#AQM

あ、今日読んだ漫画

#ローズ ローズィ ローズフル バッド 5巻 評論(ネタバレ注意)

神原正子、40歳、独身、職業漫画家。賃貸の一軒家に5つ下で世話役アシスタントを務める妹と二人暮らし。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

少女漫画家を志してデビューしたものの、23歳の時に少女漫画とは畑違いのゆるキャラコメディもの?の『ファブ郎』がヒットし、以来『ファブ郎』を長期連載。

プロとして食っていける分には収入も生活も安定し、『ファブ郎』も出版社の漫画賞を受賞するなど、順風満帆とまではいかないものの漫画家として悪くないキャリアだった。

しかし、自身の40歳到達と、妹の結婚で一人暮らしとなるタイミングが重なったのを機に、若かりし頃の夢「少女漫画が描きたい」という情熱に再び取り憑かれる。

少女漫画家として「キラキラ」のインプットが足りないようだ、との認識が自他共に一致し、かくして正子は「キラキラ」をインプットすべく、「恋活」を開始するのだった…

という、少女漫画の大家・いくえみ綾による漫画家漫画。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

カフェで美少年大学生・廉と、そして漫画賞の授賞式でドラマ制作を手掛けるバツイチイケメン・鷹野と知遇を得た正子。

彼らは親子だった。

廉も遠巻きに応援する中、正子は鷹野といい感じの仲になりつつあったが…

20代の若者をキュートに描きつつも、アラフォーの男女がとてもチャーミングに描かれてます。

プライベートでは鷹野との恋も順調に進展し、仕事では念願かなって正統派少女漫画作品の連載が好評、1巻発売、重版。

「恋と仕事の両立」を果たしているように見えたが…

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

ネタバレすると、前巻で漫画家の仕事に夢中な正子に疎外感を感じた鷹野から別れを告げられました。

自分はこんなことを感想に書きました。

同性なせいか、主人公の正子よりも、むしろその恋のお相手の鷹野に、声をかけてやりたい気もします。

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同性ゆえのホモソーシャル的な同情なのか、「漫画の肥やし」目当ての恋愛相手に選ばれたことがジェンダーを超えた一般論として可哀想だったのか。

 

今巻で男性の編集者も飲み屋で「男として胸が傷む」と語ってましたけどw

正直、「恋愛のプレイヤー」としての正子のことはほっといてもいいぐらい、あんまり気にならなくて、愛情が報いられなかった鷹野に同情してしまいました。

「いくえみ作品の男性キャラは魅力的」

とよく言われますし、自分も書いたことありますが、今巻の鷹野を見てるとアレですね、男のハートのナイーブで傷つきやすい弱さやカッコ悪さを晒け出させるのがキーなんかもしんないですね。

おっさんの自分に母性本能があるのかないのか、知りませんけどw

鷹野を守ってやりたいとまでは言わないけど、元気出してほしい。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

さて。

意外だったのは、「ほっといてもいいぐらい、あんまり気にならな」いはずの正子が思った以上に凹みまくって泣きまくってて、描く漫画にまで影響が出てしまったことです。

てっきり、失恋もバネにするタイプ、というかそういう漫画かと思ってたので。

あと、失恋でメンタル弱ったのをきっかけにエゴサーチ、それをきっかけにSNSでのパクリ疑惑の風評、そこから創作論、更にサイン会での感動など、思いの他「漫画家漫画」らしくなったのもちょっと意外でしたw

もっと「アラフォー女性の生き様」みたいな主題に「仕事がたまたま漫画家なだけ」ぐらいに思ってたので。

自分ん勝手な持論ですけど、「美大漫画」と「漫画家漫画」は漫画家人生で一度だけ描くことが許される私小説の切り札だと思ってんですけど、いくえみ綾はこの作品にぶっ込んでくるんだな、みたいな。

もちろん漫画でフィクションなんで、どれが、どこまでが作者の実体験に基づくものかなんて、わかんないんですけど。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

「恋愛プレイヤー」としてはなんかタフそうで、鷹野と違って「守ってあげたい」なんて思わない正子ですけど、「漫画家」としてはすごく守ってあげたくなります。

ネットやSNSの風評で傷ついて失速した漫画家、キャリアが壊れた漫画家、ただ漫画読んでネット見てるだけの身でも、何人か見てきたもんなあ。

ただ、恋愛面でも創作面でも、まだ盛り上がりがありそうですね。

自分は大ファンの割りにはいくえみ綾のプライベートを全然知らないんですが、「恋多き女性漫画家」といえば、伝聞によって一条ゆかり先生のイメージがとても強いです。

一条ゆかり先生は失恋で筆が鈍るタイプだったのか、それともバネにするタイプだったのか、とかちょっと想像してしまいますね。

『ローズ ローズィ ローズフル バッド』5巻より(いくえみ綾/集英社)

「一条ゆかり vs SNS社会」とかも、あれこれ勝手に想像が浮かんじゃって面白いw

 

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#アルスラーン戦記 21巻 評論(ネタバレ注意)

表紙はパルス王国王妃タハミーネ。

「重要そうでいてどうでもいいキャラ第1位」

というイメージ。

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

田中芳樹の高名なファンタジー戦記を荒川弘がコミカライズという鉄板漫画。

原作リスペクトの強い忠実な構成、大量の主要登場人物の描き分け、描くのが大変ながら労を惜しまない会戦の描写と、相変わらずコミカライズにあたってこれ以上ない「当たり作画」。

原作でいうと第一部の終盤、原作全7巻の7巻相当ぐらい、『王都奪還』あたり。

虜囚の身から自力で脱出し、救国の軍を起こした息子の軍勢に合流したアンドラゴラス王に「兵力5万を集めるまで帰参するにあたわず」と追放されたアルスラーン王子。

彼を慕って軍を脱出した少数精鋭・一騎当千の部下たちと訪れた港町ギランで海賊や悪徳領主を制圧。

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

一方、アンドラゴラス率いるパルス軍はペシャワール城を進発、王都エクバターナに向かって進軍を始めた…

ということで、今巻はアンドラゴラス軍とルシタニア軍が平原で激突、暗躍するヒルメスや力を蓄えたアルスラーン軍は漁夫の利の間隙をついて王都へ向かう。

「風は王都へ」という感じで全ての勢力が決着を求めて王都に集まりつつ、というところ。

連載始まった頃は「このペースでコミカライズなんて第一部終わんのに何年かかるんだ」と思ったものですが、終わりが見えてきましたね。

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

遠い先のことだと思ってましたけど、コミカライズの第一部も最終決戦展開を残すのみ。

第二次アトロパテネ会戦も戦勝し、侵略者ルシタニア軍は事実上崩壊、王都エクバターナを舞台にアンドラゴラス、ヒルメス、イケノンティス王などとの決着を残すのみ。

タハミーネとの会話で王家の継承者たる資格を持たないことを知ったアルスラーンは、新王朝の開祖たるを望み、英雄王カイ・ホスローの承認の証「宝剣ルクナバード」を求める。

しかし、一行の行手に暗黒の陰が現れる…

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

昔の原作小説で、中世が舞台のファンタジー作品なんで、しょうがないんですけど

「王になるのに英雄王カイ・ホスローや宝剣ルクナバードなどの権威の承認が必要」

というのも、展開としてちょっと古臭く感じますね。

作中、ギーヴの言うとおりというかw

そのせいなのか、原作から改変、アルスラーンが宝剣ルクナバードを鞘から抜けません。

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

原作小説ではヒルメスとの対峙はルクナバードをもってしてたと記憶してるんですけど、まあ人間相手にはチートアイテムですし。

勇者ヒンメルも伝説の剣を抜けませんでしたし、

「権威による承認やチートアイテムの贈呈に頼らずに、実力勝負」

が近年のトレンド、という感じはします。

普通にやれば次巻で第一部完結、というところですが、

『アルスラーン戦記』21巻より(荒川弘/田中芳樹/講談社)

第二部展開とのミクスチャで蛇王関連も一気にカタをつけて完結、そのためにもう数冊かかるのかな、という。

 

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#薬屋のひとりごと 14巻 評論(ネタバレ注意)

売れてて、TVアニメも好評で、2期も決まって、

natalie.mu

というところで、コミカライズ作画の漫画家の脱税が発覚。

www.google.com

出版社であるスクエニは「打ち切らない」との判断とのことですが、同原作のコミカライズが小学館からも並行して出版されていることから、一部では小学館版が「納税版」、このスクエニ版が「脱税版」と不名誉な称号で呼ばれ揶揄され区別されているそうです。

まあ、自業自得。

自分は作品は好きですし、他人の脱税の責任をとって「納税版」で買い直す筋合いもないので継続して買って読みますが、一社会人としても一納税者としても軽蔑します。

キャンセルカルチャー的には、過去に脱税した漫画家くずれが元気にご活躍してる実績もありますし、相対的にこっちも打ち切りはギリギリセーフでいんじゃねえの、とは思います。

お仕事がんばってちゃんと税金納めて、打ち切らなかった関係者、特に大事な作品名に不名誉なミソをつけられた原作者に、借りを返して信頼を取り戻されてください。

打ち切られてたら、13巻まで買って読んでた自分も「未完の被害者」という関係者になるとこだったねえ。

今後メディア展開の度に本件スキャンダルが蒸し返されてケチがつくのも業腹ですし、自分が編集部の人間だったらキリのいいとこまでは現状維持で描かせつつ、読者から文句が出ないぐらい上位互換の作画担当者を探してきて、どこかのタイミングで作画者交代で引き継がせて損切りしますけど、どうなるでしょうね。

あと、脱税発覚以降、半年を経て初の刊行となった今巻の中で、脱税の件に関するコメントは出版社からも作画担当からも特に何もなかったことを申し添えておきます。

さて。

なろう小説のコミカライズ。

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

古代中国の華やかな後宮を舞台に、美女ありイケメンありミステリーあり。

人攫いに後宮の下女として売り飛ばされた薬師で毒マニアの少女・猫猫(マオマオ)が、謎のイケメン高官・壬氏(じんし)の引き合いもあって上級寵妃のお付きの下女として、華やかな後宮内で起こる難事件を薬と毒の知識と花街出身の度胸で解決する時代ものの探偵もの。ちょっとラブコメも有り。

ちょっと話それますけど、この作品の後宮の、「人攫いに売られる」「親に売られる」という非人道的・犯罪的なスタートからの、階級社会の中での意外とのほほん牧歌的な生活、意外とめげずにたくましい本人(下女)たち、という「売られちゃったけどそこで割りと楽しく暮らしてます」的な非対称なアンバランスさは見ててちょっと面白いですね。

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

「昔」のおおらかさ、たくましさ、アバウトさの表現として、意外とリアルだったりするんかしらん。「人権」の概念知らんから諦めがいいのかな。よくわからん。

さて。

前述のとおり、ガンガンとサンデーGXでそれぞれ同時にコミカライズされていて、サンデー版も出来物だと聞きますが、間違って読んでない方の続巻を買ってしまわないように気をつけましょう。

勧善懲悪というよりはヒロインが謎を解いて自分の利害(主に好奇心)を満たしたらそこで終わり(逮捕・検挙が目的ではない)という感じで、「犯人(たち)がその後どうなったのか」は描かれないことが多く、人によってはモヤモヤが残るというか、「大人な幕引き」のエピソードが多めですけど、自分はこれ系のモヤモヤは結構好きです。

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

毒マニアの薬師が主人公って一見変化球のようでいて、「事件」の舞台は後宮ということもあり、「被害者」「犯人」もその多くが女性で、かつ犯行が(地位を損なわないよう)秘密裏に行われるケースが多いことを考えると、殺人の手段が「毒殺」に偏って主人公が薬師なのは、よく考えたら必然だったんだな、とか思いました。

作品を貫くモチーフとして、ヒロイン・猫猫と未満恋愛ラブコメを展開する謎のイケメン宦官「壬氏(じんし)は何者なのか」がありますが、皇帝家の閨閥の闇(?)に関わるエピソードで、次いで避暑地のアバンチュールと「壬氏暗殺計画」で猫猫と壬氏が行動を共にしたことで、だいぶ進展。

猫猫はそもそも恋愛不感症気味なのと、壬氏を宦官だと思っていることのダブルパンチで恋愛感情が成立していません。

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

壬氏も側も宦官を偽装していることで、猫猫を「恋愛対象外」として、「気持ちを封印していた」というよりは「猫猫への自分の気持ちに無自覚だった」という感じでした。

が、実は壬氏が宦官ではないことが猫猫に明かされてしまったんですが、相変わらず恋愛不感症な猫猫ではなく、色んな意味で「高嶺の花」の側であるはずの壬氏の方が、恋愛感情のタガが外れてしまったっぽいですねw

「面白れー生意気庶民小娘への片想いを自覚しちゃった悩めるクール系王子様」

という風情で、「いったいこの作品のヒロインは誰なんだ」と思うぐらい可愛らしく艶っぽいw

こういう「高嶺の花ポジの逆転現象」は近年いろんな作品で見られますね。それとも自分が最近意識するようになっただけで、昔から定番なんかな。

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

玉葉妃が帝の子を懐妊、しかし猫猫の見立てでは逆子だった。

危機感を募らせた猫猫は、国一番の医師として、かつて後宮で活躍したが理不尽に責と罪を負わされ追放された、自らの養父を推薦。

玉葉妃と壬氏の計らいもあり養父は妃たちの臨時の主治医のような立場で迎えられたものの、これをきっかけに猫猫は新たな陰謀劇に巻き込まれることとなった…

ということで、スキャンダルはあったけど中身は相変わらずスリリングで面白いです。当たり前かw

ヒキは強くスリリングなものの、エピソードの途中でもあり

「次巻に期待」

「『面白かった』ではなく『面白くなりそう』」

の意味で、自分基準で★4です。脱税スキャンダル明けにしゃあしゃあと★5をつけて良いものか、とか悩まなくて済みましたw

『薬屋のひとりごと』14巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

作画も相変わらず美麗で見応えのある、見事なものでした。

それだけに、虚心で誉められないことが大変残念です。

 

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#ハイスコアガール DASH 6巻 評論(ネタバレ注意)

ゲームセンター、特に格闘ゲームに小〜高の青春を捧げた少年少女のボーイミーツガールを描いた「ハイスコアガール」の、

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内容以外に作品のメタにもトラブルに見舞われ紆余曲折ありつつ大団円にたどり着いた名作の、まったく予想もしてなかった続編。

『ハイスコアガール DASH』6巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

まったく予想もしてなかったということは、期待もしていなかったということで、ちょっとびっくりしましたね。

ヒロインは前作の「アテ馬ヒロイン」だった日高小春。サブヒロインながら健気に一生懸命、報われない恋をしてて、人気ありましたね。自分も好きでした。

舞台はあれから10年以上の後、日高小春は28歳。母校である中学校の教師を務め、一般的に学校生活で抑圧される傾向のあるゲーム(『ゲーミングお嬢様』除く)を、抑圧し取り締まる側になっていた…

『ハイスコアガール DASH』6巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

思い通りに行かない教師生活に鬱々とする小春の教師生活、心が通わない生徒たち、不気味な保護者、強権的でシステマティックな上司の校長、他人の顔色を伺うように教師生活を送る小春。

その小春の教師生活の描写・展開がひと段落、前々巻〜前巻は回想編。

28歳になった小春が「どうなることがハッピーエンドなのか」について、不可欠なのに敢えてここまで隠されてきた「あの後」の彼女たちに何があったかを語る、「待ってた」回想編。

『ハイスコアガール DASH』6巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

そのまま「アメリカ編」に突入するのかと思ったけど、時制は再び小春28歳の「現在」へ。

こう作品としてアレですね。

言い方悪いけど、「ハルオと大野のその後」を餌にして「小春のその後」を読ませる、的なw

そういう作りだと思えば、「ハルオと大野のその後」が描かれるのは最終回付近か、もしかしたら最後まで描かれないかもしんないですね。

『ハイスコアガール DASH』6巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

さて、「ハルオと大野のその後」はおいといて、「小春のその後」。

夏休み、小春の生徒3人にゲーム腐れ縁2人の混成チームで格ゲー大会「激戦祭」に挑むことに。

小春宅の庭先のプレハブは彼らの特訓上と化す。

それぞれに生きづらさを抱える5人が、小春の指導のもと、真剣勝負に挑む。

物分かりが悪かった校長とも和解しても「ゲーミング金八先生」な展開が続き、

『ハイスコアガール DASH』6巻より(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

次巻、「激戦祭」。

 

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#俺より弱いやつに会いに行く 【完】 評論(ネタバレ注意)

ゲーセンと格闘ゲームにかけた青春ラブコメ漫画『ハイスコアガール』シリーズなどで著名な漫画家・押切蓮介による、発売1年が経った『ストリートファイター6』、通称『スト6』の赤裸々なチンパン実録エッセイ漫画。

2023年にタイムスリップしてきたハルオと大野が『スト6』に挑む!

という体裁を1ページでぶっ壊して、

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

謎の本名カミングアウト、なんなんw

40代になったおっさんが、格ゲー対戦の勝った負けた、強さと弱さ、上手い下手、優越感と劣等感の狭間の無間地獄でのたうち回る様子を切々と。

自分の格ゲー歴は、『ストⅡ』『バーチャ』『バーチャ2』あたりが高校生〜大学生で「ゲーセン現役」だったかな。

通信対戦もほとんどなかった時代の、野良乱入中心の田舎のゲーセンでしたけど。

その他、ゲームの対人戦はMMO『リネージュⅡ』の対PK戦・戦争・オリンピア(1v1戦)、『CoD』シリーズや『スプラ3』などのFPS・TPS、あとソシャゲ『ウマ娘』のチャンピオンズミーティングも対人戦といえば対人戦か。

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MMOやソシャゲの対人戦は、前段階の課金やレベル上げなどのリソース投下要素も大きいので、純粋に「才能と学習と修練の蓄積によるプレイヤースキル」が問われるアクションゲームの系譜という意味では、FPSが一番近いのかな、と思います。

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

赤裸々に腹グロいw

対人戦における「学習と修練」は情熱が支えてるので、よほどの生来の才能に恵まれない限りは、「ガチな奴が強い」というより「ガチな奴が強くなる」んですよね。

そしてこの「ガチになる」というのが、対人戦において本当に無間地獄です。

「無敵の世界一」にならない限りは、強くなっても上には上が無限に居て、螺旋というかバネやドリルのように立体的に「上」に向かって上昇はしている(はず)ものの、同じようところをずっとグルグル回っているというか。

ふと昔より高みにいることに気づく瞬間はあっても、ちょっとずつ登ってる最中は景色にほとんど変化がないように見えるんですよね。

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

母ちゃんのせいにするんじゃねえよw

格ゲーに限らず、特にボクシングなどの1on1のスポーツや将棋・囲碁などの競技は、勝ち負けの言い訳の逃げ場がない、己の心技体の弱さと常に向かい合い続ける、孤独で過酷な世界だなと常々思います。

ガチればガチるほど、思考の大半が「己の弱さについて」になってくるんですよね。

「自分がどれだけサボったか」も、「自分の弱さから目を逸らして他責で言い訳しているか」も、自分が一番よく知ってるし。

と書くと、非常に高尚なことのように聞こえますけど、

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

実態はこの漫画に描かれているとおりチンパンですからねw

作中書かれているとおり押切先生も「四十にして惑わず」の40代になられてるのかな?なんですけど、漫画の主人公のようにはいかない対人戦の螺旋の中で惑いまくりの七転八倒w

自分はもう格ゲーそのものは嗜んでいませんが、あれから30年経ってゲームが人気の浮き沈みはあれど正常進化しても、40歳を過ぎても、あの頃のままの情熱で転がり続ける押切先生の様子を読んでいると、自分の弱さと向き合い続け台の前でチンパン化しながら無間地獄でのたうち回り続ける精神的な体力を、羨ましく思う気持ちが湧いてきます。

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

年々、自分の興味というか夢中になる対象が、チンパン化しないもの、恥をかかないもの、人と競わないもの、自分の弱さと向き合わずに済むもの、自分を傷つけないもの…そうしたものに移っていってる自覚があるので。

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自分から失われつつある、そうした精神的な体力や恥も外聞もない闘争心、没頭、夢中。

代償行為的ですけど、自分の代わりにというか、自分の分までというか、熱く闘い続けてほしいな、

『俺より弱いやつに会いに行く』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)

と対人戦ジャンルから降りつつある外野の赤の他人が勝手なことを。

てゆか、もっかい自分もなんか対人戦ジャンル、やってみようかな。

 

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#異世界おじさん 12巻 評論(ネタバレ注意)

17歳の時以来、昏睡状態だった叔父が17年ぶり目覚め「異世界に行ってた」と自称。

半信半疑の甥(主人公)の目の前で魔法を使って見せた。

回想シーン(魔法映像再生)の中の叔父さんは、オークと勘違いされ迫害されながらも異世界で度々世界を救う活躍をし、そして美少女たちと恋愛フラグを立てまくるも、ツンデレをただの嫌がらせだと思ってフラグをベッキベキにへし折りまくりだった。

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

異世界もののお約束をひっくり返してすれちがいギャグに、ハイコンテクストな「逆・転生もの」とでも呼ぶべきギャグコメディ。

相変わらずおじさんの過去回想の中で、英雄的な冒険譚と、トンチンカンなハーレムラブコメは続く、という作品。

作中、34歳のおじさんの、まだ20歳頃の回想やってるぐらいの進捗。

一緒に暮らす叔父さんと甥のコンビで、叔父さんの魔法を活用して動画配信者として食いぶちを稼いだりSEGAを語ったりの日常パートと、叔父さんの異世界時代を甥やその彼女未満に映像魔法で見せながらの回想パート、をバランスよく(?)一冊に収める、という構成が定着しつつありましたが、徐々にバランスに変更が。

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

「骨のダンジョン」編?で封じた古代の悪霊・マガツコトノヌシを除霊するために、王都にいる勇者アリシアを訪ねるおじさん、というエピソード。

この作品の魅力・特徴というと

「可愛い異世界ヒロインたち」

「拍子抜けでギャグになるぐらいの無双展開」

「SEGAの話」

の3つかと思います。

前者二つに対して、「SEGAの話」は箸休め兼ギャグコメ要素としての役割がありますが、エグみが強いというか、ラブコメ進行・バトル進行を楽しみにしてる読者層には「ノイズ」と映るケースも、という感じですが、今巻ついに「バトル&ラブコメ」ガチ勢の読者代表の一人であるメガネがキレたwww

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

美少女に憑依したマガツコトヌシとの対峙、人間の黒幕によるヤマタノオロチの召喚、マガツコトヌシとの共闘、強そうな新キャラ美女軍団の登場、と敵味方の入れ替わりがせわしない展開ながらも、ヤマタノオロチ討伐の全キャラ総力戦に収斂していく様相に。

転生要素としては「マガツが同郷かつ時代ギャップ有り」という面白状態ですけど、無双でもなく、ラブコメでもなく、もちろんSEGAでもなく、ギャグコメ挟みつつもガチバトルが続く、1巻当初からすると「らしくない」展開が続きます。

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

新キャラ変身美女戦隊がいっきに5人新登場といい、作品として迷走中な気もする一方、ギャグコメから始まった作品がシリアスバトルものにシフトしつつ面白くなるのも珍しくないし、今巻のギャグコメ挟みつつのガチバトル展開も面白く読めてるんで、「らしくない」でも別にいいかな、とも思うんですが。

シリアスバトル要素に、無双要素とラブコメ要素とSEGA要素が本編からおまけ漫画に追い出されつつあるようには見えますね。「出オチのワンパターン」から脱却しようとしてんのかな。

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

マガツはどう思ったらいいんでしょうね。

「一回負けたくせにしつこいな」ぐらいに思ってたところ、今巻本編だけ見て強いてラブコメ要素を探せば今巻のメインヒロイン、マガツなんですけど、たまたま今現在、憑依しているのが美少女ってだけで、関係として継続性あんのかなコレ。

出番のないツンデレエルフ成分が足りんと思ったら、巻末番外編はツンデレエルフさんとの水着回エピソード。「いつもの」感じで実家のような安心感。

『異世界おじさん』12巻より(殆ど死んでいる/KADOKAWA)

もう、何が本編要素で何が番外要素なのかよくわかんねえなコレw

 

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#FX戦士くるみちゃん 7巻 評論(ネタバレ注意)

2008年、中学3年の少女・くるみの母親は、単身赴任の夫に内緒で家計をFXの豪ドル円につっこみ、リーマンショックによる金融危機で2000万円の損失を出して自殺した。

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

2014年、20歳の大学生となったくるみは、母が失った2000万円を取り戻すべく、バイトで貯めた30万円を元手に母を殺したFXに挑む。

絶望の地獄と、父のタンス預金を盗んでまでロスカットを回避した上での天国との、その両方を経験したくるみは、沼のようなFXの魔性に囚われていく…

という、美少女FX漫画。

癒し系の萌え漫画と勘違いして買わないように気をつけましょう。恋愛要素も百合要素も、自分の目から見るとほぼ在りません。

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

例えこの漫画が大ヒットしても、影響されてFX始めて破産して「作者を●して俺も◯ぬ」なんて奴が万が一にも現れないよう、FXにのめり込む初心者の心に生じる闇が念入りに描かれた作品。

人間の自制心が溶けていく、ほとんどサスペンス・ホラー。

主人公のくるみを傍観者の立場に差し置いて、ぶっちぎりの愚かしさと心の弱さの「見世物」として作品を引っ張ってきた「意識だけ高い系」のイキリ小娘・芽吹がFXの沼から借金の沼へ沈んでいく様子がじっくり描かれた、「4人娘」編?が今巻冒頭でエピローグ的な打ち上げ。

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

投資の成績云々以前に、一時期は「たぶん死んじゃうんじゃないかな」と読者に思われた芽吹でしたが、打ち上げの焼肉に顔を出し、今後の予定・展望を語れるぐらいには立ち直った様子。

良かった、FXの失敗で借金背負って自●する女の子はいなかったんや!

という感じで、4人娘も成仏したり漫画家目指したり利確したりで、気がつけばFXやってんのは、タイトルロール、メインヒロイン、主人公たるくるみだけに。

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

この巻、このエピソードのために作品が始まったのであろう、「スイスフランショック」編。

人間を壊して溶かす、孤独と恐怖を伴う生々しい絶望の描写・表現を、原作者の肝煎り・入魂にして新機軸の演出を混じえて、じっくり、たっぷり、ねっとり、と。グロい。

芽吹のエピソードの余韻を蹴散らすような、暗黒のグロい輝きを放つタイトルロール主人公ヒロイン、さすがの貫禄。

いやもうコレ、作者とヒロインのSMプレイだろ。グロい。

完結を待たずに、「絶望ポルノ」(そんなジャンル在るんですか)の名作・傑作に。グロい。

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

今巻は原作者・作画家の作家キャリアのハイライトの一つになる一冊になるんだと思いますし、逆に「まだ描くのか?」「まだ描きたいことがあるのか?」と思うぐらい「人間の願望と欲望と絶望」を描き切ったと思えるこの作品に、自分はもう満足です。

「商品としての漫画作品にはエンディング(オチ)が必要」

という理由であれば、普通に考えたら次巻で完結なんでしょうが、

『FX戦士くるみちゃん』7巻より(炭酸だいすき/でむにゃん/KADOKAWA)

さて?

 

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#リコリス・リコイル 5巻 評論(ネタバレ注意)

近未来(?)の日本、孤児を集めて女子高生エージェント「リコリス」に仕立て上げ、凶悪犯を捕まえたり殺したりする公的機密機関「DA」。

DA本部のリコリス"たきな"は、現場で命令無視して凶悪犯に人質の味方ごとライトマシンガンをぶっ放し、味方こそ無事だったものの逮捕・取り調べ予定だった犯人たちを全員射殺し、左遷。

新たな配属先はDAの潜伏サイト、喫茶店「リコリコ」だった。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

「リコリコ」先任の千束は「東京一のリコリス」と高名だったが、千束とバディを組むことになった たきな を待っていたのは、「町のなんでもお助け屋さん」の日々だった…

という美少女ガンアクション・ハードボイルド?

『ガンスリ』や『デストロ』に『攻殻』と『シティーハンター』を混ぜて4で割って、最後に『ごちうさ』で仕上げた感じです。

自分は1巻を読んだ時点ではTVアニメを未視聴だったんですが、1巻読んで続きが気になったのでサブスクで全話観ました。面白かった。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

可愛い女の子がカッコよくて可愛くて眼福だったので、その後ゲームしながらとかのBGM代わりに5周ぐらいかな?観ました。

大変「出来物」のコミカライズで、ストーリーや原作アニメに忠実に、たまに補完的な追加描写あり、リコリスたちの描写も原作に忠実に可愛くアクションはかっこよく、描写や演出は漫画らしくアレンジ。

反面、純・日常ものスピンオフのコミカライズも並行して別作品が展開されている関係で、

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アドリブ・深掘りは「そっち」に譲っているのか、日常シーンについては却ってオリジナル要素をちょっと入れにくくなっちゃいましたかね、という感じ。

でも希少な追加シーンは「在りそうなシーン」「言いそうなセリフ」で、ちょっと「おっ!」となります。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

アラン機関も認める「ギフテッド」なテロリスト・真島によるリコリス狩りと千束に伸びる魔の手、先生のスマホの不審なメールを目にしてしまった千束とたきなの潜入捜査。

DAと真島が互いを公然と「敵」と見定めて抗争する展開に。

今巻のハイライトは真島一味のテロリストに襲撃された千束の反撃、たきな達による救出劇。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

キャラクター以外に銃、クルマ、ドローンと毛色の違うオブジェクトが背景を占める誌面ですけど、銃もクルマもデッサン?パース?の破綻なくカッコよく描かれます。

ガンアクションもの・殺し屋もので、描き慣れない銃やクルマになるといきなり絵が下手になって興醒めしてしまう作品って結構あるんですけど、メインの先生の手によるものか背景アシさんのお手柄かは知りませんが、夜の闇、星と街の光、クルマのヘッドライト、マズルフラッシュ、爆発と複雑そうで難しそうな光と影を描き分ける表現、すげえカッコいい。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

アクションもなんというか、「俳優さんの運動神経が良い」というか、動いてかっこいい、ガンアクション漫画のお手本のようなレベルの高い作画。

もともと「ガンアクション」「美少女」「関係性」の三本柱が売りだった原作アニメのビジュアル面、「ガンアクション」「美少女」がこの上なく再現・増幅されていて、大変眼福なコミカライズ。

ちょっと続編に繋げにくそうなラストだったこともありますが、大人気だったTVアニメの完結から結構経つ割りに「続編」「2期」の話が聞こえてきません。

が、この作画でやってくれるなら「続編・スピンオフは(アニメより低予算な)漫画で!」でも、自分は満足しちゃいそう。

『リコリス・リコイル』5巻より(備前やすのり/KADOKAWA)

あー可愛い。

読んでて「あー自分『リコリコ』好きだなあ」って思い出しちゃって、サブスクでアニメ6周ぐらい目、いこうかな。

 

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#デストロ016 5巻 評論(ドネタバレ注意)

『ヨルムンガンド』の作者が、日本を舞台に「女子高生殺し屋たちのバトルロイヤル」を描いた『デストロ246』全7巻。

女子高生なのに最強殺し屋! すごい頭悪そう! AQM頭悪そうな漫画大好き!!

の前日譚。

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

可愛いなコイツらw

タイトルのせいで相変わらず『デストロ』の「0165巻」みたいな、『デストロ016』の5巻。

女子高生・沙紀は、元・海上自衛隊高官・仙崎のオーダーで殺し屋を殺す殺し屋だった。

たくさん殺し屋がやってくるので今日も奴らをぶっ殺すゾ!

という痛快ハードボイルド殺し屋アクション。

あらすじ終わり。

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

殺し屋にとっての幸せって、なんだろうね。

『246』でヒロインたちより年長の大人、かつ最強の殺し屋として君臨した「沙紀」の女子高生時代のお話。

女子高生なのに最強殺し屋! すごい頭悪そう! AQM頭悪そうな漫画大好き!!

闇医者・芳野の生命を狙う関西ヤクザ、ヤクザに雇われて芳野を攫った副業中のシールズ、ヤクザとシールズを追う米軍憲兵、芳野救出に向かう沙紀と幼「オウル」、という、くんずほぐれつの混沌の前巻の続き。

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

新旧の主人公ヒロインによるタッグ結成、二人とも単独で最強すぎて特に苦戦することも連携プレイを見せることもなく終了w

横須賀を睨む逗子に潜入した、中国の暗殺組織「止まり木」の殺し屋2人、沙紀と「止まり木」を危険視するCIAからの次なる刺客。

この漫画、2巻前に水着回やったばっかりなんですけど、たぶん作者の

「追加キャラの水着も描きたい」

「というかずっと水着描きたい」

という欲求が原因で、再びの水着巻。

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

ビーチを舞台にCIAの暗殺チーム「熊(ベアーズ)」との、神奈川県に迷惑すぎる「ドキッ!丸ごと水着 美少女とマッチョだらけの肉弾暗殺大会」。

ポロリもあるよ。

相変わらず、美少女はキャッキャウフフと誰も死なず、マッチョは虫のように死んでいく、「頭がおかしいきらら系」みたいな展開。

沙紀が最強殺し屋として活躍した『デストロ246』の、その前日譚ということもあり、沙紀が死ぬ心配なんか作者も読者も誰もしてなくて、なんかもう『花の慶次』や『ああ播磨灘』を思い出しますw

沙紀が強い理由も、殺し合う理由もほとんどすっ飛ばして、

「殺しに来たから殺すゾ!」

「殺し屋だから殺すゾ!」

「おっ◯いがあるから揉むゾ!」

という、ただただそれを繰り返すバイオレンス・アクション・エンタメ。

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

同時に、大した理由もなく殺し合う彼女たちを見ていると、

「自分と同等以上の力を持つ他者を信用して存在を容認する、

 それができない一点だけで争う理由に十分たり得る」

国家間の安全保障が持つ深刻な「しょうもなさ」と、

「最強殺し屋ポケモンバトルで一般人の被害ゼロ!」

「殺し屋オリンピックで優勝した国が優〜勝〜!!」

という、バカバカしくも現実の戦争・紛争より100倍マシな解決策を、セットで見せられているような気もしてきます。

SF作品の「ドローン無人戦争」や、『FSS』の「戦争代理人」たる騎士などを思い出しますね。

まあ、

『デストロ016』5巻より(高橋慶太郎/小学館)

「乳モミ鬼」で決着つける方でも、自分は一向に構わないですがw

 

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#ウマ娘 シンデレラグレイ 16巻 評論(ネタバレ注意)

表紙の作画がもう永井豪なんよ。

と思ったら、同じこと思った方がたくさん居たようです。

www.google.com

あとは、「ついに」というか、「ようやく」というか、「当然」というか、それでいて「マジか」という気もする、アニメ化決定、おめでとうございます。

anime-cinderellagray.com

たしか、オグリキャップは『ウマ娘』TVアニメの1期のモチーフの候補だったのが、「1クールに収まらない」という理由で没ったんですよね。

よし、100クールやれ。

そんなに(特に原作付きは)熱心にアニメを観ない自分ですが、『シングレ』アニメは絶対観るぜ。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

実在の競走馬を美少女擬人化した育成ソシャゲ『ウマ娘』の派生コミカライズ、「プリティダービー」がつかない『ウマ娘』。

日本の競馬史に残る名馬・オグリキャップの現役時代をモチーフにしたスピンオフ。

1〜2巻で地方レース(カサマツ)編が終わり、3巻から中央に移籍。

ウマ娘世界観でいう「中央トレセン学園」に編入し、並み居る名バ達と本格的にシノギを削る展開に。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

モチーフとなった史実が日本競馬史上最大級のシンデレラストーリーにして、トウカイテイオーと並ぶ日本競馬史上最大級の復活劇というドラマで、かつ現役時代を通じて魅力的なライバルにも恵まれていた馬のお話なので、更にifを加えた作話の骨組みの時点で優勝です。ありがとうございました。

タマモクロスが去ったターフで新たなライバルたちとの激闘が開幕、題して「第三章 永世三強」編。

ja.wikipedia.org

dic.pixiv.net

今巻でその「永世三強」編、終了。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

オグリキャップの古バ1年目、永世三強を筆頭に多士済々のGⅠ戦国時代、伝説の秋シーズン。

天皇賞・秋はスーパークリークの2着に敗れ、現実の日本競馬のオグリキャップ古馬1年目でも物議を醸した、「マイルチャンピオンシップ(1,600m)→ジャパンカップ(2,400m)」の、わずか中1週間の連闘。

マイルを制したオグリキャップは、連闘のジャパンカップを2着に敗れはするものの、1着のフォークイン(ホーリックス)と同タイム、しかも2,400mの世界レコード。

「永世三強」の中からオグリは不動の「国内最強」の称号を手にし、「オグリキャップとトゥインクルシリーズ」は社会現象に。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

オグリとの差に焦るイナリワン、そして「悪役」を自認して開花、虎視眈々と雪辱を期するスーパークリーク。

オグリの秋のG1 4連戦、その最終戦、昨年はタマモクロスとの激闘を制し、G1初勝利を挙げた、有馬記念。

ある種の「表紙詐欺」で、今巻、表紙のようなシーンはありません。

この表紙は、「永世三強」編を象徴する「時代のイメージ画」とでもいうか。

三者三様、勝ったり負けたり、しのぎを削ってこその「永世三強」、「平成三強」。

結果はこれまでどおり、史実のとおりで、今さら驚くべきことではありませんが、「(メタ的には)結果がわかっている勝負」を相変わらず面白く描きますね。

物議を醸した連闘と、キャリアで初めての4着以下のレース。

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

これまで3着1回、2着5回、それ以外はすべて勝利して、安定して勝ち負けを争ってきたオグリキャップの戦績は、この有馬記念以降、極めて不安定に。

史実になぞらえれば残り5戦、残り1年、残すはラストイヤー。

(ちなみに連載の方はもう1戦終わったらしく、残り4戦)

遅くても2026年、早ければ2025年には完結してしまうんではないかな。

モデルとなったサラブレッドの現役引退、死去に続いて、オグリキャップとの三度目のお別れの時間が刻々と近づいています。

不安定な戦績に苦しむオグリを観たくないような、それでいて伝説のラストランを一刻も早く観たいような、それでいて、

『ウマ娘 シンデレラグレイ』16巻より(久住太陽/杉浦理史/伊藤隼之介/Cygames/集英社)

「伝説のラストランを失うことと引き換えにでも、

 愛しい芦毛の怪物に、このまま永遠に走り続け闘い続けてほしい」

と願ってしまうような。

 

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#空賊ハックと蒸気の姫 1巻 評論(ネタバレ注意)

近代っぽい帝王歴の時代、謎の鉱石ミストリウムの発見に伴い、その鉱石の蒸気を利用した空の時代が幕を開ける。

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

浮遊性蒸気を利用して人々は船を空に浮かべ、ついには街まで空に浮かべて暮らすようになった。

海賊などのアウトローたちも「空賊」へと鞍替え、空は帝国軍が治め、空賊が荒らす場となった。

没落貴族の末裔・ハック(♂)は空賊ギルドに属さないままトレジャーハントの一攫千金による伯爵家復興を夢見て、オンボロ飛行船と3人の仲間とともに西へ東へ。

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

そんなハックたちの前に

「空賊に加えて欲しい」

と志願するエンジニア見習いの少女が現れる…

『COPPELION』、『CANDY&CIGARETTE』の井上智徳の新作は、空を舞台にしたスチームパンクな空賊冒険アクション。

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

盗賊といえば『ルパン』、海賊といえば『ワンピース』、宇宙海賊といえば『ハーロック』、空賊といえば『ラピュタ』に『FF12』に、あと飛行船ならぬ飛空挺ものの現役漫画作品では『空挺ドラゴンズ』など。

まあ、モチーフが共通してれば絵ヅラも似てくるのはしょうがないというか、むしろこのカテゴリーの絵ヅラ、良いですよね。

もっと増えてほしいぐらいだわ。

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

新作1巻なんでキャラと世界観の顔見せ中心、獣人あり、喋る動物ありのプチファンタジーな世界観で、ド王道のボーイ・ミーツ・ガールからのアウトローなアクションもの。

キャラは可愛くカッコよく、アクションもメカアクションもよく動き、描くのがめんどくさそうなスチームパンク空賊の背景もよく描き込まれてます。

『ハリー・ポッターとなんとかかんとか』的な作品タイトル、構想的にはアレですかね、『空賊ハックとなんとかかんとか』的なシリーズ作品にしたいっぽくも感じます。

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

女の子が可愛いのが強みの漫画家でもありますけど、そういえばこの人の作品で主人公が男なの、自分、初めて読むな。

今巻は新作1巻の顔見せで、ストーリーもキャラも本領発揮はこの後でしょう、と期待が膨らむ1巻。

モチーフ的に、女子小学生がバンバン人を撃ち殺しまくった『CANDY&CIGARETTE』よりはアニメ化もしやすそうかなと思いますw

『空賊ハックと蒸気の姫』1巻より(井上智徳/マッグガーデン)

末々が楽しみ、長いおつきあいの漫画になるといいなあ。

 

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#SPY×FAMILY 14巻 評論(ネタバレ注意)

凄腕スパイ・暗号名「黄昏」に下った新たな指令は、妻と新小学生の子どもを調達して敵国の名門校のPTAに潜入し、平和を脅かす危険な黒幕に近づくこと。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

任務のために孤児院で適当に選んで引き取った娘・アーニャは、他人の心が読める超能力者だった。

ひょんな縁からトントン拍子で任務のために妻に選んだおとなしげな美女・ヨルは、凄腕の殺し屋だった。

互いに正体を隠して家族になった3人。人の心が読めるアーニャだけがひとり全てを知り、新しいスパイの父と殺し屋の母に「わくわくっ…」としていた。

「ハードボイルド+ファミリーもの」の二面性を持つ作品。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

「ハードボイルドもの」と「ファミリーもの」はエンタメにおいて相性が良いんですけど、その相性の良さは主人公の葛藤によるもので、「主人公の葛藤」ということはつまり本人的には「スパイ」と「ファミリー」って相性が悪いんですよね。

「相性の悪さ(葛藤)をコミカルに楽しめる」という意味で相性が良い、というか。

アニメ人気も含めて『SPY×FAMILY』という作品の需要のされ方は、

「(アーニャのような)子どもも楽しめるハードボイルド・コメディ作品」

のようなイメージで、良くも悪くもある程度の枠が決定づけられてしまったようなところがあります。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

日常エピソード群はアーニャを中心とした楽しいファミリー・コメディと幼いラブコメですが、戦後数年の世界だけあって、戦争、もっというと「身近な死」が常に作品に昏い影を落とし、「子ども向けファミリーコメディ」としてはスパイスが効きすぎというか、ノイズに感じる向きもあるかもしれません。

商業エンタメ漫画はもちろん道徳の教科書ではないんですが、この辺、「冷戦」、「スパイ」、「殺し屋」、「超能力」、「孤児」というモチーフを(「安易に」とは言いませんが)用いて、子どもたちも含めて世界的人気作品になってしまったこと、そのムーブメントの最中でロシアによるウクライナ侵攻が発生したことに伴う、作者の

「世界中の子どもたちが見ている前で、『戦争』をエンタメの具として弄んで消費する『だけ』の姿を見せられない」

という、懊悩や責任感を感じてしまいます。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

今巻も、家庭と学園を舞台にしたアーニャを中心とした楽しい日常コメディと、ヘンダーソン先生の戦争に歪められ引き裂かれた青春期の回想エピソードを収録。

日常コメディエンタメとして楽しみたい向き、特にTVアニメから入った子どもたちには不評でしょう。

娯楽として無心に楽しもうとする上で、居心地の悪さを感じさせる構成。

まあでも、もともと1巻の時点でロイドにしろヨルにしろキャラクターの背景は陰鬱で、特にアーニャの出自はハードでダークでしたしね。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

ポップでコミカルなエピソードとハードでダークなエピソード、交互にやってくる構成は居心地悪いんですけど、ポップでコミカルはポップでコミカルに、ハードでダークはハードでダークに、それぞれの方向にエッジが効いた面白いエピソードで、まるで

「二作品の要素を一作品に詰め込んだ」

かのような漫画というか、まあ70億人だかの人生を詰め込んで回る世界の縮図とでもいうか。

世界の最終回は予想がつきませんが、おそらくそれより先にくるであろう、この漫画の最終回は、どうなるんでしょう。

『SPY×FAMILY』14巻より(遠藤達哉/集英社)

メインエピソードの、後のハードでダークな展開に向けた予告、

「『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』のつもりで描いてるわけではないんですよ」

という、ある種のエクスキューズだったりするのかな。

 

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#転生したらスライムだった件 27巻 評論(ネタバレ注意)

「なろう系の異世界転生もの」の中で商業的にトップクラスの成功を収め人気を博している作品。

アニメ化など以外にもスピンオフ作品も多数輩出し、ちょっとした「『転スラ』という産業」に。

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

サラリーマン(37)が刺されて死んで異世界に転生したらスライムだったけど、付与された特殊能力で強力な魔物スキルをガンガン吸収してスライムにして最強、人型にも顕現可能に。

リムルを名乗り、多くの魔物を配下にジュラの森の盟主となり「魔国連邦」を建国。

魔王に覚醒したリムルのもと、既存の複数の魔王国家勢力、人間国家勢力、宗教勢力との武力紛争も魔国連邦が勝利、もしくは和解する形でひと段落、人間・亜人・魔王、それぞれの列強に新興国として認められ、外交チャネルをオープン。

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

魔国連邦の諸国に向けたお披露目と式典外交を兼ねた「開国祭」の開催。

今巻冒頭で開国祭が終わり、エピソードタイトルも「祭りの後」。

開国祭の費用の商人への支払いに際して、謎の勢力から通貨危機・取付騒ぎを仕掛けられる経済戦(?)。

ポッと出の悪役のかませ犬相手の、ベタなスカッとジャパン展開ではありますが、ベタ=王道だけあってスカッとしますw

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

各国の皇帝・王を招いての開国祭の「反省会」、暗躍する「東の帝国の商人」と自由組合総帥に目星をつけたリムル、「勇者のなりそこない」を巡る陰謀。

と、新章への布石が着々と打たれつつ、という感じ。

そしてまさかの、「もう出番ないんだろうな」と勝手に思ってたダンジョン運営のピンチとドタバタ展開w

近刊の開国祭、賑やかで楽しかったですが、

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

「メインストーリーに対するこの一連のエピソードの『どうでもよさ』は一体何なんだろう」

「野放図に『楽しそうな方に寄り道する』ことにしたんだろうか」

「スピンオフではない、『本編』がこれでいいのかな」

と思いながら読んでたんですけど、アレですね、ここ数巻は箸休めがてらの「第X章のエンディングだった」と思うと腑に落ちます。

陰謀の伏線はあれど、魔物の王となり、建国し、大戦争を経て、魔族・人間のそれぞれの国家との外交も始まり、魔国連邦が完全に軌道に乗って、「当面の敵」「当面の目標」がなくなったところで、一旦中締め、賑やかにエンディングを迎えつつ、次章への英気を養いましょう、という。

少し前までは、無双展開とはいえシリアスで緊張感のあるエピソードが続いてましたし、ここ最近は数巻がかりの「緩急の『緩』」だったとでもいうか。

よく考えたら1巻当初の主人公の夢や目標は、ほぼ達成しちゃったんですよね。

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

今巻のダンジョン絡みのドタバタも、メイン・ストーリーへの寄与度は低そうながら、面白かったですねw

次の章は「西の盟主・リムルvs東の黒幕・強欲のマリアベル」と「西側の獅子身中の虫、魔王レオンと転生者・神楽坂優樹による転生を巡る陰謀」に収斂されていくのかな、という伏線が提示されています。

「自陣営の成長や同盟で勢力圏が大きなった結果、より遠くのより大きな勢力圏との摩擦が生じるようになった」

というか、普通にやったらスケール大きく「東西間の世界大戦」に発展しそうな、再びシリアスな話になっていきそう。

『転生したらスライムだった件』27巻より(川上泰樹/伏瀬/講談社)

逆に、このまま本編で延々ダンジョン運営の話され続けちゃったらどうしようw

 

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#瑠璃の宝石 5巻 評論(ネタバレ注意)

アニメ化決定とのことで、おめでとうございます。

rurinohouseki.com

一見、地味でメディア化敬遠されそうなこの作品を選ぶとは、お目が高い(えらそう

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

アクセサリーショップで水晶のアクセサリーに身惚れた女子高生・瑠璃は、母親に小遣いの前借りをせびるものの断られる。

母親が断る口実に言った「水晶なんて爺ちゃんが山菜採りのついでに山で拾ってた」を真に受けた瑠璃は、バスの終点の山奥に一人分け入るものの、どうすればいいかわからない。石を抱えてうずくまる瑠璃に声をかけてくれた女に、瑠璃は意を決して尋ねる。

彼女、鉱物研の大学院生の凪は、こともなげに水晶が取れる場所を告げ、瑠璃の頼みを聞いて案内をしてくれる。そこには巨大な水晶鉱床が広がっていた。

から始まる、ガール・ミーツ・ガールで鉱物採集をテーマにした、ハルタらしいニッチな趣味・学問もの。ややコメディ寄りの専門ジャンル漫画。特に百合ではない。

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

ガサツさん…

凪と水晶との出会いから、銭ゲバ気味に金目の鉱物を狙っていた瑠璃が、徐々に鉱物そのものの魅力と知的好奇心に目覚めていく。

高校生、大学院生、大学生の3人パーティに、委員長体質で鉱物研究者志願でヒロインのクラスメイト、今巻からガサツ系の登山好き女子が加わって、より賑やかに。

今巻は、廃部になった地学部の部室に遺った活動記録ノートに断片的に記された「水晶の木」を巡る探索。

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

委員長体質の瀬戸さんは期するものがあるのか、「水晶の木」の探索を大学生たちに頼らず高校生組だけで行うことを提案する。

瀬戸さんは幼少期のトラウマから、自分の「石好き」が恥ずかしく周囲や親にも隠して過ごしてきていた…

相変わらず、NHK教育テレビの小学生向けの番組や学研の学習漫画並みに、地学や鉱石に関する雑学・うんちくが語られながらも緩く可愛らしいキャラのビジュアルや関係性、あとテーマ(謎)に挑んで一歩ずつ答えに近づいていく推理もののようなスリル、損得勘定抜きの好奇心と情熱で、萌えつつ微笑ましく知的なエンタメに。

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

新キャラの大雑把ギャル・笠丸もゴルシみたいないいキャラしてますが、今巻はもう瀬戸さんですよね。

瑠璃のメインヒロインの座を乗っ取る勢いw

オタク、って呼んでいいのかなコレ、「好き」を貫く勇気と強さを手に入れる過程が、仲間との探索と連動して丁寧に描かれていて、ジャンル違いのオタクをも泣かせる普遍性というのか。

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

ガサツさん…!

こう、キラキラしつつ素朴な知的好奇心や、探究心を自力で満たした達成感への共感と相まって、

「がんばれ、がんばれ」

「よかったなー、瀬戸さんよかったなー」

って、読んでるこっちのソウルジェムまで浄化されて心が綺麗になっていくような錯覚に陥ってしまう。

『瑠璃の宝石』5巻より(渋谷圭一郎/KADOKAWA)

瀬戸さん…!

アニメも楽しみですね。おめでとう、よかったなー。

 

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#戦奏教室 8巻 評論(ネタバレ注意)

服装がもう、なんというか20世紀〜21世紀の地球のファッションなんですよね…

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

歩兵や騎兵が剣や槍で、弓兵が矢を撃って戦う、中世ぐらいの文明レベルの世界、「樹木歴」1294年。

幼くして拾われた傭兵団でラッパ手(ラッパの音で指揮を伝達する、通信兵のようなもの)を務める少年・リュカは、殺し合いと略奪に明け暮れる傭兵団のクソみたいな暮らしにウンザリし、いつか楽師になることを夢見ていた。

いつものように敵軍と遭遇、一人の敵兵の怪物じみた戦闘能力によりリュカも重傷を負うが、最後の力を振り絞ってラッパで自軍に撤退指示を出し、頭から「枝」が生えていたリュカの超常能力が発動、リュカのラッパの音は光となって自軍を撤退成功に導く。

瀕死のところを敵軍の能力者たちに救われたリュカは、音楽を学ばせてもらうことと引き換えに、敵軍だった「教皇領」軍の能力者「枝憑き」として、戦うこととなった…

という、中世ファンタジー世界の戦争もの。

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

古代(現代の延長線上?)の超技術がアーカイブされた塔ごとに国家を形成し相争う世界観。

「枝憑き」リュカの能力はアレですね、将棋・ボードゲーム・戦争シミュレーションゲームなどでプレイヤーが戦場を俯瞰して駒を動かして勝利するムーブを、盤の中でやる感じ。

ラッパの音がビームっぽい光で視覚化され兵団がそれに従うのも、ゲームっぽい表現。

その他の枝憑きたちの能力も、戦闘特化・走力特化・千里眼特化・重砲撃特化?など、ピンキリ・千差万別っぽく、リュカは歩兵・騎兵・弓兵と能力者である枝憑きを自分の能力で戦術指揮というか操る「棋士」に相当する能力者。

バトル描写としては「駒の能力×リュカの戦術指揮」が醍醐味になっていきそう。

物語的には世界に9つある塔を巡る覇権争い、その中でさっさとラスボス級「枝憑き」を倒して戦争から足抜けして、音楽を学んで念願の楽師になりたいリュカ、という感じ。

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

「9つの塔」のシンプルな世界観に、能力バトルでは珍しい「戦術指揮に特化した能力持ち」の主人公、と、ジャンプらしく粗いところもありつつ、わかりやすくて拡張性も高そうな、「男の子心をくすぐる」出だし。

敵味方の能力者「枝憑き」たちの能力と人格の顔見世、能力バトルのルール説明、が関数を進めるごとに少しずつ追加されていってます。

【教皇領】

リュカ:ラッパの音を視覚に変換して兵団や「枝憑き」を操る、メタな棋士のような能力 苗木候補「星灯りの枝憑」 開花すると大人数を完全に操ることができる

デミ:千里眼と、その視界の仲間への共有

ゾーイ:能力の前借りによる短期的な超戦闘力 前借り分の長期睡眠と成長障害のデメリット有り リュカ以外の人間の顔がジャガイモに見えている 実年齢(身体年齢)27歳 精神年齢9歳 苗木候補「時編の枝憑き」 開花すると時間そのものを前借りできる(時間操作系の超加速?)

ミウラ:自身の動体視力をも超える超人的な走力と跳躍力 ノルマンディー公国出身

ポピー:軽いものを動かす念動力 矢を操って超長距離スナイパー

オスカー:不死身 負傷を重ねると再生能力が落ちていく?塔の効力範囲外では死ぬ(これは当たり前か

コーラ:他人の負傷や病気を自分に移植し、それをまた他人に移植できる 治癒能力

殺害した他の枝憑きの、空気を武器化する能力・重力を操る能力も塔下から授けられている

ザヒード:超幸運特化 幸運付付与アイテム・装備などの作成など後方支援型 幸運は「自分のため」だけに発生

ウード:傭兵 血液を操って武器化・攻撃する

塔下(教皇?):死者を蘇生する能力があるが、蘇生者は時間が止まって成長せず傷も治らない 仮面の下の素顔が変化する(保護した枝憑きの旧保護者の顔?) 鏡面の力を入手 塔から死者の生前の情報をダウンロードして自身の姿を変えたり死者の複製体を作り出すことができる

【エリン帝国領】島国

カヤノ:花冠の枝憑き 弾道砲撃かと思ったら隕石落とし、メテオ 射程限界で照準ズレと威力減衰 少女 アキラの娘

カール:磁力?で金属(武器)を操って攻撃

サラ:重さを操作し弓矢の威力を砲撃のように超強化?

?:触れずに遠隔で物体の重さを操作する能力?

アキラ:黒い鎧の戦士 枝憑きではない 花冠の父親 予知者? 異時代者?

テム:触れたものの動きを遅くできる 開花間近 リュカたちと交戦し死亡

【ガリア王国領】国王失踪 国王派と鏡面派で内乱

国王:塔下の旧友?失踪理由不明 消滅?

鏡面:王国の英雄 鏡を用いた空間移動・空間断裂の能力

【ノルマンディー公国領】花冠により滅ぼされ現在は帝国の属国

テオドール:複命の枝憑き 髪の毛などから自身の分身を(実質無限に)生成できる 奴隷兵として帝国に提供中

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

【その他のルール】

・枝憑きの能力は9本の塔のどれかを中心に一定距離内ゃないと発動できない

・枝付きは教区外で一月程度以上暮らすと死ぬ

・死んだ枝憑きの能力は付近の塔に回収される

・塔は枝憑きが成長?した姿で能力の行使も可能 人格有り?無し?

・花冠の能力は国ごと吹っ飛ばす力があるが1ヶ月程度の溜めが必要

「枝憑き」毎にあんまり被る能力がない、味方との戦術・敵との相性ともに「組み合わせ」と「応用」が左右する戦術型の能力バトルという感じ。

前巻〜今巻は、「奴隷の国」ノルマンディー公国領での「花冠」捜索の最終局面、「花冠」が潜伏するモン・トンブ城に塔下が鏡面の力を使って大兵力をワープさせての攻城戦、大決戦。作画が超大変のコーナー。

今巻、「奴隷の国」編のクライマックス、複命の枝憑き、花冠、そして花冠の父親である最強戦士・アキラとの対峙。

これまでピンチらしいピンチのなかったリュカの、絶体絶命のピンチ。

そのときゾーイは。

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

前の巻でこんな感想を書きました。

今のところ「メインヒロイン美少女枠」が空位な作品ですが、強いて言えばゾーイかなと思います。

実年齢27歳ながら、能力の使いすぎで「冬眠期間」が長く、「冬眠中」は身体は成長しても精神は成長しないらしく、精神年齢9歳。

身体は大人、精神は子ども、いわゆる「ロリババア」の逆ですね。

「守られるべき幼な子が戦闘最強」という捩れも。

aqm.hatenablog.jp

作中でもメタでもハンデを背負った、なかなか難しいヒロインですが、自分は今巻でヤラレてしまいました。

9つの塔の世界がどうなろうと、この娘の行く末を見届けなければ気が済まない、できれば幸福になってほしいと祈らずにいられない。

『戦奏教室』8巻より(空もずく/十森ひごろ/集英社)

がんばれゾーイ!がんばれゾーイ!

というところで次巻、「奴隷の国」編、決着かな。

 

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