ悪いなあ」と思いながら読んでたんですが、前巻あたりからただの「解説役」に納まらない、だいぶ「師匠筋」らしいムーブやセリフ。

今巻に至っては、高みからリスペクトを込めて下界を見下ろす、

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「幽★遊★白書」18巻より(冨樫義博/集英社)

『幽白』の名シーン・名ゼリフの軀みたいでしたねw

今にしてみると、軀のセリフ、リアリティショー視聴者そのものみたいなセリフだなw

エモい以外にもちょっとした頭脳派ルールハック?もありつつ、テンポよく副将戦まで。

登場人物が多い分、それぞれドラマを抱えていて、「エモい」「これもエモい」「こいつもエモい」と、情緒の情報量がとても多いまま2次審査の終盤戦へ、

『IDOL×IDOL STORY!』6巻(得能正太郎/芳文社)

というところで次巻に続く。

 

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#スキップとローファー 11巻 評論(ネタバレ注意)

岩倉美津未(いわくら みつみ)、15歳(その後16歳)。

「石川県のはしっこ」、学年8人の中学から、東大法学部卒・中央省庁官僚を経て地元の市長となる大志を抱いて、叔父の住む東京の「高偏差値高校」に進学。

同級生8人の中学とはまったく違う大都会・東京の高校の人間関係、クラスメイトたちの「珍妙な田舎者」という視線が突き刺さる、予定に反してあまり順風満帆とは言えない高校デビュー・東京デビューと、思われた、が。

東京のクラスメイトたちは思ったより優しい良い人たちだった…

という学園青春もの。

「楽しい日々が始まったよ」

「きっと素敵な高校生活が待ってるよ」

と、まるで誰かを励ましているかのようで、タイムスリップして高校生活をもう一度過ごすのも悪くないなあ、なんて思ってしまいます。

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

「若い・狭い・本人の苦悩はそこにはない」とは言え、これ「持たざる者」のつもりで他人に言葉をぶつけてる側の子も、健康に東京有数の進学校で学ぶ、相対的・世間的には「とても恵まれてるエリート」の側なんですよね…

「生きづらさは人それぞれ」

ならば、彼には恵まれて見える志摩くんだってそうだろうに、面と向かって「傲慢」て。

さて。

高校2年生、夏休みが終わり、今巻は中高生主人公の青春ラブコメ漫画の華、修学旅行編。

なんですけど、本作、恋愛要素はあれど「ラブコメ」ってほど恋愛要素が真ん中じゃねえしな、という。

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

美津未たちの「一生に一度の高校の修学旅行」、そして夏休みの能登半島への帰省でも楽しむみんなの輪の中でどこかぎこちなかった志摩くんと、クラスのモテ女子・八坂にスポット。

演劇部の「フランケンシュタインの怪物」役に、手応えと、他人の評価に依らない満足を感じる志摩くん。

そんな志摩くんとミカのクラスは、修学旅行の班割りでの志摩くんを巡る、女子の政治的駆け引きでめんどくさいことになっていた。

一方、美津未のクラスでは、美津未は親友のメガネ女子・誠や馴染みのメガネ男子・氏家と同じ班だったものの、謎多きモテ女子・八坂ちえりも同じ班だった。

そこそこ面倒くさかったクラスのラブ相関図は、「ラブコメの華」修学旅行の舞台で美津未と関係あったり関係なかったり、様々に弾けてだいぶ面倒くさいことに…

という修学旅行巻。

アレですね、「モテ側の精神病理」みたいなw

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

結月もモテますが、容姿と素でモテ過ぎて生きづらさになってる結月と違って、処世術のついでに容姿と合わせてモテてそんなに支障もない志摩くん、容姿と合わせてモテ目的でキャラ作ってモテてる八坂、の二人の「モテ側」の内面を覗く巻。

美津未への未練?でもやもやしっぱなしの志摩くんは、

「自分を偽らないと愛してもらえない」

「偽った自分を愛されても満たされない」

のやつなんかな。赤坂アカもライフワークのようにしつこく擦ってるテーマですね。

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八坂はなあ…

「自分もモテ側です」と言うつもりはないんですけど、ある意味、自分が一番感情移入できるの八坂なんですよね。そういう読者、実は多いんじゃないかな。

反面、二人ともあまりにも「自分中心で世界が回ってる」のが見え透いてしまっていて、クラスにいたら、ミカじゃないけどちょっと距離を置きたい、深く関わりたくない。

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

『ハッピー・マニア』に限らず、恋愛・性愛で他人に求められる・チヤホヤされるのって、「恋は盲目」で欠点にも目を瞑って自分の良いところだけを見てくれて(冷めたら反動で欠点ばっか目につくんですが)、「親の無償の愛」と並ぶ究極の「他者からの承認」の一つですよね。

こっちはたとえ

「恋をしたい」「彼氏/彼女が欲しい」

と繋がってなくても、異性からチヤホヤされる・モテる・求められるのは、心の深いところで気持ちがいいし。脳汁出ますよね。

もちろん度が過ぎると、結月のように生きづらさになってしまうんですが。

志摩くんと八坂が、親に問題ありそうなのが、また…

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

「青春の内面の葛藤の禅問答の答え、他人からしたら意味不明」問題。

高校生の美津未が全面的にそうだとは言いませんが、他人の評価より自分の軸を貫くって、大人になってもなかなかできねーですからね。

正直、読んでて、今巻で志摩くんが自覚したように、美津未に今の志摩くんがふさわしいとも、すぐくっついて二人が幸せになるとも思わないし、美津未については安定感や信頼があってあんまり先々を心配してないんですが、志摩くんと八坂については

「もうちょっと自分で自分を褒められる人間に、

 そのぶん他人に目を向けられる人間に成長して欲しい」

と願ってしまいます。

いったい何様のつもりなのかwww 自分も!自分もそうなれるようにがばります!

あと単純に「顔が良いキャラが好き」というのもあるんですけど。

さて。

『スキップとローファー』11巻より(高松美咲/講談社)

本作の主人公ヒロイン・美津未の出身地は石川県の架空の町「鈴市凧島町」、モデルは富山出身の作者の母方の実家がある石川県珠洲市。

ご存知のとおり大きな地震がありました。

ja.wikipedia.org

作者は前巻のあとがきで自身の過去のスピーチを引用して

人生が後悔と喪失との戦いのように思えた時、

そればかりではなかったと思わせてくれる友人のような

ただ寄り添える作品になれたら幸せ

と記していました。

「スキップとローファーと能登」と題したチャリティーサイトが先日開設されたようです。よろしければ是非。

skiloa.kodansha.co.jp

第1話、志摩くんはあんま変わらんけど、美津未の顔けっこー違うなw

 

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