#AQM

あ、今日読んだ漫画

#トニカクカワイイ 22巻 評論(ネタバレ注意)

基本は理系天才フリーター・ナサくんと、謎多きクール美少女・司(つかさ)さんの、なんか可愛い男の子と女の子の新婚生活ラブコメ。

SFファンタジーな「かぐや姫」伝承にまつわり不老不死であることを匂わせつつ隠してきた日常ラブコメの、隠してきたその謎の真相が「第一部 完」として15巻で明らかに。

『トニカクカワイイ』22巻より(畑健二郎/小学館)

当初、司さんは「かぐや姫」その人、もしくは生まれ変わりじゃないかとか思ってたんですよ。

というのも、「竹取物語」についての読み物や映像作品をじっくり見たことがなくて、「蓬莱」も「不死山」についても知りませんでした。

今巻を読んで、とりあえずWikipediaで初めて「竹取物語」について読んだんですけど、

ja.wikipedia.org

『トニカクカワイイ』、モチーフにしただけじゃなくて『竹取物語』に結構忠実だったんだ…と今更知りました。

先にWikipediaを読んでいれば、司さんがかぐや姫その人でなく巻き込まれて「蓬莱」を飲んでしまった人、というのも予見できてたかもしれないと思うと、教養って大事だなあ、と思いました。

「不死山」もWikipediaに書いてあるやんけ。

『トニカクカワイイ』22巻より(畑健二郎/小学館)

ということで、今巻は『トニカクカワイイ』を構成する、「かぐや姫」にまつわる過去回想巻。

『トニカクカワイイ』の過去の伏線を回収し、また新たな伏線を仕込むエピソードでもありますが、ほぼ一冊かけた『竹取物語』のリメイク・コミカライズと言っても差し支えがあんまりなさそうな巻。脇役として司さんも出るよ、ぐらいの。

ラストで月に帰る、というところで昔からSF解釈(SF妄想)がされやすいおとぎ話で、正直、展開やディティール自体は凡百のSF妄想を比べてそんなに物珍しいものではなく凡庸とさえ言っていいんですけど、

『トニカクカワイイ』22巻より(畑健二郎/小学館)

「かぐや姫」の悲恋、恋に落ちる男女の感情の美しさやそれを失う哀しさがとても丁寧に情緒的に描写されます。

ラブコメ漫画家に今更こんな感想も大変失礼な話ですけど、誰でも知ってるラブストーリーをこんなに美しく描ける作家だったんだ、と思いました。

『トニカクカワイイ』22巻より(畑健二郎/小学館)

このエピソードを一冊にまとめた構成も良いし、最後はいつもの「コンビニでアイス」で締めるラストも良いです。

なんというか、『トニカクカワイイ』の連載が終わったら、古今東西のラブストーリーの名作を再構成・コミカライズして欲しい。

『トニカクカワイイ』22巻より(畑健二郎/小学館)

この人が描く『人魚姫』とか、読んでみたいなあ。

『フリーレン』に『よふかし』に、これかー。やっぱサンデー購読すっかな…

 

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#よふかしのうた 14巻 評論(ネタバレ注意)

少年・夜守コウ(14)はふとしたきっかけで「上手くやれていた中学生活」が嫌になり不登校に。ある夜、夜の散歩で街を放浪していると「夜と不眠」に一家言持つ謎の美少女・ナズナに声をかけられ、血を吸われる。彼女は吸血鬼だった。

夜に生きる眷属になりたいと願っても吸血鬼化しないコウ。彼女が照れながら語る「吸血鬼になれる条件」は「吸血鬼に恋して血を吸われること」だった。

「だがしかし」作者の吸血鬼ファンタジーな青春ラブコメ。作品全体を通じてアンニュイとそのアンニュイからの解放が夜を舞台に描かれる。

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

探偵さんを中心に回ったハロウィン編、新キャラ複数登場の星見キク編・第一ラウンドを経て、新展開。

前巻ラストで「そこは触らない約束」だと思ってた、コウの保護者(母親)が登場。

コウの最近の行状を知った母親の反応は…

一方、一人孤高を保つ吸血鬼・星見キクと、彼女の眷属候補として目をつけられた、コウの幼馴染・マヒル。彼らが行方をくらました先は北海道。

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

偶然にも中学の修学旅行先が北海道であることが判明したコウは、彼らを追うべく、北海道目当てに不登校だった学校に久しぶりに登校。

そして舞台は北海道へ。

マヒルの毒母親が描写された直後に、対比するようにコウの放任主義の母親が登場。なるほどね、というのと、良い親子関係だね、というのと、

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

母ちゃん美人というかめっちゃサヤ師に似てんなw

コウ君の学校復帰ですけど、ナズナが「ちょっと寂しそう」までもいかない微妙な微妙な反応で、内心が読めません。

勝手にナズナの内心を慮れば、コウ君が昼の世界に復帰したら寂しいだろうなと思う反面、ちょっとホッとするところもあるのかなと思ったり。

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

だからこそ漫画なんですけど、「自分に恋に落ちて吸血鬼になる」ことによって今までの人生捨てる覚悟の男の子って、ぶっちゃけちょっと重いというか、ホラーですよね。

自分だったら、と考えたら、自分に人生捧げてくる相手と恋愛するのは無理です。

その反面(反面か?)、「昼の世界」から逃げるように自分を選ばれるよりも、「昼の世界」の選択肢もあった上で自分を選んで欲しい、とも思います。

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

さくら可愛いというか、この作者が描く女の子ホント可愛いな。

コウ君自身は「夜の世界」で気がつけば吸血鬼たちの輪の中心を経験したことで、どこか達観して前より中学生活を「こなせる」ようになっていますが、これを「精神的な成長」と呼んでいいものかどうか。

特殊な体験をした主人公が、学校という世界の狭さと退屈さ、クラスメイトたちの幼稚さに気がつく、もっと言ったら「外の世界」との繋がりをクラスメイトたちに見せつける展開、クラスメイトたちを見返す展開、というのは、やや病的な承認欲求やマウント欲を満たす上で定番ちゃ定番なんですけど。「厨二病」と名前がつくぐらいで。

『よふかしのうた』14巻より(コトヤマ/小学館)

コウ君が肩の力が抜けて自然体すぎて、「やや病的さ」が薄く、中学生らしい「イキリ」要素も見られず達観して見える点で、作品タイトルも相まって却って不健全なように見えてしまいますねw 大丈夫かこの子w

コウ君、別になんもしてないんですけど、大人っぽくなったなーというか、老成してるよなーというのが、クライメイトと絡むと際立ちます。

バトル描写を伴うシリアス展開ながら、プチ梁山泊のように集った仲間たちの日常が楽しい漫画、という意味で、最近読み始めた『ウィッチウォッチ』に読み味が似てる気もします。

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今巻も好きなセリフ、好きなカラミ、好きなシーンがたくさんあって、とても面白楽しく読みました。

これが縦軸のない純然たる日常ものだとまた読み味が違っちゃうのは、

「シリアス要素からの逃避中の娯楽ほど楽しい」

というか、

「勉強しなきゃいけないときに部屋を片付けてる途中で読む漫画めっちゃ面白くて止まらん現象」

みたいなもんなんでしょうか。

マヒルの母親と何を話したのか気になるのと、なんかデンジ君みたいな胡散臭いイケメン出てきたな。続き早よ読みてえな。

『ハコヅメ』と『かぐや様』終わってモーニングとヤンジャン買わなくなったし、これと『フリーレン』のためにサンデー買おかな、もう。

 

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#め組の大吾 救国のオレンジ 6巻 評論(ネタバレ注意)

1995〜1999年に週刊少年サンデーで連載され小学館漫画賞・文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するなどして大好評を博した往年の名作「め組の大吾」の、同作者による続編。

今作は掲載誌というか出版社まで移って、週刊少年サンデー(小学館)から月刊少年マガジン(講談社)に。

『め組の大吾 救国のオレンジ』6巻より(曽田正人/講談社)

旧作の主人公は「朝比奈大吾」でしたが、今作の主人公は「大吾」違い。

個人の才能だけではなく、尖った才能を規律・規範を超えて臨機応変に受容・許容できる組織論的な話に。なるんかしらん。

新エピソードシリーズとして「消防救助技術大会」に向かう感じっぽく、ヒロインの雪の他、大吾(新)・駿のコンビも出場、サリエリ役の纏がライバルとして出場、予定。

訓練場の近くで起こった雑居ビル火災、満員のはずのネットカフェに救助に向かった大吾たちが見たのは、ほとんど無人のフロアだった…

『め組の大吾 救国のオレンジ』6巻より(曽田正人/講談社)

結果的に「ゴースト・レスキュー」というか、隠密部隊的な。

かっこいいシーンですが、人間相手に「敵を欺くにはまず味方から」を採り得る軍や警察と違って、「エリート部隊」はともかく、災害を相手に安全確保・リソース計画の上での総力戦と緊密な情報連携を旨とするレスキューの現場における「隠密部隊」はナンセンスです。

前作の大吾(旧)の「スタンドプレー」もある意味ナンセンスでしたが、物語上は「若手の暴走」「理解されない天才」として消化していました。

『め組の大吾 救国のオレンジ』6巻より(曽田正人/講談社)

「颯爽と現れてピンチを救う謎のゴースト・レスキュー」は絵ヅラは確かにとてもかっこいいですが、大吾(旧)のスタンドプレーを意図して組織的に再現しようとする、ナンセンスの最たるもので、「誰だかわからない救助隊員が現場にいる」って普通に考えて有り得ない。

が、今巻ではナンセンスにならないギリギリのリアリティラインで、描きたいシーン・絵ヅラを描き切った、という感じ。その皺寄せが全部、甘粕にw

結果的に「ゴースト・レスキュー」的になっちゃった経緯も偶発的でしたし、たぶん二度は描かれないシーンなんじゃないかな。

『め組の大吾 救国のオレンジ』6巻より(曽田正人/講談社)

作者が意図的に情報をマスクしているせいで、前作主人公・大吾(旧)たる朝比奈大吾の現況が不明、生きてるか死んでるかすら不明でしたが、今巻で、

・生きてる

・現役引退に至るような負傷や後遺症もなく健康

・現在はどこか南国に居住している模様? 東南アジア?

・しようと思えば自分の意思で千石市消防局?に復帰できる立場らしい

・甘粕と私的に連絡を取り合っている

ことが示されました。

前作における大吾(旧)の「スタンドプレー」は今作登場キャラたちのリスペクトの対象で、甘粕が組織として再現したい伝説である反面、その欠点も各自によって指摘され、大吾(旧)本人すらも否定しているのがちょっと面白いですね。

丸くなったというより、大人になったというかw

『め組の大吾 救国のオレンジ』6巻より(曽田正人/講談社)

前作以来ついて回っていた、「人の不幸の現場で輝く才能」のあるべきマインドセットの問題に、地味に答えが出たのもちょっと感慨深い。

 

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#女の園の星 3巻 評論(ネタバレ注意)

女子高の国語教師を務める30代の星先生(♂)の日常もの。

あらすじ・設定はこの1行以上は言いようがなく、ジャンルとしては会話芸よりの職業もの日常コメディかなと思います。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

高校教師あるあるっぽい内容ですが、既読の作品でいくと『動物のお医者さん』が雰囲気的には一番近いかなと思います。

主人公の星先生がハムテルで、動物の代わりに女子高生。キレで勝負、というよりジワジワくる系のパンチ力高い系。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

「え?」じゃないが。

女子高生がいっぱい出てくる漫画はファンタジーというか嘘くさい会話が多いんですが、本作は女子高生の会話が珍妙なのに「あるある」というか、リアリティライン高いところの上澄を上手に拾ってくるなあ、という感じ。

なんというか、「突飛すぎると逆にリアルになる」パターンの芯をついてくるというか。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

「それも鶴よ」じゃないが。

今巻も日常短編の連作で、作品を貫く縦軸・あらすじらしいものは特にありません。

星先生が風邪をひいて教師の仕事を休む話、人前で食事ができない生徒とアイドル推し活の話、期末テスト中の監視の仕事でくつろぐ星先生の話、三者面談の話、掃除の時間に男子トイレに現れたGをなんとかする話。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

こうして数えると1冊に5話しか入ってないので、単行本が半年に一度出てもいいペースなんかな。早く次巻読みたいわ。

「笑ってはいけない教師生活24時」のようにも、三谷幸喜の舞台喜劇のようにも、4コマ漫画でもいけたようにも思います。

舞台化とかしたら楽しそうですけど、細かすぎるかな。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

ユルいというか、抑揚のないローテンションにジワジワくる面白さを込めるタイプなので、すごい面白いんですけど、読んでるこっちも情熱的な感想も書きにくいというか、テンション上げにくいわw

何を書こうかな。

案の定というか、古森さんの出番が増えてきて俺得ですけど、香川さんとの見分けは前髪で見分けたらいいのか。

↓この左の子、古森さんですよね。

『女の園の星』3巻より(和山やま/祥伝社)

「え…!?」じゃないが。

鳥井さんには世界がどう見えてんだよ。

 

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#あそこではたらくムスブさん 5巻 評論(ネタバレ注意)

コケティッシュというか、色っぽい表紙だな。

「今日のあすかショー」のモリタイシの、コンドームを製造する会社の商品開発を舞台にしたコンドームの新製品開発担当の白衣の美女・結さん(26)と、彼女に惚れてしまった営業企画担当の気が小さくてお人好しの若手・砂上くん(24)のお仕事ラブコメ。医療漫画「ラジエーションハウス」と並行して連載。

「あそこではたらくムスブさん」5巻より(モリタイシ/小学館)

コンドームを作る会社が舞台ですけど、「協力:相模ゴム工業株式会社」が正々堂々クレジットされているだけあって、下ネタ・エロネタ・茶化しがほとんどなしのピュアで奥ゆかしい恋愛コメディ。

砂上くんは奥手、結さんは箱入り娘で、社会人の恋愛ものですけど、2人とも自分の気持ちより相手の気持ちを思いやって動きが取れない、小学生の恋愛もののようにピュアっピュア。

「あそこではたらくムスブさん」5巻より(モリタイシ/小学館)

巡り合わせで二人で仙台出張、飲み会終わりに酔っ払いの面倒を見た深夜、巡り合わせでビジネスホテルの部屋で二人。

という、社会人ラブコメの定番展開。

結さんは、砂上くんの告白の返事をする覚悟だった。

ということで、未満恋愛の二人の初めての夜。まあネタバレですけど、今巻で晴れてお付き合い開始となります。

「あそこではたらくムスブさん」5巻より(モリタイシ/小学館)

男女交際経験のない結さんは、「告白→セックス」がセットだと勘違いしていた…

奥ゆかしく、ピュア(純粋)ではありますが、コンドーム作ってる会社で働いているだけあってセックスそのものに対して無垢ではないんですよね。

という、セックス中の行動様式については仕事で研究しているぐらいに詳しいのに、セックス周辺の人間関係にはまるで疎い、というギャップが可笑しいやら可愛いやら、という。

「あそこではたらくムスブさん」5巻より(モリタイシ/小学館)

仕事柄、セックスが「商品の検証」みたいな面が出ちゃってるのも、見たことのない背徳感に繋がっています。コレ背徳感か?

過激な恋愛もの・ラブコメが多い昨今、可愛らしいながらコケティッシュな絵柄の割りに、誠実で優しくて読んでてホッとするような、それでいて『モブ子の恋』よりも刺激的という、

「あそこではたらくムスブさん」5巻より(モリタイシ/小学館)

なんだかよくわからない独自の地歩を固めつつあるな、という。

 

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#わざと見せてる? 加茂井さん。 8巻 評論(ネタバレ注意)

実録ガチ系の下ネタ・風俗ネタ・ドMネタ、お下劣でやたら面白い怪作 、「エムさん。」の作者。無駄に女の子が可愛く「ヒロイン立ててストーリーもの描いてくんないかな」と思ってたら、カースト「下の中」の漫画オタクの男子中学生と、カースト上位でスカート短い美少女ギャルの、王道の隣の席ラブコメ。やったぜ!

「わざと見せてる? 加茂井さん。」8巻より(エム。/双葉社)

作品としては「中学生の未満恋愛」の同じセグメントに「僕の心のヤバイやつ」という超強力な作品があって、その陰に隠れている感じはあります。開始時期も同時期で巻数も近く、また作者がラブコメ畑の外から参入してきたあたりも似ていて、桜井のりおとはまた違った意味で従来のラブコメにない切り口や視点が提示されて、自分もとても期待している作品。

「僕ヤバ」と比べるとヒロインをもうちょいエッチに、主人公をもうちょいキモくした感じです。

「わざと見せてる? 加茂井さん。」8巻より(エム。/双葉社)

いや、作者もキモいです。

わかるけどさ、青春ラブコメ漫画でアンタは一体ナニを語っているの?www

陰キャな青春を過ごした作者が陰キャな少年を主人公に飛び切りの美少女との恋愛未満を妄想で付け加えて描くという、外形的に大きな共通点があるんですけど、それ以上に「あー、青春時代の後悔をずっと大切に抱えている作者なんだな」と強く感じて、だからこそ同じように後悔を抱えている自分はこの作品にも惹かれるんだろうなー、と思います。

「わざと見せてる? 加茂井さん。」8巻より(エム。/双葉社)

この闇堕ち描写はなかなかの…

陰キャな青春に妄想上のヒロインを放り込んでもフィクションでやり直しても、後悔は形を変えただけで結局存在していることは変わらない、苦い何か。ルックス的には一見して「売らんかな」なラブコメでありながら、どこか「ラブコメの勝利の方程式」に背を向けちゃってる漫画。

主人公たちが3年に進級、クラス替えに伴って新キャラも大量に登場して、「ラブコメの青春群像劇化」かと思われたんですが、今巻。

「わざと見せてる? 加茂井さん。」8巻より(エム。/双葉社)

あー、なるほど…主人公の「青春百人組手」の相手たちなのか…

今巻、主人公の闇堕ち描写も大概でしたけど、この野球部も出オチ感が大概というか、「女は野球のトロフィーじゃねえよ」というか、要するに主人公を成長させるための「噛ませ犬」ではあるんですけど、作劇上、好感度低い役回りをやらされて、最後は少し不憫というか、シンパシーというか。

「わざと見せてる? 加茂井さん。」8巻より(エム。/双葉社)

一応、「ミステリアス扱い」だったヒロインの心情がハッキリと語られ、「青春百人組手」と併せて、ラストまでの道筋は見えた気はします。

ラブコメと呼ぶにはラブ要素と鬱展開の高低差が激しく、またラブコメのテンプレにハマってるようでハマってない作品。

コメディ面はさておき、シリアス面ではヒロインの言葉どおり主人公が「空回ったり傷ついたり」、初恋のトキメキよりも青春期の葛藤が先行しがちで、読んでる方にも苦しい苦しいシーンを強いてきますけど、この苦味がなんかこう、どこか懐かしくて癖になんだよな。

でも、もし成就の暁には、どうか甘々のご褒美を、どうか。

 

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#忍者と殺し屋のふたりぐらし 2巻 評論(ネタバレ注意)

忍者の里で修行して暮らす さとこ は、周りの仲間の雰囲気に流されてなんとなく里抜けに参加(8回目)、抜け忍となったが、特に里抜けしたい目的があったわけでもないので普通に行き倒れていたところを、女子高生殺し屋の このは に拾われる。

忍者としてはポンコツ気味ながら物体を木の葉に変える さとこ の能力に目をつけた このは は、見返りに忍者の里の追手を返り討ちにしてやる代わりに殺し屋仕事の死体処理係の相棒として さとこ を自分の部屋に住まわせる。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』2巻より(ハンバーガー/KADOKAWA)

忍者と殺し屋の奇妙な同居生活が始まった…

という、日常エッセイ漫画の鬼才による非日常な日常コメディ。

殺し屋という職業は現実世界ではなかなかレアですが、漫画の中では割りとポップな職業。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』2巻より(ハンバーガー/KADOKAWA)

女子高生をはじめ女性が殺し屋稼業を営んでる漫画は珍しくありませんが、本作で人を殺すことの罪悪感が除菌されてヒロインたちが明るく楽しくアッケカランと人を殺すことのギャップ・違和感・狂気は、作中でも少し言及されている通り意図された効果で、だからこそヒロインたち自身が死ぬ陰惨な展開すらも作者が必要と思えばこの可愛らしい絵であっさりやりそうな、怖さを感じます。

1巻のあとがきで作者が「読切のつもりで描き始めたので、どうなるのか私にもわかりません」って書いてて、「あっコイツやべえ」ってなりました。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』2巻より(ハンバーガー/KADOKAWA)

今巻も人間にしろロボにしろ、コメディキャラとして登場した美少女(?)たちがサクサク殺されていく、というか、もう殺されるシーンすら省略されて本当に生命が軽いです。

「芸のためなら女房も泣かす」という歌がありましたが、この作品は「ギャグのためなら美少女も殺す」という感じ。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』2巻より(ハンバーガー/KADOKAWA)

このコマが最期の出番とか、ある?www

露悪趣味が過ぎるような気もする反面、このは に人を殺すことの罪悪感の萌芽も描写されるんですけど、文法的には「冷徹な殺し屋が殺した相手の人生に想いを馳せる」は「自分が死ぬフラグ」です。

倫理としてではなく、エンタメとして。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』2巻より(ハンバーガー/KADOKAWA)

前もどっかで書いたけどサイレンススズカに激似だなw

既に文法を逸脱している作品ではありますが、生命倫理を手放してもエンタメ性は手放していない作品なので、この作品に「美少女たちの明るいゆるふわ日常コメディ」だけを期待している筋には、そろそろ離脱しておくのも、描く方と読む方の、お互いのためかもしれません。

 

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FSS (NT2023年1月号 第18巻相当) 評論(ネタバレ注意)

ファイブスター物語、連続掲載継続中。

「第6話 時の詩女 アクト5-1 緋色の雫 Both3069」。

扉絵コミで15ページ。

  

他の号はこちらから。

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  • (余談)
  • (扉絵)
  • (本編)
  • (所感)
    • 扉絵
    • 本編

以下、宣伝と余談のあとにネタバレ情報を含んで論評しますので閲覧ご注意。

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#アルスラーン戦記 18巻 評論(ネタバレ注意)

表紙はエステル(エトワール)。

何度も書いてますが、自分はエステルの"あの"扱いで原作小説の第二部に愛想が尽きて、読むのをやめてしまいました。

「アルスラーン戦記」18巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

お前らエステルいじめんなっつってんだろ!この子が何したってんだよ!ぶっ転がすぞ!

田中芳樹の高名なファンタジー戦記を荒川弘がコミカライズという鉄板漫画。

原作でいうと第一部の終盤、原作全7巻の7巻相当ぐらい、『王都奪還』あたり。

虜囚の身から自力で脱出し、救国の軍を起こした息子の軍勢に合流したアンドラゴラス王に「兵力5万を集めるまで帰参するにあたわず」と追放されたアルスラーン王子。

彼を慕って軍を脱出した少数精鋭・一騎当千の部下たちと訪れた港町ギランで海賊や悪徳領主を制圧。

一方、アンドラゴラス率いるパルス軍はペシャワール城を進発、王都エクバターナに向かって進軍を始めた…

「アルスラーン戦記」18巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

ということで、今巻はアンドラゴラス軍とルシタニア軍が平原で激突、暗躍するヒルメスや力を蓄えたアルスラーン軍は漁夫の利の間隙をついて王都へ向かう。

「風は王都へ」という感じで全ての勢力が決着を求めて王都に集まりつつ、というところ。

「アルスラーン戦記」18巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

連載始まった頃は「このペースでコミカライズなんて第一部終わんのに何年かかるんだ」と思ったものですが、原作6冊分を9年(ぐらい)かけて、終わりが見えてきましたね。

原作リスペクトの強い忠実な構成、大量の主要登場人物の描き分け、描くのが大変ながら労を惜しまない会戦の描写と、相変わらずコミカライズにあたってこれ以上ない「当たり作画」。

「アルスラーン戦記」18巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

「蛇」絡みも原作に忠実なので、第二部もおそらく描かれることになるんだろうと思います。

遠い先のことだと思ってましたけど、コミカライズの第一部も最終決戦展開を残すのみで、そろそろこっちも「第二部を読むや読まざるや」、考え始めないといけない。

コミカライズを担当する荒川はここまで原作にとても忠実で、「わかりやすくすること」「少年漫画ナイズすること」を除けば展開の改変をほとんど封印してきてますが、極めて個人的な好みを言えば、第二部からはその封印を解放して欲しい。

ぶっちゃけ原作の第二部、全然面白くない。

「アルスラーン戦記」18巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

まあでも、ないだろうなー。

 

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#転生したらスライムだった件 22巻 評論(ネタバレ注意)

サラリーマン(37)が刺されて死んで異世界に転生したらスライムだったけど、付与された特殊能力で強力な魔物スキルをガンガン吸収してスライムにして最強、人型にも顕現可能に。

リムルを名乗り、多くの魔物を配下にジュラの森の盟主となり「魔国連邦」を建国。襲来した人類国家ファムルス王国軍2万の兵をリムル自ら直接殺害して魔王に覚醒。暗躍する魔王クレイマンとも、10人の魔王による会議・ワルプルギスで決着をつけ、並行して魔王領各地で勃発したリムル陣営vsクレイマン陣営の闘争はリムル陣営が完勝。

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

次いで「魔物を駆逐するべし」との教義、配下にリムルと同じ転生者の聖人(魔王級)や聖騎士団を擁する西方教会。影の支配者に壟断され、操られるように魔国連邦と戦闘に突入する聖人ヒナタと聖騎士団。

戦闘の決着がついたところで、西方教会の影の真のトップというか「神体」である魔王ルミナス・バレンタインが登場!

という前巻のラストを継いでの今巻。

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

平たくネタバレすると、教会の真のトップであるルミナスの介入により、争いを誘導した黒幕が処断されて、魔国連邦と西方教会が和解する巻。

もっと平たくネタバレすると、和平会議と、社員旅行みたいな宴会と、ヒナタとルミナスの温泉回の巻。

典型的な「なろう」「異世界転生」もので、転生の際のギフテッドによる主人公と仲間たちの「俺TUEEEE」に目が行きがちな作品ですが、現代日本の知識を持ち合わせた主人公が、異世界に現代日本の良いところを再現しようとする「実業家」としての面が強く出ている巻です。

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

侵略戦争に勝利することによる豊かさの独占よりも、和平と外交、貿易による豊かさの共有を是とする、坂本龍馬みたいですよね。

(※私の坂本龍馬像は司馬史観の影響が大きく、史実と異なる可能性があります)

他にも、ヒナタの過去と現在を通じて宗教とカルト宗教を、魔術戦闘を通じて量子コンピューティングの概念を、魔族と人間の対立と融和を通じて人種間差別を、

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

リムルの混浴問題を通じてジェンダーの概念を。

現実社会のテーマに対する個人の葛藤を、エンタメの範囲を逸脱しない程度に触れて描いてみせています。大きなテーマを、キャラ個人目線に落として描いているのが良いですよね。

展開的には「悪の黒幕」が罪を全部引き受けて「善玉」同士の和解イチャコラの仲人役をやってくれる、いわゆる「王道」「ベタなご都合主義」展開ではあるんですけど、そのたどり着いた先にこういうシーン、こういうセリフに繋がるのなら

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

「ご都合主義、上等!」って思っちゃいますよね。

バトルパートの「俺TUEEE」にしろ、種族・民族・宗教・国家を超えた融和と平和を創ってくれるんじゃないかと期待させる治世・開発・外交パートのワクワク感にしろ、読者が読みたい展開・描写を媚びるでもなく過不足なく楽しく描くのがとても上手い作品で、数多ある「なろう」「異世界」作品の頂点と言っていい人気を博しているのも頷ける作品だなと、今巻を読んで思います。

この作品が仮にオリジナリティに欠けていたとしてもエンタメとして丁寧で誠実で、仮に性善説のご都合主義だとしてもその先で見せようとしている世界が美しい。

物語的にも、魔族に対して差別というより宗教的に「滅ぼすべし」との教義を持ち「人間族」で最も強硬派だった西方教会と平和条約を結べたのは、「魔族と人類が融和した世界」に向けて意義が大きいエピソードでした。

『転生したらスライムだった件』22巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

あと、魔国連邦で再現された日本食や温泉が羨ましくてずっとキレ気味なヒナタが可愛い巻でした。

 

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#空挺ドラゴンズ 14巻 評論(ネタバレ注意)

空飛ぶ龍を捕龍船(飛空艇)で狩る「龍捕り(おろちとり)」にまつわるファンタジー。狩った龍は解体して売ったり食ったりする。若干、風の谷の天空のなにか風味。

「船喰い」と恐れられる伝説の龍「震天王」テュポーンとの対峙でダメージを負った、主人公たちの捕龍船「クィン・ザザ」号。

『空挺ドラゴンズ』14巻より(桑原太矩/講談社)

その大規模改修の長い期間、船のメンバーの故国にまつわるサブエピソードなどもありつつ、カメラが戻ってフルメンバー、クィン・ザザ号の復活。

今巻はガッツリ一冊かけて、「震天王」テュポーンとのリベンジ戦。

ストーリー的には「テュポーンと戦った」以上のものはないんですが、見応えのある討伐が展開・描写されます。

『空挺ドラゴンズ』14巻より(桑原太矩/講談社)

良い意味での「ライバル」ではなく、ポリシーから対立する悪い意味での「競合」「商売敵」である屠殺船とまたも現場で競合しつつ、索敵から決着まで。

「震天王」の「いやソレ食らったらみんな死ぬでしょ」級の必殺技を受けつつも総力戦で逆転しての勝利で、

『空挺ドラゴンズ』14巻より(桑原太矩/講談社)

バトル描写のリアリティよりも「ややファンタジー」寄りを採った代わりにエンタメ性に満ちた展開が、いよいよもって「空飛ぶモンハン」じみてきましたねw

見開きを効果的に使って空戦のスケール、「空戦ファンタジーならではの見たことのない景色(シーン)」をこれでもか、と。

そういえばアニメ化済でもあることだし、1回ぐらいモンハンコラボとかないんかな。自分が知らんだけでもうコラボしてたりすんのかしらん。

屠殺船と競うようにテュポーンと戦った結果、言葉ではなにも合意できていないのに結果的に無言のまま「戦友」になったような展開。

『空挺ドラゴンズ』14巻より(桑原太矩/講談社)

最強の竜との戦いの敗北・挫折からの再起・再戦・勝利と、ハリウッド映画の三幕構成だったらこの辺で解決してもよさそうなとこではあります。

「震天王」テュポーン以上に竜の強さが際限なくインフレしていく、というのも、ゲームのモンハンでも少年バトル漫画でもないこの作品的には意義が薄いでしょうし。

『空挺ドラゴンズ』14巻より(桑原太矩/講談社)

屠殺船周りと、あとなにより主人公格のミカのキャラクターが、まだ読み足りないというか、深掘りの余白が残ってるかなという気はします。

テュポーン戦の後始末のあとは日常回に戻って、次の山場に備えるなら、それはそれで楽しみな、という。

 

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#キメツ学園! 3巻 評論(ネタバレ注意)

本編のおまけ漫画で作者自らによって度々描かれた二次創作「キメツ学園」が、他の漫画家によって連載化されたキャラもの公式スピンオフ。

『キメツ学園!』3巻より(帆上夏希/吾峠呼世晴/集英社)

小中高の一貫教育校キメツ学園の日常ギャグコメディ。キャラはみんな二頭身のSD化。

柱の面々は主に教師役に、その他の鬼殺隊の面々や鬼が生徒役に。

当然、正統続編ではなく、本編とはパラレルな世界観の作品。

まあ鬼滅ファン、特にキャラ萌え勢向けの楽しいファンアイテムです。「この人間関係を平和な世界観で見てみたい」という需要に応えた日常ギャグコメ。

『キメツ学園!』3巻より(帆上夏希/吾峠呼世晴/集英社)

炭治郎が割りと品行方正で単品でギャグコメのキーになるトラブルを起こしにくく、脇を伊之助と善逸で固めて3人で狂言回し、という感じ。

なんですけど、3人まとめてもそれでもやや陰が薄いというか、柱人気を背景に先生たちにスポット当たったエピソード多いですねw

『キメツ学園!』3巻より(帆上夏希/吾峠呼世晴/集英社)

無惨様は今巻初登場かな?

あと甘露寺が学園卒業済の大学生なので「出番が少ないのかな」と思ってたんですけど、毎巻コンスタントに出番が与えられてて嬉しい。

『キメツ学園!』3巻より(帆上夏希/吾峠呼世晴/集英社)

SDキャラのほのぼのゆるふわ進行ですけど、ちょいちょいシュールというか狂気じみてて良いですね。ほのぼのゆるふわな漫画でもアクセントの「ひとつまみの狂気」大事。

この手のスピンオフは2〜3巻で完結するかしないかが分水嶺になりがちですけど、この作品は4巻も刊行予定とのことで、まだ全エピソードのアニメ化も完了してないこともあって2年前に最終巻が出た「鬼滅」人気は息が長いです。

というのもありますが、他愛なく可愛いキャラものスピンオフとしてなかなか楽しい仕上がりで、自分けっこう好きですコレ。

 

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#アオのハコ 8巻 評論(ネタバレ注意)

週刊少年ジャンプ、本誌連載の青春恋愛漫画。

中高一貫校、バドミントン部の1年のホープ・大喜(♂)と、同じ体育館で練習する女子バスケ部の2年で学校のアイドルで大喜の憧れである千夏先輩(♀)。

部活違い・学年違いながら、早朝自主練で千夏先輩と言葉を交わすようになった大喜が、ある朝自宅で目覚めてリビングに降りると、そこには千夏先輩の姿が!

千夏先輩は親の海外転勤に際してもバスケの夢を諦められず、バスケ部OG同士の母親同士のツテで大喜の家に下宿することになった。

という同居設定の青春恋愛もの。コメディ要素ももちろんありますが、成分比的にラブコメ作品じゃないですね。青春恋愛もの。

『アオのハコ』8巻より(三浦糀/集英社)

千夏先輩のバスケにかける覚悟を知った大喜は、彼女にふさわしい男になるべく、自分もバドミントンでインターハイ出場を目指すことに。

新体操部の期待のホープで大喜の幼馴染で片想い中のサブヒロイン・雛を交えた片想い三角関係。王道のメロさ。

図にするとこうなる。

雛→(好き)→大喜→(好き)→千夏先輩

この図、要る?

『アオのハコ』8巻より(三浦糀/集英社)

インターハイの夏が終わって季節は秋、文化祭編の続き。

「火事と喧嘩は江戸の華」と言いますが、「メイド喫茶と演劇・白雪姫はラブコメ文化祭の華」みたいになってきましたね。

ラブコメいっぱい読んでるので「ネタ的に尺を稼げるイベントありがてえ」ってのは痛いほどわかるんですが、こういうベタイベントを律儀に消化する必要がある作品とも思えないので、意外っちゃ意外でした。

『アオのハコ』8巻より(三浦糀/集英社)

軽音部のライブ中の「ラブコメ主人公・ヒロインの難聴ネタ」も含めて、ちょっと義務感で「ラブコメイベントの実績埋め」やってるみたいにも見えてウケる。

あとは、少年誌の青春ラブコメでは「ピュア」「一途」が求められて、複数ヒロインを出す割りに「二人を同時に本命として好きになる」自覚を「ハッキリ」描写するのはタブー気味なんですけど、今巻少し踏み込んで、「この漫画どーすんだろね」という。

『アオのハコ』8巻より(三浦糀/集英社)

この辺、「二人が好き」のメロドラマ展開は青年誌や少女漫画の恋愛もの・ラブコメではタブー感が薄くてちょいちょい登場して、そして読者から嫌われたり(でも文句言いながら最後まで読んでくれたり)するんですけど、特に週刊少年誌だと読者の好感度がマイナスの主人公だとアンケート順位低下に直結して連載が保たないんですよね。

あともう一つ「メロドラマ要素」として今巻から新キャラで恋愛マスター気取りのおせっかい応援キャラが雛の援軍(?)として登場したんですけど、

『アオのハコ』8巻より(三浦糀/集英社)

尺を伸ばしたり「きっかけ」の事件作りにこの手の「引っ掻き回しキャラ」が便利なのはわかるんですけど、頼まれもしないのに恋愛プロデューサー気取りのキャラって自分の恋愛観で他人同士の恋愛を「あるべき姿」の型に嵌めようとしがちで、思い通りにならないと本人たちにキレがちなんですよね…

ムカつくウザキャラもスパイス程度ならいいんですけど、この他人の恋愛感情に対する支配欲の強い新キャラが、この先あんま幅を効かせるようだったら、この漫画読むのやめます。

早めに可愛げのあるとこ出してくれるといんですけど。

 

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#あかね噺 4巻 評論(ネタバレ注意)

浅草の阿良川一門の落語家(二ツ目)阿良川志ん太の娘、小学生・朱音(あかね)は父親の落語を誇りに思い憧れていた。

朱音も応援する父親の真打昇進試験、しかしその顛末は予想だにしないものだった。

内密かつ非公認に、一門ナンバー2の落語家・阿良川志ぐまに父に倣って師事して6年、高校生となった朱音は父親の意志と夢を継ぐべく、正式に志ぐまに弟子入りし阿良川一門に入門。

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

父の叶わなかった夢、真打を目指す朱音の落語家人生が始まった。

という、落語をモチーフにした成長譚の青春譚のサクセスストーリー。

週刊少年ジャンプ本誌連載ながらモチーフが落語という変わり種ですが、まあ「なにやってもジャンプ」というか「落語やってもジャンプ」というか。

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

ジジババイメージが強い伝統芸能の世界の中心で元気で可愛いJKが主人公、というのもギャップがありつついかにも今どきでキャッチーで、世代間コミュニケーションの楽しみや「男社会の中の女」という切り口にも派生できそうで、見た目の印象以上に拡張性が高い作品だな、と。

因縁の相手・落語会トップの阿良川一生が主催する、学生アマチュア落語大会編。今巻前半で決着。

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

阿良川一生との対談会を経て、プロ落語家としての下積み開始編へ。

ネタバレですけど、学生アマチュア落語大会で優勝したんですけど、優勝しても一生との対談以外は特に何のメリットもなく業界内で悪目立ちしただけでウケる。

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

まあプロとしては脇道、物語としては単発イベントのエピソードで、ヒロインあかねの動機の強化、あと"からし"という面白いキャラが登場したのが収穫でしたね、というところ。『ダイ大』のポップ枠っぽいねコイツ。

阿良川一門の第一人者の一生と、一生に弟子を破門にされたNo2の志ぐまの、同門トップ同士の確執の機微がまだよくわかんないんですが

と前巻の感想に書いたんですけど、どうも『美味しんぼ』の「究極の料理」や『ヒカルの碁』の「神の一手」や『ガラスの仮面』の「紅天女」的な、

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

「幻の落語」みたいなのがあって、一生はそれを追い求めることから降りて、志ぐまは未だそれを追い求め、あかねの父親もそれに追随したゆえに昇進に響いたっぽい感じっぽい。

「究極の」とか「神の」とかってのは、概念というか、漫画作品において具体的な描写がはぐらかされるケースが多かったり(それが悪いわけではないです、作劇に必要なければ要らないです)、逆にソレを追い求めすぎて『ガラスの仮面』みたいに作品そのものがフリーズしてしまったりするんですけど、この作品における「幻の落語」はどんな描かれ方をするんでしょうか。

『あかね噺』4巻より(末永裕樹/馬上鷹将/集英社)

まだだいぶ先の話だろうとは思いますが、今から楽しみですね。

 

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#ラーメン赤猫 2巻 評論(ネタバレ注意)

ジャンプ+のインディーズ連載から好評につき異例のコミックス発刊、正式連載に昇格した作品。

ブラック企業を退職した人間・社 珠子(やしろ たまこ)が人づての紹介で次の職場として採用面接を受けたのは、猫と虎がラーメンを作り猫が接客する、猫と虎で営業するラーメン屋、「ラーメン赤猫」だった。

『ラーメン赤猫』2巻より(アンギャマン/集英社)

ラーメン丼に毛を落とせない従業員猫たちのブラッシング係、次いで皿洗いを任された社さんと猫たちの、お店日常もの。コメディに寄りつつ人情噺が中心。

本作の猫は人語を解し話しラーメンを作りラーメン屋を経営し、人間並の完全な人権は未整備っぽいものの店舗の経営ぐらいまでは社会から許されている世界観。

たぶんちゃんと納税もしてる。

『ラーメン赤猫』2巻より(アンギャマン/集英社)

主人公というか狂言回しヒロインが人間ということもあり、日常ものが自然、異種間コミュニケーションのお話に。

理屈をつければ「SDG's的な多様性を重視したお話」とも言えますが、教条めいた硬さや押し付けがましさを感じさせない、さらっとした優しいお話。

『ラーメン赤猫』2巻より(アンギャマン/集英社)

「ほっこり」って表現が嫌いな人もいることは存じ上げてはおりますが…そんな人は猫がラーメン屋やるような漫画そもそも読まないかw

ギスギスした社会に疲れた人間を癒してくれる、二重の意味でファンタジーなほっこり系です。

今巻も優しい単話エピソードを重ねつつ、ちょいちょい店員猫たちの過去話の深掘りなど、「お店人情もの」の王道展開。

『ラーメン赤猫』2巻より(アンギャマン/集英社)

ちょいちょい「悪役」を立てたお店のピンチに繋がりそうなトラブルもあるんですけど、解決が早いというか、猫店員たちの対応がしっかりしてて頼もしい。

『スラムダンク』の単行本で、エピソード間の幕間ページの丸コマの描き下ろし「一コマ漫画」が好評でしたが、この作品も幕間ページに丸コマの描き下ろし「一コマ漫画」が、しかも1ページに4〜5コマ収録されています。

『ラーメン赤猫』2巻より(アンギャマン/集英社)

数えてみたら2巻では描き下ろし一コマ漫画が45本も収録されていて、WEB連載で読んだ人にもお買い得な単行本。

こういう「深掘り」というより「浅掘りがたくさん」なおまけ漫画って、軽いんだけど作品のイメージが拡がって嬉しいですよね。

ラーメン屋で席にサービスで置いてる漬け物みたいw

 

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