#AQM

あ、今日読んだ漫画

#ワールドトリガー 24巻 評論(ネタバレ注意)

三門市に突然開いた異世界からの門。現れた異形の怪獣「近界民」が付近を蹂躙するも、界境防衛機関「ボーダー」を名乗る組織の少年少女たちがこれを撃退。街は近界民の脅威にさらされつつ、ボーダーの能力と信頼によって平和が保たれる奇妙な環境となった。

C級ボーダー(研修生)であることを隠して中学に通う三雲修、彼と出会う奇妙な倫理観の転校生の少年。転校生は出現した近界民を超人的な能力で撃滅し、異世界の人間「近界民」を名乗る。

で始まるジャンプ得意の能力バトルもの。大量の個性的な登場人物に付与された能力を、チームで組み合わせたタクティカルなバトル展開が売り。

長かったB級ランク戦が終わって、作品の縦軸たる近界への遠征、その選抜試験。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

普段のチームからメンバーをシャッフルして行われる試験のまずは一次試験、閉鎖環境試験。それはBランクからの遠征メンバー選抜にとどまらない、審査する側も含めてあらゆる角度から資質が試されるものだった…

閉鎖環境試験自体は今のところ「宇宙兄弟」の序盤でやったアレにSPI試験とグループディスカッションが付いてる、というものです。あれを同時に十数チーム、60人前後が同時にやってるだけ…だけ?

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

大量のキャラクター1人1人に細かい人格設定付けされた本作ならでは、という感じはします。

昔あれ田中芳樹だったかな、「銀河英雄伝説」のアニメ化について「一話丸々会議やってるだけの回とか出てくるはずで、アニメ作品として保つのか不安(だが素晴らしい作品にしてもらえた)」的なインタビューだかあとがきだかを読んだ記憶がありますが、本作今巻もまあ言うたらそんな感じです。

基本的にタクティカルなバトル漫画な本作ですけど、会話劇というんですかね。バトルもアクションもなく、セリフが多く、そして長いw

コアなファンしかついてこれない、漫画家志望がジャンプに持ち込んだら確実にNGもらうやつで、こうした作風で多くのコアなファンを既に育てて掴んできた本作ならでは、という感じがします。今巻に限らず、バトル漫画としては異例なくらい、もともと理屈もセリフも多くて長い作品で、特長ですらあるので。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

そうした作品なので、考察や展開予想をしながら読むと、特に昨今のSNSな世の中では大変楽しいんですが、まあ日本中の読者が展開予想をしてネットに書いちゃうもので、予想を当ててしまって作者に対する「展開のネタ潰し」も多々発生していたであろうと思います。

前に公式のなんかで読んだところでは「SNSなどネットでワールドトリガーに関して書かれたものを、編集はネットを見てるけど、作者は見ないようにしている」とのことでしたが。

その意趣返しなのかどうか知りませんが、今巻はAランクメンバーにBランクメンバー中心の受験者を審査・評価・予想させることで、作者から読者に対する「予想のネタ潰し」を仕掛けているかのような描写で、メタを本編の中に取り込んでしまったような、いろいろ興味深いことになってます。

「ワートリの考察・予想が読み物として面白い? じゃあその面白さ、丸ごといただき!」みたいな。考察・展開予想を作者自身が本編中でやっちゃうもんで、考察系のブログで書くことねーw

っていうのと、考察屋の「ネタ潰し」に対するブラフや誘導の煙幕にもなってて、この辺の作者と読者の駆け引きめいたものが生まれててそれがまた面白いですね。

反面、作者の体質からして、作者自身がキャラに予想させた通りの展開を書いても面白くないので、

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

神の視点を持っているわけでもないキャラの予想が、必ずしも当たってるわけでもなさそうだったりと、もう作話のハードルが上がってんだか下がってんだかよくわかんねw

アクションもなく、やってること自体は地味なのに、作者がイキイキしとる。

今巻の続きの連載話で水上が物議を醸す行動を取っていますが、アレとは逆に、「本当に1人の人間(作者)が全てのキャラクターの思考や行動を操っているのか?」と思えてくるのがまた面白いですね。

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「ワールドトリガー 24巻」より(葦原大介/集英社)

同時に動かしてるキャラが5〜6人ってレベルじゃないんですけど、キャラが勝手に動いてくれるってレベルじゃねーぞ、どういう脳みそしてんだ、みたいな。

 

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#ダンダダン 3巻 評論(ネタバレ注意)

霊媒師の家系のギャルと、いじめられっ子気味で孤独なオカルトオタクの少年の同級生ガールミーツボーイから始まる、オカルトバトルなバディもの?

2巻読み終わってもこの漫画がどうなりたいのかまだちょっとよくわかりません。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

書き出していくと

・ボーイ・ミーツ・ガール

・オタクに優しいギャル

・ラブコメ群

・ちょいエロ

・呪術廻戦、チェンソーマンなどの最近のジャンプのオカルトバトル漫画群

・うしおととら

・東京入星管理局

・GANTZ

・メン・イン・ブラック

・漫☆画太郎

あたりを足して適当に割ったような感じ。

いろんなジャンルのごった煮というか、カオスな闇鍋みたいな漫画。クリーチャーも宇宙人から妖怪から幽霊から割りとなんでもあり。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

インパクトは強いけど、1巻はまだ点で、2巻で線になって方向性がわかるんだろうか?という感じです。それが知りたいからまあ続き読むわ、という感じ。

で、3巻まで読んだんですけど、未だによくわかりませんw

1巻でボーイ・ミーツ・ガール&パワーがあって以来、基本的に有無を言わさずクリーチャーの方から襲い掛かってくるのを必死で撃退するだけのご無体な展開で、未だ主人公たちの最終目標やらラスボスやらは提示されることなく、キャラとバトルがあるだけで、

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

ストーリー的なものは「ドサクサで失ったキンタマを取り戻す」以外は特にありません。

いや、キンタマ大事ですけども。

むしろクリーチャーの方が悲しい物語を背負っているというか。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

クリーチャーが暴れる動機と密接に結びついてるんですけど、突然ガチ泣きさせにかかってくるわ。

"アクロバティックさらさら"が片付いたと思ったら、特に予兆も主人公や読者への説明もなく、息もつかせず再び襲いかかってくるセルポ星人。

それでも作品として面白く保ってしまっているんで、「そうや、ストーリーなんかいらんかったんや」というよりは、このままシュールな理不尽系オカルトバトル+ラブコメで行く感じなんかしらね。あとキンタマの行方。

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「ダンダダン」4巻より(龍幸伸/集英社)

敵の造形も理不尽というか「あえて」のやっつけ感というか、整合性の取れてない行き当たりばったり感すごくて、それが奇妙な勢いを生み出してます。

「うしおととら」なんかも序盤は割りとこんな感じだったし、まだ3巻だし、よくわかんねーからとりあえず4巻も出たら買って読むわ。

 

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#怪獣8号 5巻 評論(ネタバレ注意)

現代、ただし頻繁に怪獣に襲来され「怪獣大国」となった日本。「防衛隊」が組織され、襲来の都度、怪獣を討伐することで社会が保たれていた。

かつての防衛隊志望に挫折した怪獣死体処理清掃業者・日比野カフカ(33♂)は、防衛隊志望の後輩に触発され再び入隊試験受験を決意するものの、いろいろあって人間サイズの怪獣に変身する体質となってしまう。

目撃情報から防衛隊に「怪獣8号」として指名手配されたまま、怪獣変身体質を隠したカフカの防衛隊入隊受験が始まった。

という、「SF」でいんだよねこれ。「バトル」もつけていいんかしら。という王道変身ヒーローもの。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

「正体を隠した変身ヒーローもの」の魚でいったら「大トロ」と言っていい一番美味しい展開の「仲間たちに正体バレ」のカードを4巻で早くも切ってしまいました。

怪獣との戦闘中、仲間のために正体を現して「怪獣8号」の姿で戦ってしまったカフカは、味方で有るはずの防衛隊に拘束され、処分が検討される事態に。

一方、立川基地の崩壊で暫定的に隊員の配置が他の各隊に割り振られることととなった第3部隊。ヒロイン・キコルが配置されたのは防衛隊の最精鋭たる第1部隊。部隊を率いる最強戦力の鳴海の能力と為人とは…

展開も敵の怪獣が人間サイズで人型で人語を喋るようになってきて、怪獣ものというよりはジャンプによくある凡百のバトル漫画の土俵に降りてしまって、正直ちょっと飽きてき始めたところだったんですが、新展開と新キャラ・鳴海でちょっとテコ入って楽しく読めました。

バトル描写的にも「怪獣だけど人型」なんですけど、右フックからそのまま自分の脊椎をへし折りながらもう一回転して二連撃と、

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

人体には不可能な戦技が織り込まれて、「まだ終わらんよ!」と気合入ってますね。

この手の「人体には不可能なバトルスキル」、大好物なんでガンガンやって欲しい。

新キャラ・鳴海はネットのお前らが性格そのままに戦闘能力だけ最強になっちゃった系ですけど、誌面にいるだけで面白くなっちゃうパーソナリティと戦闘時の強さのギャップで人気出そうね。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

多くの史実やフィクションで「天才」と「変人」がセットで描かれたことで、読む方ももう「どこか変人じゃないと天才に見えない病」みたいになっちゃってるとこありますけど、あんま主人公以外のキャラの「強さの理由」を求めない作品であることもあって、鳴海は「変人」か「究極の凡人」か、なかなか判断つかない絶妙のセン突いてきたなw

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

さっき読んだ「魔都精兵のスレイブ」といい、ジャンプ系作品は新キャラにいきなり愛着持たせる手管がこなれてて上手いよね。弱めだったギャグコメ枠とイケメン強キャラ枠を1人でこなして、こんなんまんまと好きになっちゃいますやん。

バトルはかっこよく、不可欠なキャラ人気もコメディ要素も補強されて、どんどん「ジャンプバトル漫画」としてのクオリティは上がってきて、遠からず「一番面白いジャンプバトル漫画」を争うようになるのかもしれんね。

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「怪獣8号」5巻より(松本直也/集英社)

連載初期からの読者で「ジャンプで見たことのない漫画」に期待した人もいたかとは思うんですけど、まあそれはそれとして。

長く続いてナンボのジャンルで、言うてもまだ5巻ですし。

 

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#魔都精兵のスレイブ 9巻 評論(ネタバレ注意)

親子丼おいしい!

なんでもないです。

アニメ化が決まったそうで、正気の沙汰ではないというか、ツッパるなーw

各地に突如出現した門の先に広がる魔都。人を襲う鬼が巣食い脅威となっていた。政府は能力者の女性で構成される「魔防隊」を組織し鬼に対抗する。

男子高校生・優希は帰宅中に魔都に迷い込んだところを魔防隊七番組組長・京香に救われる。彼女の能力は生命体の潜在願望を叶える義務と引き換えに奴隷として使役・強化し戦わせる能力だった。

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

平たく言うとバトルでこき使われる代わりに勝ったらエッチなご褒美な感じだった。

和月のバトル絵、GS美神の設定とキャラ、ハーレムギャルゲー要素、ジャンプのバトル漫画の定番展開、という感じ。あと乳首!

名門・東家の家督相続バトルが終わり、今巻から新展開。

現世・横浜市内で女性が次々と行方不明となる事件が連続して発生。得られた情報から犯人は醜鬼・八雷神の一人と断定され、少数精鋭の討伐隊が組織される。

選抜されたのは激戦区を担当する七番隊隊長の京香とそのスレイブ・優希、

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

そして同じく激戦区である横浜のクナド(魔界とのゲート)を守護する二番隊隊長、美羅だった…ということで新展開に新キャラ。特に表紙の人、新キャラ・美羅が面白いです。

ヤンキーキャラというかほぼ「ハンター」のナックルが美女化しました、ってパーソナリティなんですけど、なにこれ可愛い。コワモテなのに男女の性愛沙汰になると小学生並みにピュアとかズルいでしょw

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

なんだよ"交際の向こう側"ってw

作品のコンセプト自体が「強い女の可愛いところ・エロいところが見たい!」というギャップ萌えな欲望に大変正直な作品ですけど、「強い女」の漫画的バリエーションとして「クール強い」「S女王様強い」「無言強い」「おちゃらけ強い」などと並んでいかにもありそうな「熱血ヤンキー強い」造形なのに、よく動くというか思った以上に可愛くてワロス。

バトルの能力的には分身で、漫画における分身はそのままだと弱点なさすぎで「分身数が多いほど強さが劣化する」がデフォで、例外は「FSS」の剣聖剣技「ミラー」ぐらいしか思い浮かばないんですけど、美羅の分身も能力劣化が無いんだそうで、珍しいですね。

隊員・めぐみによる「特定個人のみを対象にした距離無限バフ」も、絵面も含めて面白いなコレ。

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

なんだこのコマ。

という、高品質のエロ絵推しの色物のようでいて、まあ実際色物なんですけど、相変わらずバトル設定・描写が凝ってるところに、本人真面目にやってんのにいるだけでギャグコメになっちゃう新キャラと、楽しくなってきましたね。あと乳首!

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「魔都精兵のスレイブ」9巻より(タカヒロ/竹村洋平/集英社)

あと全然関係ないけど、親子丼おいしい!

 

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#亜人ちゃんは語りたい 10巻 評論(ネタバレ注意)

人類社会に低確率で誕生する、バンパイア、雪女、デュラハン、サキュバス、座敷童子などの「亜人(デミ)」がそれぞれの個性を人間社会と折り合い付けながら平和に暮らす世界観の日本。亜人の良き理解者たらんとする高校教師の主人公と、亜人の生徒たちとの語らいを描く青春日常コメディ。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

差別問題を想起させるテーマでありながら、重たくなりすぎないように婉曲に、優しく、コメディタッチに、ポジティブに。

次巻で完結とのことです。

自分は漫画に説教されるのが嫌いです。漫画にはまず第一義的に娯楽であって欲しいと思っています。難しいはずの問題を漫画や喩え話を使ってわかりやすく一刀両断して読者に答えを授けるようなコンテンツをあまり信用する気になれず、描きたい人は好きに描けばよいでしょうが、自分はお金も時間も使いたくありません。善悪や正誤の問題ではなく、趣味人としての私の好悪の問題です。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

この作品は現実には存在しない、吸血鬼、デュラハン、雪女、サキュバスなどの「亜人」と、人間の教師を組み合わせた学校もの・青春ものとして、あらかじめ暗喩として現実社会における差別問題や多様性の在り方について踏み込んだ作品で、一歩間違えば私の「嫌い」の琴線に触れてきそうな作品ですが、最終巻一冊を残した現時点でこの綱渡りを破綻させることなく渡ってきました。

考えさせられるのに押し付けがましくないのはなんでしょね。作者の人徳というものでしょうか。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

ある程度以上の「答え」が出ないことも織り込まれた作品で、今巻の中でも「彼女たち亜人は社会の中でどうなりたいのか」「国や社会は彼女たち亜人とどう相対すべきなのか」「"普通"と同化することが幸せなのか」、問いは描かれても答えが描かれることはありませんでしたが、それは多分この作品の登場人物たちが、そうした問題に対して大上段に構えることなく、性急に答えを求めて思考停止に楽な方に陥ることなく、等身大の個人を幸せにするためにどう在るべきか、何ができるのか、生きている限り考えることをやめなかったことに尽きるだろうと思います。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

むずかしいことは、早く考えることをやめて楽になろうとせず、むずかしいままに。

この作品はフィクションのエンタメで、ある種の理想像で二重の意味でファンタジーだったかもしれませんが、現実社会で誰かが自分とは違う誰かを理解し共に生き幸せを願うにあたって、道標のようなものの一つに、なれる力が有るのかもしれないな、と思ったりします。

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「亜人ちゃんは語りたい」10巻より(ペトス/講談社)

作品を見送るには一年弱ほど気が早いですが、彼と彼女たちの人生に幸多からんことを、そんな最終巻になったらいいなと思います。

 

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#性懲りショートステイ 評論(ネタバレ注意)

位置原光Zによるオムニバス短編集。

「小悪魔淫魔サキュバスちゃん」の人、と言うと通りが良いかと思います。

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「アナーキー・イン・ザ・JK」より(位置原光Z/集英社)

※「小悪魔淫魔サキュバスちゃん」は過去作なので、今回の「性懲りショートステイ」には収録されていません

表現の枠が下に広いエロ漫画誌のギャグ漫画枠は、たまにキレッキレの作品を生み出すことがあり、「33歳独身女騎士隊長。」とか「ぱらいぞ」とかあるんですけど、この作家の作品もそうした作品群の一つ、と自分は長い間勘違いしていたんですが、

ja.wikipedia.org

デビュー作「アナーキー・イン・ザ・JK」はヤンジャン系列、その後移籍?した白泉社の「楽園 Le Paradis」誌もエロ漫画誌ではなく、

ja.wikipedia.org

「恋愛系コミック最先端」「恋愛欲を刺激する」がテーマのアンソロジーコミック。掲載作品はすべて描き下ろし。(2021年12月1日のWikipediaより)

なんだそうです。

近年、自分はどっちかというと単行本で漫画を読む派なので、最近まで知りませんでした。最近、サンデー作品だと思ってずっと読んでたらマガジンだった、とか多いんですよね。

「楽園 Le Paradis」の作家陣、割りと錚々たるメンツ。

エロに近接したテーマのエピソードが多いですが、いわゆる「エロ漫画」や「エロコメ(エロラブコメ)」ではなく、どっちかというと「下ネタラブコメ」という感じ。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

「恋愛系コミック最先端」「恋愛欲を刺激する」がテーマのアンソロジーコミック。

という雑誌のテーマから考えると、案外作者本人は精一杯まじめにラブコメを描いているつもりなのかもしれない。

展開としては大体、冒頭のつかみでヒロイン相当の女の子が性的に突飛なことを言い出したのをきっかけに話を広げていくスタイル。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

下ネタ・ナンセンス系で絵も似ても似つかないですけど、ラブコメ展開自体は古式ゆかしい少女漫画のコメディ作品っぽいなーと思います。

とにかくツンデレ系の女の子に赤面させたい、みたいな。

ラブコメのアプローチとして下半身から迫るというか、若い男女がムラムラムラムラしてるラブコメ群ですけど、実際、恋愛・性愛ってそういう面も強いよねというか。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

絵柄はパンチラギリギリを常に狙いながらもまるで性欲なんて存在しないかのようにメジャー誌コードで無毒化されたピュアなキャラな商業ラブコメが多い中、このムラムラから始まるラブコメのぶっちゃけ具合、かえって男の子も女の子も可愛いらしくピュアに見えますね。

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「性懲りショートステイ」より(位置原光Z/白泉社)

「オナペット」って言葉、最近聞かなくなったなw

多くの会話がセクハラギリギリというかセクハラなんですけど、男女のコミュニケーションの機微・難しさ・くだらなさが、狂気じみててリアルではないのに何かどこか生々しいな、という。

鈍感なふり聴こえないふりピュアなふりしてキープを二股・三股当たり前だけど絵だけは可愛い、みたいなワンパターンな商業ラブコメが多い中、この作風はかえってラブコメとして好感が持てちゃいますよね。

ピュアなだけでは恋愛にならないし、誠実な人間にも性欲や性的興味はあるし。

こういうラブコメが主流になんねーかな。なんねーな。

 

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#バトルグラウンドワーカーズ 8巻 【完】 評論(ネタバレ注意)

いい表紙。

近未来、地球には「亞害体」と呼ばれるクリーチャーが襲来。国際組織「人類連合」が結成され、量産人型兵器を運用して亞害体を無人の辺境に封じ込めていた。無職の青年・平 仁一郎のもとに一通の通知が届く。それは人類連合のパイロットの採用審査通知だった。

という、エヴァとMATRIXとAVATARとパトレイバーとフロントミッションを足して割ったような人型兵器に、無職を集めて遠隔操縦させるSFもの。ロボはレイバーサイズ。

遠隔操縦だけど神経接続されるので、痛みがフィードバックされ破壊されると死。ヤバくなったら神経接続のプラグを抜けば緊急脱出、ただし生涯で5回これやると脳のダメージで死ぬ。

戦場は南シナ海のジャングルの島だけど、遠隔操縦なのでパイロット達は自宅から平和な日本の職場に通勤という、日常と非日常のコントラスト。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

人類連合は亞害体をサファン諸島に装置で封じ込めて被害担当地域と定め、これに抵抗するサファンをあたかも亞害体であるように偽装し攻撃してきた。真実を知った主人公たち31小隊はこれを世間に公表。そんな最中、世界中に「本当の」亞害体が出現、跋扈。国連ではサファン諸島に対する再攻撃と封じ込め装置の再起動が決議される。

人類世界とサファンの両方を救う道を模索する31小隊は、サファンとの停戦合意と共同戦線を成立させ、最終決戦に挑む…

ということで、完結巻。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

人類社会のサファン諸島に対する非道な仕打ちは、歴史上類例がたくさんあって、わかりやすく例えると「シン・ゴジラ」の国連の東京核攻撃の決議なんかもそうですね。

ルックスも似てるんですけど、ゲーム「フロント・ミッション」の「祖国達の島」、兵器開発の実験場として大国たちの犠牲になったハフマン島を少し思い出します。

あれリメイクしねえかな。悲しみと怒りが歴史を動かすあのシナリオ、少しビターなあのエンディングも大好きだったんですよね。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

能倉の怒りと悲しみから生まれた、八方塞がりの極限状態を挽回する起死回生の「たったひとつの冴えたやり方」。

オチの付け方次第で、もっとビターな結末にして「切なくて泣ける名作」になることも可能だったでしょうけど、作者はあえてそうしませんでした。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

この作者の優しさ、あるいは甘さなのかもしれないですけど、ビターなエンディングより、この甘すぎるぐらいのハッピーエンド、大団円で本当によかったなー、と自分は思います。

「誠実に必死に頑張っていれば、きっと理解し合えて仲間ができて、きっと人生も世界も良くなっていく」という単純明快で性善説と、同時に「世界を疑い対立することも辞さず、自分で考えることをやめない」こと、言ったらこの作品は1巻からずっとそれを描いてきた作品で、実にこの作品らしいエンディングを迎えて節を通したな、と感じます。

「サファンへの過ち」、少数の犠牲で世界が守られることも、能倉に繰り返させなかったね。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

8巻でコンパクトに完結ということで、何十巻もの付き合いの作品が完結した時に感じるあの喪失感こそ感じませんが、人気作を引き伸ばすでもなく無駄なく構成されていて、後々に何度も読み返しやすく人にも薦めやすい作品になりました。全8巻の割りにエンディングを迎えると妙に「大作感」みたいなものも感じますねw

映画だったら最初からパッケージになっていて、観始めてた時点で結末までが既に完成して決まっているんですが、漫画、特に読み切りではない、商業連載漫画というのは単行本のセールス・アンケート・ネットの反響などで、引き伸ばされたり、打ち切られたり、展開が変わったりテコ入れが入ったりと、どうしても「客の反応」に反応して本来作品が至るはずだった「あるべき姿」から外れることが多く、言ったら映画と比べて完成度の点で劣ることが多いんですが、たまにどういう理屈か「あるべき姿」を保ったまま完結まで駆け抜ける作品が現れます。

展開に多くの変転があった作品だった割りに、伏線やキャラの配置など、後付け・引き伸ばし・打ち切りなどの痕跡がほとんど感じられないというか、まるで「一話から最終話まで描き終わってから順番に載せていった」かのように、完成度高く、作品としての節を通した漫画だったなーと思います。

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「バトルグラウンドワーカーズ」8巻より(竹良実/小学館)

やー、面白かった。

「ガンダム」系以外のロボットものも珍しいですけど、今時珍しいぐらいの大団円で読後感いいわー。

作者の次回作も楽しみだわ。

 

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#悪いが私は百合じゃない 3巻 評論(ネタバレ注意)

女子校に通ういつみは男性教師に片想い中。想いを叶えようと、いけないサイトで手に入れた惚れ薬を、

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「悪いが私は百合じゃない」3巻より(もちオーレ/KADOKAWA)

とりあえずいけ好かないお嬢様委員長に試しに飲ませてみたところ効果覿面すぎて委員長は性欲丸出しでいつみに襲いかかってきた!

というバカ百合コメ。まじバカなんですけどこの漫画。

その後も困ったらその場凌ぎに相手に惚れ薬を飲ませてなんとかしようとする同じような展開が毎回続き、三股四股五股と頭の悪い百合の多角関係が増えていく。まじバカなんですけどこの漫画。

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「悪いが私は百合じゃない」3巻より(もちオーレ/KADOKAWA)

ただでさえ漫画としてバカなのにヒロインは人間のクズ丸出しで、友人はゴミクズという、どういう百合漫画なのこれはw

ほぼ百合をモチーフにした作品しか描いてない作家さんですけど、一般的に一途でピュアなキャラ描写・青春描写が多い百合漫画界隈にあって、一貫して性欲・肉欲・エロ目線に基づいてキャラが動く、一般商業漫画の範囲では異端の百合作家。

一応、作中で18禁な直接的なエロ描写はないです、念の為。

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「悪いが私は百合じゃない」3巻より(もちオーレ/KADOKAWA)

今巻も新キャラが登場しますが、チンピラだったり詐欺師だったりセクハラ野郎(♀)だったりと碌な奴が出てきません。

萌え未満というか、お世辞にも可憐な絵柄とは言えないキャラデザにエロいと言えないはずの描写なんですけど、キャラの行動の動機もどいつもこいつも碌なもんじゃないし、展開自体もギャグコメディというかバカコメなんですけど、この可愛らしさ・エロさはなんなんですかねw

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「悪いが私は百合じゃない」3巻より(もちオーレ/KADOKAWA)

絵エロよりシチュエロとでもいうか。

結構うだうだした禅問答みたいな葛藤が延々と描かれることが多いジャンルなので、逆にここまで欲望丸出しに直情的に動かれると、かえって爽やかさ?のようなものを感じて読んでて大変楽しい。

爽やか?

 

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#とらドラ! 10巻 評論(ネタバレ注意)

まだ、やってます。

ラノベブーム初期の名作・映像化の成功事例として語られるラノベのコミカライズ。

自分、最初にこの作品に出会ったのがコミカライズの1巻だったこともあって、原作もアニメも観てないんですよね。今だったらSVODでたぶんアニメ全話観れちゃうんですけど。

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「とらドラ!」10巻より(竹宮ゆゆこ/絶叫/ヤス/KADOKAWA)

コミカライズの前巻は2019年6月、1巻は2008年、アニメ化されたのも2008年、原作ラノベの1巻は2006年の刊行とのことです。

「なんでこんなに続きが出るの遅いんだろう」とか「1つの作品のコミカライズに1人の漫画家をこんなに長期に拘束するのどうなの」とか思ってた時期もあったんですけど、ぶっちゃけ事情とか全然知らねんですけど、途中で行方不明になるコミカライズも多い中、年1冊以下のペースでも待ってさえいればコツコツ着実に続きを描いてくれて、今はもう応援しかしてねッス。

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「とらドラ!」10巻より(竹宮ゆゆこ/絶叫/ヤス/KADOKAWA)

今巻は年明けのスキー修学旅行から3年生進級を控えた進路相談まで。Wikipediaによると全25話だったTVアニメの23話までかと思います。

恋愛もの終盤のこじれた鬱展開、というよりクライマックスに向けた溜めの巻。

両片想いなのに、互いに相手の当初の恋愛成就にこだわり、当初の恋愛相手は友情優先で、と主要登場人物のほぼ全員が自分より誰かの恋愛感情を優先した結果、こじれにこじれたところに、更に進路の悩みも重なって、という展開。

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「とらドラ!」10巻より(竹宮ゆゆこ/絶叫/ヤス/KADOKAWA)

読者からはタイトルロール2人の両片想いは視えていて、あとは何かをきっかけに素直になって本音をぶち撒けられたら、というところ。

あと2冊、もしかしたらあと1冊で完結、というところまで、丁寧に丁寧に、13年かかって辿り着きました。

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「とらドラ!」10巻より(竹宮ゆゆこ/絶叫/ヤス/KADOKAWA)

座して待つのみ。

がんばれ高須、がんばれ大河、がんばれコミカライズ作者。みんな幸せになれ。

 

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#ゆゆ式 12巻 評論(ネタバレ注意)

13年目の12巻。もう老舗ですね。アニメ化も2回したんだっけ?

端的に言うと「仲良し女子高生3人組が雑談してる4コマ」なんだけど、ハイじゃないハイコンテクストというか狭いコンテクストの会話芸で、ボーッと読んでると目が滑って何が面白いのかわからなくなります。

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「ゆゆ式」12巻より(三上小又/芳文社)

はあ。日常ギャグコメディ4コマとか一番感想書きにくいわ。

「女子高生日常ギャグコメディ」というものに対して読者が最も求めるものはなんだろうか、というと「ネタ(エピソード)は新しく、テイストは作品を好きになった頃のままに」という点に尽きるのかな、と思います。

料理で言ったら「熱々の作りたての、でもいつもの味」のような。

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「ゆゆ式」12巻より(三上小又/芳文社)

10年も描いて作風がまったく変わらない、なんて相当無茶な要求ですが、そういう意味で読者の要求をきっちり完璧に満たしている作品だな、と思います。

最近、うちのブログは「ゆるキャン 12巻 絵が変わった」で検索してやってくるお客さんがたくさんいまして、

www.google.com

確かにそう書いたんですけど、

作者の別作「mono」の新刊を読んだ際に「あれ、ちょっと画風変わったかな」「monoとゆるキャンで描き分けてんのかな」と思ったんですが、

「ゆるキャン△」の新刊もちょっと画風変わってきましたか?比較的キャリアの浅かった漫画家のヒット作が長期化するとよくある話ですけど。

上手いか下手かでいうと上手くなってますけど、人によってはだんだん好みの絵から離れていってるかもしんないね。

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人気になって連載が長期になればなるほど、この「テイストを変化させずに維持し続ける」のは難しいよな、という気もします。

新しい面白い漫画がどんどん出てくる中、新しい描き方を取り入れずに、ある意味「漫画家としての成長」を封印することが求められているわけで、けっこう酷な話だなと。

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「ゆゆ式」12巻より(三上小又/芳文社)

「ゆゆ式」はいつ読んでもどの巻を読んでも同じように面白いですが、果たしてそんなことが可能なんだろうか、と思ったりもします。

自分は漫画詳しくないのでよくわからないですけど、実は変わって上達していってるんだけど、読者にそれと気づかせないとかね。

「おいしい関係」で好きなシーンですが、

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「おいしい関係」8巻より(槇村さとる/集英社)

変わってないように見えて、そう見せるために、そう満足させるために必要な努力もあるんじゃないかと。

なんの話でしたっけ。

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「ゆゆ式」12巻より(三上小又/芳文社)

そうそう、「ゆゆ式」は今巻も相変わらず面白いぞ、って話でした。

 

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#薬屋のひとりごと 9巻 評論(ネタバレ注意)

なろう小説のコミカライズ。古代中国の華やかな後宮を舞台に、美女ありイケメンありミステリーあり。

人攫いに後宮の下女として売り飛ばされた薬師で毒マニアの少女・猫猫(マオマオ)が、謎のイケメン高官・壬氏(じんし)の引き合いもあって上級寵妃のお付きの下女として、華やかな後宮内で起こる難事件を薬と毒の知識と花街出身の度胸で解決する時代ものの探偵もの。ちょっとラブコメも有り。

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「薬屋のひとりごと」9巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

ガンガンとサンデーGXでそれぞれ同時にコミカライズされていて、サンデー版も出来物だと聞きますが、間違って読んでない方の続巻を買ってしまわないように気をつけましょう。

事件?謎?が3編、プラス次巻に続く1編の、ショートエピソード巻と言う感じでコナンとか古畑任三郎な雰囲気。

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「薬屋のひとりごと」9巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

勧善懲悪というよりはヒロインが謎を解いて自分の利害を満たしたらそこで終わり(逮捕・検挙が目的ではない)という感じで、「犯人(たち)がその後どうなったのか」は描かれないことが多く、人によってはモヤモヤが残るというか、「大人な幕引き」のエピソードが多めですけど、自分はこれ系のモヤモヤは結構好きです。

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「薬屋のひとりごと」9巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

毒マニアの薬師が主人公って一見変化球のようでいて、「事件」の舞台は後宮ということもあり、「被害者」「犯人」もその多くが女性で、かつ犯行が(地位を損なわないよう)秘密裏に行われるケースが多いことを考えると、殺人の手段が「毒殺」に偏って主人公が薬師なのは、よく考えたら必然だったんだな、とか思いました。

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「薬屋のひとりごと」9巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

自分が「ミステリー風」好き、ってのもあって楽しく満足して読んでますが、本格的なミステリーマニアからしたら「毒」の存在、それを識る主人公の存在が作者の匙加減すぎてややファンタジーなのかな?と思わなくもないです。

権謀と愛憎が渦巻く後宮の人間関係、「人間が人間にこんな感情を抱き、こんな行動をとるのか」というところがこの作品の勘所なのかな。

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「薬屋のひとりごと」9巻より(日向夏/ねこクラゲ/七緒一綺/しのとうこ/スクウェア・エニックス)

マイルド?な「黒の章」とでもいうか。

まあ犯罪やその解決をテーマにした作品は大抵そうなんですけど。

 

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#刷ったもんだ! 5巻 評論(ネタバレ注意)

元ヤンキーな青春を送り、SNSで漫画クラスタに入り浸る漫画好きの真白悠(♀)は中小企業の虹原印刷(株)に就職。

企画デザイン課に配属され、印刷物のデザイン、データ作成・出力、校正を担当。担当する仕事は選挙のチラシからエロ同人誌までなんでもあり。

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「刷ったもんだ!」5巻より(染谷みのる/講談社)

という印刷会社のお仕事日常漫画。

取材もしてんでしょうけど、1巻巻末の「Special Thanks」に「元勤め先の皆さま」とあり、作者が経験者なんですね。「NEW GAME!」と同じパターン。

人の生き死にに関わらない、世界も救わない、地味で実直ですけど、ウェルメイドなお仕事もの。

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「刷ったもんだ!」5巻より(染谷みのる/講談社)

こなれてきたと言うか、虹原印刷の人間関係も巻を重ねてキャラに愛着も湧いてきて、読んでてどんどん楽しくなってきましたね。ヒロインと淡いロマンスな黒瀬くんとの関係もいい感じというか、この淡い関係のまま最終回で突然プロポーズとかしそうよねこいつら。

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「刷ったもんだ!」5巻より(染谷みのる/講談社)

今巻の途中から連載がモーニング本誌から系列の月刊誌に移ったんだそうですけど、良いと思います。文字情報の多い作品ですけど、週刊だと限られたページに詰め込み気味な感じはあったので、そう言われてみると誌面に絵で見せる間やじっくり読ませる余裕ができたような気がします。1ページあたりの文字数だいぶ減らせたんちゃうかな。

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「刷ったもんだ!」5巻より(染谷みのる/講談社)

確か元印刷会社社員だった作者が脱サラして漫画家デビューした作品だったと記憶してますが、辞めた仕事に対する愛というかリスペクトってなんなんだろう、とちょっと不思議な気はします。

そんなに好きなら辞めなきゃよかったのに、と思う反面、誌面には印刷の仕事に対する愛が溢れていて、どういう心理で描いているのか一回訊いてみたいもんですね。

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「刷ったもんだ!」5巻より(染谷みのる/講談社)

どんな仕事であれ、「その仕事をする理由」「やりがい」みたいなものって忙殺されて忘れがちになりますけど、漫画家になって一歩引いた(そしてもう戻れない)立場になって、別れた彼女の良いところばっかり憶えてるみたいに、見えてくるものがあるんだろうか。

 

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#ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 19巻 評論(ネタバレ注意)

架空の自治体、岡島県・町山市が舞台、岡島県警 町山警察署 町山交番に配属された新人女性警察官・川合麻依と、彼女を取り巻く町山警察署の先輩・上司の警察官たちが織りなす、警察官お仕事漫画。

元警察官が描き、「パトレイバー」「踊る大捜査線」の香りのするギャグコメディに溢れた日常要素と、生々しくダークネスな事件や人間の側面が同居する奇妙な作品。

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「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」19巻より(泰三子/講談社)

今一番面白い漫画の一つじゃないかなと思います。自分は好きすぎて連載の有料のWEB掲載を毎話、毎週木曜日0時に即読みしてます。「現役漫画家で天才を3人挙げろ」と言われたら、自分は1人はこの人を挙げます。

「ファブル」「かぐや様」と並んで、自分が毎週更新日の連載最新話(有料)を首を長くして楽しみにしている数少ない作品。

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「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」19巻より(泰三子/講談社)

休載もほとんどなく、内容も「当たり」しか出ないクジを引いているようなもので、「いつも載っててずっと面白い」という意味で単調な作品であると言えるかもしれません。

今巻は警察日常あるあるコメディのいわゆる「通常」巻。連載で一回読んでるのにあらためてまとめて読むとやっぱ面白いね。

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「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」19巻より(泰三子/講談社)

が、交番所長の過去話が絡むと一気に作品の闇が濃くなります。

この作品をいつまで描き続けてくれるのか知りませんが、公安もの・潜入捜査ものの話になると手加減しつつも特に筆が走るように見受けられるので、コメディ作品としてファンがついちゃった「ハコヅメ」では描けない、この作者のフルパワーでダークネスな潜入捜査ものとか、一回読んでみたい気もしますね。

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「ハコヅメ~交番女子の逆襲~」19巻より(泰三子/講談社)

次巻はその交番所長がタイトルロールを務める、激動の問題エピソードにして「大当たり」の長編エピソード、「伊賀崎警部補の胸襟」をフルで収録とのことです。

自分は連載でもう読んじゃいましたけど、これがまたすんげー面白いです。

お楽しみに!(誰目線だ

 

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#【推しの子】 6巻 評論(ネタバレ注意)

地方の病院に務めるアイドルオタな産婦人科医師・ゴローのもとに双子を妊娠したお腹を抱えて訪れた少女は、彼が熱狂するアイドル・アイ(16)だった。驚きショックを受けたゴローだったが、身近に接するアイの人柄に魅了され、彼女の出産を全力でサポートしようと決意する。

だが出産予定日の当日、ゴローはアイのストーカーに殺害される。驚くべきことに、ゴローはアイが出産した男女の双子のうち一人として転生する…

「かぐや様」の赤坂アカの作話を「クズの本懐」等の横槍メンゴが作画、という期待作。

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「【推しの子】」6巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

要約すると二周目人生は伝説のアイドルの双子の子どもだった転生チートな芸能界サクセスストーリー、ミステリー付き。

縦軸はありつつも、横軸は主人公の2人が芸能界の様々な仕事を渡り歩いて、作者が見知った芸能仕事の機微を描写していく建て付けに。アイドル編、リアリティショー編ときて、今巻から新章「2.5次元舞台編」。

超人気少年漫画を原作に若手の人気の役者を集めて2.5次元化する舞台に出演することになったアクア。しかし、舞台の稽古は気難しい原作者(漫画家)を前に多事多難だった…

というわけで、大ヒット漫画原作の2.5次元舞台「東京ブレイド」に向けた役作りと稽古、そして巻の途中から本番へ。

若手のホープたちがそれぞれのライバルと火花を散らす中、ゴローの転生体・アクアはトラウマによって感情演技に支障をきたしていた…

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「【推しの子】」6巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

という、「芸能界ものミステリー」というよりは「熱血演劇もの」という風情の6巻。

「ガラスの仮面」が継続的に描かれていたり、あるいは「アクタージュ」が打ち切りになっていなかったりしていたら、今巻のネタ被りで描かれなかったかもしれないですね。

というぐらい、若手舞台俳優同士のプライドが激突し高め合う舞台、という感じ。マジ「ガラスの仮面」かよ。

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「【推しの子】」6巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

作品の千両役者・アクアの見せ場はまだ後なのと、第一人者たる姫川が未だに全貌を見せていなくて、脇役が頑張ってる繋ぎの巻、とも言えますけど、まあ面白く読ませること。

すごい局地戦に入り込んじゃってるというか、この漫画これでいいんだっけこんな漫画だっけ?

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「【推しの子】」6巻より(赤坂アカ/横槍メンゴ/集英社)

という気がすごくしつつも、当初から一貫して描かれてきた「観てる側の目に映らない、"やってる側"の情熱」としては正しいような気もするし、「かぐや様」をみても局地戦を真摯に一生懸命やった積み上げが縦軸に効いてくる、という展開が好きそうな作者ですし、まあなにしろその局地戦が面白いからいっかw っていう。

 

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#デストロ016 1巻 評論(ネタバレ注意)

女子高生・沙紀は、海上自衛隊高官・仙崎のオーダーで殺し屋を殺す殺し屋だった。

たくさん殺し屋がやってくるので今日も奴らをぶっ殺すゾ!

あらすじ終わり。

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「デストロ016」1巻より(高橋慶太郎/小学館)

「ヨルムンガンド」の作者が、日本を舞台に「女子高生殺し屋たちのバトルロイヤル」を描いた「デストロ246」全7巻。

女子高生なのに最強殺し屋! すごい頭悪そう! AQM頭悪そうな漫画大好き!!

の前日譚。

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「デストロ016」1巻より(高橋慶太郎/小学館)

「246」でヒロインたちより年長の大人、かつ最強の殺し屋として君臨した「沙紀」の女子高生時代のお話。

女子高生時代のお話なのに殺し屋です〜! 女子高生なのに最強殺し屋! すごい頭悪そう! AQM頭悪そうな漫画大好き!!

というハードボイルド・殺し屋アクション。

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「デストロ016」1巻より(高橋慶太郎/小学館)

前作で黒幕然として名前しか登場しなかった「仙崎」や「某国の"殺し屋に鳥の名前をつける"養成機関」がより具体的に登場、前作主人公・伊万里の先輩にあたる殺し屋も登場。

癖の強い作家ですけど、この癖に既に慣れ親しんでいさえすれば安心して「買い」です。期待通りの面白さ。

自分はMAC-10とMAC-11の区別がつかない程度の「銃好き」ですけど、銃撃戦が重点的に描かれる漫画は意外と貴重なので、それだけでも買い。「CANDY&CIGARETTE」も終わっちゃったしね。

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「デストロ016」1巻より(高橋慶太郎/小学館)

残酷描写に作者が自発的にモザイクをかけてくれるのでグロいの苦手な人も安心。

「246」があるんでヒロインが死なないことは確定してるんですけど、銃にナイフ、果ては毒まで使いこなし、伊万里のように鬱屈も抱えていない最強の殺し屋女子高生・沙紀の楽しくかっこよく殺伐な殺し屋ライフ、という感じ。あとエロ百合。おっぱい。

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「デストロ016」1巻より(高橋慶太郎/小学館)

そういえば「貧民、聖櫃、大富豪」はどうなったんだろう、と思ったら知らん間に7巻が出てるけど完結したわけではないっぽい?

読まねば。

 

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