#AQM

I oppose and protest the Russian invasion of Ukraine.

#SANDA 1巻 評論(ネタバレ注意)

「BEASTARS」の板垣巴留の新作・現作。

今回はキャラが人間です。人間描けるのかよ。

こないだ知ったんですけど「バキ」の人の実子、娘だったんですね。(Wikipediaによると2019年に公表されたそうです)

ja.wikipedia.org

 

天子5年(2080年)、地球温暖化が進んで冬がなくなり、少子高齢化が進んで15歳未満人口が0.1%となった日本。

全て(? 不明)の子どもが「国の宝」として扱われ、学園に保護されて寮生活を送り、管理・教育されるようになった社会。

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「SANDA」1巻より(板垣巴留/秋田書店)

クリスマスもサンタクロースもはるか昔の風習として忘れ去られた日本。

中等部2年生の少年・三田(さんだ)一重(かずしげ)は、気になるクラスメイトだったはずの少女・冬村四織、握りしめた出刃包丁を振り回す四織に刺し殺されそうになっていた。

四織の要求は、三田が子どもの味方・サンタクロースに変身し、行方不明になったクラスメイトの少女・小野を探してくれること。

実はサンタクロースの末裔である三田は、四織が無理やり満たした条件によって白髪白髭のゴリマッチョな老人に変身してしまう…

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「SANDA」1巻より(板垣巴留/秋田書店)

あらすじを読んでも何を言っているかわからねーと思うが…


前作も世界観設定に現代社会の問題のメタファーを込めた作品でしたが、今作はまた別の切り口で現代社会の問題を極端に、あるいは現状の無策の延長線上に置いた設定。

前作はそれでいて韜晦というか、直喩を避けることで押し付けがましくならずに、自分探し描写がやや冗長ではあったものの主人公の青春ものとして成功しました。

その後の短編集を見ても、どっちかというと「BEASTARS世界観」が主人公で、主人公キャラのレゴシは狂言回しというか、たくさんの主人公の一人だった、という印象ですが。

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「SANDA」1巻より(板垣巴留/秋田書店)

今作は現実の日本の2021年から約60年後、15歳以下5万人が総人口の0,1%とあるので、日本の人口は約5千万人、経済的にも衰退し、人口ピラミッドが極端に少子化に傾いた日本が舞台。

何があったんでしょうね。15歳以下が0.1%というのは社会やライフスタイルの変容というよりも、大災害、気候変動、もしくは疫病などがきっかけで人類の生殖機能に致命的な障害が出ているように見えますけども。

そうした社会におけるヒーロー像が「子どもを守る」をテーマにしている以上、子どもを何らかの形で利用・搾取する個人や集団が社会にいる、という前提かな、と思います。

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「SANDA」1巻より(板垣巴留/秋田書店)

そうした社会では「若い人間」と「若さ」はイコール「未来」そのものを握ることを意味し、資源として希少金属や石油や核兵器よりも価値を持つはずで、1巻作中で既に登場していますが権力者(?)のためのアンチエイジングが異常に発達し、また「若い人間」を資源として多く抱える人間が勝利する社会になっているはずで、学園はそのための装置として機能している、というところでしょうか。

形は違いますが「MATRIX」の人間プラントに少しイメージ近いですかね。

ということで、そうした社会構造に対するカウンター、革命がテーマになっていくんかしらね。


「かしらね」っていうのも、この人の漫画イチイチ世界観がちょっと飛んでて、どういう作品になっていきたいのか、1巻読んだだけじゃよくわかんないんですよね。

日常ものではなくストーリーの縦軸の比重が重いので「会話芸やキャラの関係性が楽しい」で良い悪いを語っていい漫画でもないよな、っていう。

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「SANDA」1巻より(板垣巴留/秋田書店)

主人公像も「少年の精神」と「超人の身体」と「(身体に引き摺られて)大人としての子どもに対する保護欲」の二面性というか三面性に分裂していて、1巻時点ではまだ全然バランスが取れていない感じ。

ネットでは一部で不評も聞きます。自分は連載追っかけてないのでその辺わかんないんですけど、1巻を読んだ限りは「面白くなりそう」ではありますが、「面白い」「面白くない」を判断するのはまだ時期尚早かな、と思います。

何がしたい主人公で、どうなりたい作品なのかまだ全然わからん。

まだ全然、ここから傑作にも駄作にもなれそう。

ただ、この作者でなかったら「現代社会と地続きだけどルールが変わった世界観の複雑性」、「分裂している主人公」、自分も「あー『他の漫画とは違う』ってアピールしたいのね」って思ってた気もします。


繰り返しますが「面白くなりそう」ではあります。

「BEASTARS」の作者であるという、「設定に振り回されずに使いこなす作家」というポジティブな偏見というか、信頼の貯金もコミで。

つーわけで早く2巻ください。

 

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#あそこではたらくムスブさん 4巻 評論(ネタバレ注意)

「今日のあすかショー」のモリタイシの、コンドームを製造する会社の商品開発を舞台にしたコンドームの新製品開発担当の白衣の美女・結さん(26)と、彼女に惚れてしまった営業企画担当の気が小さくてお人好しの若手・砂上くん(24)のお仕事ラブコメ。医療漫画「ラジエーションハウス」と並行して連載。

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

コンドームを作る会社が舞台ですけど、「協力:相模ゴム工業株式会社」が正々堂々クレジットされているだけあって、下ネタ・エロネタ・茶化しがほとんどなしのピュアで奥ゆかしい恋愛コメディ。

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

砂上くんは奥手、結さんは箱入り娘で、社会人の恋愛ものですけど、2人とも自分の気持ちより相手の気持ちを思いやって動きが取れない、小学生の恋愛もののようにピュアっピュア。

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

そういう二人なので「やらかし」がない分、ラブコメ的な動きは大変ゆったりしてて歯痒い焦ったい感じになるとこですけど、絵の可愛らしさでだいぶ得してるのもあって「若い二人のペースで進めてください」と仲人業の大御所みたいな気分になります。

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

漫画に限らない話ですけど、お年頃で好き合っているっぽいお似合いの男女がいると「早よくっつけや」と思ったり、仲を進展させるべくお節介を焼きたくなったり、「お見合いおじさん」「お見合いおばさん」になってしまう心理、あるべき所に納まって欲しい気持ちって自分にもありますけど、これって一体どこからくるんだろう、などと思いました。

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

奥手だけど誠実で優しいこの二人は、進展こそゆっくりですけど心の動きの機微が心地よく微笑ましく、放っといても遠からず気持ちが通じ合う二人だと思うので、急かさず悠然と見守りたいと

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「あそこではたらくムスブさん」4巻より(モリタイシ/小学館)

いや、だからって1年は長ぇわw このラストから1年も待てるかい!

 

ということで、はい。

www.sunday-webry.com

 

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#アルスラーン戦記 16巻 評論(ネタバレ注意)

ルシタニアのイケノンティス王が表紙。この人、今巻一コマも出てこねえけど…w

田中芳樹の高名なファンタジー戦記を荒川弘がコミカライズという鉄板漫画。

原作でいうと第一部の後半戦、原作全7巻の6巻相当ぐらい、「風塵乱舞」あたり。

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「アルスラーン戦記」16巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

虜囚の身から自力で脱出し、救国の軍を起こした息子の軍勢に合流したアンドラゴラス王に「兵力5万を集めるまで帰参するにあたわず」と追放されたアルスラーン王子。

彼を慕って軍を脱出した少数精鋭・一騎当千の部下たちと訪れた港町ギラン。

ということで舞台が南国の港町に移り、ルシタニア侵攻による荒廃やパルス王家のドロドロから離れ、「なろう小説」もかくや、という心なしか空気もご陽気な俺TUEEEE回。

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「アルスラーン戦記」16巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

アルスラーン・パーティの武勇と軍師ナルサスの策がピタッとはまって、絵に描いたような悪いやられ役の海賊や悪代官を時代劇のようにバッタバッタと薙ぎ倒す。

あっという間に人望と軍費の調達と、将来の十六翼将の一人・グラーゼも仲間に、と順風満帆。「転スラ」かな?

という読んでて楽しい巻。本編ながらなんかちょっと「番外編」ぽいエピソードよね。

多めのコメディシーンも荒川弘の筆との相性良好。

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「アルスラーン戦記」16巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

原作通りなら、ここ終わったらあとはもうシリアス展開で第一部のクライマックスまで一息やね。

第一部の畳み方、第二部の有無がいよいよきになるところですけど、「アルスラーン戦記」のWikipediaを久しぶりに見てみたら、

ja.wikipedia.org

原作第一部7巻の「王都奪還」以降について、以前はネタバレであらすじがわかるレベルで記述されてたのが、編集合戦の果てというやつなのか、全部まっさらになってました。

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「アルスラーン戦記」16巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

くわばらくわばら。

どうだろ、ペース的に20巻ぐらいで「第一部 完」って感じですかね?

 

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#ねこ、はじめました 9巻 評論(ネタバレ注意)

車に撥ねられた男子高校生が気がついたら猫になってて女子高生・チカちゃんに拾われて飼われる日常もの。そんな非日常な日常ものがあるか。

ラノベみたいな設定だけどエロ要素ゼロなのと人類の目がデカいのは自分からちゃおコミックス読みに行っといて文句言ってはいけない。

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「ねこ、はじめました」9巻より(環方このみ/小学館)

「猫になって一人暮らしの可愛い女子高生に飼われてもふられる」と言えば「教室に乱入してきたテロリストをやっつける」と並んで男子7大妄想と言われていますが、入れ替わりというか正体が人間のアドバンテージをまったく活かせてない猫の、自分や飼い主にモノローグでツッコミまくる間抜けで癒し系な日常もの。チカちゃんポンコツ可愛い。

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「ねこ、はじめました」9巻より(環方このみ/小学館)

今巻もリーディングイージーなユルい日常ギャグコメですけど、男子高校生の身体には猫の精神が宿ってるわけで、真面目に考えたら結構大事(おおごと)なんですけど、真面目に考えないのがこの漫画のいいところ、という感じ。

一応、本人は元の身体に戻るつもりでいるっぽいんですけど、第1話で猫と入れ替わってもう9巻で100話超えてんのかよw

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「ねこ、はじめました」9巻より(環方このみ/小学館)

もう元に戻んの無理だよお前w

どうなったらハッピーエンドなのかと考えたら元の身体に戻って2人と1匹で楽しく暮らすのが良いんでしょうけど、「最後どうなるのか早く知りたい!」って漫画じゃないというか、割りと「終わらないことに意義がある」漫画だし、まあ…っていう。

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「ねこ、はじめました」9巻より(環方このみ/小学館)

「ちゃお」読者の年齢層って小学生とかなんですかね?

ユルくてくだらないですけど、大人が読んでもちゃんと楽しめるというか、ギャグのシュールさが絵柄の可愛らしさとの緩急も相まって、

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「ねこ、はじめました」9巻より(環方このみ/小学館)

油断してるとちょいちょい噴く。


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#転生したらスライムだった件 19巻 評論(ネタバレ注意)

サラリーマン(37)が刺されて死んで異世界に転生したらスライムだったけど、付与された特殊能力で強力な魔物スキルをガンガン吸収してスライムにして最強、人型にも顕現可能に。

リムルを名乗り、多くの魔物を配下にジュラの森の盟主となり「魔国連邦」を建国。襲来した人類国家ファムルス王国軍2万の兵を撃退してリムルは魔王に覚醒。暗躍する魔王クレイマンとの対決姿勢を強める。

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「転生したらスライムだった件」19巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

リムルの魔王成りに風雲急を告げ、10人の魔王による会議・ワルプルギスが開催され、新顔魔王のゲストとして招かれたリムル。冷戦状態の黒幕・魔王クレイマンと直接対峙。

並行して魔王領各地で勃発したリムル陣営vsクレイマン陣営との闘争はリムル陣営が完勝。

ということで会議回を舞台にリムルvsクレイマンの魔王バトルの決着。

おまけでリムル配下の暴風竜ヴェルドラvsクレイマンに操られてる魔王ミリムのケンカ最強決定戦。

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「転生したらスライムだった件」19巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

お前、漫画の読みすぎや。

ネタバレですけど、ずっとストーリーを黒幕として引っ張ってきた魔王クレイマンが今巻で退場、十大魔王の再編、領地分割に関する合意、と諸々決着して一旦情勢が落ち着きました。黒幕の引き継ぎも完了。

ムカつく役どころだったクレイマンに対してリムルがまあ容赦ないので、クレイマンの悪事の露見具合、情勢のひっくり返り具合、バトルの完封具合、ぶっ殺し具合と、「なろう」らしい溜まった鬱憤がスカッと解消される楽しい展開。

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「転生したらスライムだった件」19巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

アニメだったら「第〜期 完」というところ。

残った魔王同士がなんだかんだでけっこう仲良しさんなので(揉めてた相手を殺したので当たり前ですが)、今後どっちに向かうんでしょう。

人間国家相手にするのももはや少々オトナゲない気がしますが。

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「転生したらスライムだった件」19巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

おまけ漫画のラーメン開発・ビジネス展開の話、面白かったですけど、4コマ向きというかネタ潰しな気はしますねw

 

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FSS (NT2022年1月号 第17巻相当) 評論(ネタバレ注意)

ファイブスター物語、連続掲載継続中。

「第6話 時の詩女 アクト4-4 カーマントーの灯火 Both 3069」。

扉絵コミで13ページ。

  

他の号はこちらから。

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  • (余談)
  • (扉絵)
  • (本編)
  • (所感)
    • G型
    • GTMハビラント
    • ザーゼロ
    • GTM彗王丸
    • 宇宙戦闘
    • ジャコー
    • 宇宙議会
    • オーダ海賊団
    • グスコ・グルゥ
    • シェラスタ
    • マーク2
    • 斑鳩
    • タイトネイブ
    • イマラ
    • ソルティア
    • 3159・ガーメント・アシリア・スーツ
    • マージャ
    • ガーメント・GTMスーツ
    • 三条
    • 3069年

以下、宣伝と余談のあとにネタバレ情報を含んで論評しますので閲覧ご注意。

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#ローカル女子の遠吠え 8巻 評論(ネタバレ注意)

勤勉ながらデザイナーの仕事に適性を見出せず、東京から地元の静岡にUターン転職した有野りん子(27)。

仕事をバリバリこなしメロンパンも肉まんもバリバリ食って「メロンパンはそんな音しない」と周囲を心配させる学級委員長タイプの女を待っていたのは、東京と地方の価値観のギャップと懐かしい「しぞーかあるある」だった。なんだか可愛い静岡ご当地社会人4コマ。

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「ローカル女子の遠吠え」8巻より(瀬戸口みづき/芳文社)

気がついたら登場人物がすごく多くなりましたけど、キャラ立ってるので覚えやすいし忘れても読んでるうちに思い出せる上に、極端な話その辺に置いてあった「まんがタイム」を手に取って初見で途中から読んでもちゃんと面白い、というザ・4コマ漫画。

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「ローカル女子の遠吠え」8巻より(瀬戸口みづき/芳文社)

4コマ漫画の上手のやることなので、今巻も安定して面白いです。

「安定して」というのがキモというかモノは言いようというか、1巻で富士山と家康とお茶の話がほとんどだった作品ですが、8巻になっても富士山と家康とお茶の話がほとんどです。

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「ローカル女子の遠吠え」8巻より(瀬戸口みづき/芳文社)

世の漫画家がマンネリ打破のために新キャラや転校生を登場させたり新展開をこしらえたり異世界に転生するにしてもあれこれ変化球を投げてる中、延々と富士山と家康とお茶の話をして面白いこの漫画は一体なんなんだろうか、と思います。

「異世界 静岡県」的に静岡県が丸ごと異世界に転移することがあったとしても、たぶんこの人たちずっと富士山と家康とお茶の話をしてると思う。

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「ローカル女子の遠吠え」8巻より(瀬戸口みづき/芳文社)

(※実在の静岡県民ではなく、この漫画のキャラクターたちの話です)

 

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#2.5次元の誘惑 12巻 評論(ネタバレ注意)

先輩たちが卒業し、高校の一人漫画研究部として日々部室で二次オタ活動に勤しむ奥村(高2♂)。

学校が新入生を迎えたある日、漫画研究部のドアを叩く一人の新入生がいた。奥村と同じく古の名作「アシュフォード戦記」「リリエル外伝」とそのヒロイン「リリエル」をこよなく愛する彼女・天乃リリサは、キャラ愛が高じて高校生になったらコスプレイヤーになることを夢見ていた。

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「2.5次元の誘惑」12巻より(橋本悠/集英社)

というボーイミーツガールから始まるコスプレ青春もの。

それぞれの葛藤を乗り越え界隈を騒がすコスプレチームとなったリリサたちは、話題のソシャゲ「マジョ娘」の新作コスプレを引っ提げて五新星・四天王がひしめく冬コミへ。

ベールに包まれていた四天王の最後の一人、炎上体質の偽悪体質が拗れて魔女のようになった星月夜姫が待つ「四天王の巣」へ!

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「2.5次元の誘惑」12巻より(橋本悠/集英社)

バトルものと見紛う、求道的で厨二病的なジャンプバトルもの展開な頂上決戦。

前巻が幕間というか箸休め的な日常話中心でしたが、今巻からガッツリ「試合巻」にあたる冬コミ編。

コスプレものなんでまあ言ったら、コスプレして、ポーズとって、写真撮られてって、やってることそれだけで、世界を救うわけでも人が死んだりするわけでもないんですけど、そこに至るプレイヤーたちの情熱と努力を丁寧にエモーショナルに描くことと、演出で盛り上げることに余念がなく、毎巻泣かされます。

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「2.5次元の誘惑」12巻より(橋本悠/集英社)

このテンドンはずりぃわw

見開きの使われ方がページ稼ぎじゃなくて毎回カタルシスたっぷりで効果的ですよね。

テンポの良いギャグコメディ描写も楽しいですけど、"エモい"名シーンと名ゼリフがキモの熱血青春もの。あらすじ紹介じゃ絶対伝わらない熱。

今巻の主役はほぼ初お目見えの四天王・夜姫で、本来バトルではないコスプレで、ある意味無理やりバトルをやっている本作に、ばっちりハマるキャラ付け。

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「2.5次元の誘惑」12巻より(橋本悠/集英社)

華やかさと「人と競うためではない」「キャラ愛の表現」という建前に守られ隠された、コスプレイヤーのドロドロとした強力な自己顕示欲と対抗意識を堂々と。

またしても定番の「実はいい人」展開ですけど、夜姫の拗れ方と覚悟、それでも「何か」を追い求める心理描写、いいですよね。好きにならざるを得ない。

巻が進むほどに愛おしいキャラが増えていく。

他にも3巻のセルフオマージュ・753の「マジョリーナ・マジョルーナ」、その衣装担当サイトウさんの情熱、と見どころたくさん。

…ハルウララの有馬記念チャレンジがモデルだよねえ、これ…w

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「2.5次元の誘惑」12巻より(橋本悠/集英社)

あらすじも知らない、見たこともない「マジョマジョ」の覚醒エピソードを、ビジネスライクなプロのはずの753の涙を通じて、753の心情と夜姫の行く末への暗示と、ハルウララのシナリオと重ねて勝手に幻視して泣けてしまう。

この流れの見開きときたらもうね。

 

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#ワールドトリガー 24巻 評論(ネタバレ注意)

三門市に突然開いた異世界からの門。現れた異形の怪獣「近界民」が付近を蹂躙するも、界境防衛機関「ボーダー」を名乗る組織の少年少女たちがこれを撃退。街は近界民の脅威にさらされつつ、ボーダーの能力と信頼によって平和が保たれる奇妙な環境となった。

C級ボーダー(研修生)であることを隠して中学に通う三雲修、彼と出会う奇妙な倫理観の転校生の少年。転校生は出現した近界民を超人的な能力で撃滅し、異世界の人間「近界民」を名乗る。

で始まるジャンプ得意の能力バトルもの。大量の個性的な登場人物に付与された能力を、チームで組み合わせたタクティカルなバトル展開が売り。

長かったB級ランク戦が終わって、作品の縦軸たる近界への遠征、その選抜試験。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

普段のチームからメンバーをシャッフルして行われる試験のまずは一次試験、閉鎖環境試験。それはBランクからの遠征メンバー選抜にとどまらない、審査する側も含めてあらゆる角度から資質が試されるものだった…

閉鎖環境試験自体は今のところ「宇宙兄弟」の序盤でやったアレにSPI試験とグループディスカッションが付いてる、というものです。あれを同時に十数チーム、60人前後が同時にやってるだけ…だけ?

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

大量のキャラクター1人1人に細かい人格設定付けされた本作ならでは、という感じはします。

昔あれ田中芳樹だったかな、「銀河英雄伝説」のアニメ化について「一話丸々会議やってるだけの回とか出てくるはずで、アニメ作品として保つのか不安(だが素晴らしい作品にしてもらえた)」的なインタビューだかあとがきだかを読んだ記憶がありますが、本作今巻もまあ言うたらそんな感じです。

基本的にタクティカルなバトル漫画な本作ですけど、会話劇というんですかね。バトルもアクションもなく、セリフが多く、そして長いw

コアなファンしかついてこれない、漫画家志望がジャンプに持ち込んだら確実にNGもらうやつで、こうした作風で多くのコアなファンを既に育てて掴んできた本作ならでは、という感じがします。今巻に限らず、バトル漫画としては異例なくらい、もともと理屈もセリフも多くて長い作品で、特長ですらあるので。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

そうした作品なので、考察や展開予想をしながら読むと、特に昨今のSNSな世の中では大変楽しいんですが、まあ日本中の読者が展開予想をしてネットに書いちゃうもので、予想を当ててしまって作者に対する「展開のネタ潰し」も多々発生していたであろうと思います。

前に公式のなんかで読んだところでは「SNSなどネットでワールドトリガーに関して書かれたものを、編集はネットを見てるけど、作者は見ないようにしている」とのことでしたが。

その意趣返しなのかどうか知りませんが、今巻はAランクメンバーにBランクメンバー中心の受験者を審査・評価・予想させることで、作者から読者に対する「予想のネタ潰し」を仕掛けているかのような描写で、メタを本編の中に取り込んでしまったような、いろいろ興味深いことになってます。

「ワートリの考察・予想が読み物として面白い? じゃあその面白さ、丸ごといただき!」みたいな。考察・展開予想を作者自身が本編中でやっちゃうもんで、考察系のブログで書くことねーw

っていうのと、考察屋の「ネタ潰し」に対するブラフや誘導の煙幕にもなってて、この辺の作者と読者の駆け引きめいたものが生まれててそれがまた面白いですね。

反面、作者の体質からして、作者自身がキャラに予想させた通りの展開を書いても面白くないので、

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

神の視点を持っているわけでもないキャラの予想が、必ずしも当たってるわけでもなさそうだったりと、もう作話のハードルが上がってんだか下がってんだかよくわかんねw

アクションもなく、やってること自体は地味なのに、作者がイキイキしとる。

今巻の続きの連載話で水上が物議を醸す行動を取っていますが、アレとは逆に、「本当に1人の人間(作者)が全てのキャラクターの思考や行動を操っているのか?」と思えてくるのがまた面白いですね。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

同時に動かしてるキャラが5〜6人ってレベルじゃないんですけど、キャラが勝手に動いてくれるってレベルじゃねーぞ、どういう脳みそしてんだ、みたいな。

 

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#ダンダダン 3巻 評論(ネタバレ注意)

霊媒師の家系のギャルと、いじめられっ子気味で孤独なオカルトオタクの少年の同級生ガールミーツボーイから始まる、オカルトバトルなバディもの?

2巻読み終わってもこの漫画がどうなりたいのかまだちょっとよくわかりません。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

書き出していくと

・ボーイ・ミーツ・ガール

・オタクに優しいギャル

・ラブコメ群

・ちょいエロ

・呪術廻戦、チェンソーマンなどの最近のジャンプのオカルトバトル漫画群

・うしおととら

・東京入星管理局

・GANTZ

・メン・イン・ブラック

・漫☆画太郎

あたりを足して適当に割ったような感じ。

いろんなジャンルのごった煮というか、カオスな闇鍋みたいな漫画。クリーチャーも宇宙人から妖怪から幽霊から割りとなんでもあり。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

インパクトは強いけど、1巻はまだ点で、2巻で線になって方向性がわかるんだろうか?という感じです。それが知りたいからまあ続き読むわ、という感じ。

で、3巻まで読んだんですけど、未だによくわかりませんw

1巻でボーイ・ミーツ・ガール&パワーがあって以来、基本的に有無を言わさずクリーチャーの方から襲い掛かってくるのを必死で撃退するだけのご無体な展開で、未だ主人公たちの最終目標やらラスボスやらは提示されることなく、キャラとバトルがあるだけで、

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

ストーリー的なものは「ドサクサで失ったキンタマを取り戻す」以外は特にありません。

いや、キンタマ大事ですけども。

むしろクリーチャーの方が悲しい物語を背負っているというか。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

クリーチャーが暴れる動機と密接に結びついてるんですけど、突然ガチ泣きさせにかかってくるわ。

"アクロバティックさらさら"が片付いたと思ったら、特に予兆も主人公や読者への説明もなく、息もつかせず再び襲いかかってくるセルポ星人。

それでも作品として面白く保ってしまっているんで、「そうや、ストーリーなんかいらんかったんや」というよりは、このままシュールな理不尽系オカルトバトル+ラブコメで行く感じなんかしらね。あとキンタマの行方。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

敵の造形も理不尽というか「あえて」のやっつけ感というか、整合性の取れてない行き当たりばったり感すごくて、それが奇妙な勢いを生み出してます。

「うしおととら」なんかも序盤は割りとこんな感じだったし、まだ3巻だし、よくわかんねーからとりあえず4巻も出たら買って読むわ。

 

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#怪獣8号 5巻 評論(ネタバレ注意)

現代、ただし頻繁に怪獣に襲来され「怪獣大国」となった日本。「防衛隊」が組織され、襲来の都度、怪獣を討伐することで社会が保たれていた。

かつての防衛隊志望に挫折した怪獣死体処理清掃業者・日比野カフカ(33♂)は、防衛隊志望の後輩に触発され再び入隊試験受験を決意するものの、いろいろあって人間サイズの怪獣に変身する体質となってしまう。

目撃情報から防衛隊に「怪獣8号」として指名手配されたまま、怪獣変身体質を隠したカフカの防衛隊入隊受験が始まった。

という、「SF」でいんだよねこれ。「バトル」もつけていいんかしら。という王道変身ヒーローもの。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

「正体を隠した変身ヒーローもの」の魚でいったら「大トロ」と言っていい一番美味しい展開の「仲間たちに正体バレ」のカードを4巻で早くも切ってしまいました。

怪獣との戦闘中、仲間のために正体を現して「怪獣8号」の姿で戦ってしまったカフカは、味方で有るはずの防衛隊に拘束され、処分が検討される事態に。

一方、立川基地の崩壊で暫定的に隊員の配置が他の各隊に割り振られることととなった第3部隊。ヒロイン・キコルが配置されたのは防衛隊の最精鋭たる第1部隊。部隊を率いる最強戦力の鳴海の能力と為人とは…

展開も敵の怪獣が人間サイズで人型で人語を喋るようになってきて、怪獣ものというよりはジャンプによくある凡百のバトル漫画の土俵に降りてしまって、正直ちょっと飽きてき始めたところだったんですが、新展開と新キャラ・鳴海でちょっとテコ入って楽しく読めました。

バトル描写的にも「怪獣だけど人型」なんですけど、右フックからそのまま自分の脊椎をへし折りながらもう一回転して二連撃と、

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

人体には不可能な戦技が織り込まれて、「まだ終わらんよ!」と気合入ってますね。

この手の「人体には不可能なバトルスキル」、大好物なんでガンガンやって欲しい。

新キャラ・鳴海はネットのお前らが性格そのままに戦闘能力だけ最強になっちゃった系ですけど、誌面にいるだけで面白くなっちゃうパーソナリティと戦闘時の強さのギャップで人気出そうね。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

多くの史実やフィクションで「天才」と「変人」がセットで描かれたことで、読む方ももう「どこか変人じゃないと天才に見えない病」みたいになっちゃってるとこありますけど、あんま主人公以外のキャラの「強さの理由」を求めない作品であることもあって、鳴海は「変人」か「究極の凡人」か、なかなか判断つかない絶妙のセン突いてきたなw

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

さっき読んだ「魔都精兵のスレイブ」といい、ジャンプ系作品は新キャラにいきなり愛着持たせる手管がこなれてて上手いよね。弱めだったギャグコメ枠とイケメン強キャラ枠を1人でこなして、こんなんまんまと好きになっちゃいますやん。

バトルはかっこよく、不可欠なキャラ人気もコメディ要素も補強されて、どんどん「ジャンプバトル漫画」としてのクオリティは上がってきて、遠からず「一番面白いジャンプバトル漫画」を争うようになるのかもしれんね。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

連載初期からの読者で「ジャンプで見たことのない漫画」に期待した人もいたかとは思うんですけど、まあそれはそれとして。

長く続いてナンボのジャンルで、言うてもまだ5巻ですし。

 

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#魔都精兵のスレイブ 9巻 評論(ネタバレ注意)

親子丼おいしい!

なんでもないです。

アニメ化が決まったそうで、正気の沙汰ではないというか、ツッパるなーw

各地に突如出現した門の先に広がる魔都。人を襲う鬼が巣食い脅威となっていた。政府は能力者の女性で構成される「魔防隊」を組織し鬼に対抗する。

男子高校生・優希は帰宅中に魔都に迷い込んだところを魔防隊七番組組長・京香に救われる。彼女の能力は生命体の潜在願望を叶える義務と引き換えに奴隷として使役・強化し戦わせる能力だった。

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

平たく言うとバトルでこき使われる代わりに勝ったらエッチなご褒美な感じだった。

和月のバトル絵、GS美神の設定とキャラ、ハーレムギャルゲー要素、ジャンプのバトル漫画の定番展開、という感じ。あと乳首!

名門・東家の家督相続バトルが終わり、今巻から新展開。

現世・横浜市内で女性が次々と行方不明となる事件が連続して発生。得られた情報から犯人は醜鬼・八雷神の一人と断定され、少数精鋭の討伐隊が組織される。

選抜されたのは激戦区を担当する七番隊隊長の京香とそのスレイブ・優希、

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

そして同じく激戦区である横浜のクナド(魔界とのゲート)を守護する二番隊隊長、美羅だった…ということで新展開に新キャラ。特に表紙の人、新キャラ・美羅が面白いです。

ヤンキーキャラというかほぼ「ハンター」のナックルが美女化しました、ってパーソナリティなんですけど、なにこれ可愛い。コワモテなのに男女の性愛沙汰になると小学生並みにピュアとかズルいでしょw

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

なんだよ"交際の向こう側"ってw

作品のコンセプト自体が「強い女の可愛いところ・エロいところが見たい!」というギャップ萌えな欲望に大変正直な作品ですけど、「強い女」の漫画的バリエーションとして「クール強い」「S女王様強い」「無言強い」「おちゃらけ強い」などと並んでいかにもありそうな「熱血ヤンキー強い」造形なのに、よく動くというか思った以上に可愛くてワロス。

バトルの能力的には分身で、漫画における分身はそのままだと弱点なさすぎで「分身数が多いほど強さが劣化する」がデフォで、例外は「FSS」の剣聖剣技「ミラー」ぐらいしか思い浮かばないんですけど、美羅の分身も能力劣化が無いんだそうで、珍しいですね。

隊員・めぐみによる「特定個人のみを対象にした距離無限バフ」も、絵面も含めて面白いなコレ。

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

なんだこのコマ。

という、高品質のエロ絵推しの色物のようでいて、まあ実際色物なんですけど、相変わらずバトル設定・描写が凝ってるところに、本人真面目にやってんのにいるだけでギャグコメになっちゃう新キャラと、楽しくなってきましたね。あと乳首!

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

あと全然関係ないけど、親子丼おいしい!

 

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#亜人ちゃんは語りたい 10巻 評論(ネタバレ注意)

人類社会に低確率で誕生する、バンパイア、雪女、デュラハン、サキュバス、座敷童子などの「亜人(デミ)」がそれぞれの個性を人間社会と折り合い付けながら平和に暮らす世界観の日本。亜人の良き理解者たらんとする高校教師の主人公と、亜人の生徒たちとの語らいを描く青春日常コメディ。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

差別問題を想起させるテーマでありながら、重たくなりすぎないように婉曲に、優しく、コメディタッチに、ポジティブに。

次巻で完結とのことです。

自分は漫画に説教されるのが嫌いです。漫画にはまず第一義的に娯楽であって欲しいと思っています。難しいはずの問題を漫画や喩え話を使ってわかりやすく一刀両断して読者に答えを授けるようなコンテンツをあまり信用する気になれず、描きたい人は好きに描けばよいでしょうが、自分はお金も時間も使いたくありません。善悪や正誤の問題ではなく、趣味人としての私の好悪の問題です。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

この作品は現実には存在しない、吸血鬼、デュラハン、雪女、サキュバスなどの「亜人」と、人間の教師を組み合わせた学校もの・青春ものとして、あらかじめ暗喩として現実社会における差別問題や多様性の在り方について踏み込んだ作品で、一歩間違えば私の「嫌い」の琴線に触れてきそうな作品ですが、最終巻一冊を残した現時点でこの綱渡りを破綻させることなく渡ってきました。

考えさせられるのに押し付けがましくないのはなんでしょね。作者の人徳というものでしょうか。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

ある程度以上の「答え」が出ないことも織り込まれた作品で、今巻の中でも「彼女たち亜人は社会の中でどうなりたいのか」「国や社会は彼女たち亜人とどう相対すべきなのか」「"普通"と同化することが幸せなのか」、問いは描かれても答えが描かれることはありませんでしたが、それは多分この作品の登場人物たちが、そうした問題に対して大上段に構えることなく、性急に答えを求めて思考停止に楽な方に陥ることなく、等身大の個人を幸せにするためにどう在るべきか、何ができるのか、生きている限り考えることをやめなかったことに尽きるだろうと思います。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

むずかしいことは、早く考えることをやめて楽になろうとせず、むずかしいままに。

この作品はフィクションのエンタメで、ある種の理想像で二重の意味でファンタジーだったかもしれませんが、現実社会で誰かが自分とは違う誰かを理解し共に生き幸せを願うにあたって、道標のようなものの一つに、なれる力が有るのかもしれないな、と思ったりします。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

作品を見送るには一年弱ほど気が早いですが、彼と彼女たちの人生に幸多からんことを、そんな最終巻になったらいいなと思います。

 

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#性懲りショートステイ 評論(ネタバレ注意)

位置原光Zによるオムニバス短編集。

「小悪魔淫魔サキュバスちゃん」の人、と言うと通りが良いかと思います。

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「アナーキー・イン・ザ・JK」より(位置原光Z/集英社)

※「小悪魔淫魔サキュバスちゃん」は過去作なので、今回の「性懲りショートステイ」には収録されていません

表現の枠が下に広いエロ漫画誌のギャグ漫画枠は、たまにキレッキレの作品を生み出すことがあり、「33歳独身女騎士隊長。」とか「ぱらいぞ」とかあるんですけど、この作家の作品もそうした作品群の一つ、と自分は長い間勘違いしていたんですが、

ja.wikipedia.org

デビュー作「アナーキー・イン・ザ・JK」はヤンジャン系列、その後移籍?した白泉社の「楽園 Le Paradis」誌もエロ漫画誌ではなく、

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「恋愛系コミック最先端」「恋愛欲を刺激する」がテーマのアンソロジーコミック。掲載作品はすべて描き下ろし。(2021年12月1日のWikipediaより)

なんだそうです。

近年、自分はどっちかというと単行本で漫画を読む派なので、最近まで知りませんでした。最近、サンデー作品だと思ってずっと読んでたらマガジンだった、とか多いんですよね。

「楽園 Le Paradis」の作家陣、割りと錚々たるメンツ。

エロに近接したテーマのエピソードが多いですが、いわゆる「エロ漫画」や「エロコメ(エロラブコメ)」ではなく、どっちかというと「下ネタラブコメ」という感じ。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

「恋愛系コミック最先端」「恋愛欲を刺激する」がテーマのアンソロジーコミック。

という雑誌のテーマから考えると、案外作者本人は精一杯まじめにラブコメを描いているつもりなのかもしれない。

展開としては大体、冒頭のつかみでヒロイン相当の女の子が性的に突飛なことを言い出したのをきっかけに話を広げていくスタイル。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

下ネタ・ナンセンス系で絵も似ても似つかないですけど、ラブコメ展開自体は古式ゆかしい少女漫画のコメディ作品っぽいなーと思います。

とにかくツンデレ系の女の子に赤面させたい、みたいな。

ラブコメのアプローチとして下半身から迫るというか、若い男女がムラムラムラムラしてるラブコメ群ですけど、実際、恋愛・性愛ってそういう面も強いよねというか。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

絵柄はパンチラギリギリを常に狙いながらもまるで性欲なんて存在しないかのようにメジャー誌コードで無毒化されたピュアなキャラな商業ラブコメが多い中、このムラムラから始まるラブコメのぶっちゃけ具合、かえって男の子も女の子も可愛いらしくピュアに見えますね。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

「オナペット」って言葉、最近聞かなくなったなw

多くの会話がセクハラギリギリというかセクハラなんですけど、男女のコミュニケーションの機微・難しさ・くだらなさが、狂気じみててリアルではないのに何かどこか生々しいな、という。

鈍感なふり聴こえないふりピュアなふりしてキープを二股・三股当たり前だけど絵だけは可愛い、みたいなワンパターンな商業ラブコメが多い中、この作風はかえってラブコメとして好感が持てちゃいますよね。

ピュアなだけでは恋愛にならないし、誠実な人間にも性欲や性的興味はあるし。

こういうラブコメが主流になんねーかな。なんねーな。

 

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#バトルグラウンドワーカーズ 8巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

いい表紙。

近未来、地球には「亞害体」と呼ばれるクリーチャーが襲来。国際組織「人類連合」が結成され、量産人型兵器を運用して亞害体を無人の辺境に封じ込めていた。無職の青年・平 仁一郎のもとに一通の通知が届く。それは人類連合のパイロットの採用審査通知だった。

という、エヴァとMATRIXとAVATARとパトレイバーとフロントミッションを足して割ったような人型兵器に、無職を集めて遠隔操縦させるSFもの。ロボはレイバーサイズ。

遠隔操縦だけど神経接続されるので、痛みがフィードバックされ破壊されると死。ヤバくなったら神経接続のプラグを抜けば緊急脱出、ただし生涯で5回これやると脳のダメージで死ぬ。

戦場は南シナ海のジャングルの島だけど、遠隔操縦なのでパイロット達は自宅から平和な日本の職場に通勤という、日常と非日常のコントラスト。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

人類連合は亞害体をサファン諸島に装置で封じ込めて被害担当地域と定め、これに抵抗するサファンをあたかも亞害体であるように偽装し攻撃してきた。真実を知った主人公たち31小隊はこれを世間に公表。そんな最中、世界中に「本当の」亞害体が出現、跋扈。国連ではサファン諸島に対する再攻撃と封じ込め装置の再起動が決議される。

人類世界とサファンの両方を救う道を模索する31小隊は、サファンとの停戦合意と共同戦線を成立させ、最終決戦に挑む…

ということで、完結巻。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

人類社会のサファン諸島に対する非道な仕打ちは、歴史上類例がたくさんあって、わかりやすく例えると「シン・ゴジラ」の国連の東京核攻撃の決議なんかもそうですね。

ルックスも似てるんですけど、ゲーム「フロント・ミッション」の「祖国達の島」、兵器開発の実験場として大国たちの犠牲になったハフマン島を少し思い出します。

あれリメイクしねえかな。悲しみと怒りが歴史を動かすあのシナリオ、少しビターなあのエンディングも大好きだったんですよね。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

能倉の怒りと悲しみから生まれた、八方塞がりの極限状態を挽回する起死回生の「たったひとつの冴えたやり方」。

オチの付け方次第で、もっとビターな結末にして「切なくて泣ける名作」になることも可能だったでしょうけど、作者はあえてそうしませんでした。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

この作者の優しさ、あるいは甘さなのかもしれないですけど、ビターなエンディングより、この甘すぎるぐらいのハッピーエンド、大団円で本当によかったなー、と自分は思います。

「誠実に必死に頑張っていれば、きっと理解し合えて仲間ができて、きっと人生も世界も良くなっていく」という単純明快で性善説と、同時に「世界を疑い対立することも辞さず、自分で考えることをやめない」こと、言ったらこの作品は1巻からずっとそれを描いてきた作品で、実にこの作品らしいエンディングを迎えて節を通したな、と感じます。

「サファンへの過ち」、少数の犠牲で世界が守られることも、能倉に繰り返させなかったね。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

8巻でコンパクトに完結ということで、何十巻もの付き合いの作品が完結した時に感じるあの喪失感こそ感じませんが、人気作を引き伸ばすでもなく無駄なく構成されていて、後々に何度も読み返しやすく人にも薦めやすい作品になりました。全8巻の割りにエンディングを迎えると妙に「大作感」みたいなものも感じますねw

映画だったら最初からパッケージになっていて、観始めてた時点で結末までが既に完成して決まっているんですが、漫画、特に読み切りではない、商業連載漫画というのは単行本のセールス・アンケート・ネットの反響などで、引き伸ばされたり、打ち切られたり、展開が変わったりテコ入れが入ったりと、どうしても「客の反応」に反応して本来作品が至るはずだった「あるべき姿」から外れることが多く、言ったら映画と比べて完成度の点で劣ることが多いんですが、たまにどういう理屈か「あるべき姿」を保ったまま完結まで駆け抜ける作品が現れます。

展開に多くの変転があった作品だった割りに、伏線やキャラの配置など、後付け・引き伸ばし・打ち切りなどの痕跡がほとんど感じられないというか、まるで「一話から最終話まで描き終わってから順番に載せていった」かのように、完成度高く、作品としての節を通した漫画だったなーと思います。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

やー、面白かった。

「ガンダム」系以外のロボットものも珍しいですけど、今時珍しいぐらいの大団円で読後感いいわー。

作者の次回作も楽しみだわ。

 

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