#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#逃げ上手の若君 11巻 評論(ネタバレ注意)

「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」の松井優征の現作は、鎌倉時代末期〜南北朝時代〜室町時代初期を舞台にした歴史物。

設定・登場人物は史実ベース。

デビューから3作連続10巻到達は「週刊少年ジャンプ」本誌史上、初めてになるとのことです。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

鎌倉幕府のトップ・執権として世襲で地位を継いできた北条氏の嫡子の少年・北条時行。しかし、幕府と敵対する後醍醐天皇側に寝返った足利高氏(尊氏)により、鎌倉幕府は滅ぼされてしまう。

北条氏の滅亡により大切なものを全て奪われた時行は、信濃国の国守にして神官の諏訪家を頼りに落ち延び、足利への復讐を誓う。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

という伝記もの。シリアスに史実を追いつつも、演出としてギャグコメディ色も強い作品。

主人公・時行の持ち味は強い生存本能に基づく逃げの天才。

1335年3月、信濃動乱を経て、時行が歴史にその名を轟かしWikipediaに載るレベルの「中先代の乱」。「為に作品が始まったエピソード」、時行の人生のハイライトの一つ。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

信濃国での諏訪一党による挙兵、北条時行としての名乗りを経て、進軍を開始、目指すは、京で全国を睥睨する高氏に代わり直弟・足利直義が治める、武家の総本山、鎌倉。

迎え撃つは直義の親衛、関東最強の庇番衆。渋川、岩松、斯波、吉良、上杉、一色、今川、石塔。

破竹の勢いで庇番衆を半壊させ討ちとって、鎌倉の眼前に迫る北条軍を最後に迎え撃つのは、足利尊氏の直弟、当人も「英傑」「俊才」「切れ者」と名高い、足利直義だった。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

というわけで、中先代の乱、鎌倉入り前のラストバトル。

唯一の弱点が「戦下手」とされる直義は、しかし策士だった…

「戦下手」とされる直義をいかに活躍させるか、歴史に忠実なのか、作者の苦心惨憺なのか、直義ってどんなだったっけ。

今巻で主人公・時行の念願の、鎌倉帰還。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

堅牢とされる鎌倉がバスケットボールのように奪還され合うのは、ちょっと『銀英伝』のイゼルローン要塞を思い出しますねw

同時に、「魔術師、還らず」の展開も思い出してしまいますが。

思い出すついでに、前にも書いたっけな、主人公の北条時行が美少年というか可愛い男の子で、ビジュアル面でヒロイン枠に片足突っ込んでるんですが、同じく中世代の伝記ものを描いてる、ゆうきまさみの『新九郎、奔る!』でも

『新九郎、奔る!』6巻より(ゆうきまさみ/小学館)

可愛い男の子がヒロイン枠に片足突っ込んでたんですよね。

「武士階級のお稚児さん趣味の時代だったから、伝記もの漫画でそれが再現されるのは当然っちゃ当然」

なんですが、『逃げ上手の若君』の松井優征も、『新九郎、奔る!』のゆうきまさみも、過去作を見ても

『暗殺教室』19巻より(松井優征/集英社)

『機動警察パトレイバー』19巻より(ゆうきまさみ/小学館)

美少女と見まごう可愛い男の子を現代劇でも描いてんですよね。

中世代の伝記フィクションだからお稚児さん趣味が描かれるのか、お稚児さん趣味を描きたいから中世代の伝記フィクションを選ぶのかw

田中芳樹も、美少年キャラのお稚児さん匂わせ的なエピソード好きでしたよね。

『逃げ上手の若君』11巻より(松井優征/集英社)

まあ今どき、美少女と見まごう可愛い男の子が出てくる漫画なんて、珍しくもないっちゃないかw

 

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#ウィッチウォッチ 13巻 評論(ネタバレ注意)

『SKET DANCE』『彼方のアストラ』の作者の現作。

乙木守仁は、超人的な身体能力を持つ鬼の末裔であることを隠して普通に暮らしていた。

守仁の高校入学を控えた春休み、長期出張で海外へ出発する父と入れ替わりに、魔女の聖地に修行に出ていた幼馴染のニコが帰還。

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

両家の同意のもと二人は一緒に暮らし、守仁はニコの使い魔として彼女を予言された災いから護衛することに。

6年ぶりに再会したニコは可愛らしく、しかし強力ながらどこかポンコツな魔女に成長していた…

という、幼馴染の鬼ボーイ・ミーツ・魔女ガール・アゲインに、ニコの使い魔となる同居仲間が守仁以外にも天狗、狼男、吸血鬼と増えて、同居日常ギャグ学園ラブコメたまにシリアスバトルな漫画に。

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

シリアスなバトルもので人気を博したカッコよ可愛いキャラたちの、ギャグだったり緩かったりする日常や恋愛・ラブコメをもっとじっくり見てみたい、というのは人気作であれば多かれ少なかれ発生して、多くの場合その役割は公式スピンオフや二次創作に託されることになるんですが、

「一次創作内で自分で全部やっちゃおう!」

「バトル・ギャグ・コメディ・ラブコメ・日常・ホラー・ファンタジー、少年漫画のジャンルを全部一作品内でやっちゃおう!」

という作品。

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

ギャグコメディな日常をやりつつ、シリアスに悪役と対峙するバトル要素と、ニコと守仁のラブコメ要素が大きな縦軸に。

こういう作品では、シリアス要素とラブコメ要素の進展がある程度連動して、クライマックスに同時に山場を迎えるのが理想で定番なんですが、前巻でラブコメ要素がけっこう動きました。

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

「ラブコメの進展とシリアス要素の進展は連動させて、終盤の絡み合って収束させる」

のは「セカイ系」の隆盛以前からの少年・青年向けフィクションの鉄則なんですが、ちょっと油断させられたというか、本作はこれまでシリアス回とラブコメ回が綺麗に分離されてたので、自分は前巻時点で今巻(厳密には今巻相当の連載時点)の展開はまったく予想できていませんでした

「11月」というのを繰り返し読者にインプットした作者の罠に嵌ったというかw

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

ほへー。なるほど。

魔女の能力「アラート」によって平穏な日常が突然ぶっ壊される感覚を、読者として共有させられる展開。突然訪れるクライマックス。

ラブコメ展開からシームレスに、ジャンプらしいタイマン×4展開へ。

やりおる。というところで次巻に続く。

連載を読んでいるのでこの先の展開も知ってるんですが、このバトルの顛末、その末のこの作品ならではの「作品の味変」も、唸らされるものがあります。

というのはまた、次巻以降で。

なお、本作の第1回キャラクター人気投票の結果も今巻で発表されています。

『ウィッチウォッチ』13巻より(篠原健太/集英社)

自分の個人的な好みで思う「順位」とはだいぶ乖離した結果ですが、1位のキャラ含めて「なるほどな」とある種の納得感。

ジャンプ漫画はこの手のキャラクター人気投票の結果が本編の展開に与える影響が少なくないので、その辺も興味深いですね。

 

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#王家の紋章 69巻 評論(ネタバレ注意)

「ガラスの仮面」と同年、1976年から秋田書店の「月刊プリンセス」で連載開始された少女漫画。

作者の細川智栄子は88歳。『ガラスの仮面』作者より16歳年長。

1月1日がお誕生日でいらっしゃるので、年明け早々89歳になられます。

88歳で現役で年イチで単行本を出しているというのは、『ガラスの仮面』をはじめ、いろんな漫画の読者にとって希望の光ですね。

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

近刊は「細川智栄子あんど芙~みん」として、「芙~みん」なる人物が共著者としてクレジットされています。おそらくアシスタント的な役割や作話の相談役を果たしていらっしゃるんじゃないかと思いますが、こちらは5歳下の実妹さんとのことです。

アメリカの財閥令嬢でエジプトに留学中の高校生・キャロルは、古代の墓を発掘したことから王家の呪いを受け、古代エジプトにタイムスリップする。いろいろあって、未来を識る「ナイルの姫」として古代のエジプト王・メンフィスと恋仲になり、結婚して「ナイルの王妃」となったキャロル。

その後、アレンジや変化球はあれど基本的に

①キャロルが近隣諸国のどれかにさらわれる

②メンフィスが救出に向かう(戦争)

③束の間のイチャラブ

④なにかの拍子で現代にタイムスリップ(古代の記憶は消えてる)

⑤行方不明扱いだった現代で実家に保護され穏やかな日々

⑥なにかの拍子で古代にタイムスリップ(古代の記憶を思い出す)

の基本的なサイクルを45年69巻かけて繰り返している作品。

誌面はやや白くすっきりした気がしますが、画風・演出ともに70年代の空気が50年の時を超えてそのまま生き残っているような作品。

演出もこう、何回もやる、何回も言う、っていうw

同じことを何度でも嘆く、何度でも喜ぶ、何度でも怒る、という繰り返しで感情を表現するスタイル。

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

ドラマティックな感情表現や美麗で豪奢な描写が、ちょっと宝塚歌劇が思い浮かびます。

前巻以前以来、アルゴン王によるエジプトへの浸透侵攻と、トラキア王によるナイルの姫(キャロル)暗殺計画が同時進行、今巻でそれぞれが一旦決着。

二人に次ぐ副主人公格のヒッタイト国・イズミル王子は、相変わらずトラキア王に歓待の名目で幽閉され中。

トラキア王の娘・タミュリス姫がイズミル王子に一目惚れしたことから、なんとか娘の片想いを成就させてやりたい、そのために

「よ〜しパパ、イズミル王子を監禁しちゃうし、イズミル王子の想い人のナイルの姫は暗殺しちゃうぞ〜」

というミラクル親バカなトラキア王。ちょう迷惑。

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

イズミル王子は囚われのピーチ姫というか、なんか「セックスするまで出られない城」みたいになっとんなw

イズミル王子、ツラがいいのでたぶん女性読者人気があって、作者からも気に入られている「アルド・ナリス枠」かと思うんですが、タミュリス姫に横恋慕されトラキア王に幽閉されて一見気の毒な境遇に見える反面、自分も人妻のキャロルに横恋慕して誘拐したりしてきたので、あんま他人のこと言われへんやんけw とは思いますw

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

今巻、ようやく幽閉からの脱出の兆しが。

こうなったら展開早い(?)作品なので、現実の来年か再来年ぐらいにはようやく脱出できそう。

あと今巻の見どころとしては、主人公夫婦の旦那の方・メンフィスが

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

「ムカつく」

って言いました。おお、令和(?)ナイズ。

あと、確かこの作品においてキャロルにとっての「現代」は西暦何年なのか、詳細ははっきり描かれていないんですが、1巻では

『王家の紋章』1巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

「今世紀に入って七十いくつかの王の墓が発見され〜」

と、連載開始の1976年に合わせて20世紀であることが示唆されていたんですが、今巻のキャロルのモノローグを見ると

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

「21世紀」に変更になっているようです。

同年連載開始の、昭和ワールドばりばりの『ガラスの仮面』も

『ガラスの仮面』49巻より(美内すずえ/プロダクションベルスタジオ)

近刊では携帯電話が登場するなど、時代に合わせて現代ナイズされている部分があります。

『王家の紋章』、『ガラスの仮面』の2作品の連載期間のうち、1976年〜2000年が25年間なのに対し、2001年〜2023年が23年間ですから、あと2年で連載期間の21世紀分が20世紀分に並んでしまうんですね。

ちなみに電子書籍の1巻の奥付を見ると、平成25年時点で版数が142版です。

『王家の紋章』1巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

 

いやー、すんげえ。

1巻でのミイラの発掘の時点で、メンフィスが18歳で死亡することが示唆されており、その時キャロルはどうなるのか。

引き続きガチンコで今後の展開を楽しみにしたいと思います。

『王家の紋章』69巻より(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)

ようし、俺も長生きするぞう。

ではまた、来年お会いしましょう。

 

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#巨乳純情剣 紗希 3巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

江戸時代、元禄年間、信州木谷藩。

藩の中老を務める真野寛兵衛の一人娘・紗希(15)は、剣で身を立て剣術道場を構える叔父・重蔵の手ほどきのもと、近隣でも有名なじゃじゃ馬として育っていた。

元許嫁・統一郎の奸計に嵌り、父から勘当された3年後、その父も統一郎の奸計で切腹、母も後を追って自害。

18になった紗希は両親の仇を取るべく、叔父の剣士・重蔵、下働きで真田忍軍の末裔・忠介とともに、憎き統一郎を追って脱藩し、江戸に上るのだった…

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

リイド社系で18禁作品を中心に、時代劇&エロスを得意分野とする作者が、18禁要素を封印してあえての一般作品としての剣劇ハードボイルド時代劇お色気アクション。(※本作は18禁作品ではありません)

時代劇ハードボイルドらしさが堂に入った描写、抑えても滲み出るフェチズムとエロス!(※本作は18禁作品ではありません)

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

親の仇を求めて旅する凄腕美少女剣士が、統一郎が差し向ける刺客を剣を振るってバッタバッタと薙ぎ倒し、おっぱいぷるんぷるん!(※本作は18禁作品ではありません)

全エピソードにわたって乳首券が発行され、入浴中に襲われたり、服がビリビリに刻まれたり、睡眠薬で眠らされて全裸で吊るされたりと、やたら素っ裸で闘います。(※本作は18禁作品ではありません)

なんちゅうタイトルだ、と思いまして。

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

江戸にたどり着いた一行は長屋を生活拠点として、叔父は剣友が営む道場の道場主代理を務めて資金を稼ぎ、忍者・忠介は統一郎の行方を捜索し、そして紗希は服を脱いだり人助けをしたり剣術試合に出場したり修行をしたり服を脱いだりしていた。

今巻で完結。

赤穂浪士四十七士随一の剣客として名高い堀部安兵衛より託された秘太刀「無限の剣」を修行の末に会得した紗希。

同時に忍者・忠介の捜索により、憎き仇・統一郎の居どころが明らかに。

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

統一郎は巨額の資金を背景に江戸に近い無人島を買い取り、そこを闇カジノリゾート化、幕府の要人を接待・贈賄しつつ、裏では武力による江戸の大火と、どさくさ紛れの幕府・将軍家の乗っ取りを企んでいた。

紗希たち一行は、統一郎の王国と化した島に乗り込んでの敵討ちを目論むが…

最終巻らしく豪華な連戦。

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

島に渡る際には巨大ザメ、闇カジノリゾートの賭け闘技場では人喰い虎、あとサムライスピリッツみたいな人たちとの連戦。

幕府の奉行方が島になだれ込む中、統一郎とのラストバトル!

連戦詰め込みすぎて「あるいは打ち切りか」と勘ぐりたくなる息もつかせぬチャンバラに次ぐチャンバラですが、正直、無駄なくテンポよく見せ場に次ぐ見せ場に加えて相変わらずおっぱい丸出し、とサービス精神旺盛なこの作品のエッセンスを凝縮したような最終巻。戦うたびにやたら服が脱げて『けっこう仮面』みたい!

「ラスボス倒して用が済んだんで、じゃあ終わり!」

という余韻もクソもない淡白なエンディングですが、古き良き昭和の時代劇映画や香港カンフー映画のような風格を感じます。気のせいかも。

「今どきの漫画」として万人向けの大ヒット候補とは思わないですけど、自分は好きです。

「お前らの大好きな、剣豪、チャンバラ、仇討ち、美少女、おっぱい」

というわかりやすい作品コンセプトに加えて、

「お前らの大好きな、巨大サメ、闘技場、サムライバトル、幕府転覆」

という欲張りセットな最終巻。

『巨乳純情剣 紗希』3巻より(八月薫/鈴木涼生/リイド社)

面白かったし、3巻というサイズも良いですよね。

次回作もぜひ剣豪ものを描いて欲しいと思います。なんだったら『紗希』の続編でもw

お疲れ様でした。

 

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#戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル 2巻 評論(ネタバレ注意)

昨年、TV放送40周年を迎えたTVアニメ『戦闘メカ ザブングル』のコミカライズ。

名古屋テレビ制作、テレビ朝日系列で放送の「サンライズ土曜5時半枠」(中京圏・首都圏)で1982年放送開始。

富野由悠季がTVアニメ監督としてクッソ働いてた時期で、いわゆる「スーパーロボット」路線から「リアルロボット」路線への過渡期の作品。

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

砂漠と岩と泥の惑星・ゾラ。

無菌のドーム内で暮らす少数の「イノセント」と呼ばれる超・上流階級が支配する中、一般庶民「シビリアン」は乾いた大地で「ウォーカーマシン」と呼ばれるメカを駆って、ガンマンで溢れた西部劇のような、「どんな犯罪も3日間逃げ切れば時効」という無法の大地でたくましく生き抜いていた。

シビリアンの少女・ベルは、複数のウォーカーマシンに襲われているカーゴを見かねて助太刀に入るが…

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

という、ガール・ミーツ・ロボットな出だしで始まるバトルロボットもの。

が、ガール!?

というわけで、コミカライズにあたって主人公が男子から女子に変更になりました。

原作アニメの完全なコミカライズを目指すものではなく、同じ世界観・同じメカ群を使った、パラレル作品のようです。

「アナザーゲイル」ってそういう…

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

作画の作風も、80年代の「コロコロ」というより「ボンボン」のTVアニメ・コミカライズの雰囲気を令和ナイズした雰囲気。

元が80年代前半の古いアニメで割りと荒唐無稽な分、どこかレトロな画風がワイルドでハードボイルドな作品世界にマッチしてます。

「ニュー・レトロ」とでもいうのか、70年代80年代リスペクトの流れというか。

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

ロボットのサイズ、性能、運用の仕方は、ロボットものだと『パトレイバー』が近いのかな。重機の延長線上のロボット的な。

西部劇っぽいというか、フロンティア(と呼ぶには少々退廃的ですが)の荒々しさというか、まるで任侠の世界。

武装による暴力が蔓延っていて、当然、警察も裁判所もないのでサバイブするためには自らも自衛のために武装して、逞しくなければ生きていけない、という世界観。

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

今巻で「復讐代理人」業者も複数登場、さもありなん、という。

一見コミカルタッチな画面ですが、世界観らしくというのかな、人の生命があっさり散って生きます。

勧善懲悪で割り切れない、守るべき者が罪を犯す、被害者と加害者が入れ替わる人の世のやるせなさ。

『戦闘メカ ザブングル アナザー・ゲイル』2巻より(田中むねよし/富野由悠季/鈴木良武/小学館)

そんな世界で、少し夢、少しの思い出、少しの正義感と、戦闘メカ・ザブングルを持たされた主人公の少女・ベルはどう生きるのか。

自分は幼少すぎたのでTVアニメ『戦闘メカ ザブングル』の記憶はもうほとんど薄れてしまいましたが、すごいトミノっぽいというか、トミノ版『君たちはどう生きるか』というか。

80年代の骨組みの作品らしく荒唐無稽で、良く言えばワイルド、悪く言えば行き当たりばったりな荒々しい作劇、見た目もジュブナイル的な子ども向けっぽさを感じさせますが、富野が子ども向け作品に込めた、なんていうのかな、人間と人生と生命の本質に対する問いかけみたいな芯の硬さが、しっかり引き継がれたコミカライズであるように思います。

なにより読んでる間、唯一鮮烈に頭から消えないTVアニメ主題歌の名曲「疾風ザブングル」が、

疾風ザブングル

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【第1話】戦闘メカ ザブングル〔サンチャン〕 - YouTube

「はやてのよお〜に〜ザブングルぅ〜!ザブングルぅ〜!」

と、読んでる間ずっと頭の中を流れ続けて勝手にドラマを盛り上げてくれるので、その分、得してる漫画だな、とw

ザブングル、かっけーな。

 

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#負けヒロインが多すぎる!@comic 2巻 評論(ネタバレ注意)

新登場のブラコンですわ口調の妹ちゃん、可愛いねw

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

ラブコメに一家言持つ自称「違いのわかる男」(意味わからん)の男子高校生・温水和彦は、

知り合いを避けて隣町のスタバでラブコメラノベを読んでいたが、隣の席でクラスメイトの男女が「ラブコメ漫画の最終回の1話前の主人公とサブヒロイン」みたいな会話をしている場面に遭遇してしまう。

そんな失恋シーンを和彦に目撃されてしまったことに気づいた杏奈は激しく動揺し、持ち合わせがないのにスタバでやけ食いして和彦に借金した上に、和彦相手に延々と失恋の愚痴を繰り広げるのだった…

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

という、失恋シーン目撃から始まるボーイ・ミーツ・ガール。

借金返済の代わりに杏奈が日々の弁当を用意することになり、毎日昼飯を食いながら杏奈の愚痴を聞かされる他、杏奈以外にも続々と「負けヒロイン」が和彦の周囲に現れ吸い寄せられるように和彦に絡んでくる…という、複数ヒロインの若干ハーレム風味。

全員フラレナオン。

『神聖モテモテ王国』1巻より(ながいけん/小学館)

主人公がラノベ・なろう系好きということもあり、文芸部に入部。文芸部も今どきらしく(?)ラノベ・なろう系好きが集まっていて、投稿作を各自で仕上げる夏合宿。

2巻にして早くも、海だ!水着だ!うひゃほう!という海回・水着回。

若いオタク男女が集まって群像劇風に青春・恋愛模様がわちゃわちゃしてて、ちょっと「ラノベ者」「なろう者」の『げんしけん』という雰囲気に。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

同じオタクでも自分は「ラノベ者」「なろう者」とは少し畑が違うので、主人公や部長が語るラノベ・なろう系のノウハウには特に共感はありませんが、癖のないプレーンでモダンな方向に強まった美少女画力で、道中とても眼福なラブコメ漫画。

ごちゃごちゃわちゃわちゃしてて目が滑るギリギリで、読者に親近感を持たせるための美少女のポンコツ描写もありきたりではあるし、『かぐや様』のマキちゃんみたいなの

『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』10巻より(赤坂アカ/集英社)

いっぱい出せばウケるんじゃね?みたいな下心をなんとなく感じなくもないんですが、それらの全てが

「失恋の胸の痛みを逃げずに受け止める女の子の涙の美しさ」

の前フリというかタメというか、

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

ここぞのシーンのセリフと絵、演出の美しさ、良いんですよね。

いろいろ変化球なラブコメ作品なのに、ここだけ奇を衒わないド直球。

大河系やハードボイルド系の作品で

「死に様は生き様を映す鑑(かがみ)」

のようなことがよく言われますが、それに倣えば

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

「失恋の涙は片想いの恋の思いの丈を映す鑑」

とでも言うか。あまり趣味の良い美的嗜好とは言い難いですが。

ラブコメ漫画はたくさんありますが、「推しヒロイン」の失恋に荒れる読者の発言権がSNSによって高まったせいか、逃げずにヒロインの失恋の胸の痛みを描く作品は最近はずいぶん減った気がします。

『負けヒロインが多すぎる!@comic』2巻より(雨森たきび/いみぎむる/いたち/小学館)

「失恋だってエモいんだ」

「失恋だって青春だ」

という当たり前のことを、がんばって引き続き言い張り続けて欲しいな、と思います。

 

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#ローズ ローズィ ローズフル バッド 4巻 評論(ネタバレ注意)

神原正子、40歳、独身、職業漫画家。賃貸の一軒家に5つ下で世話役アシスタントを務める妹と二人暮らし。

少女漫画家を志してデビューしたものの、23歳の時に少女漫画とは畑違いのゆるキャラコメディもの?の『ファブ郎』がヒットし、以来『ファブ郎』を長期連載。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

プロとして食っていける分には収入も生活も安定し、『ファブ郎』も出版社の漫画賞を受賞するなど、順風満帆とまではいかないものの漫画家として悪くないキャリアだった。

「プロとして」「『ファブ郎』」、って『ザ・ファブル』みたいだなw

『ザ・ファブル』2巻より(南勝久/講談社)

自身の40歳到達と、妹の結婚で一人暮らしとなるタイミングが重なったのを機に、若かりし頃の夢「少女漫画が描きたい」という情熱に再び取り憑かれる。

少女漫画家として「キラキラ」のインプットが足りないようだ、との認識が自他共に一致し、かくして正子は「キラキラ」をインプットすべく、「恋活」を開始するのだった…

という、少女漫画の大家・いくえみ綾による漫画家漫画。

鷹野さんはおっさんだけど、紳士だし、いくえみ作品の男性キャラらしく可愛いよね。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

カフェで美少年大学生・廉と、そして漫画賞の授賞式でドラマ制作を手掛けるバツイチイケメン・鷹野と知遇を得た正子。彼らは親子だった。

廉も遠巻きに応援する中、正子は鷹野といい感じの仲になりつつあったが…

20代の若者をキュートに描きつつも、アラフォーの男女がとてもチャーミングに描かれてます。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

プライベートでは鷹野との恋も順調に進展し、仕事では念願かなって正統派少女漫画作品の連載が好評、1巻発売、重版。

「恋と仕事の両立」を果たしているように見えたが…

 

漫画家に限らず、一般の勤め人でも、ある話です。

『ローカル女子の遠吠え』6巻より(瀬戸口みづき/芳文社)

ちなみにアラフィフの自分も未婚で独身です。一緒にすんな。

鷹野側の立場だったことも、正子側の立場だったこともあって、それぞれの気持ちが痛いほどわかる気がします。

『おいしい関係』の千代ばあと百恵なら。

『おいしい関係』14巻より(槇村さとる/集英社)

『おいしい関係』15巻より(槇村さとる/集英社)

あと昔、ネトゲにのめり込みすぎて遠距離恋愛の彼女と別れたことがあります。一緒にすんな。

「漫画家で」というと自分は、本作作者であるいくえみ綾、高橋留美子、一条ゆかり、片岡吉乃、そして手塚治虫の漫画家人生(いずれも詳しくは存じ上げませんが)のことを、ぼんやり思い浮かべました。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

同性なせいか、主人公の正子よりも、むしろその恋のお相手の鷹野に、声をかけてやりたい気もします。

が、かける言葉が浮かんでは消えていきます。

 

「今はタイミングが悪い、現状維持で様子を見よう」

と無責任に言うのは簡単なんですが、もしかしたら正子の現状は一時的なものではなく、神様に見出されて生涯を「それ」に捧げる人生が、ちょうど始まったところなのかもしれません。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

「漫画史に残る『漫画バカ』の手塚治虫でさえ結婚して子どもも授かったんだから」

は、時代の違い、ジェンダーの違いで、何の参考にもならないでしょう。

 

鷹野が悪いわけでも、正子が悪いわけでもなく、ダメ出しやアドバイスできることなんて何もありません。

いくえみ綾の漫画家人生、高橋留美子の漫画家人生、一条ゆかりの漫画家人生、片岡吉乃の漫画家人生、手塚治虫の漫画家人生、ついでにAQMの読者人生、いずれが最も幸福だったか優劣をつけようとすることに、何の意味もないのと同じように。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』4巻より(いくえみ綾/集英社)

ただただ、どうなるんだ正子、どうなるんだこの漫画。

 

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#平和の国の島崎へ 4巻 評論(ネタバレ注意)

30年前、国際テロ組織「LEL(経済解放同盟)」により羽田発パリ行きの航空機がハイジャックされ、機はテロリストによって中東の空港に降ろされた。

乗客は全員、殺害されるか、洗脳され戦闘員としての訓練を施されLELの構成員、テロリストに育て上げられた。

30年後、当時児童だった島崎真吾はLELの拠点を脱出して日本に帰国、同様に脱出した同じ境遇の「日本人」たちと、日本国内で公安警察の監視を受けながら生活。

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

喫茶店の店員や漫画家のアシスタントのバイトをしながら、日本語の漢字や現代の日本の文化に少しずつ馴染もうと努力していた。

しかし、LELは脱出者への厳しい報復を身上としており、島崎たちの身辺にもテロリストの追手が少しづつ忍び寄っていた…

というハードボイルドもの。

「足を洗った殺し屋が一般人として生活」という雑に括る限りにおいて、建て付け『ザ・ファブル』によく似ていますが、「カタギになったアウトロー」は能力がある漫画家が真面目に描けば面白くなるに決まっている建て付けで、昔から『静かなるドン』やら最近だと『島さん』やら、その他ハードボイルド小説などでも定番の設定。

組織が「幻の殺し屋組織」から実在のモチーフを想像させる「国際テロ組織」に置き換わったことで、より血生臭く生々しい作品になりました。

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

島崎は1年以内に戦場に復帰してしまうことが『100ワニ』方式のカウントダウンで作中で予告されています。ある意味、日本を去って戦争に復帰してしまう『シティーハンター』。

 

先日、『ファブル』は第二部の完結巻、9巻が発売になりました。

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建て付けがよく似ている、と先述しましたが、今巻はその『ファブル』9巻と好対照な巻。

「足抜け」した元・戦闘員の島崎に対し、LELの戦闘員一個小隊40人が迫る。

島崎は、合理性を重んじるテロ組織の撤退を促すため、「リソースに著しい損失を与える」こと、暗殺部隊の皆殺しを決意する…

『ファブル』のアキラが、

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

十数人の殺し屋たちと戦いながらも手加減し「峰打ち」して「不殺」を貫いたのに対して、島崎は合理的な目的のため正当防衛を超えて確実な殺意を持って、30人以上のテロリストを殺害します。

『ファブル』の作者がアキラとヨウコにだけは執拗に人を殺させないのと好対照。

片や人を殺さないことで、片や人を殺すことで、

「殺し屋であったということ」

を浮き彫りにしようと試みているかのような。

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

アクション面では、『ファブル』では描かれない「確殺」の意志を込めた殺陣が見られて、こういう表現は不謹慎かもしれませんが「眼福」なアクションシーン。

頭部や臓器の急所に銃弾を撃ち込み刃物を突き刺し、少年誌どころか青年誌でも滅多に見ないようなダーティで「殺した手応え」を伴う戦闘描写、「殺すため」に洗練された暴力描写。

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

『ファブル』のアキラが「聖人」に見えてしまうような(実際、彼はある意味そうなりつつありますが)、ダークヒーローぶり。

アクションシーンやバトルシーンがメインディッシュの一つである少年誌〜青年誌において、「『不殺』や『非暴力』を誓う主人公」という設定は珍しくありませんが、

『お茶にごす。』1巻より(西森博之/小学館)

『ヴィンランド・サガ』26巻より(幸村誠/講談社)

本作のように、「足抜け」後にもここまで殺す主人公は珍しい。

多くの「不殺」主人公の作品で悪役を死なせる必要がある時は、事故や第三者の介入などで「主人公の手を汚させない」展開がほとんどです。

島崎は「殺せない」のではなく、平穏に暮らすという目的に対して「殺さない」ことが合理的であればそうするだけで、「殺す」方が合理的であればそうする主人公。

船橋やアキラと比較するのはフェアではないとは思います。彼らはここまで執拗に組織的に報復・粛清の対象として狙い撃ちで度々襲撃されたりは、していませんから。

作者の、主人公に対する、あるいは「人を殺す罪」に対する、ある種の諦観を感じます。

「人を殺した罪」を赦す資格を持つのは、いったい誰なのか。

数十人・数百人を殺した殺し屋が、「暴力の連鎖」から逃れて幸せになることは可能なのか。

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

ここにはご都合主義が在ったとしても、美談は在りません。

「敵を殺し尽くせば平和になる」

という愚かで極めて局所的・一時的な現実主義と、現実世界の時事ニュースの写し絵としての、やるせなさがあるだけです。

多くの作家が「元・殺し屋」の主人公に対して、正当防衛と不殺と贖罪を通じて

「赦し」

「やり直し」

「救い」

を与えようとする中、本作は島崎に対して

『平和の国の島崎へ』4巻より(濱田轟天/瀬下猛/講談社)

「赦されない」

「やり直せない」

「救われない」

と、何の留保もなく、ただ告げているかのような。

 

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#ブルーピリオド 15巻 評論(ネタバレ注意)

男子高校生・矢口八虎は、金髪ピアスで夜遊びしたりタバコ吸ったりしつつも、将来のために勉学を欠かさず学業成績優秀、コミュ力もばっちりというリア充DQNエリートな万能人間だったが、情熱を注ぐ先を見つけられず、どこか借り物の人生のような空虚さを感じていた。

しかし、ひょんなことから立ち寄った美術室での描きかけの一枚の油絵との出会いが、冷めていた八虎の人生に火を灯すのだった…

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

という、高2の途中で絵画への情熱に目覚めて藝大を目指す少年のお話。見事に現役で東京藝大の油画科に合格、晴れて藝大生に。

漫画の中の一大ジャンル「美大もの」の王様『ブルーピリオド』、12巻からの藝大2年生編。

夏休み、同級生のモモちゃんの広島の実家のお寺で合宿。

八雲の口から語られる彼のここまでの道程、そして天才少女として期待されながら早逝した、かつての同級生、真田まち子について。

広島合宿編エピソードが今巻で完結。

二つ思いました。芸術の良し悪しについて、あと大事な人を喪うことについて。

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

芸術の良し悪しについて。

自分は芸術については、小中高の図画工作や美術や音楽の授業程度しか修めておらず、素養は不明、「学がない」というやつで、絵や写真の良し悪しはよくわかりません。

見た目の差に現れるテクニカルな面について、ましてや作品に宿る魂のようなもの、精神面について。

ただ『ブルーピリオド』や、あと『2.5次元の誘惑』などを読んでいると、

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なんとなく、漫画と一緒なんじゃないかな、という気になってきます。

漫画も、特に修めてはいないんですけど。

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

なんでこれを描こうと思ったのか。何を思って描いたのか。何を思って描かれたのか。

これをもって失敗作として破棄することなく、「作品」として発表することを良しとした理由、思考、感情、その人生、その師匠、その背景、その時代は。

作品は作家の人間と人生を映す鏡であって、私はそれを受容して愛したり感動したり嫌悪したりしていて、それは実はあらゆる芸術、に限らず、私と同じその辺の一般人のツイートと同じで、そんなに難しいことではないのではないか、と思ったりします。

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

『ブルーピリオド』や、あと『2.5次元の誘惑』などを読んでいると。

漫画を読んでわかったように芸術を語ってんじゃねーよ、といろんな人に怒られそうですがw

素人なので「良し悪し」というより「好き嫌い」ですかね。

 

大事な人を喪うことについて。

自分も『キラキラ!』の杉田と同じく「老人少年」あらため老人中年で、

『キラキラ!』kindle版5巻より(安達哲/講談社)

「前を向く」とか「上を目指す」とかより「後ろを振り返」っていたい人間なので、八雲が今巻で至った境地には共感してしまいます。

痛みで生を実感する、「精神的な自傷」とは似て非なるものだと思うんですけど、

「まだ悲しい」

「まだ傷ついている」

「ちゃんと呪われてる」

という感覚って、

「自分は薄情じゃないんだ」

「ちゃんと人の心があるんだ」

というか、ちょっと違うな。

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

「大事だったものが、時間が経っても自分の中で大事なままでいてくれる」

感覚というか。

鍵の数

鍵の数

  • 井上陽水
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  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

ハードボイルド小説的な、マゾヒスティックなナルシズム、と言ってしまえば、まあ、それまでなんですけど。

立ち直んなくたって、前を向いてなくたって、俺は生きてるよ。

『ブルーピリオド』15巻より(山口つばさ/講談社)

それはそれで、いいじゃんねえ。

前や上を向いて、忘れてしまったり、思い出さなくなったりしてしまうよりは。

 

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#部長は少女漫画家 1巻 評論(ネタバレ注意)

竹井エレクトロニクス(株)第二営業部 第一課の課長・白崎翔は、史上最年少で課長に抜擢されるなど将来を嘱望されていた。

社長の方針で副業に非常に厳しい社風の中、しかし白崎は

『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

密かに少女漫画家を目指してペンネーム「羽月メリー」として日夜原稿に向かい商業少女漫画誌への投稿に励み、ついに念願叶って少女漫画誌の連載を勝ち取った。

それは、上司であった部長が副業バレで左遷、その後任として新たに部長に抜擢されたのと同じ日だった…

という、隠れ少女漫画家の若き部長のドタバタコメディ。バブル風に言うとヤンエグ少女漫画家。「ヤンエグ」知らない人はググりなさい。

『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

原作担当は現役の会社員、作画担当も会社員時代に副業で漫画を描いていたという、「経験は肥やし」を地でいくコンビによる作品。

少女漫画家・羽月メリーの熱狂的ファンを自認し公言する新入社員、隠れ少女漫画家であることを隠してコソコソする白崎の不正を疑うライバル課長、社員の副業を許さない社長。

『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

そんな環境で白崎は管理職として学び、漫画家として学び、そして初連載の1巻発売にまでこぎつけるのだった…

コンセプトは全然違いますが、ゴツい男子高校生の少女漫画家の『月刊少女野崎くん』とカブ…全然カブんねえなw

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『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

千代ちゃん真顔でなんてこと言うのw

出オチっぽいようでいて、「管理職と少女漫画家の両立」の日常のディティールの回転にこそ、本領があるような気もします。

そこまで深掘りして描かれているというわけではないですが、よくある「会社員経験のない漫画家の書いた会社員生活」の嘘っぽさも、今のところあまり感じません。

多かれ少なかれ「仕事」というのは業種が違えど共通するところはあるもので、管理職としての学びが少女漫画に活かされ、少女漫画家としての学びが管理職に活かされ、という相乗効果がわかりやすく描かれます。

『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

そういえば『野崎くん』では野崎くんが「なぜ少女漫画を選んだのか」が確か未だに語られていないような気がするんですが(それでも面白く回ってるので必ずしも必要だとも思いませんが)、こっちの作品はいつか語られることがあるんでしょうか。

少女漫画好きで「羽月メリー」ファンの新入社員女子とのウッキウキの交流、「少女漫画ファン」という必然性の他、作品自体は青年誌系ということもあって(?)若い女が配置されますが、下手に年の差ラブコメに持って行こうとせずに作家とファンのピュアな交流(?)に徹して描かれていて好感が持てます。

何より白崎が両方の仕事のどちらも手を抜くことなく真摯に取り組んで、その上で艱難辛苦を乗り越えて少女漫画誌連載や単行本の発売に男泣きする感じ、

『部長は少女漫画家』1巻より(古都かねる/西村マリコ/講談社)

苦労を共にしたわけでもないのに、なんでか読んでて「謎の感無量」感があって、良いですよねw

 

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#【推しの子】 13巻 評論(ネタバレ注意)

みやこさん、いいですよね。

作品の「主要」と言えるキャラの中で男性キャラがアクアだけで、あとは全部女性キャラということもあり、読者のカップリング妄想がアクアを中心に放射線状に、ハーレムラブコメではないですが「ハーレム状」に拡がってる作品。

みやこさんは「母親がわり」でカップリングの対象から外して考えるのが妥当でしょうし、実際「みやこエンド」なんか存在することはないと思いますが、マザコンのケが薄いはずの自分の「最推し」のカップリングは「アクア×みやこ」、「アクみや」です。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

自分が絵が描けたいたら、きっと「アクみや」の同人誌を描きます。

カップリングとしては「成年×未成年」に加えて不倫になるので、コンプラ的には最悪ですねw

幼少期から大人びていたアクアをみやこさんが早くから「一人前」と見做していたこともあって、なんかこう…会話シーンに「男女の馴れ」みたいな爛れた雰囲気というか…元カレ元カノっぽい、「昔なんかあった」感みたいな艶っぽさありますよねw

精神年齢、という意味ではみやこさんとアクア(ゴロー時代+アクア)はちょうど同世代ぐらいになるのかな?

 

地方の病院に務めるアイドルオタな産婦人科医師・ゴローのもとに双子を妊娠したお腹を抱えて訪れた少女は、彼が熱狂するアイドル・アイ(16)だった。驚きショックを受けたゴローだったが、身近に接するアイの人柄に魅了され、彼女の出産を全力でサポートしようと決意する。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

だが出産予定日の当日、ゴローはアイのストーカーに殺害される。驚くべきことに、ゴローはアイが出産した男女の双子のうち一人として転生する…

『かぐや様』の赤坂アカの作話を『クズの本懐』等の横槍メンゴが作画、という期待作。

要約すると二周目人生は伝説のアイドルの双子の子どもだった転生チートな芸能界サクセスストーリー、サスペンス・ミステリー付き。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

そんなんアリかよwww

サスペンスでミステリーな縦軸はありつつも、横軸は主人公の2人が芸能界の様々な仕事を渡り歩いて、作者が見知った芸能仕事の裏側の機微を描写していく建て付けに。

アイドル編、リアリティショー編、2.5次元舞台編、バラエティ編、スキャンダル編ときて、最終章の近さを予感させる「映画編」。

これまで主人公たちが芸能界のいろんな舞台で渡り歩いてきた中で出会った人物たちを総動員するように、映画制作を通じて「アイを殺した犯人」を追い詰める体制を整えていくアクア。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

まだ高校生のアクアの仕掛ける、これまで出会った周りの大人たちを動かして目的を遂げようとする黒幕のような動き、自分は『かぐや様』の対・四宮家エピソードで見たかった展開だな、と思いますけど、こっちで使うために敢えて温存したんですかねw

おそらく作品のクライマックスであろう「映画編」に加えて、互いに前世の正体を明かしていなかったアクアとルビーの「正体バレ」イベント巻。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

作品の切り札といっていいご褒美イベントのカードがもう切られました。正直思ったより早かった。

流行に敏感な原作者によって、「アイドル文化」と「推し文化」を柱に建て付けられた作品ですが、今年は「推し活」大手を巡って「アイドル文化」と「推し文化」を支える背景の醜態が目立つ一年でした。

もし「世間の空気」が

「結局、人間をアイドル(偶像)化して『アイドルを推す』なんてろくでもない」

に傾くのであれば、機を見るに敏な原作者が、モチベーションを下げずに作品を完走させてくれるか、やや心配です。

『【推しの子】』13巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

読者としては、前世から転生した意味を補強した「ご褒美イベント」を経てなお物語に対する影が薄く、「作品のメインヒロイン」の座を未だアイから奪取できていないルビーの、クライマックスでの本領発揮に期待したい。

 

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#百木田家の古書暮らし 4巻 評論(ネタバレ注意)

母と死別、父は単身赴任でアメリカの大学で勤務。横浜の実家で暮らす百木田(からきだ)家の三姉妹。

長女でバツイチで出版社編集のイチカ。

次女でコミュ障で会社員生活に馴染めないツグミ。

三女で高校生で闊達な自由人志向のミノル。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

神保町で古書店を営む祖父が亡くなり、遺言で横浜の自宅を売却、神保町の店舗 兼 住居に転居することに。

祖父の古書店に愛着があり、今の会社の仕事には愛着がないツグミは、姉妹を代表して古書店を継ぐことを決意した。

勤め人をリタイヤして趣味の延長マインドで悠々自適に古書店経営とか、人文系のちょっとした憧れではありますよね。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

という、冬目景の新作は本の街・神保町の古書店を舞台にした三姉妹の物語。

あとはこんな感じ。

人物相関図、なぜか巻末の次巻予告ページに掲載しててワロタ。

「三姉妹〜四姉妹」ものの作品は、「長女の事情」「次女の事情」「三女の事情」とそれぞれをヒロインとするエピソードが複数同時に並行して進む作品が多いですが、この作品もそういう感じです。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

ギャグコメの『みなみけ』までをカウントしても、どこか物憂げでローテンションな日常ものが多いジャンル、というイメージ。

作品を貫く大きな縦軸、というよりは中小の縦軸が複線で走っていて、「イチカの人生事情」「ミノルの青春事情」「ツグミの古書店 繁盛期+α」に「幻の画家の遺作を巡るミステリー(サスペンス?)」要素。

横軸は「古書店のお仕事描写」「長女や三女の恋愛模様」「三姉妹の日常生活の会話劇」などなど。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

アンニュイというかどこか物憂げな画風と間で、文学的な含蓄を勘ぐられがちな作家ですが、今作を見る限り古書店経営の静かなダイナミズムを日常風景やパーソナルな事件も交えながら「普通」に描こうとしているように思います。

これまでの冬目景作品に通底していた、なにかバッドエンドを予感させる物悲しげな空気感、無常を感じさせる淡々としたイメージが薄れて、もう少しカジュアルに読者に楽しんで欲しい、というか。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

なんというか、漫画を読んでいるというよりは、知り合いの近況、暮らしぶりや恋バナを聞いているような感覚。

ドラマティック・ダイナミックにストーリーやミステリーが進展するわけでも、抱腹絶倒のギャグコメディが炸裂するわけでも、スイートでラブリーなラブコメディが展開されるわけでもありません。

遅々として、でも「日常漫画」と呼ぶには1巻冒頭からすると着実に動いている(「前に進んでいる」のかどうかは、わかりません)人間関係。

「丁寧な暮らし」という言葉を漫画で具現化するように、ゆっくりと、じっくりと。

『百木田家の古書暮らし』4巻より(冬目景/集英社)

大人になった姉妹が、大吟醸をちびちびやりながら、子ども時代思い出を語り合う。

なんてことないシーンですけど、良いですよね。

丁寧に描かれた丁寧な日常、丁寧な気持ちの移ろいは、それだけでエンタメたり得るんだな、という。

NHKの朝ドラを観続けたことが自分はないんですが、こういう感じなのかな、という。

今巻はあるきっかけでツグミの大きな勘違いと、その解消。

要するに、ツグミの気の持ちようひとつなんじゃねえかという、面倒くさくて、可愛いねw

 

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#カナカナ 6巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

6歳ぐらいの少女・カナカは他人の心が読めるテレパス持ちで、幼少期以来『家族八景』の七瀬のようにその能力に苦しんできた。

唯一の理解者だった祖母が亡くなり、親戚をたらい回しにされた挙句にその能力を金儲けに利用しようとする男に引き取られかけたカナカは裸足で逃げ出し、公園で元ヤンの経歴と恐ろしい外見に反して単純バカだが裏表のない綺麗な心を持った男・マサと遭遇する。

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

マサもまたカナカの遠縁で、またヤンキー体質で頼られたら捨て置けない性格だったこと、カナカ自身が強く望んだことから、カナカはマサに引き取られ、マサが営む居酒屋で暮らすことになった…

という、西森博之の現作は「テレパス少女もの」+「血の繋がらない父娘もの」。

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

コメディ進行の日常回を中心に散文的というか行き当たりばったりに見える展開ですけど、もともと作劇のプロセスがなかなか読めない作者で、過去作でも行き当たりばったりのようでいて後になって結構計算高く伏線を張っていたことがわかることが多いので、先々の予想がつきません。

近作では散文的な描写の積み重ねによって独特な情緒を込める作風が特徴で、いつどこでどんな終わり方をするのか全然予想がつかない、メタなスリルがある作家。

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

「悪役が引っ張って主人公がリアクションする」作劇パターンも特徴で、本作も序盤は「悪役に頼った」ストーリーで、およそ「子育てもの」として似つかわしいものではありませんでした。

が、徐々に日常ものとして「子どもの面白さ」「テレパスコメディの面白さ」「マサの面白さ」にフォーカスした、作品の「素材の味」を活かした展開に。

今巻も一冊丸ごと日常コメディエピソード。特に「子どもの面白さ」の描写が出色。

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

大人から見ると子どもは時にキテレツで奇想天外ですが、今巻読んでると子どもをドライブしているのは「憧れ」と「罪悪感」で、それを想像力というか「空想力」が増幅しているんだな、と思います。

テレパスなせいで幼齢の割りに大人びた結果、子どもと大人の両面を持つカナが、良いガイド役・兼・ツッコミ役になって、とてもわかりやすく楽しく読めます。

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

子どものキテレツで奇想天外な発想や言動、大人から見たら他愛のない出来事に対する幸福感や切迫感が、大人の自分が読んでも「身に覚えがあるもの」として迫ってきます。

「よく憶えている」「よく思い出せる」なのか、ご自身のお子さんなどを観察した結果なのか。

受け止める側の大人のマサも、子どもを侮ることなく小細工なしで真正面から向き合って、ブレずにどっしりと、それでいてどこか珍妙で面白く。

今巻で「第一部 完」とのことです。もともと「来週も連載してそう」な作品の終わらせ方を多用する作家ですし、第二部ありきの「第一部 完」ということもあって、いつにも増して最終回っぽさが微塵もありませんw

『カナカナ』6巻より(西森博之/小学館)

一旦、別の作品を描くのか、引き続き本作の続きの第二部を描くのか、自分は存じ上げないですが、どちらにしても楽しみです。

 

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#よふかしのうた 18巻 評論(ネタバレ注意)

少年・夜守コウ(14)はふとしたきっかけで「上手くやれていた中学生活」が嫌になり不登校に。

ある夜、夜の散歩で街を放浪していると「夜と不眠」に一家言持つ謎の美少女・ナズナに声をかけられ、血を吸われる。彼女は吸血鬼だった。

夜に生きる眷属になりたいと願っても吸血鬼化しないコウ。彼女が照れながら語る「吸血鬼になれる条件」は「吸血鬼に恋して血を吸われること」だった。

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

「だがしかし」作者の吸血鬼ファンタジーな青春ラブコメ。作品全体を通じてアンニュイとそのアンニュイからの解放が夜を舞台に描かれる。

吸血鬼・キクと眷属志望の少年・マヒルの顛末は、恋の成就と、それに伴う二人の死だった。

コウとナズナの関係は、「眷属」と「両想い」を両立した瞬間に、終わりを迎える宿命にあった…

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

自分は電子書籍派なので単行本のオビが付いていませんが、オビ情報より、

今巻より最終章、20巻で完結とのことです。

今巻含めて残り3冊。

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

※この物騒なのがメインヒロインです

内容的にどうみても終わりに向かっているのは自明ですが、最終章で、20巻で完結か…

知りたくなかったな…

ふだん、人気作の引き伸ばしに批判的なくせに、愛する作品の終わりが近くなると、引き伸ばしてでも、なんの脈絡もなく日常ほのぼの4コマに転向してでも、連載が続いて欲しいと願ってしまいます。

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

ミドリ氏に会えるのもこれが最後かもしれないでござるな…

始まった時から、どうなることがハッピーエンドなのか想像するのが難しい漫画でしたが、より一層難しくなって最終章へ。

せめてコウがナズナに、ナズナがコウに、出会えて良かったと思える結末であって欲しいと、願わずにはいられない。

ビターなエンディングしか想像がつきませんが、唯一の希望は、かなり特殊な本作における「吸血鬼のルール」、その中でさらに特殊な生い立ちのナズナと特殊な状況にあるコウの二人にまつわる「吸血鬼のルール」が、未だすべて明らかになっていない可能性があることです。

生き物として不合理すぎません? まるで創造主が「愛し合うこと」を禁止するために創ったような…

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

「美しく、名作として終わって欲しい」、

「コトヤマ先生の新作も楽しみ」、

と思う反面、

「不様なご都合主義で名作になり損なってもいいから、ハッピーエンドで終わって欲しい」、

あわよくば、

「みっともなく中身の薄い引き伸ばしでもいいから、永遠に連載して欲しい」、

と心が千々に乱れます。

永遠の夜を生きる吸血鬼と、永遠ならざる人の子の恋の物語を、永遠に読みたい、でもそうできないなんて、なんだかメタな話ですね。

『よふかしのうた』18巻より(コトヤマ/小学館)

終わってほしくないよー。

自分が石油王だったら小学館を丸ごと買収してサンデー編集部と作者に無理やり連載を続けさせたいぐらい、この漫画とお別れしたくないよー。

 

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#ザ・ファブル The second contact 9巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

幻の殺し屋組織「ファブル」の天才殺し屋と相棒の女が、ボスの命令でほとぼり冷ましに大阪のヤクザの世話になりながら長期休暇がてら一般人の兄妹・アキラとヨウコに偽装して暮らす、コメディ成分多めのハードボイルドもの。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

巻き込まれ気味にいろいろ物騒な事件は起こったものの、伝説の殺し屋は不殺を貫いたまま事態を収拾し、街を去って第一部が完結。

本来構想された第二部はおそらく「償いの旅」になるはずだったんだろうと思いますが、現実の新型コロナウイルス禍で作者の取材手段も断たれ、作中にもウイルス禍が色濃く描かれつつ、予定を変更して再び太平市を舞台に、ヤクザの抗争に巻き込まれることになりました。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

今度は殺し屋組織「ファブル」同士の争いではなく、他の殺し屋組織「ルーマー」との闘争として。

ちなみに「ファブル=寓話」に対し「ルーマー=風説」なんだそうです。

今巻でその第二部が完結。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

2巻の感想でこう書いて

紅白組のバックにも、ファブル的な殺し屋組織がいるっぽいんですけど、これさ、「ファブルの別名」で同じ組織なんじゃねえの感が…そんな2個も3個も殺し屋組織、ある?

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3巻の感想でこう書きました。

「ルーマーは実はファブルの別働組織で根っこは同じなんじゃないか」とちょっと思ってたんですけど、今巻読んでるとどうもそういうわけでもなさそうな雰囲気ね。

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結論としては「半分アタリで、半分ハズレ」というところ。その隙間に作者は皮肉を込めました。

彼らは殺し合う必要が果たしてあったのか。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

アキラが感じた胸を締めつけは、人が人を殺し人に殺される漫画を描く作者の自問自答でもあり、読者への問いかけでもあります。

「いつもどおりに」面白い『ファブル』でしたが、路線変更を強いられた割りには「殺し屋vs殺し屋」というエンタメに生命への問いかけを込めて、程よいサイズで読み応えのある展開と、どこか切なく、どこか不気味で、それでいて生き残った全員が何かの答えを見つけて生きていく、悪くない読後感。

プロやな─────────

という最終巻でした。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

昨今隆盛する「殺し屋もの漫画」の例に漏れず、『ザ・ファブル』もシリアスと日常コメディのギャップに力点が置かれてきましたが、同時に殺意はあるのに動機を持たない(もしくは動機は金です)「殺し屋」という職業、人を殺すということ、生きるということ、生命ということについてずっと問いかけ続けている作品。

「殺し屋」という職業を第一部と第二部では「不殺」を通じて描き、第三部はやはり「償い」を通じて描くんでしょうか。

第一部の序盤で海老原に「生命」について問われたアキラの答えのように迂遠な試みですが、その迂遠さの中に隠された作者なり(アキラなり)の答えに、目を凝らしてしまいます。

『ザ・ファブル The second contact』9巻より(南勝久/講談社)

第三部も楽しみにしています。今度は描きたいとおりに描けると良いですね。

ひとまず、お疲れ様でした。

 

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